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【比較から考える日中の教育と子育て】 第9回 日本と中国における大学入試改革

要旨:

本稿では、日本と中国で現在議論が進められている大学入試制度改革について、その議論の過程、背景、内容について簡単に紹介するとともに、両国の入試改革の共通点と相違点について、比較を試みた。
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1月に北京で開かれたあるシンポジウムに招かれ、そこで日本の大学入試改革の現状について報告する機会があった。筆者の報告も喜んでもらえ、またシンポジウムでの他の先生方の報告や討論もかなり参考になるところが多かった。とにかく無事終わったのでほっとしていたら、前回のシンポジウムに続いて、4月に大学入試をテーマにシンポジウムを開きたいので報告してほしいと依頼が来た。やはり中国でも(高校以下の段階での入試も含め)入試改革は非常に注目度が高い話題となってきているのは確からしい。

その背景には、昨年の「中国共産党第十八期中央委員会第三回全体会議(以下、「三中全会」と略す)」以降、大胆な入試改革案が具体的実施に向けて動き出したことがあるのかもしれない。また日本においても、2013年10月末の教育再生実行会議の第四次提言以降、大学入試改革が教育関係者だけでなくニュースとして世間一般の注目を浴びるようになった。

もちろん、現行の入試制度に対する細かい改革は今までも日本・中国で実施されてきており、また大幅な改革についても、両国ともに長期に渡り段階的に議論が続けられてきたのだが、パラダイムシフト的な改革を具体的な実施に向けて本格的に検討するようになったのは、日本では前述の第四次提言からであろうし、中国では2013年11月初めの三中全会の「改革の全面的深化における若干の重要な問題に関する中共中央の決定(以下『決定』 *1と略す)」から、とほぼ同じような時期のように思われる。同時に、現在日本と中国で議論・検討されている大学入試改革は、おそらく将来的な両国の教育の在り方に多大な影響をおよぼすであろう大幅な改革となっているが、日本の教育再生実行会議の第四次提言については中国で注目されることは少ないように感じられるし、また中国の三中全会の「決定」についても、日本では中国の政治・経済面での改革に注目したニュースがほとんどで教育関連の改革については報道が少ないようにも思われる。

これらの改革内容について理解しておくことは、これからの両国の教育事情を考えていくうえで、重要になってくるだろう。そこで、本稿では現在進行形で行われている日本と中国の大学入試改革の試みについて、現在はまだ暫定的なものではあるが、改革の流れ、背景、内容の面から簡単に紹介するとともに比較も行ってみたい。

1 日本における大学入試改革

<議論の経過>

日本において現在議論されている大学入試改革については、中央教育審議会(以下、中教審)高大接続特別部会における議論、教育再生実行会議における議論とその第四次提言 *2、が昨年からニュースとして大きく取り上げられ、社会的な注目を集めるようになった。しかしながら、これらの議論は昨年になって突然降って湧いたものではなく、それ以前から長期にわたって議論されてきたものである。

たとえば2007年の国立大学協会による「平成22年度以降の国立大学の入学者選抜制度-国立大学協会の基本方針-」 *3、2008年日本私立大学連盟の「私立大学入学生の学力保障-大学入試の課題と提言」 *4などの中ではすでにセンター試験などの改革の必要性について指摘されていた。また2008年の中教審大学分科会の「学士課程教育の構築に向けて」(学士課程答申) *5においても、高校修了段階での学習到達度を測定できる新たな共通試験(高大接続テスト(仮称))について調査研究の必要性が指摘されていた。

これらを受けて、2008年から2010年の間、文部科学省の委託を受けた北海道大学を中心として調査研究が進められ、2010年9月には報告書 *6が提出されている。すでにこの報告書の中で大学入試改革の方向性は詳細に示されており、また、2012年6月に文部科学省が公表した「大学改革実行プラン」の中でも、1点刻みでの選抜からの脱却など、大学入試改革の案が示されている。

