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第9回 ドゥーラになるには

要旨:

第9回では、心理的サポート、身体的サポート、社会的サポートといったドゥーラに求められる役割を具体的に挙げ、それらの役割を果たすために必要な技能や資質を身につけることを目的としたドゥーラ養成プログラムについて説明する。また、知識や技術についてだけではなく、ドゥーラという役割・仕事に対する原動力や人柄の要素についてや、シカゴ大学がおこなった研究結果であるドゥーラサポートを成功させるための3つの解決能力、アンケート調査などをふまえ、養成プログラムや認定制度の意義や効果についてのさらなる研究が必要であることについても言及する。
前回はドゥーラになる女性たちの背景や経験について焦点をあてた。今回と最終回は、ドゥーラに求められる役割を具体的に挙げ、それらの役割を果たすために必要な技能や資質を身につけることを目的としたドゥーラ養成プログラムに注目する。

これまでに紹介してきたように、過去の研究で設定されたドゥーラの役割と実践内容は、研究プロジェクトによってさまざまであった。ドゥーラは非専門職女性、助産学生、退職したベテランナースなど多様で、その実践は特定の病院の条件や研究目的に合わせてあったり、実施期間も研究調査期間のみに限られたりしていた。そして、実際に北米で広まりつつあるドゥーラは、その多くがDONA Internationalなどのさまざまなドゥーラの専門組織やグループによる養成・認定プロセスを経て活動している。ここでは、主に分娩期ドゥーラの役割と養成について、現在進行形で一般的と思われる情報を紹介する。ドゥーラの組織については、DONA International、Birth Works、CAPPA、ALICE、ICEAのウェブサイトを参考にした。これらの組織について、(資料PDFの表 主なドゥーラ専門組織の比較)にまとめた(Meltzer, 2004; Morton, 2002)。


1. ドゥーラに求められる役割

心理的サポート

ドゥーラが提供する心理的サポートには、出産に継続的に付き添い、産婦と立ち会うパートナーを励まし、導き、褒め、笑いかけ、落ち着かせることなどがある(CAPPA; DONA International; Gilliland, 2002)。産婦の気をまぎらわしたり、視線を合わせたり、ロールモデルとしてふるまうこともある(Kayne et al., 2001)。それぞれの妊産婦の好みや心配事、価値観について話し合い、バースプランを一緒に立てることも心理的サポートである(DONA International; Gilliland, 2002)。産婦が自分で自分の出産をコントロールできたと感じられるように、意思決定のプロセスで産婦を中心にひっぱってくることもある(Hodnett, 2002)。出産後には産婦の体験を聴いて一緒に振り返り、産婦にとって納得のいく思い出になるよう支援する。

情報提供は、継続的付き添いや励ましと同様、ドゥーラの重要な役割の一つとして多くの文献で強調されてきた。出産の経過がどのように進んでいて今後どのように進行するかを説明すること、専門用語や医療処置について分かりやすく説明することなどが含まれる(Kayne et al., 2002)。


身体的サポート


多くのドゥーラは、呼吸の方法やマッサージなど痛みを和らげる方法を提案したり、陣痛が進むための体位の工夫などにより短時間で安全な分娩を促進し、できるだけ快適で医療処置の少ない自然出産を目指す(ALACE; CAPPA; Gilliland, 2002)。ドゥーラがどの程度積極的に分娩進行のプロセスにはたらきかけるかについては幅があり、それぞれのお産がありのままに進むよう人為的な介入を極力ひかえてただ見守ることが重要だと考えるドゥーラもいる(Moore, 2004)。産褥期ドゥーラは、乳幼児の発達や産後の経過、対処方法について母親の相談にのったり、育児や家事を手伝ったりする(CAPPA; DONA International)。

ドゥーラは医療スタッフではないため、医療的な処置とみなされる行為はおこなわない。DONA Internationalによると、ドゥーラは医師やナースがするような血圧測定、内診、胎児心拍の聴診、治療の処方などはしてはいけないし、ナースなどの専門職資格があるドゥーラがそのような処置をおこなう際には、ドゥーラとしておこなうのではないということをはっきりさせなければならないという(DONA International)。ALACEの養成プログラムでは、ドゥーラは妊産婦のバイタルサイン(血圧、脈拍、体温など)から、胎児心音聴取や簡単な内診の方法まで技術を学ぶことになっている(ALACE)。


社会的サポート


社会的サポートとして、ドゥーラは産婦と医療スタッフの関係づくりを支援し、コミュニケーションを橋渡しする役割を担う。産婦の意思を分娩進行について医療スタッフに伝えることもあるし(Newton, 2004)、産婦が医療スタッフとの円滑な関係を保てるよう、効果的な質問の仕方のコツを伝授することもある(Kayne et al., 2001)。施設分娩の場合は病院の環境に適応するためのサポートもおこなう(CAPPA)。産婦を擁護するため、ドゥーラは医療スタッフと産婦の関係を仲裁したり、時には交渉する役割も担うことがあるが(DONA International)、常に産婦の味方という立場を貫き、医療スタッフに代わって産婦を説得したりはしない。ドゥーラ自身が医療現場でトラブルの原因とならないためには、ドゥーラとナースの違いなど各医療職の役割をきちんと理解し、医療スタッフと尊重・連携し合うための技術も必要であるという(Newton, 2004)。

