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第8回 ドゥーラになる女性たち

岸 利江子 (イリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程)
スーザン・アルトフェルド (Ph.D. 研究評価コンサルタント)

2006年6月 2日掲載

要旨:

ドゥーラの効果が社会的に知られることによりドゥーラになる女性を対象にした研究も出てきたことをふまえ、連載第8回は、アメリカにおけるドゥーラになる女性のバックグラウンド、タイプ、経験、養成プログラム等について、アメリカの現状を紹介。ドゥーラの働き方、ドゥーラと医療スタッフの関係にもふれ、社会的心理的にニーズの高い層の女性にドゥーラサポートが提供されるような社会の実現、ドゥーラが個人的に身体的・精神的・経済的コストを負うことなくドゥーラサポートを受けることができるシステムの実現など、課題を提示する。

現在、アメリカでおこなわれる出産の5%はドゥーラに付き添われており、その率は急速に増加しているという(Maternity Center Association, 2002)。これまでのドゥーラの研究は、サポートの効果について調査したものが大半であったが、ドゥーラの効果が社会的に知られるにつれ、ドゥーラになる女性を対象にした研究も出てきた。今回から最終回までは、ドゥーラになる女性のタイプや経験のほか、ドゥーラの養成プログラム等について、アメリカの現状を紹介する。



1. ドゥーラになる女性のバックグラウンド


アメリカの主要な5つのドゥーラ組織に登録しているドゥーラを対象とした、大規模なアンケート調査によると、2003年現在アメリカでドゥーラと認定されている、または認定プロセス中のドゥーラは、平均40歳(20~71歳)、93.8%が白人で、8割以上が既婚女性であるという(Lantz et al., 2005)。ドゥーラとは「他の女性を支援する、経験ある女性("experienced woman")」と定義されることが多く、自らの妊娠・出産経験をもつことが大切とされるが、このアンケート調査からも、87.8%のドゥーラが出産経験のある女性であることがわかった(Lantz et al., 2005)。また、ドゥーラは全体に高学歴で、高校卒業かそれ以下のドゥーラはほんの6.6%であったという(Lantz et al., 2005)。

このような、ドゥーラの組織(DONA, CAPPA, ALICEなど)の認定登録を経てドゥーラになった女性のことをプライベートドゥーラという。この他、病院によってトレーニング・雇用されている病院ベースのドゥーラもあるが、情報が少ない。著者がインターンシップをおこなっているオフィスで開発されたコミュニティベースのドゥーラプロジェクトでは、サポートの対象者であるアフリカンアメリカンのコミュニティの人々と同じバックグラウンドや価値観をもつ女性がドゥーラとして設定された。そのため、同じ地域に住み、アフリカンアメリカンで、高校卒業かそれ以下、シングルマザーの経験のある女性などがドゥーラとして選ばれた(Abramson, 2004; Altfeld, 2003)。


2. ドゥーラになる女性のタイプ


社会学者Meltzer(2004)は30名のドゥーラを対象に面接調査を行い、その結果、ドゥーラを5つのタイプに分けた。それによると、(1)ドゥーラという職業を天職と感じている女性や、(2)自分探しの旅の中でたまたまドゥーラになった女性がいるという(Meltzer, 2004)。また、(3)医療化された出産に疑問をもち、ドゥーラの活動を通して社会を変えていこうとする女性や、(4)自身の出産経験で傷つき、ドゥーラとして他の女性を支援することで自分自身のトラウマを癒していく女性もいる(Meltzer, 2004)。同じく社会学者でドゥーラでもあるMortonは、(3)(4)のようなタイプのドゥーラを"meaning seekers(意味を探す人たち)"と分類し、自分や自分の子どもの出産経験について情緒的に敏感で傷つきやすいタイプが多いと述べている(2003)。

また、(5)最終的には助産師になることを目指しており、その移行期としてドゥーラになることを選んだ女性も多い(Meltzer, 2004)。このタイプについては、先のLantzらの調査で、ナースや助産師、マッサージ師、チャイルドバースエデュケーターなど周産期ケアに関連した資格を既に持っているドゥーラが全体の約3分の1であり、さらにそれ以外のドゥーラの中でも27%が将来助産師になることを計画しているという結果が出ていることからも、このようなドゥーラの数はかなり多いと考えられる(Lantz et al., 2005)。


3. ドゥーラの励み

ドゥーラはどんなことを励みにしているのだろうか。96.2%のドゥーラの仕事は情緒的、個人的にやりがいを感じると答えている(Lantz et al., 2005)。その内容を自由記述式で尋ねたところ、産婦のもてる力を信じ、そばに付き添って支援できること(49.0%)、産婦や家族が希望するようなお産を手助けできること(48.2%)、お産という奇跡や親子のきずなに対面できることに対する満足感が挙げられた(Lantz et al., 2005)。その他には、産婦や家族に感謝してもらえること、いろいろな産婦に出会えること、自然な出産のプロセスに関与できることなどがあった(Lantz et al., 2004)。