このような流れの中で、2012年8月からは中央教育審議会に「高大接続特別部会」が設置され、9月以降審議が重ねられた。2013年6月からは教育再生実行会議に引き継いで議論が進められ、10月31日に第四次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」が提出された。現在は再度中央教育審議会に議論の場が戻され、達成度テストのうち、基礎レベル試験については高等学校教育部会で、発展レベル試験については高大接続特別部会について、具体的な入試制度設計について議論が進められている。今後は、4月以降に一般からの意見公募やヒアリングを行ったうえで *7、さらに中教審で審議が進められ、5~6年後の実施を目指して夏前ごろに最終的な答申が出される見込みである。

<入試改革の背景>

日本でこうした大学入試改革の議論・検討が進められてきた背景には、現行の大学入学試験をめぐるさまざまな問題が存在している。まず、少子化に伴う大学受験生減少の影響がある。少子化によって年々入学する学生は減少していくのに対して大学数は減少しておらず、結果としては、「大学全入時代」と言われるように、大学を選ばなければほとんどの高校卒業生が大学に進学可能な状況になったとされる。こうした状況の元では、入試における競争による選抜機能が有効に機能せず、大学入学試験に合格する、ということが、必ずしもその受験生が大学での研究・学習に支障がないだけの基礎的な知識・学習上の能力を持っていることを保証しない、という事態が生じる。つまり、簡単にいえば、以前のように競争が激しい状況ではテストの点数の上でとても大学に入学できなかった学生が、現在では大学に入学できるようになったということである。

もうひとつは、大学入試の多様化の問題であろう。以前は推薦入試を除けば、センター試験(あるいは共通一次試験)や大学の個別学力試験など筆記式の学力テストが入学試験の中心であった。しかし、90年代以降、AO入試や推薦入試を採用する大学が増加するに伴い、学力試験を経ずに大学に入学する学生も非常に増えた。

また高校段階での教育についても、たとえば学習指導要領が規定する必修単位数、卒業単位数の減少などによって、高校段階での履修状況に多様性が生じた結果、大学での学習にとって必要な課目を履修しないままに大学に入学する学生が増える、などの問題が生じている。

まとめれば、今回の大学入試改革は、大学入試によって優秀な学生を「選抜する」といったこれまでの大学入試のあり方から、高校と大学の間での教育上の連続性を改善するという変革であり、「高大接続」の問題のひとつとして考えられている。

また、社会的に求められる人材像も、主体的に学び考えられる人材、創造性を持った人材、グローバルな社会に対応できる人材といったものへと変化してきており、大学入試の時点でそうした人材を発掘するため、従来のような知識偏重型の大学入試ではない、新たな試験方式が必要になってきている、ということも今回の改革の背景としてあるだろう。

<改革案の内容>

教育再生実行会議の第四次提言では、以下のような大学入試改革の方針が出されている。

全国統一の試験としては、現行のセンター試験を廃止し、それに代わる達成度テスト(基礎レベルと発展レベルの二種類がある)の試験を実施する。このうち「基礎レベル試験」については、高校段階での基礎的な学習の到達度を測定するものであり、受験科目は受験生共通で、高校在学中に複数回受験可能である。主には生徒の学習の達成度を把握することで、高校での指導の改善のための資料として利用することを想定しているが、AO入試や推薦入試の際に、受験生の基礎的な学習能力の判定資料として利用することも促進する、とされている。高校の卒業認定、大学入学のための基礎資格のための条件としては考えられていないが、できるだけ多くの生徒が受験することを促進する方向で検討されている。

また「発展レベル試験」については、大学が要求する受験生の学力レベルを測定するものであり、その結果は入学試験に際して各大学が基礎資格として利用することが想定されている。また、大学は受験生に課す受験科目を選択することができ、その結果は点数刻みではなく、段階別の達成結果表示を行うものとされている。発展レベルの試験についても、複数回受験が可能なものとするように検討されている。

また、各大学が行う個別学力試験については、達成度テストの成績を利用することができ、同時に筆記試験以外の試験方式(論文、面接、高校時代に取り組んだことなど)も積極的に採用することで、人物評価も重視することを促進。さらにTOEFLなど外部の語学試験、ジュニアマイスター顕彰制度 *8などの資格試験の結果、国際バカロレア資格などについても、入学試験の際に大学が活用するように促進する、としている。

