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【ドゥーラ CASE編】第14回 日本に住むブラジル人妊産婦とその家族を支援するドゥーラのコミュニティ:平田ルディミーラ氏 、小貫大輔氏

日本に住む外国人は約288万人。在留外国人の国籍は、多い順に中国(27.3%)、韓国(15.1%)、ベトナム(14.6%)、フィリピン(9.8%)、ブラジル(7.3%)、ネパール(3.3%)と続きます(出入国在留管理庁,2020)。ポルトガル語を母語とするブラジルもそのような国の一つで、1990年の出入国管理及び難民認定法改正以来、日系三世ブラジル人の入国が急増しました。法務省の2019年データによると、日本に住むブラジル人は約21万人、そのうち6万人強が愛知県、3万人強が静岡県在住。中部地方を中心にブラジル人コミュニティが根付いていることがわかります(法務省、2020)。そして日本に住むブラジル人21万人のうち、0歳の赤ちゃんは約1,600人、15~49歳の生殖年齢にある女性は約5万人。つまり、日本では、妊娠・出産を経験するブラジル人妊産婦やその家族が、大勢地方に住んでいることになります。

しかし、妊娠・出産ケアの現場で、日本語や英語以外の言語でコミュニケーションをとれる医療者はまだ多くありません。異国の地で妊娠・出産・育児をおこなう外国人の母親は、どのような経験をし、壁を乗り越えているのでしょうか。実は、在日ブラジル人女性の中からドゥーラが生まれ、活躍しています。今回は、東海地方を中心としたブラジル人コミュニティで活動するドゥーラ・グループのリーダー的存在である平田ルディミーラ(Ludmilla Hirata)氏と、ブラジル現地と日本のブラジル人コミュニティに根差した活動を長年行っている東海大学教授の小貫大輔氏にお話を伺い、日本における外国人妊産婦へのドゥーラサポートの必要性について考察しました。

Q1. どのようにして現在のドゥーラの活動を始めましたか?

【平田氏】:私は母国ブラジルで2008年と2010年に出産しました。ブラジルにいる頃に、「できるだけ穏やかで幸せな出産は何か」と調べるうちに、出産のサポートをしてくれるドゥーラを見つけました。そのドゥーラが助産師を紹介してくれて、とても満足のいく出産になりました。8年前からボランティアとして、そして4年前にブラジルでドゥーラを含む妊産婦支援者の組織Grupo de Apoio à Maternidade Ativa(GAMA)の認定を受けてからは、プロの出産ドゥーラとして働いてきました。3年前に来日してからも、ドゥーラとしてたくさんの出産に付き添い、ソーシャルネットワークやYouTubeチャンネルを通じて、出産に関する情報を提供したり、産後の母乳育児支援を行ったりしてきました。私が日本で仕事をするきっかけを見つけたのは、Facebookの「Parto Humanizado(パルト・ウマニサード)」グループ注1でした。私は日本在住の4名のブラジル人ドゥーラの取りまとめ役をしています。また「Coletivo Dar à Luz(コレチーボ・ダール・ア・ルス)」注2の創設者の1人でもあります。

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日本で出産する女性を懸命に支援するブラジル人ドゥーラたち(左から2番目がルディミーラさん)

Q2. 日本での活動について教えてください。

【平田氏】:私の仕事は通常、オンラインや対面で妊婦さんへの産前ケアから始まります。この最初のミーティングで、妊婦さんの過去の妊娠・出産歴や出産に対する期待や要望、恐れ、トラウマ、希望を理解し、絆を深めます。また、お産の進み方や、日本の産科ケアの概要、出産場所の選び方等の情報を提供します。必要に応じて、妊婦さんに本やビデオや論文も紹介します。海外の研究結果により、出産中に継続的な付き添いがあると、帝王切開や硬膜外麻酔の適用が大幅に減少する可能性があることが報告されています。また出産ドゥーラの付き添いを経験した産婦たちの間では、より大きな満足感が得られたこと、痛みが少なかったこと、不安が少なかったこと、分娩時間が短かったこと、医療介入が少なかったこと、産後うつの発生率が低かったこと、母乳育児の成功率が高かったこと等が報告されています(Bohren et al, 2017; Klaus & Kennel, 1993; NPR, 2016; Simkin et al, 2002)。