ドゥーラの倫理について、産婦のプライバシーを守ることや、法外な料金を課さないことなどが決められている(ALACE; DONA International)。担当する妊産婦が継続的なケアを受けられるために、自分の都合がつかない場合には他のドゥーラを紹介し引き継ぐなどのフォローも義務付けられている(DONA International)。ICEAのドゥーラは、母親が母乳育児を6か月間以上続けられるように地域のサービスを紹介する(ICEA)。


2.ドゥーラになるには


上記の能力を備えたドゥーラになるためには、知識や技術、経験が必要となる。実際に、さまざまなドゥーラ養成プログラムが開発され、ドゥーラの実践活動に役立つように組み立てられている。数日間のトレーニングで産科的知識、産痛緩和法、コミュニケーション、組織の方針や規律などについて学び、さらに、関連した文献(科学的研究論文を含む)を読むことや、実習レポートなども課される(資料PDFの表 主なドゥーラ専門組織の比較を参照)。

一方、ドゥーラとは、ドゥーラで「ある」ことが重要で、何を「知っている」かや、何を「する」かではない、トレーニングによってドゥーラを作ることはできない、というMoore(2004)の意見も興味深い。例えば、先に挙げた5つのドゥーラ組織に所属する全米のドゥーラを対象にした大規模なアンケート調査で、半数に満たない数の(42.9%)ドゥーラだけが、医学的知識は必須であるかという質問に対し、5段階の上位2つ(「強くそう思う」または「そう思う」)と答えた(Lantz et al, 2005)。ドゥーラの認定は必須かどうかという質問に対しても、「強くそう思う」または「そう思う」)と答えたドゥーラは約半数(49.1%)であった (Lantz et al, 2005)。また、過去の実験研究の結果を見ても、研究デザインが異なるので単純比較はできないものの、トレーニングなしの非専門職女性をドゥーラとした研究で著しい有意差が出ているものも多いのに、ベテランナースや助産学生を特別にトレーニングした研究でほとんど有意差がみられなかったものも多い (Altfeld, 2002; Hemminki, 1990; Klaus et al, 1986; Langer et al., 1998; Wolman et al., 1993)。これらの事実を見ると、ドゥーラの役割を果たすためには、ナースや助産師がもつような知識や技術を身につけ規定の認定条件を満たすこと以外に何が必要なのだろうかという疑問がわく。

シカゴドゥーラプロジェクトで当初ドゥーラ候補として選抜された5名の女性は、人種、年齢、教育レベルは似通っていたが、最終的にドゥーラとなったのはそのうち3名であった(Behnke & Hans, 2002)。Behnke & Hansは、成功するドゥーラのもつ特質として以下の6点を挙げたが、それらはすべて、知識や技術についてではなく、ドゥーラという役割・仕事に対する原動力や人柄の要素であった(2002)。

  1) ドゥーラとして働きたいという気持ちの裏に、他の女性の役に立ちたいという思いがある
  2) クライエントに対し先入観を捨てて理解しようとし、オープンな態度で接する
  3) 人間関係についての問題解決のために、柔軟な方法でアプローチできる
  4) 他者からのサポートを喜んで受け入れることができる
  5) 過去に困難な経験をしたことを、ポジティブな方向に意味づけができる
  6) 新しい自分を開拓することに熱中できる

また、シカゴ大学が最近おこなった研究では、ドゥーラサポートを成功させるためにどんなことが大切かをドゥーラにインタビューしたところ、妊産婦との関係づくり、妊産婦を守る姿勢、問題解決能力の3つが抽出された(Korfmacher, 2006)。妊産婦と良い関係を作るためには、相手を人として尊敬すること、選択肢を与え妊産婦の最終的な決断を尊重すること、聴くこと、個人的で親密な関係になること、家族とも話し合うことが必要であるという(Korfmacher, 2006)。

その他、ドゥーラに必要な条件として、先のアンケート調査の結果では、女性であること(76.2%)、出産の経験があること(44.6%)が挙げられた(Lantz et al, 2005)。ドゥーラの養成プログラムや認定制度の意義や効果については、今後さらに研究が必要である。


まとめ

ドゥーラは産婦にさまざまな心理的、身体的、社会的サポートを提供し、分娩施設で産婦が周囲と良好な関係を保ちつつ快適で自然な出産を体験できるよう、潤滑油のように働く。理想的には、ドゥーラには、妊娠・出産という現象について状況を理解し説明できる程度の知識や産痛緩和の技術だけでなく、人間関係に精通し、さらに黒子に徹した振舞いを身につけることが求められている。対象となる妊産婦のニーズの種類や度合いによって、ドゥーラに必要とされる技量も変わってくると考えられるが、このような総合的な能力を身につけることは簡単ではないだろう。各専門組織によるドゥーラ養成プログラムは、数日間の集中講座、数件の実習、文献を読むこと等を基本としているが、多くの認定ドゥーラはこれだけでは十分でないと感じているようにみえる。しかし、例えば医学知識などは医療スタッフとの協力関係があればドゥーラが産科・小児科の知識を身につける必要性は軽減できるし、さらに産婦の夫や家族との協力があればその他の役割も分担可能と考えられる。ドゥーラ独自の役割や必要とされる能力、養成プログラムの効果について明らかにするため、今後の研究が必要である。

最終回は、著者が昨年受講したDONA International認定のドゥーラ養成プログラムについて、カリキュラムの概要、参加者の様子、著者が学んだことについて紹介する。


謝辞

この原稿は小林登先生(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長・CRN所長)のご指導のもとに作成しました。ドゥーラの各専門組織の情報については、問い合わせに快く応じてくださった各組織の担当者の方々にお礼申し上げます。


参考文献


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