教育再生実行会議の提言では、このように大まかな改革の枠組みが示されたが、その後の中央教育審議会における議論では、より具体的な実施案が示されている。2月に初等中等教育分科会高等学校教育部会が「審議まとめ(案)」 *9として出した「基礎レベル試験」の具体的な素案では、以下の内容が示されている。(1)原則的にマークシート方式、(2)科目は6教科(国語、数学、外国語(英語)、地理歴史(世界史、日本史、地理)、公民(現代社会、倫理、政治・経済)、理科(物理、化学、生物、地学等))、(3)英語など、一部試験は外部試験による代替を検討(保健体育、芸術、家庭、情報、専門学科の各教科についても外部試験の利用可能性を検討)、(4)一部記述式試験の導入、(5)高校2年生、3年生を対象(希望参加型)に年2〜3回程度実施(高校1年生も受験可能にするかどうか、実施時期などについては今後引き続き検討)。

また、3月に高大接続特別部会が、「発展レベル試験」について「審議経過報告」 *10として公表した案では、(1)教科横断・融合型の「合科目型」、教科試験では測定できない能力を測定する「総合型」の導入を検討すること、(2)出題形式については、記述式やCBT(Computer Based Testing)の導入を検討(これについては教育再生会議の提言でも触れられていた)、(3)年複数回の実施、(4)実施回数、時期、受験対象学年、異なる試験間の得点比較を可能とするIRT(項目反応理論)採用の可能性、成績提供方法などについては、今後さらに専門的な検討を行う、としている。

上記のような、主に中教審でのセンター試験に代わる新たな入学試験制度の検討とは別に、大学側も入試改革の取り組みを進めており、たとえば、これまで推薦入試を行ってこなかった東京大学や京都大学などの国立大学が2016年度から推薦入試(東京大学は推薦入試、京都大学は推薦・AO入試を柱とした特色入試)を導入することを決定した。また、四国の国立大学5校が共同でAO入試を行うことも発表された(2017年度実施を目標)。上智大学や東京海洋大学などの大学は、個別試験において英語の外部試験を導入することを発表している。最近では、京都大学が2016年度から医学部で飛び入学試験を実施することを発表して話題を呼んだ。

2 中国における大学入試改革

<経過>

昨年開かれた三中全会の「決定」の中での入試改革に関連する内容は、かなり大胆なものとなっているが *11、こちらも今回の三中全会で突然出された方針というよりも、前指導部時代、あるいはここ1年の習近平政権のもとで進められてきた検討や方向性を引き継いだうえで、それを本格的に実行段階に移そうとするもの、と言えるだろう。

改革の方向性を示すという点では、2010年に当時の温家宝首相の肝いりで作成公布された「国家中長期教育改革と発展計画要綱(2010-2020年)」 *12(以下「要綱」)においてすでに大幅な大学入試制度改革の道筋が示されている。この「要綱」の中で、(1)学生募集と試験とを分離すること、(2)大学がそれぞれ独自に学生募集を行うようにする(自主招生)こと、(3)複数回かつ多様な方式の試験を受験できるようにすること、(4)高等教育機関の種別ごとに別の試験(分類試験)を実施すること、多元的な採用方式を行う(面接や推薦入試といった方法も含まれる)、社会化試験の実施、全国統一試験を基本としながら「学業レベル試験」や素質の総合評価と合わせて評価、といった今回の「決定」の大枠となるような方針はすでに示されていた。(各項目の詳細については後述)

また、制度改革として実際の入試改革も徐々に進められてきており、従来は全国統一試験(高考)のみが中国で大学に入学するルートだったのだが、2003年1月に教育部(日本の文部科学省に相当) から「教育部による2003年の普通高等学校の学生募集に関する通知」 *13が出されて以降、一部の大学が「自主招生(各大学独自の選抜方法による入学試験制度)」を実施することが可能になった。同年、北京大学や清華大学など22の大学が独自の選抜試験による入学試験を行い(入学定員の5%を超えてはいけないというきまりがあったため、5%自主招生と呼ばれた)、その後「自主招生」を実施する大学は年々増加、その選抜方法も多様なものが採用されている。

