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【ドゥーラ CASE編】番外記 ドゥーラ研究の最新の動向とCASE編について

福澤(岸)利江子 (筑波大学医学医療系 研究員)

2015年6月19日掲載
はじめに

最近では日本でもドゥーラという言葉が徐々に知られるようになりました。関連する研究も今後増えていくと期待されます。8年前の連載LABO編以降およそ10年の間に、海外でドゥーラの研究の数はどのくらい増え、広がってきたのでしょうか。今後はどのような研究が必要とされているのでしょうか。新連載開始からもうすぐ1年になる今回は、最新の動向についてまとめ、CASE編の研究的な位置づけについてお伝えします。

ドゥーラ研究の現状

1980年代以来、欧米を中心にドゥーラの出産付き添いの効果について研究が発達しました(LABO編第2回「ドゥーラ研究の変遷」図2)。2005~2006年のドゥーラ LABO編連載以降も、ドゥーラについての研究論文は急速に増えていることがわかります(図1・図2参照) *1

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図1

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図2

研究結果を一般化するために最も優れているといわれる、RCT(ランダム化対照試験)というデザインを用いた臨床実験研究が多く発表されました。LABO編第7回「ドゥーラの効果(5)まとめ」で、Zhangら(1996)(Zhang, Bernasko, Leybovich, Fahs, & Hatch, 1996)やScottら(1999)(Scott, Berkowitz, & Klaus, 1999)のメタアナリシス *2と共に紹介したHodnettらのCochrane Reviewでも、ドゥーラの出産付き添い効果について最新情報が発表され続けています。2013年発表の最新版(Hodnett, Gates, Hofmeyr, & Sakala, 2013) *3によると、以下のことがわかっています。

ドゥーラサポートの効果(22件のRCT、研究対象者15,288名、16か国):   

       
  • 分娩中の痛み止めの使用率:10%減少(局所麻酔7%減少)
  • 吸引または鉗子分娩:10%減少
  • 帝王切開率:22%減少
  • 自然経膣分娩:8%上昇
  • 分娩所要時間:35分短縮
  • 分娩体験への不満足:31%減少
  • 出生後5分後の赤ちゃんの要蘇生状態(アプガースコア):31%減少
  •   

つまり、ドゥーラが出産に付き添うと安産になりやすく、産婦がより満足すること、そして副作用は見当たらないということです。

今後必要なドゥーラ研究
1. ドゥーラサポートのWHYやHOWについての研究

上記のHodnettら(2013)による論文では、

  • ドゥーラがその施設のスタッフではない場合
  • 産婦のもともとの知り合いではない場合
  • 無痛分娩があまり普及していない施設での出産の場合
に、ドゥーラ効果がより高まるということもわかりました。

効果の種類や大きさだけでなく、どうすればドゥーラサポートの効果が最大になるかは、ドゥーラを養成・利用する際に重要な知識です。しかし、これまでの研究では、「どんな」ドゥーラが効果を最大にするのか、それは「なぜ」なのか、というドゥーラ効果のメカニズムについてまだ十分なエビデンスは得られていません。これまで主流だった量的研究(数で結果を示す調査)では、このような"why"や"how"の疑問に十分に答えることができないのです。このような疑問に答えるため、質的研究の必要性が今後さらに高まると考えられます。

質的研究は、量的研究のように調査結果を数字で簡潔に述べたり、サンプルの結果を一般化したりはできませんが、個性豊かで引き出しの多い個々のドゥーラを言葉で記述するのに適した研究方法です。こうした考えに基づき、昨年よりドゥーラ CASE編をスタートさせました。CASE編では、質的研究の中でも一番シンプルなケーススタディ(事例研究)という研究デザインを参考に、ドゥーラやドゥーラ関係者に焦点を当てながら、1例ずつ、言葉を使って詳しく紹介していきます。