陣痛が始まると、出産中に今何が起こっているのかを説明したり、情緒的なサポ―トを行ったり、様々な方法で産痛緩和のための継続的なサポートを行います。同時に、医療チームとのコミュニケーションを増やし、産婦さんの期待することや希望が尊重され、お産の瞬間のニーズとケアが一致するようにサポートしていきます(例えば、照明、音、温度、プライバシー、清潔さ、食べ物等)。必要な帝王切開が行われる場合にも、私はそのプロセス全体が可能な限りスムーズで、母子に最も敬意が払われてケアが行われるように、環境(照明、音、温度)とその瞬間の女性の権利と希望に配慮します(例えば、手術中に縛られない、手術用の覆布を下げて赤ちゃんが生まれる所を見られるようにする、さい帯をすぐには結さつしない、赤ちゃんと母親が肌と肌を合わせて触れ合う、出生後1時間以内に母乳を与えることができる等)。

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日本で出産されたブラジル人のカップルの出産に立ち会うルディミーラさん
(YouTube動画:https://youtu.be/jHPrxoyBQIs

Q3. 日本ではブラジル人妊産婦がどのような壁を感じており、それに対してブラジル人ドゥーラがどのように支援しているのか教えてください。

【平田氏】:言葉の壁と、自然出産に対する恐怖心があります。言葉の壁に対しては、健診や出産中や家庭訪問などで通訳するのが、ドゥーラの大事な役割になります。自然出産に対する恐怖心については、ブラジルは、国全体の帝王切開率が55.4%、私立病院全体では88%と、国際的に見てもとても高いという背景があります(ブラジル保健省,および注3)。ブラジルにいると、女性は気軽に帝王切開を希望することができますが、日本ではそのような選択肢は通常ありません。ですので、出産に対する考え方を変えるための手助けが必要になります。自然出産について勉強したり、ドキュメンタリー映画を観てもらったり、ドゥーラに実際に会うことで、最初は自然出産は怖いので帝王切開にしてほしいと希望していた女性も、自然出産の良さを理解し、それを望むようになります。それでもやはり帝王切開を希望する女性もいます。日本では、帝王切開の出産に家族やドゥーラが付き添うことはできませんが、そのように帝王切開を望む女性のこともドゥーラとしてできるだけ支援します。

また、ブラジル人妊産婦のことを歓迎してくれる施設、本人の希望が叶うような出産場所を選ぶ手助けをします。助産院や自宅出産がその答えになることが多いです。例えば、日本に来る前に、ブラジルで体験したような自然出産を日本でもしたいと希望するブラジル人の妊婦さんがいました。外国人であることに加えて、彼女にはうつ病の既往歴があり、受け入れてくれる出産施設を探すのがとても大変でしたが、髙林助産院を見つけることができました。

コロナ禍で対面による出産付き添いや両親学級は難しくなりましたが、オンラインによる遠隔付き添いやオンラインの両親学級は可能性が広がりました。私は2016年頃にオンラインによる遠隔付き添いを開始しましたが、コロナ禍以来、大きく増えて、現在は様々な国の出産に付き添っています。

一般的に、日本では出産が自然で生理的なものとみなされていて、特に助産師は女性の体にやさしいアプローチに対しオープンな考えをもち、技術的にも長けていると思います。日本でも、産科施設によっては、大きな病院など、医療介入を積極的におこなうところもありますが、それでもブラジルよりは自然派です。日本の産科医療は、100点満点ではありませんが、全体的にとても良いと思います。日本では、出産のケアに対する難しさよりも、母乳のみで育てたい女性を支援する際に、難しさを感じることが多いです。女性が希望すれば、母乳育児はとても簡単なもので、ブラジルでは多くの女性が難なくおこなっています。とはいえ、母乳育児の利点を知ったうえで、人工ミルクで育てることを選ぶ女性に対しては、もちろん本人の意向を尊重して精一杯支援します。出産や育児は、本人が自分で決めて主人公になることが一番大事だと思っています。