その他にも、受験機会の拡大と公平性を確保する観点から、「異地高考」(戸籍がない現在の居住地での大学受験を可能にする制度、従来は戸籍のある場所でしか受験ができなかった)や、「高考加分」(芸術や体育など特別な才能を持った学生には高考の筆記試験の成績以外に特別に加点する制度 *14)なども実施されるようになった(各省市ごとに制度は異なる)。

上記の三中全会における「決定」はこうした流れの中で出されたもの、と言える。昨年12月に出された教育部の「入学試験改革についての全体案(以下、「入試改革全体案」)」では、今後の具体的な改革のスケジュールとしては、2014年上半期には全体の具体的な改革案(方案)が提出されることになっている(今のところはまだ出されていない)。2014年末までには各省ごとの具体的な実施方法の案が出され、その後各省で試行などを行ったあとで、2017年には実施を開始し、2020年には基本的には新しい入試制度に切り替わることになっている。

<背景>

中国における今次の入試改革のねらいのひとつは、「学生の負担を減らす」という点にある。背景としては、「一考定終身(一回の試験で一生が決まってしまう)」と言われる一年に一回のみの現行の「高考」制度の弊害がある。試験が一度しかないことによって学生のプレッシャーが過度に高まり、健全な心身の発達に悪い影響を与えてしまうことについては、これまでずっと指摘され続けてきた問題である。

また、少しでも「良い」大学に入学することを目指して、子どもたちの学習内容や教育内容も入学試験を中心としたものとなっており(「応試教育」と呼ばれる)、それに対して、試験だけではなく徳育なども含めた総合的な教育を目指す「素質教育」や子どもの「全面発達」(体育面、芸術面なども含めた総合的な発達)の必要性も、これまで中国の教育が目指すべき目標として指摘され続けてきた。

こうした、学生負担の緩和、全人格的な教育という目標以外に、もう一点重要な点は公平性への配慮である。日本ほど戸籍の移動が容易ではない中で(流動児童 *15の問題に見られるように)、子どもの教育機会の不公平というのは社会的に注目されてきた事柄である。大学入試についても、居住地に戸籍のない子どもに対してどのように受験の利便性を改善していくか、また地域ごとに決められる大学の学生募集定員の不公平をどう改善していくか、といった問題についても、今後の大学入試改革の中では解決していくべきポイントのひとつであろう。

<改革案の内容>

三中全会の「決定」で示されている改革の内容は教育関連のものだけでも多岐に渡り、本稿のテーマである「大学入試」に関連するものだけに限ってみても、多くの内容を含んでいる。「決定」や昨年末の教育部から出された「入試改革全体案」にもとづいて今回の大学入試改革の概要をまとめると、(1)学生募集と試験とを分離させる、(2)複数回受験を可能にし、複数の試験内容の中から選択できるようにする、(3)各大学が自主的に独自の学生募集を行うことができるようにする、(4)中学高校段階で「学業レベル試験」を行い(新たに行うのではなくすでに実施されている試験 *16)、全国統一の入学試験と「学業レベル試験」の総合評価、およびその他の多元的な採用方法を検討する、(5)社会化試験の実施、(6)現行の高考のような全国統一試験については受験科目数を減らす、(7)文系理系での科目の区別もなくす、(8)外国語などについては社会化試験を一年に何回も受験できるようにする、(9)普通の大学と高等職業学院などの学校の間で別々の試験(分類試験)をおこなう、といったポイントがある。

このうち、「(1)学生募集と試験との分離」については、現行の大学入試制度において、学生が試験(高考)を受験することはそのまま入学資格を得られるかどうかということと結びついており、また大学も高考の成績のみを見て受験生の能力や特徴を判断している。つまり「高考=学生募集」なのである。それに対して「試験と学生募集の分離」というのは、試験は能力評価のために行い、特に入学資格の獲得には直結させず、また学生を募集する側の大学も、特定の試験のみに基づいた評価を行わないということである。