健康な母子が陣痛を乗り越えて新しい命を生み出す出産は本質的におめでたいものである。多くのドゥーラがそのような場面に立会えることを喜び、そのプロセスの一部としてかかわりあえることにやりがいを感じている。これらの感触は、産科や小児科で働く医療関係者もよく体験していると思う。


4. ドゥーラの働き方

先のアンケート調査によると、ドゥーラは年間10件前後、出産時を中心としたケアを提供している(Lantz et al., 2005)。Meltzerの研究で対象となったドゥーラでは、年間平均約15件であった(Meltzer, 2004)。ほとんどのドゥーラが妊娠中の面接指導や産後の家庭訪問もおこなっており、出産に付き添うためには担当するクライエントの出産予定日の前後2週間を、24時間、常に駆けつけられる状態にしておくことを考えると、月に1件前後の予約数は妥当と考えられる。ドゥーラの80%はチームではなく個人でドゥーラとして働いており、クライエントの数を自分で決めて調節している(Lantz et al., 2005)。

71%のドゥーラはドゥーラの仕事以外にも職をもっている(Lantz et al., 2005)。ドゥーラの仕事から得る報酬は、年間38万円程度であるといい、弁護士への相談費用などをまかなう保険料や(訴訟対策ではない)、ドゥーラ組織への登録料や継続教育の費用など多少の出費も考慮すると、ほとんどのドゥーラが、ドゥーラであることを割のいい仕事とは考えていない(Lantz et al., 2005)。言い換えると、ドゥーラのほぼ全員(96.2%)がこの仕事にやりがいを感じているが(Lantz et al., 2005)、その評価は金銭的な報酬によるものではなく、むしろ、ドゥーラの仕事はお金目的ではなく献身的な活動とみなされていることがわかる(Meltzer, 2004)。そのような考え方は個人の宗教心と結びついている場合も多いかもしれない。ドゥーラという仕事をビジネスと考え経済的な利益を追求する実業家タイプのドゥーラは、他のドゥーラたちから非難の目で見られがちだという(Meltzer, 2004)。

ドゥーラという仕事と、別の職との両立の難しさについては、32.9%のドゥーラが悩みとして挙げている(Lantz et al., 2005; Salt, 2002)。また、自分の家庭の家事・育児や余暇の過ごし方に影響が出ること(23.4%)、出産に付き添うためにオンコールで待機することのストレス(22.9%)についても困難を感じているドゥーラが多い(Lantz et al., 2005; Salt, 2002)。


5. ドゥーラと医療スタッフの関係

ほとんどのドゥーラは病院の方針に従い、できるだけでしゃばらないように黙って見守るタイプが多いが、母親の意見を尊重するために医療スタッフに積極的に質問、交渉、介入するタイプのドゥーラもいる(Meltzer, 2004)。ドゥーラがその病院の職員であったり、助産師など医療職の資格をもっていたりする場合には積極的な介入がされやすいという(Meltzer, 2004)。ドゥーラは母親の意思を尊重し、できるだけ医療介入のない自然出産を目指すが、それを医療の現場でどの程度強く主張するかは難しい問題である。

2004年1月に、アメリカで社会的影響力のあるThe Wall Street Journalに、医療スタッフ寄りの見方を報じる興味深い記事が掲載された(Hwang, 2004)。ドゥーラが産科医の医学的判断に疑問を投げかけたり、産科的知識をもたないまま強引に自然出産を進めようとしたりすることで、出産の現場で困惑や葛藤が生じているという内容であった。それによって医療スタッフと母親や家族との信頼関係が損なわれるだけでなく、医療介入が手遅れとなって母児の健康状態が悪化するケースもあったという(Hwang, 2004)。しかし、実際にはこのような勇み足のドゥーラは例外的で、ドゥーラの養成プログラムにおいても、ドゥーラが医療の現場を混乱させないようふるまうことは間接的に母親へのサポートでもある、というメッセージが強調されている。

Lantzらのアンケート調査によると、約70-75%のドゥーラは一緒に働く医師や看護職から大事にされていると感じている一方で、仕事上の悩みを尋ねられると、自由回答式であったにもかかわらず41.2%ものドゥーラが医療スタッフからの支援や尊敬が得られないことを挙げているのは興味深い(Lantz et al., 2004; 2005)。この率は、先に述べた家事との両立やオンコールによるストレスの率の倍に近い。ドゥーラと医療スタッフとの協力関係のあり方や医療現場の権力構造について注目されつつある(Adams & Bianchi, 2004; BarYam, 2003; Gilland, 1998; 2002; Newton, 2004)。