うつ病の既往歴のあったブラジル人妊婦さん(上記)を受け入れてくれた髙林助産院の院長、髙林香代子先生は、次のように話しています。

【髙林氏】:コロナ禍で出産立ち会いが禁止されている病院が多いので、助産院に駆け込む妊婦さんは増えております。通常は満期産での駆け込みは、安全面からお断りしています。助産院は妊娠週数など、安全な出産がおこなえる条件を確認しながら、リスク管理については常に嘱託医と連携しながらお引き受けしています。外国人の方についても、ご夫婦の片方が日本人であれば、配偶者を頼ったり、通訳アプリなどを活用しながら、なんとかコミュニケーションを図っています。今回の妊婦さんの場合、うつの既往があり、行政から特定妊婦と認定されていましたが、症状は改善されており、当院の嘱託病院は精神科を有するため、「受け入れ可能」と判断しました。当院でも、特定妊婦として行政とも連携していました。
ブラジル人ドゥーラのルディミーラさんは、日本語を話されなかったので、私たちはルディミーラさんを通訳として頼ったというわけではなく、産婦さんとの関係がしっかりできている人として、そばにいてもらいました。それが産婦さんにとって一番良いことだと思っていました。アロマやマッサージなどは、私たち助産師も、本当は自分たちでできるのですが、信頼できるドゥーラの心が伝わる「手当て」の部分というのは、産婦さん本人が一番安心できるので、本人の母国語で話せる人にやってもらうのが良いと考えました。私たち助産師も、ルディミーラさんも、お産に向かう気持ちは一緒で、「母児共に元気にお産をして、この人に良い思い出を残してあげたい」という気持ちが自然に伝わり、私たちは二人三脚でとても良いチームだったと思います。
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遠隔サポートで付き添った、豊田市でVBAC(帝王切開後の経膣分娩)出産したブラジル人夫妻。

Q4. 在日ブラジル人妊産婦を支援するドゥーラとして、日本の人々へのメッセージをお願いします。

【平田氏】:私たちは、女性が快適で幸せで人間らしい出産体験を得られるように一生懸命活動しており、この国で活動できることを誇らしく思っています。ブラジル人女性がこの国で子どもをもつことを恐れなくても良いように、また日本で出産することが彼女たちの人生で良い体験になるように、同時に、彼女たちが日本の出産の仕組みに重荷にならず、上手に適応していけるよう、これからも私たちの活動を続けていきたいと思っています。私は当初から、日本とブラジルの架け橋になるように、日本のシステムの擁護者として、争わず話し合うことで、一緒に解決策を見つけたいという気持ちでこの仕事をしてきました。私は自然出産が一番良いと思っていますが、帝王切開についても、妊産婦をもっと大切にしたケアの方法注4は可能であり、帝王切開の場合でも、産婦へのケアは、そうあるべきです。

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静岡県磐田市の助産院での出産に付き添った時の写真。左端が平田氏。

在日ブラジル人コミュニティと関わりの深い小貫大輔氏からメッセージ

最後に、国内外の出産関係者の中で伝説のように語り継がれているブラジルの「出産のヒューマニゼーション」プロジェクト(JICA, 1996~2001年)(三砂,2001)の中心メンバーのお一人でもあり、在日ブラジル人コミュニティに関わりの深い小貫大輔氏より、ルディミーラ氏らの活動の背景について、日本の私たちへメッセージを頂戴しました。

【小貫氏】:私は神奈川県の東海大学というところで「国際学」を教えています。若いときに12年ほどブラジルに住んで、エイズ予防や自然分娩・母乳育児などの「性と生殖の健康や権利」に関わるプロジェクトに携わったことから、15年前に帰国して大学で教えるようになってからも、ブラジルのお産関係者経由で、しばしば日本在住のブラジル人の妊婦さんから相談を受けることがあります。ある日突然、どこか地方病院の診察室から電話がかかってくるのです。携帯電話で、「ブラジルの〇〇さんに聞いて連絡しているんだけど、私の主治医に経膣分娩をさせてくれるように言ってやってくれないか」と、お医者さんとの会話の通訳を頼まれたりします。