また、「(5)社会化試験の実施」というのは、国家レベルで入学試験用の特別な問題を作成するのではなく、入学試験受験生以外も受験可能な、より一般化された試験のことである。TOEICやTOEFLなども社会化試験の一種として考えることができるが、現在議論されている大学入試改革では特にこれら既存のテストの利用が検討されているわけではなく、おそらく中国独自の新しい試験の開発が想定されている。入試専門の試験ではなく社会化試験を行うことの利点は、問題データベースを充実させることが可能になること、これまでの高考のように一度しか受験できないのではなく複数回受験が可能になること、などにより、受験者の能力をより正確に測定することが可能になる点にあるといえる。ただし、現在のところは、どのようにこの社会化試験を実施するのかについて具体的なことは決まっていない(あるいは決まっていても公表されていない)ようだ。

また、(9)の「分類試験」については、現行の入試制度では、普通の大学も職業学校も、同じ全国統一の試験を受験して入学することになるが、これを学校の種別に応じて別の試験にしようとするものである。さらに一歩進んで、一本大学、二本大学、三本大学 *17の間で別の試験を設けるかどうかについては、今後の検討が待たれる。

いくつかの省市では、すでに具体的な入試改革案(パブリックコメントを求めるためのものでまだ正式の案ではない。正式に改革案が出されるのは今年中)が出されているが、たとえば、三中全会に先立って10月21日に北京市教育委員会から出された北京市の改革案(広く意見を求めるための案) *18の内容を見ると、(1)試験科目については「文史類(文系)」は、 国語、数学(文系用)、文科総合の三科目、「理工類(理系)」は、国語、数学(理系用)、理科総合の三科目である。(2)英語については、「社会化試験」を行うこととする。(3)得点配分については、現行の得点配分から国語が30点増加するとともに、英語の得点は50点減少する。(4)一年に二回の試験、学生は複数回受験が可能で、良い方の成績を用いることができる。といった内容の改革案が出されている。

3 日中の大学入試改革案の共通点と相違点

このように日本と中国の大学入試改革案を見ると、その経過や背景は異なっているにもかかわらず、内容的にかなり似た点が多いことに気づくだろう(表参照)。

表 日本と中国の大学入試改革案の比較
日本中国
高校段階での基礎的学習到達度の把握高校在学中に達成度テスト(基礎レベル)の実施高校在学中に学業レベル試験を実施(地域によってはすでに実施済)
(対象学年)
高2から高3(高1についても行うかどうかは検討)高1から高3(各省市によって実施学年、実施科目が異なる)(現行)
(回数)
複数回実施・受験可能1年に1回から2回(地区ごとに異なる)(現行)
(方式)
マークシート方式(一部記述式の導入も検討)マークシート方式(一部記述式もある)(現行)
(科目)
6教科(国語、数学、外国語、地理歴史、公民、理科)(教科融合型問題については検討)9教科(国語、数学、外国語、地理、歴史、思想政治、物理、生物、化学)のうちから各省によって実施科目、実施学年が異なる(現行)
(外国語の取り扱い)
基本的には統一試験だが、外部試験導入も検討各省市ごとに統一試験(現行)
(用途)
高校での指導改善とAO入試・推薦入試の資料学生募集・採用時に他の試験(統一試験・面接など)の結果と合わせて総合評価が可能
(卒業資格との関連)
卒業資格の条件とはしない卒業資格認定試験として用いる地域も(別に試験(会考)を行う地域もある)(現行)
(結果)
1点刻みではなく段階別に結果を表示1点刻みの表示(現行)
大学入学時の
全国統一試験
達成度テスト(発展レベル)の実施全国統一試験(高考)の実施
(回数)
複数回実施・受験可能外国語などについては複数回
(科目)
大学が必要科目を選択可能科目を減らす(北京市の場合は三科目)。文系理系とも同じ科目。
(融合科目)
教科横断・融合型の「合教科・科目型」や教科試験では測定不能な能力のための「総合型」も導入(他に「教科型」)文系、理系ごとに「文科総合」、「理科総合」の実施(北京市の場合)
(外国語の取り扱い)
社会化試験を実施
(結果)
段階別、標準化点数などによる表示を検討1点刻みの表示
各大学での入学試験個別試験の実施自主招生の実施
(内容)
達成度テストの成績を利用可、筆記試験以外の方法も採用学業レベル試験、統一試験、その他の多元的な試験結果を総合的に評価
(方法)
論文や面接などの多様な方式も採用多元的な方法(面接など)を採用
(重視する点)
総合的な人物評価多元的な評価
(注)中国については、北京市の改革案も一部参考にしている。また「学業レベル試験」についてはすでに実施されているものであるため、改革案との区別のために該当箇所に(現行)と表示してある。