2. 出産時付き添い以外のドゥーラ活動についての研究

LABO編連載以来、出産付き添い以外の研究も増え、研究方法や場所、対象集団などが広がりました。周産期以外にも、妊娠初期の中絶(Chor et al., 2015)、子宮頸がん検診(Olsson, Lau, Lifvergren, & Chakhunashvili, 2014)、死にゆく人に付き添う看取りのドゥーラ(end-of-life doula)(Lentz, 2014) (Elliott, 2011)などの新しい分野についても論文が発表されています。また、ドゥーラと共に働く医療者などとの連携に焦点を当てた研究(Stevens, Dahlen, Peters, & Jackson, 2011)や、職業ドゥーラの働き方についての論文(Torres, 2014)も増えました。

産後のドゥーラサポートの研究も少しずつ増えています(Campbell-Voytal, Fry McComish, Visger, Rowland, & Kelleher, 2011) (Edwards et al., 2013) (Gjerdingen, McGovern, Pratt, Johnson, & Crow, 2013) (McComish & Visger, 2009) (McComish, Groh, & Moldenhauer, 2013)。日本では、出産ドゥーラではなく産後ドゥーラが先に登場しました。メディアでも注目され、社会的な認知が広まっていますので、海外の産後ドゥーラの情報は特に役立つかもしれません。

ドゥーラCASE編の視点について
1. 国際的・長期的な動向から

一般的に、妊娠・出産・育児は環境の影響を大きく受けやすく、個人差の大きな事象です。日本では特に戦後以来の急速な近代化による変化が激しく、世代によるギャップが大きいのも特徴です。「出産は自然でなければいけないのか」「母乳育児でなければいけないのか」などの問題にシンプルな答えはありません。

同時に、出産は昔から変わらず「棺桶に片足をつっこむ」と言われるほど生命の危機と背中合わせです。親は子への愛情ゆえ、周産期医療にかかわる専門家はこの奥深い分野への熱意ゆえに、多くの関係者はそれぞれの考え方に強い信念をもっています。

先日、世界保健機構(WHO)は、世界中で帝王切開率が上昇していることに警鐘を慣らし、日本でもニュースになりました(WHO, 2015) *4。図3は、OECDデータベースと日本の政府統計データを使って作成したグラフです。わずか20年の間に、世界中で帝王切開が増えていることがわかります。2008年の国際データ(Gibbons, 2010)によると、先進国の多くは帝王切開率が20~30%、アフリカの多くの国は5%前後、帝王切開が多いことで有名なブラジルでは46%でした。それぞれの国内でも、施設や担当者によって率が異なる傾向があります。

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図3 *5

これからも帝王切開率は世界中で上昇し続けるでしょう。社会の人々(特に産む女性)がこのような動向や背景を知り、望んだ結果であれば良いのです。でも実際には、人々が知らないうちに、このような流れになっているのではないかと思います。その原因は、社会の仕組みや制度(一人ひとりの産む女性や働く人々を超えたシステム)にあります。日本では、帝王切開率の国際比較のような統計がほとんど公表されていません(他国の例:OECDデータベース、米国のBirthデータ、欧州のEuroperistatなど)。 そのような中でも、日本の帝王切開率は他の国々に比べると比較的低いことが読み取れます。日本は先進国ですから、医療技術や経済的にも恵まれていますし、皆保険制度など医療へのアクセスもとても良い状態です。それなのになぜ、帝王切開や無痛分娩といった医療介入率が低いのでしょうか。医療費も米国などに比べると低めですが、新生児死亡率や妊産婦死亡率がとても低いのも特徴的です。

一体、日本のどんなメカニズムが低コストで安産という健康な結果をもたらしているのでしょうか。出産ドゥーラが発達しにくく、産後ドゥーラが先に登場したのはなぜでしょうか。ドゥーラという職業なしに、日本の妊娠・出産にかかわる支援者はどんな支援をし、妊産婦やその家族はどのような行動をしているのでしょうか。この状況は今後も存続可能なのでしょうか。諸外国から見ると不思議で興味深いことがたくさんあります。これらの疑問に対し、設備や制度などのハード面だけでなく、周産期支援にかかわる人々の思いや価値観、働き方というソフト面からも調べることによって、国内外で役立つかもしれません。ドゥーラ研究室では、社会や時代の動向を海外と比較しながらドゥーラについて理解し、日本のドゥーラサポートの特徴や日本で活動するドゥーラに役立つ知識について考えていきたいと思います。

