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妊産婦と新生児の新型コロナウイルス感染症

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年5月29日掲載
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本コーナーの記事ですでにご報告したように、お子さんへの新型コロナウイルス感染症については軽症例が大部分で、死亡することは極めてまれであることが明らかになってきています。

では、現在妊娠中の方が感染した場合に、母体や胎児、新生児は大丈夫なのでしょうか。もともと妊産婦は感染症に弱いとされています。妊娠中は免疫力が低下しますし、大きくなった子宮によって肺が圧迫され、肺炎などへの抵抗力が低下すると言われています。胎児については、風疹や伝染性紅斑(りんご病)のように、胎児に感染することで重い後遺症が出ることが知られています。さらに新生児は、抗体を作る力がまだ育っていないために、感染症への抵抗力が弱いことがわかっています。

現在妊娠中の方は、新型コロナウイルス感染症にかかると、ご自身の身体のことだけでなく、胎児や、生まれてくる赤ちゃんへの影響も考えなければならず、大きな不安を抱えておられると思います。

今回は、これまでに発表された2つの論文から、妊産婦、胎児、新生児の新型コロナウイルス感染症の実態をご報告いたします。

スウェーデンのZaigham医師は、最近世界中で発表された18本の医学論文(英語、中国語)を検索し、5カ国(中国、スウェーデン、米国、韓国、ホンジュラス)108人の新型コロナウイルスに感染した妊産婦さん(対照群の平均年齢29〜32歳)と、その妊産婦さんから生まれた86人の新生児の臨床経過についてまとめています。子どもの数が妊産婦さんより少ないのは、108人のうち22人は、妊娠の初期・中期であったために、出産する前に新型コロナウイルス感染症が治癒し、退院したためです。この22人は後遺症なく退院しています。

さて、残る86人の産婦(1人は双子を出産)の新型コロナウイルス感染症は、3人を除いて軽症であり、発熱、咳、下痢などの症状があったのみで回復しています。3人のうち2人は重症の肺炎にかかり、ICU入院となりましたが、2人とも重度の肥満、糖尿病、肝障害などの持病がありました。その2人のうち1人は後遺症もなく退院していますが、もう1人は腎不全などがあり、症例報告(論文)がなされた時もまだ入院中でした。生まれてきた2人の新生児は特に症状は見られず、PCR検査でも陰性でした。重症例の3人の産婦のうち、残りの1人は多臓器不全と呼吸促迫症候群(ARDS)を発症し、ECMOによる治療が行われ、子どもは死産でした。報告時にまだ母親の治療が続いており、その後の経過は報告されていません。

胎児・新生児の経過ですが、1人が胎児死亡(新型コロナウイルスとの関連未知)、1人が上記の死産でしたが、他の85人の新生児は全員後遺症なく退院しています。1人は出生後PCR検査で陽性が確認されましたが無症状でした。

この論文から、妊産婦の新型コロナウイルス感染症は、重症化する可能性はあるものの、大部分は軽症であり、新生児への垂直感染の可能性も低いことがわかりました。

新型コロナウイルスに感染した新生児の臨床経過については、上記の1例の他にも、中国から論文が発表されています。中国の杭州の浙江大学のXiaolu Ma先生は、中国国内で発表された6例の新生児の新型コロナウイルス感染症についてその臨床経過を報告しています。6例中5例は武漢市、1例は信陽市での症例です。母親のうち5人は、PCR陽性の新型コロナウイルス感染者で、1例はPCRは陰性でしたが臨床症状と肺のCTで肺炎が確定しています。

さて6人の新生児の症状ですが、発熱は3名、哺乳不良が2名、嘔吐が3名で、CTで肺炎が確認されたのは1名のみでした。経過は全員良好で、特定の治療なしに回復しています。

感染経路ですが、羊水や臍帯血からはウイルスは検出されず、少数例のため断言はできませんが、胎内感染ではなさそうだと考えられています。

現在妊娠中の方は、ご自身の感染のみならず、胎児への影響について心配されていると思います。これらの論文は、妊産婦の新型コロナウイルス感染症は、妊産婦以外の同年齢層の成人と比較しても、その臨床症状は変わりなく、また新生児も概ね軽症であることを報告しています。

妊婦や新生児でもまれに新型コロナウイルス感染が重症化することはありますが、妊婦や新生児が他の年齢層に比べて特に重症化しやすいということはないようです。


参考文献

  • Zaigham M, Andersson O. Maternal and perinatal outcomes with COVID-19: A systematic re-view of 108 pregnancies. Acta Obstet Gynecol Scand. 2020;00:1-7. https://doi.org/10.1111/aogs.13867
  • Ma X, Zhu J, Du L, Neonatal management during Coronavirus disease (COVID-19) outbreak: Chinese experiences. NeoReviews. 2020; doi: 10.1542/neo.21-5-e293
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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