 ブラジルでは、実は「お産のヒューマニゼーション」という社会運動が盛んで、自然分娩をしたい人たちが、よく連携して情報を交換し合い、助け合っています。そんな運動が日本にも派生していて、ルディミーラさんもそんな運動のメンバーの一人です。

 日本に来ているようなブラジル人たちは、社会階層だけを見たら、ブラジルで言う中産階級にあたります。そういう人たちは、ブラジルでは9割が帝王切開で赤ちゃんを産んでいるので、日本で(異国の地で)、ブラジルとはまったく違う考え方でおこなわれるお産のやり方には不安がいっぱいです。だから、妊娠すると、帝王切開をするためにブラジルに帰国する女性がたくさんいるほどです。そうではなくて、日本で産もうと決めた人たちは、とても勇気がある人たちなのだと理解してあげてください。

 勇気があるだけでは足りないので、日本で産むことに決めた女性は、たいがい自然分娩のことを勉強しようとします。もちろんインターネットが主な情報入手の手段です。そうすると、本当にたくさんの情報が見つかります。"parto humanizado"(人間的なお産)で検索してみてください。「人間的な」お産をしたよ、という家族が、自宅での出産の様子を公開しているのがたくさん見られるでしょう。

 ブラジルでは、日本のことを「人間的なお産」の国として理想化する傾向があるようです。それもそうです。今から20年以上前に、JICAのプロジェクトがブラジルに入って、たくさんの助産師さんが日本からブラジルを訪れて、「サンバ」ならぬ「産婆」から受け継がれた心意気を伝えたことがあるからです(三砂, 2001)。私も、1996年から2001年にかけてそのプロジェクトで5年間働きました。「光のプロジェクト」と呼ばれたプロジェクトでした。ポルトガル語では、赤ちゃんを産むことを「光に与える」と婉曲的に比喩表現するからです。

 ちょうど同じ時期に、ブラジルの連邦政府は「産科看護師」という職種に助産師と同じような役割を与え、全国の大学の看護学部に産科専修コース(看護師免許のある大卒者への1年間の専門コース)を開いて、あちこちに公立の助産院や院内助産院を建て始めました。帝王切開大国の悪名を払拭するには、それしか方法がないと考えたのでした。「産科看護師職」の再生は、名前こそ違えど「助産師職」の創設です。1998年のことでした。それ以来、ブラジルでは「お産のヒューマニゼーション」という運動が、どんどん成長してきました。そして、運動が進めば進むほど、古い考え方の医療者たちとの衝突も増えてきています。だから、ブラジルではみんなよく助け合っているのです。そんな社会運動をしている産婦さんたちから電話がかかってきたら、私だってお手伝いしないわけにはいきません。

 実は、私自身、次女が生まれるときには、そんな運動の中で妻と出産を体験しました。1993年のことだったので、「産科看護師」もいない、「ヒューマニゼーション運動」が起こる前夜のことでした。一生忘れることのない、素晴らしいお産でした。そのときの助産師さんは、当時私が働いていたNGOに来ていたドイツ人のアンジェラ・ゲルケさんで、ドイツで取った資格を使い、ブラジルで分娩介助をしていたのでした。ブラジルでは「無資格」の違法行為になってしまうので、ある日、とうとう州の看護協会に目をつけられて、助産所閉鎖の憂き目に遭ってしまいました。アンジェラさんの助産所が閉鎖される直前に、ときの保健大臣の盟友を彼女の助産所に案内する機会に恵まれました。ブラジルの大物政治家で公衆衛生医の資格をもつ、ダヴィ・カピストラーノ氏です。彼は、アンジェラさんの活動に共感して、そういう施設を公立の医療制度の中に開くプロジェクトを立ち上げました。それが、数年後にブラジルの助産師職創設につながっていくのでした。アンジェラさんもブラジルで通用する産科看護師の資格を与えられるのですが、助産所を再開しようとした矢先に進行性のがんが見つかって、2000年に亡くなってしまいました。書き始めると止まりません。若き日の興奮が蘇ってきます。お産はドラマだと思います。お産をめぐるブラジルの社会運動も、ドラマであり、今でも続いています。ルディミーラさんを理解するときには、日本にも、その情熱の"火種"が飛んできているんだと思ってください。
考察

