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新型コロナウイルス感染症の臨床診断について

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年5月29日掲載
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以前、所長ブログのコーナーで、自閉症や注意欠陥多動性障害の診断に、必要のない脳波やCTなどの過剰検査が行われていることを書きました。病気や障害の診断には、特別な検査なしに、臨床症状や経過から診断をつけることがあることを読者の皆さんに知っていただきたかったためのブログでした。

さて現在、多くの皆さんが心配されている新型コロナウイルス感染症の診断に関して、PCR検査が大きな話題になっています。PCR検査について、現在のコロナウイルス感染の診断に必須の検査とみなされていることはご存知だと思います。

私は小児科医として麻疹やインフルエンザ、あるいはヘルパンギーナといったありふれたウイルス感染症のお子さんを大勢見てきました。診察や検査で、何のウイルスに感染しているのか診断をし、その上で治療を行います。ではウイルス感染症の診断は、一般的にどのように行っているのでしょうか?

ウイルス感染症の最も厳格な診断法は、患者さんから得られた検体(血液、咽頭ぬぐい液、髄液など)のウイルスを培養して増殖させ、そのあとで特定のウイルスに結びつく抗体を反応させて、ウイルスの種類を確定します。しかしこの方法だと、ウイルスを増殖させるのに、多くは数日以上の時間がかかってしまいます。そこで登場したのがPCR法で、特殊な酵素を使ってウイルスのDNAあるいはRNAの一部を1,000万倍くらいに増量し、そこで上記のような方法でウイルスを同定します。PCR法では、ウイルスを増殖させるための時間を数時間ほどに短縮できますので、新型コロナウイルス感染症の診断で活躍しているわけです。

では、日常子どもによく見られるウイルス感染症の診断は、臨床現場ではどのようにしているのでしょうか? 子どもによく見られるウイルス感染症は、ヘルパンギーナ、プール熱、水痘、インフルエンザ、風疹、おたふく風邪、伝染性紅斑(りんご病)、手足口病、RSウイルス、ロタウイルス、ヘルペスウイルスなど多数あります。

こうしたありふれたウイルス感染症の診断には、PCR検査は(もちろん可能ですが)行われません。特徴的な皮疹(皮膚の発疹)のある水痘、伝染性紅斑、手足口病や、口腔内所見(ヘルパンギーナなど)、その他の所見(耳下腺腫脹→おたふく風邪など)がある場合には、ウイルス検査をせずに、臨床所見から診断を下して治療に進むのが普通です。

時に重症化し、症状が普通の風邪と見分けがつかないインフルエンザに対しては、患者さんの喉や鼻粘膜のぬぐい液を、インフルエンザウイルスの構成成分と反応する試薬を使って、10分以内で簡易に診断ができる検査法で迅速診断をしています。これが抗原検査法と呼ばれるものです。インフルエンザウイルスの量が少ないと、陰性の判定が出ることがありますので、発熱などの症状の出る前に行うと陰性となり、正しい診断にはつながらないこともあります。

インフルエンザについては、タミフルやイナビル、ゾフルーザといった治療薬があるために、初期に診断して、こうした治療薬を使うことで、症状を軽減させることができるのです。

こうした迅速検査法は近年急速に開発され、インフルエンザ以外にも、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、RSウイルスで可能になっています。

ではインフルエンザ以外のウイルス感染症で、患者さんの状態や、症状の重さによって、どうしても確実な診断をしなくてはならない時にはどうするのでしょうか? すぐに結果を知りたい時、もしそのウイルスについてPCR検査ができるのであれば行いますが、多くの場合は臨床診断で治療を進め、確定したい場合にはしばらく時間をおいて行う抗体検査で確定診断を行います。

新型コロナウイルスの確定診断は、現在PCR検査が主流ですが、インフルエンザの迅速検査法のような抗原検査法もすでに開発されているようですので、いずれそれが主流になるかもしれません。

皆さんの多くは、PCR検査が新型コロナウイルス感染症の診断には必須であると思われていると思いますが、実際新型コロナウイルス感染の治療を行なっている現場では、PCR検査によらない医師の臨床診断が行われています。

中国の武漢からの子どもの新型コロナウイルス感染症の実態を、本ウェブサイトでもご紹介しましたが、かなり多くの子どもの診断がPCR検査なしで行われています。流行地域に居住し、親がPCR検査で確定した新型コロナウイルス感染症患者であれば、その子どもで発熱や肺炎の所見(CT検査)があり、他の感染症が臨床症状から疑われない場合には新型コロナウイルス感染としてカウントされています。

また、最近ニューヨークで勤務している日本人医師が、新型コロナウイルスにかかった時の手記を公開しています1)。自身の感染がPCRで確認された後に家族が発熱したために、家族のPCR検査を医療機関に依頼しましたが、陽性患者の「家族は100%陽性だから(PCR)検査する意味がない」と言われたと語っています。つまり、そうした状況であれば、臨床症状で診断しているのです。新型コロナウイルスは、発熱と咳、倦怠感という風邪と区別がつかない症状しかないために、PCR検査が重視されるようになったのですが、味覚・嗅覚異常やCTやMRIでの肺の特徴的な所見などが明らかになってきており、PCR検査によらずに診断することが日本でも普通になってくる可能性があると思います。


  • 1) 日経メディカル 2020年5月号 p.24-27 「COVID-19に罹患した医師の証言」
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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