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研究室

【ドゥーラ CASE編】第1回 「ドゥーラ」という言葉をより広く

福澤(岸) 利江子  (東京大学大学院医学系研究科助教)

2014年8月 8日掲載

8年ぶりの新連載となる【CASE(実践)編】
前回の連載【ドゥーラ LABO(研究)編】では主に、2005年頃までに発表されたドゥーラに関する研究論文の文献検討をしました。それから約8年が過ぎましたが、実はドゥーラ効果に関する実験研究については、多少の更新情報はあるものの、その後も大きな変化はないようです。一方、ドゥーラが世界中で広まるにつれて、ドゥーラ自身の体験や実践活動内容についての情報は、以前よりも増えてきた気がします。また、出産ドゥーラだけではなく、様々なライフサイクル、健康問題、対象集団のためのドゥーラサポートや、ドゥーラと医療者など他職種連携についての情報も増えました。これらの情報は必ずしも研究という形ではありませんが、今回は【ドゥーラ CASE編】として様々な情報をお届けしながら、ドゥーラの分野の研究と実践現場をつなぐことを試みたいと思います。
「ドゥーラ」という言葉をより広く

これまでドゥーラについて調べてきた中で、ドゥーラ登場の背景には必ず社会問題があるということがわかりました。海外では普通、ドゥーラといえば出産ドゥーラを指しますが、日本では産後ドゥーラの方が先に登場したことはその好例です。妊娠・出産やそのケアという現象一つにも、とても多くの要素や背景が絡み合っていることにも気付きました。アメリカやイギリスなど海外のドゥーラに関する情報を日本に取り入れる時には、文化的・社会的な背景を知らないと理解が浅くなり、誤解が生じたり、情報が偏ったり、言葉だけが独り歩きをしてしまうなど、情報を上手に使えない気がしています。また以前は「ドゥーラ」というキーワードをもとに情報を集めましたが、ドゥーラという言葉を使っていなくても、まさにドゥーラの素晴らしい活動をしている方が日本にも海外にもたくさんいらっしゃいます。ですから今回は、ドゥーラという言葉だけにとらわれず、周産期ケアを取り巻く社会問題や文化、関連する他職種の実践などにも広く関心を向けたいと思います。海外の情報を日本の社会で上手に利用するために、今回の連載に取り組みたいと思います。

日本の周産期ケア現場の雑感

私は2009年7月に米国留学から卒業・帰国したのですが、卒業する前から次は病院で働こうと決めていました。2006年頃には日本は「お産難民」が話題になり、たとえば妊娠10週前で分娩予約をしなければならなくなるなど、留学前とはずいぶん環境が変わっていました。また、良い研究をするためにも現場から離れ過ぎていることは不安でした。現場の状況について、内部からきちんと理解しておきたいと思い、横浜市内の大学病院で働き始めました。9年ぶりの臨床でしたが、医療が以前よりもサービス業化していると感じました。日本の新生児死亡率は世界最低水準を保っており、赤ちゃんが元気に生まれることが当たり前のように思われています。母親と赤ちゃんが生きているだけでは十分でなく、求められる周産期ケアの質は以前よりも多様化していました。出産に関する医療訴訟はますます身近な問題となっています。そんな中で、ケア提供者は過酷な労働条件で精一杯働いています。一方で、ケアが十分にいきわたらずに人として当然配慮されるべきことが見過ごされ、黙って遠慮したり我慢している妊産婦さんや家族の方もたくさんいらっしゃるはずです。正直、私の場合は、ドゥーラサポートの必要性を頭ではわかっていて提供したい気持ちも強かったにもかかわらず、実際には様々な要因で、最良のサービス(妊産婦さんそれぞれのニーズに合わせた心のこもったケア)を提供することがとても難しく感じられ、無力感を感じる事が多い日々でした。

つまり、医療者と妊産婦さんの間に立ちはだかる壁がより高くなっているのかもしれません。昔も壁は存在しましたが、専門知識の有無という壁が主だったと思います。今はサービス提供者か消費者か、医療は仁術かビジネスかなど、より複雑化しています。そして、この壁を取り除くのが、まさにドゥーラの役割だと思うのです。