出産の関係者の間では、ブラジルと言えば帝王切開が多いことで有名です。国全体では、半数強だそうですが、私立病院によっては出産の90%が帝王切開でおこなわれると聞いたこともあります。そのような国から、出稼ぎのために日本に来ている方々は、働き盛りで生殖年齢にもあり、日本で妊娠・出産を体験することも珍しくありません。日本は、帝王切開率が20%程度と、先進国の中でも帝王切開が少なめの国です。そんな日本で出産するブラジル人は、母国語はポルトガル語です。日本語も英語も通じない、ラテンアメリカの文化とも大きく異なる異国の地「日本」、それも都市部でなく多くは地方のコミュニティの中で、どのような困難や助け合いがあり、言葉や文化の壁を乗り越えているのだろうと以前から気になっていました。

2019年7月、名古屋で開催したドゥーラトレーニング・セミナーに、ブラジル人ドゥーラの方々が多く参加してくださったことをきっかけに、日本での出産体験や支援について詳しくお話をお聞きすることができました。ブラジルの女性すべてが高度な医療介入を希望しているわけではなく、ルディミーラ氏やアンジェラ氏のような女性も少なくないこと、日本で出産することを決めたブラジル人は、日本の枠組みの中で出産をとらえなおす中で、自然出産を理解していくこと、そしてその際には「経験ある女性」であるドゥーラたちが重要なかかわりをすることで、日本の産科医療との橋渡しをしてくれていることがよくわかりました。

「光のプロジェクト」(三砂, 2001)は、JICAによって日本の伝統的な助産師のケアをブラジルに伝えた有名な国際協力プロジェクトで、20年前のムーブメントは今も現地で生きているそうです(JICA母子保健タスクフォース,2019)。当時ブラジルに渡った日本の開業助産師、ブラジルに新設された産科看護師職、現在のルディミーラ氏たちのようなドゥーラ、現在の日本の開業助産師などの人々は、職業の名前こそ異なっても「母児共に元気なお産をして、この人に良い思い出を残してあげたい」という同じ目標をもって国境や文化や言語を超えて活動していることがわかります。そしてそれは近年発表されたWHOの出産ケアガイドライン「ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」(2018年)やICIの12ステップ(ICI, 2018; 日本語訳)として、世界中で価値が再確認され、すべてのムーブメントは、自ずとつながっているように見えます。このことは、ドゥーラという概念を初めに紹介した医療文化人類学者ダナ・ラファエル博士が1960年代に、世界の全ての文化で、動物の世界でさえも、ドゥーラのような存在が母親業の成功には必要なのだ、と述べたことを裏付けているとも言えます。

まとめ

今後も日本では、外国人の妊産婦さんが増えていくと考えられます。ブラジルやペルーなど中南米だけでなく、ベトナムなどの、非英語圏で、かつ漢字を使った筆談も不可能なアジアの国々から来られる妊産婦さんに出会うことも増えていくでしょう。日本の控え目で恥ずかしがりやの国民性や言葉の壁は、そのような外国人に助けの手を差し伸べることも阻んでいるように見えます。でも、私たちも一人一人が髙林先生や小貫先生のように「すべての母児が元気で良い体験をしてほしい」「困っていたら放っておけない」という気持ちで見守り、小さなことでも行動できたら、社会はより良くなるのではないでしょうか。外国人のコミュニティの中で日本の産科医療との橋渡しとして黒子になって活動するルディミーラ氏のような「ドゥーラ的な人々」に出会った時には、その人たちを通して、私たちも外国人の妊産婦さんと仲良くなっていけば、外国人妊婦さんやそのご家族の妊娠・出産はより心強く温かい体験になるはずです。妊娠・出産・産後という、人のとても大切で敏感な時期に生まれる出会いは、その母親や家族の人生を変え、さらには社会や世界を確実に変えていくことは、今回の日本とブラジルの例からも明らかだと思います。