2. ドゥーラの多様性を多面的な視点から

ドゥーラが必要とされるようになった理由は、様々な背景が複合的に絡み合っています(参考資料:ドゥーラ~生む女性とその家族を支える社会を目指して~)。ドゥーラが提供するサポートも、目に見えるものから見えないものまで、さまざまな要素が含まれています(図4参照)。

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図4 ドゥーラサポートが必要になった背景とサポートの要素

さらにドゥーラは公の枠組みに縛られることがなく、モチベーションも活動も個性的である傾向があります。Mason (2015)はドゥーラの多様性について、「ドゥーラになる理由や活動内容は、どれ一つとして同じものはない」と言い、主に4タイプのとらえ方があると仮説を立てています(図5参照)。多くのドゥーラは複数のタイプに当てはまり、目の前の妊産婦さんのニーズに合わせ、複数のアプローチを組み合わせて支援するのです。

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図5 *6

ドゥーラ研究室では、産婦さん一人ひとりへのケアを良くすることを願いつつ、同時に、産科医療の制度や社会を良くすることも願っています。そのために、上記のような多面的な視点からドゥーラサポートについて紹介していきます。

今後もドゥーラ研究室にご期待ください。

(執筆協力:界外亜由美)



  • *1:文献検索は、医学系(MEDLINE)、看護学系(CINAHL)、心理学系(PsycInfo)、全分野(Google Scholar)の論文データベースを用いて、"doula"または"doulas"を含むが著者名ではない論文について年代別に検索しました(2015年4月22日)。図2はさらに調査論文に絞るために、MEDLINEでは抄録有のものに限定し、CINAHLでは抄録有・査読有・調査記事に限定した論文数を示しました。
  • *2:実験の条件が似通ったものを集め、追加情報を各研究者からさらに得てまとめたものを再度統計的に分析した研究
  • *3:この論文のタイトルにドゥーラという言葉は表立って使われず、「出産中の女性への継続的なサポート」というタイトルですが、実際に含まれる研究論文を具体的に見ると、ほとんどはドゥーラの研究であり、ドゥーラ効果を示す際にはこの論文が世界中で引用されています。(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD003766.pub5/abstract
  • *4:一点申し添えるとすれば、医療界でも最近は顧客(患者)優位のサービスが大事にされるようになってきたとはいえ、産婦(患者)の立場は実際に現場ではそれほど強くなく、多くの「専門的な判断」はその時にかかわる医療者に大きく影響されます。WHOが扱う海外の国の多くに比べ、日本では産む女性も専門家も「できれば自然に」という価値観があり、産む女性が「帝王切開に安易に頼っている」というのはあてはまりにくいかもしれません。
  • *5:OECD (2015), Caesarean sections (indicator). doi: 10.1787/adc3c39f-en (Accessed on 19 February 2015). および 母子保健事業団.母子保健の主なる統計.2012年.のデータをもとに著者作成。
  • *6:Mason氏の許可を得てウェブページ(https://drdoulasays.wordpress.com/2015/02/21/what-is-your-doula-perspective/)の図と説明を翻訳。