「制度」面での大きな共通点のひとつは、受験機会が増加することであり、また外国語については入学試験専用のテストからの脱却を検討していることがある。これは両国ともに一回の試験で学生の評価を決めることについてのリスクを考慮した結果、ということになる。また、これまでの選択式回答による知識偏重の試験問題から、より多元的な能力の測定、人物評価を重視することが検討されている点も共通点として挙げられる。

こうした両国の類似した大学入試制度改革の方向性は、ともに欧米の大学入試制度を「参照」しているため、という面はあるかもしれない。実際、こうした両国の国内での大学入試改革は、教育のグローバル化の動きと無関係ではない。両国ともに人材育成の方向として「グローバルに活躍できる人材」を育てるという目標を持っており、また大学における教育自体がますます国際化し(たとえば日本では秋入学実施の動きがある、など)、さらには高校卒業後に自国の大学に進学するのではなく欧米の大学などに進学する学生もこれから増加していくだろう。その点では、グローバルな基準に対応可能な教育システムや入学試験のシステムの構築というのは、両国ともに喫緊の課題とも言える。しかしながら、これは別の角度から見れば、単に「制度的に欧米を真似した結果」という話で終わるのではなく、そもそも教育に求められるもの、「学力」や「学歴」に対する考え方が、両国の人々の間で変化しつつあり、また共通化してきた結果、という点もあるだろう。

さらに言えば、検討されている新しい入試制度に共通点が多い、ということは、これから検討し解決していくべき課題も共通する部分が多いということである。たとえば、2013年には、中国人民大学の学生募集を担当する部門の所長が自主招生において長期に渡って賄賂を受け取っていたことが発覚した。多元的な能力評価、というのは、そういった不正の防止も含めて、筆記試験のようなある意味「明確な」評価基準を持ったテストとは異なる、実施上の難しさを抱えている。1月に筆者が北京で参加したシンポジウムにおいても、議論の中心は「どうやって多元的な能力を『公平に、科学的に』評価していくのか」、という点であったが、これは日本の入試改革についても重要な検討課題になっていると言えるだろう。

新しい「制度」の面で類似性が見られる一方で、両国の大学入試改革の「背景」については違いも存在する。複数回受験方式への変更については、日本の場合には少子化を背景として入学試験の選抜機能が低下したことなどにより、達成度テストによって「より正確な学生の学力の把握」が必要になった、ということがある。つまり重点はやはり「高大接続の改善」という点にあると見ていいだろう。「受験の機会」という点では、日本はこれまでも各大学の個別学力試験という形で受験機会は複数回存在していた。しかしながら中国においては、逆に競争圧力が高まっている状態であり、問題の焦点は「学生の負担をどう減らすか」、また「一回の試験で一生が決まってしまう」といった学生にとってリスクの大きい状況をいかに改善するか、という点に向けられている。

また多元的な能力の評価についても、日本についてはすでにAO入試や推薦入試が多く実施されてきており、問題点や改善すべき点もある程度明らかになっている状況での入試改革となるため、どちらかといえばそうした入試方式における高校段階での学習到達度の測定の問題が主になる。それに対して、中国の場合には「自主招生」において一部の大学においてすでにこうした採用方式が採られているものの、全体からみればまだごく少数の受験生に対する制度であり、全国規模での実施に向けて、またどのように公平性を担保しながら実施するかなどの問題も考慮しながら、具体的な制度設計から始める必要がある。