  • 注1:「Parto Humanizado(人間的なお産)」は世界中のブラジル人46,000人以上が参加するFacebookグループ。当初、ブラジルで生まれ、その後に日本版グループが2000年代初頭に設立された。現在は1,000人以上の日本在住のブラジル人妊産婦とドゥーラが集う。日本に住むブラジル人妊産婦とその家族にとって、ドゥーラとのネットワーキングと相互の情報交換をおこなう場になっている。
  • 注2:「Coletivo Dar à Luz(出産グループ)」は、2019年に平田ルディミーラさんが愛知県豊橋市在住の吉門アレッサンドラさんと共に、小貫大輔さん(東海大学)、日高恵さん(愛知県豊川市ふたば助産院)の協力を得て創設した在日ブラジル人ドゥーラのグループ。
  • 注3:日本の帝王切開率は2017年に病院で25.8%、診療所で14.0%、全体で約20% (厚生労働省,2018)。米国は32%(Martin et al, 2019)。
  • 注4:産婦さんに優しい(gentle)あるいは自然な(natural)帝王切開と呼ばれ、海外では近年注目されている。赤ちゃんが生まれてすぐ、さい帯がつながったままで母親が素肌でしばらく抱っこできたり、初回の母乳哺育も行ったり、赤ちゃんが自力でゆっくりとお腹の中から出てくることを待つなどの帝王切開の方法で、方法の詳細にはバリエーションがある。
    参考:「母子の絆をより強くするという「優しい帝王切開」 とは?」https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7964.php

【プロフィール】

lab_03_50_05.jpg Ludmilla Hirata(平田ルディミーラ)
静岡県浜松市在住。GAMA(Grupo de Apoio à Maternidade Ativa:アクティブな妊娠・出産への支援のグループ)認定出産ドゥーラ。授乳コンサルタント。産前産後エデュケーター。2児の母親。在日ブラジル人のためのコミュニティ「Parto Humanizado(人間的な出産)」を拠点に日本で妊娠・出産するブラジル人家族の支援をおこなう。世界中の妊産婦のための妊娠中のセルフケアの方法を教えるオンラインプログラム(http://tenhaumaboahora.com)を開始(ポルトガル語)。
ウェブサイト:www.luddoula.com
出産準備教育と相談を行うYouTubeチャンネル:https://m.youtube.com/channel/UCHVl3VyYxXF9dkOHkCAwqcQ(ポルトガル語)チャンネル登録者は8,000人以上、毎週ライブ配信をおこなっている。


lab_03_50_06.jpg 小貫大輔(おぬき だいすけ)
東海大学国際学科教授。主な担当授業は「ジェンダーとセクシュアリティ」、「人間学」、「Global Issues(英語で実施する科目)」など。ブラジルと日本をつなぐボランティア団体「CRI-チルドレンズ・リソース・インターナショナル」を1988年に設立して現在は運営委員。日本性教育協会運営委員、アジア・オセアニア性科学連合評議員。
東京大学とハワイ大学の大学院で性教育を学んだ後、1988年にブラジルに渡り、スラムでの社会活動「モンチアズール」に参加。モンチアズールで学んだシュタイナーの思想を指針に、その後もJICA専門家としてブラジルでエイズ予防、自然分娩・母乳育児の推進、子育て支援などの「性と生殖の健康や権利」分野で活動。合計12年間のブラジル生活の後、2006年に帰国して現職。



執筆協力:髙橋優子
界外亜由美

筆者プロフィール
rieko_kishifukuzawa.JPG 福澤(岸)利江子(ふくざわ・きし・りえこ)

筑波大学医学医療系 助教。助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。

ayumi_kaige2.jpg 界外亜由美(かいげ・あゆみ)

mugichocolate株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター・コピーライター。広告制作会社勤務後、フリーランスのクリエイターを経て起業。クリエイティブ制作事業のほか、「自分らしく、たのしく、親になろう」をコンセプトにした、産前産後の家庭とサポーターをつなぐMotherRing(マザーリング)サービスを企画・運営している。

※肩書は執筆時のものです

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