    • 【参考文献】
    • Campbell-Voytal, Kimberly, Fry McComish, Judith, Visger, Joan M., Rowland, Carolynn A., & Kelleher, Jacqueline. (2011). Postpartum doulas: motivations and perceptions of practice. Midwifery, 27(6), e214-e221. doi: 10.1016/j.midw.2010.09.006
    • Chor, Julie, Hill, Brandon, Martins, Summer, Mistretta, Stephanie, Patel, Ashlesha, & Gilliam, Melissa. (2015). Doula support during first-trimester surgical abortion: a randomized controlled trial. American Journal Of Obstetrics And Gynecology, 212(1), 45.e41-46. doi: 10.1016/j.ajog.2014.06.052
    • Edwards, Renee C., Thullen, Matthew J., Korfmacher, Jon, Lantos, John D., Henson, Linda G., & Hans, Sydney L. (2013). Breastfeeding and complementary food: randomized trial of community doula home visiting. Pediatrics, 132 Suppl 2, S160-S166. doi: 10.1542/peds.2013-1021P
    • Elliott, H. (2011). Moving beyond the medical model. Journal of Holistic Healthcare, 8(1).
    • Gibbons, L., Belizán, J.M., Lauer, J.A., et al. (2010). The Global Numbers and Costs of Additionally Needed and Unnecessary Caesarean Sections Performed per Year: Overuse as a Barrier to Universal Coverage: World Health Report, Background Paper, 30.
    • Gjerdingen, Dwenda Kay, McGovern, Patricia, Pratt, Rebekah, Johnson, Linda, & Crow, Scott. (2013). Postpartum doula and peer telephone support for postpartum depression: a pilot randomized controlled trial. Journal Of Primary Care & Community Health, 4(1), 36-43. doi: 10.1177/2150131912451598
    • Hodnett, E. D., Gates, S., Hofmeyr, G. J., & Sakala, C. (2013). Continuous support for women during childbirth. Cochrane Database Syst Rev, 7, CD003766. doi: 10.1002/14651858.CD003766.pub5
    • Lentz, Judy C. (2014). Palliative Care Doula: an innovative model. Journal Of Christian Nursing: A Quarterly Publication Of Nurses Christian Fellowship, 31(4), 240-245.
    • Mason, A.L. (2015, Februaru 21, 2015). What is your doula perspective?, from https://drdoulasays.wordpress.com/2015/02/21/what-is-your-doula-perspective/
    • McComish, Judith Fry, Groh, Carla J., & Moldenhauer, Judith A. (2013). Development of a doula intervention for postpartum depressive symptoms: participants' recommendations. Journal Of Child And Adolescent Psychiatric Nursing: Official Publication Of The Association Of Child And Adolescent Psychiatric Nurses, Inc, 26(1), 3-15. doi: 10.1111/jcap.12019
    • McComish, Judith Fry, & Visger, Joan M. (2009). Domains of postpartum doula care and maternal responsiveness and competence. Journal Of Obstetric, Gynecologic, And Neonatal Nursing: JOGNN / NAACOG, 38(2), 148-156. doi: 10.1111/j.1552-6909.2009.01002.x
    • Olsson, Erik, Lau, Malena, Lifvergren, Svante, & Chakhunashvili, Alexander. (2014). Community collaboration to increase foreign-born women's participation in a cervical cancer screening program in Sweden: a quality improvement project. International Journal For Equity In Health, 13(1), 62-62.
    • Scott, K.D., Berkowitz, G., & Klaus, M. (1999). A comparison of intermittent and continuous support during labor: a meta-analysis. American Journal of Obstetrics & Gynecology, 180(5), 1054-1059.
    • Stevens, Jeni, Dahlen, Hannah, Peters, Kath, & Jackson, Debra. (2011). Midwives' and doulas' perspectives of the role of the doula in Australia: a qualitative study. Midwifery, 27(4), 509-516. doi: 10.1016/j.midw.2010.04.002
    • Torres, Jennifer M. C. (2014). Families, Markets, and Medicalization: The Role of Paid Support for Childbirth and Breastfeeding. Qualitative Health Research.
    • WHO. (2015). Caesarean sections should only be performed when medically necessary. World Health Organization. Geneva. Retrieved from http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2015/caesarean-sections/en/
    • Zhang, J., Bernasko, J.W., Leybovich, E., Fahs, M., & Hatch, M.C. (1996). Continuous labor support from labor attendant for primiparous women: a meta-analysis. Obstetrics & Gynecology, 88(4 Pt 2), 739-744.

筆者プロフィール

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福澤(岸) 利江子

筑波大学医学医療系 研究員。
助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。


界外亜由美
ライター・コピーライター。広告制作会社で旅行情報誌や人材採用の広告ディレクター・コピーライターとして活動後、フリーランスとなる。また、ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」の運営など、ドゥーラを支援する活動も行っている。
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