両国の大学入試改革は、どちらもまだ具体化に向けて動き始めたばかりである。上記のように、日中の改革案には相違点もあるが共通点も多く、日本にはAO入試や推薦入試についての経験の蓄積があり、中国は高校段階での「学業レベル試験」の実施、と言う面で日本の先輩である。両国がお互いの経験や議論を共有していくことで、よりよい制度を築いていくことができるのではないだろうか 。

(2014年5月31日までの情報にもとづいて書かれています)


  • *1 三中全会後には、会における議論の内容を総括した「公報」(以下「コミュニケ」)とともに、コミュニケに比べより詳細で具体的な方針が記された「決定」(およびそれらについての主席による「説明」)が公式文書として出される。「決定」の場合には、毎期の三中全会によってその名称・主なテーマが異なるが、今回の18期三中全会で採択された「決定」は「改革の全面的深化における若干の重要な問題に関する中共中央の決定」である。
  • *2 教育再生実行会議(2013).高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言) 2013年10月31日<http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/teigen.html>
  • *3 国立大学協会(2007)平成22年度以降の国立大学の入学者選抜制度-国立大学協会の基本方針-(2007年11月5日)<http://www.janu.jp/examination.html>
  • *4 日本私立大学連盟(2008)私立大学入学生の学力保障―大学入試の課題と提言―(2008年5月)<http://www.shidairen.or.jp/publications>
  • *5 中央教育審議会(2008)学士課程教育の構築に向けて(答申)(2008年12月24日)<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1217067.htm>
  • *6 北海道大学(2010)「高等学校段階の学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みに関する調査研究」 報告書(2010年9月30日)<http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/08082915/1298840.htm>
  • *7 ヒアリング結果については、5月23日に高大接続特別部会が、すでに関係団体(大学側も高校側も)から書面で寄せられた意見を公表している。
  • *8 工業系学科や工業高校に在籍する高校生を対象とした顕彰制度。全国工業高等学校長協会が主催しており、申請者に対して、国家職業資格、検定や各種コンテストの入賞実績の取得状況をもとに、各種レベルの「マイスター」の称号を与えるもの。
  • *9 中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会(2014)初等中等教育分科会高等学校教育部会審議まとめ(案)~高校教育の質の確保・向上に向けて~(2014年3月)<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/houkoku/1346339.htm>
  • *10 中央教育審議会高大接続特別部会(2014)中央教育審議会高大接続特別部会審議経過報告(平成26年3月25日 高大接続特別部会)(2014年3月25日)<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo12/sonota/1346156.htm>
  • *11 「決定」では、入試改革にとどまらず、広範な教育改革についての内容が記されているため、参考のために入試改革についての部分の前後も含めて抜粋して日本語訳しておく(翻訳時に日本語と中国語の微妙なニュアンスの違いが生じている可能性もあるため、できれば原文も参照されたい)。
    「(42)教育分野における総合的な改革を深化させる。全面的に党の教育方針を徹底させ、徳をもって人を育てていくことを堅持し、社会主義の核心的な価値体系についての教育を強化し、中華の優秀な伝統的文化についての教育を十全なものとし、学習を愛し、労働を愛し、祖国を愛する活動の有効かつ効果の長く持続するメカニズムを形成するととともに、学生の社会的責任感と新しいものを生み出す精神、実践能力を向上させる。体育の科目と課外での鍛錬を強化し、青少年の心身の健康、体と精神の増強を促進する。情操教育を改め、学生の審美的能力、人文面での素養を向上させる。教育の公平化を強力に推し進め、経済的に困難を抱える家庭の学生への資金的援助体系を健全化し、情報化による手段を用いて質の高い教育資源が及ぶ範囲を拡大できる有効なメカニズムを構築し、次第に地域間、都市農村間、学校間の差異を縮小する。都市と農村の義務教育資源のバランスのとれた配置を統一して計画的に実施し、公立学校の標準化された建設と校長と教師の間の交流や異動を実行し、重点学校や重点クラスを置かず、学校選択という難しい問題を解決し、学生の学業における負担を根本的に軽減する。現代的なキャリア教育体系の建設のスピードを速め、産業と教育の融合、学校と企業との協力を深化させ、高い素質を持った労働者や技能型の人材を育成する。大学における人材育成メカニズムを刷新し、大学が特色を持って運営され、一流の学校となることを促す。就学前教育、特殊教育、継続教育の改革と発展を推進する。