自身の妊娠・出産の体験を経て
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個人的な話になりますが、私は今から10か月前に出産をしました。それまで、出産経験がない自分は助産師として活動しても実はきちんと分かっていないのでは、とずっと気になっていました。でも、実際に経験してみると、今度は1回だけでは分からないのではと思うようになり、かえって主観のバイアスが強くなるのではと思ったりします。一つだけ確実にわかったことといえば、赤ちゃんの力ってすごい!ということです。私はもともと子ども好きというわけではありませんでした。むしろ、出産するまでは赤ちゃんを抱いたこともない女性が、産後1週間でみるみる「お母さん」に変化していく姿に、女性って面白い、すごい、と母親になっていく女性の方に強い関心がありました。自分が経験してみて、女性を母親にするのは赤ちゃんの力なのだということを実感し、子どものもつ力にもっと注目しながら周産期の研究や活動をしていきたいと思うようになりました。そういう意味で、子ども学研究室であるチャイルド・リサーチ・ネットの中にドゥーラ研究室を設けていただき、CRN研究員として連載を再開できることに使命を感じています。

ついに日本にドゥーラ登場

前回の連載をしていた2005年頃、日本にはドゥーラと名乗る人はほとんどいませんでした。「産後クライシス」や「お産難民」といった言葉もなければ、ドゥーラに興味をもつ人も少なかったと思います。医療従事者もドゥーラという言葉だけは知っていても、日本には必要ないと考える人もいました。それが今では少子化がこんなに社会問題になり、妊娠・出産・育児の支援が以前より増える中、ドゥーラの養成組織や実践活動も実際に始まっています。それらの方々がどんな気持ちでドゥーラを志し、活動し、どんなやりがいを感じ、また悩みや課題を抱えているのか、それらは日本独自の現象なのか、国や文化を超えて共通なのか、今後どんな研究が期待されていて、日本の社会は何を目指すべきなのか、できるだけ客観的な立場を心がけながら読者の皆様と共に考えていきたいと思います。

看護師や医師には国家資格があり、職業団体もありますが、ドゥーラは(特に日本では)公の仕組みがまだありません。職業的な枠がゆるく、仕組みにとらわれない自由があるのは強みのひとつです。同時に、ドゥーラ的な活動をする人やドゥーラを志す人同士がつながりあうことで生まれるつながりも、支えになると思います。この場が、読者のみなさまにとって、ドゥーラに関する情報を共有する出会いの場になることを願っています。

今後の連載について

次回は、イギリスで制作されたドキュメンタリー映画「DOULA!」をご紹介したいと思っています。その他にも、(必ずしもドゥーラと名乗っていないものも含め)国内外各地のドゥーラ活動、ドゥーラの養成組織、海外でドゥーラとして活動していたり、ドゥーラについて発信している方からの情報、ドゥーラについての書籍、ドゥーラに関連して日本の社会問題や文化について感じていることなど、幅広い情報を共有できればと思っています。その他、博士論文研究から続けている日本語版Listening To Mothers研究についても、2013年にアメリカ原版の最新調査が発表されました。他にヨーロッパでも動きがあるので、それらについても今後ご紹介していきたいと思います。ご感想やご意見、新たな情報もぜひお寄せください。

最後に、今回の連載は仕事や子育てをしながらですので、フリーライターである界外亜由美さんのご協力のもと執筆します。前回の連載よりも読みやすい文章にしてくださる、私にとっての強力なドゥーラのような存在です。宜しくお願いします。


筆者プロフィール

福澤(岸) 利江子

東京大学大学院医学系研究科家族看護学教室 助教 助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。 Community-Based Doula Leadership Instituteアドバイザリーボードメンバー、社団法人ドゥーラ協会顧問、ニチイ産前産後ママへㇽパー養成講座監修。 研究分野:「周産期ケアの国際比較」「ドゥーラサポート」

界外亜由美

ライター・コピーライター。広告制作会社で旅行情報誌や人材採用の広告ディレクター・コピーライターとして活動後、フリーランスとなる。また、ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」の運営など、ドゥーラを支援する活動も行っている。
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コメント

福澤さん、はじめまして。
8年前の掲載、毎回楽しみに読ませてもらっていました。
正直、それまではよくわからずにドウーラという言葉を使っていましたし、初めて現場で産婦さんから聞いたときの苦い経験がありましたのですごく勉強になりました。
今回はご出産後ということで、育児とお仕事と、また連載とではお忙しいと思いますが、頑張ってください。応援してます!


MWはる様
励ましのコメントをありがとうございました!お返事が遅くなり申し訳ありません。
8年前から読んでいただけてたなんてありがとうございます。周産期ケアに携わる様々な方々にとっても役立つ情報になるよう頑張りますのでこれからも見守ってください。どうもありがとうございました。
福澤


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