まとめ

ドゥーラとなる女性についての研究は、ドゥーラの効果を調べた研究に比べるとまだ少なく、今後の研究が期待される。これまでのデータによると、アメリカで活躍しているドゥーラは大半が比較的裕福で、勉強熱心な層の女性が多いことが分かる。そのような恵まれた環境になければ、精神的・身体的に要求が高い割に経済的な報酬が良いとはいえないこの仕事を続けられないのが現状なのかもしれない。つまり、この新しい職業は現在、この仕事を愛し、他の女性を助けることにやりがいを感じているドゥーラたちの情熱によって支えられているといえる。ドゥーラという職業がより安定し、発展するためには、医療スタッフとの協力関係をはじめ、ドゥーラを支援するシステムがより整備されることが必要である。ドゥーラがゆとりをもって働ける環境が整うことにより、ドゥーラによるケアの質も自然に向上することは想像に難しくない。

ドゥーラを雇う女性とその家族もまた、その多くが経済的に恵まれた層である。しかし、貧困層、アフリカンアメリカンやヒスパニック系などのマイノリティ、教育を受けていない層の女性を対象とした実験研究でドゥーラの効果がより高かったことは先に紹介したとおりで、そのような社会的心理的にニーズの高い層の女性にドゥーラサポートが提供されるような社会を実現することも今後の課題である。ドゥーラが個人的に身体的・精神的・経済的コストを負うことなく、支払能力の低い女性でもドゥーラサポートを受けることができるようなシステムが大切である。

次回は、ドゥーラやドゥーラ養成者が考える良いドゥーラに必要な性質や、ドゥーラ養成プログラムの大まかな内容について説明し、最終回では著者がインターンシップ先で参加した養成プログラムで学んだことについて紹介してこの連載を終了する。


謝辞

この原稿は小林登先生(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長・CRN所長)のご指導のもとに作成しました。また、研究論文のデータベースでは見つからないような資料(新聞記事など)についていつも情報や意見をくださるインターンシップ先の指導者Ms. Beth Isaacsにも、この場を借りて深く感謝申し上げます。


参考文献

Abramson, R. (2004). The critical moment and the passage of time: reflections on community-based doula support. International Journal of Childbirth Education, 19(4), 34-35.
Altfeld, S. (2002). The Chicago Doula Project Evaluation: Final report. Unpublished work.
Adams, E.D., Bianchi, A.L. (2004). Can a nurse and a doula exist in the same room? International Journal of Childbirth Education, 19(4), 12-15.
Bar-Yam, N.B. (2003). Political issues. Doula care: an age-old practice meets the 21st century. International Journal of Childbirth Education, 18(4), 18-21.
Gilliland, A.L. (1998). Commentary: nurses, doulas, and childbirth educators -- working together for common goals. Journal of Perinatal Education, 7(3), 18-24.
Gilliland A.L. (2002). Beyond holding hands: the modern role of the professional doula. JOGNN - Journal of Obstetric, Gynecologic, & Neonatal Nursing, 31(6), 762-9.
Hwang, S. (2004). As "doulas" enter delivery rooms, conflicts arise: Hired to help childbirth, they sometimes clash with doctors and nurses. The Wall Street Journal, Jan 19.
Lantz, P.M., Low, L.K., & Watson, R.L. (2004). Doulas' views on the rewards and challenges of their work. International Journal of Childbirth Education, 19(4), 31-34.
Lantz, P.M., Low, L.K., Varkey, S., & Watson, R.L. (2005). Doulas as Childbirth Paraprofessionals: Results from a National Survey. Womens Health Issues, 15(3), 109-116.
Maternity Center Association. (2002). Listening to Mothers: Report of the first national U.S. survey of women's childbearing experiences. Executive summary and recommendations. Harris Intereactive.
Meltzer, B. (2004). Paid labor: Labor support doulas and the institutional control of birth. University of Pennsylvania. Dissertation in sociology.
Morton C, H. (2002). Doula care : The (re)-emergence of woman-supported childbirth in the United States. 2002. University of California, Los Angeles. Dissertation in sociology.
Newton, P.C. (2004). The doula's role during L&D. RN, 67(3), 34-38.
Salt, K.N. (2002). Doula dilemmas. International Journal of Childbirth Education, 17(3), 18-20.
Zhang, J., Bernasko, J.W., Leybovich, E., Fahs, M., & Hatch, M.C. (1996). Continuous labor support from labor attendant for primiparous women: a meta-analysis. Obstetrics & Gynecology, 88(4 Pt 2), 739-44.



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