    試験による学生募集制度の改革を推し進め、学生募集と試験を相対的に分離させ、学生が複数の試験のうちから選択できるようにし、学校は法律に則って自主的に学生を募集し、専門の機構が組織して実施するとともに、政府はこれをマクロに管理し、社会がその監督に参加する、といった運営メカニズムを検討し、それによって一回の試験で人生が決まってしまうといった弊害を根本から解決する。義務教育段階では、試験をしないで居住地から近いところに入学させるようにし、学区制と九年一貫制を試行する。中学高校での学業レベル試験と総合素質評価を推進する。職業学校の分類的学生募集あるいは登録制の入学を速度を速めて推進する。普通大学の全国統一の入学試験と高校での学業レベル試験の成績とに基づく総合評価と多元的な採用メカニズムを段階的に実施する。全国統一試験では科目を減らし、文系理系の区別をなくし、外国語などの科目では社会化試験を一年に複数回受験できるように検討する。普通大学、高等職業学校、成人大学の間の単位互換を試行し、生涯学習へのルートを開拓する。
    管理・運営・評価の間の切り離しを深く推し進め、省レベルの政府の統一的計画統括権と学校の自主的運営権を拡大し、学校内部の管理構造を十全なものとする。国家の教育に対する監督・指導を強化するともに、社会的組織に委託して、教育の評価監視を進める。政府による補助や助成、政府による購買サービス、奨学金の貸与、奨学基金、奨学寄付などの制度を健全化し、民間の力で教育事業を行うことを奨励する。」
  • *12 中国共産党中央・国務院(2010)国家中長期教育改革和発展規劃綱要(2010~2020年)<http://www.gov.cn/jrzg/2010-07/29/content_1667143.htm>
  • *13 中国人民共和国教育部(2003)教育部関於做好2003年普通高等学校招生工作的通知(教学[2003]1号)<http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/moe_32/200501/5322.html>
  • *14 ただし、2014年実施の高考について、多くの省市が、数学オリンピックやスポーツにおける優秀な成績、少数民族の学生への加点、といった従来の加点項目が削減され、反対に北京、四川、山東などの省市では「思想政治品徳」面で優れた学生や「義を見て勇を為す」行いをした学生に対して、加点を行うという加点政策を発表したため、その是非を巡って議論が起こっている。
  • *15 農村部から都市部に親が出稼ぎに行く際に、親と一緒に都市部へと移住する子どものこと。戸籍が元の農村部にあるままのため、都市部での生活において公的教育機関(小学校など)に入ることが難しく、また家庭の経済状況も苦しいため、教育を受ける機会が失われることが多い。
  • *16 元々中国では1990年頃から(各省市で開始時期が異なる)「会考」という高校卒業資格認定のための試験が行われていたが、「学業レベル試験」は学生の学習到達度把握を主な目的として、また「会考」にとって代わるものとして、2004年頃から設けられたものである。試験回数は一年に二回の省市もあれば、一年に一回のところもある。また依然として「会考」を実施している省市もある。
  • *17 現行の高考の場合、普通大学を三つのレベルに分類しており、受験生はそれぞれのレベルについて一校ずつ出願できる。このうち「一本」は重点大学などを含み、「三本」は規模の小さな大学などを含む。
  • *18 北京市教育委員会(2013)北京市教育委員会関於《2014-2016年中考中招改革框架方案》(徴求意見稿)、《2014-2016年高考高招改革框架方案》(徴求意見稿)公開徴求意見的公告(2013年10月21日)<http://www.bjedu.gov.cn/publish/portal0/tab67/info28951.htm>
筆者プロフィール
Watanabe_Tadaharu.jpg渡辺 忠温(中国人民大学教育学院博士後)

東京大学教育学研究科修士課程修了。北京師範大学心理学院発展心理研究所博士課程修了。博士(教育学)。
現在は、中国人民大学教育学院で、日本と中国の大学受験の制度、受験生心理などの比較を行なっている。専門は比較教育学、文化心理学、教育心理学、発達心理学など。

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