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【発達障害】第8回 アスペルガー症候群 その3 こだわりについて

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年12月25日掲載

アスペルガー症候群は、現在は自閉症スペクトラム障害に含まれると考えられています。国際的な診断基準(DSM-5)には、従来の自閉症とアスペルガー症候群を分けずに両者共通の特徴として「こだわり」を挙げています。

誰にでも「こだわり」はあり、また「こだわり」の対象も様々です。持ち物、衣服、食べ物に始まり、日常生活の習慣や社会生活における行動にもこだわりがある人がいます。衣服の色合いやブランドにこだわる人もいれば、カバン、靴、帽子、時計にこだわる人もいます。

たとえば私は、衣服には全くこだわりがありませんが、靴と時計には結構こだわりがあります。履きやすさやデザインが気に入っているイギリスのCというメーカーの靴を好んで履いています。時計もスイスの機械式の時計にこだわりがあり、十数本の時計をその日の気分によって使い分けています。こうしたこだわりと、アスペルガー症候群の人に見られるこだわりの間のどこに線を引くのでしょうか?

国際的な診断基準(DSM-5)には、アスペルガー症候群を含めた自閉症スペクトラム障害の「こだわり」については簡単に2つの項目に分けて次のように書かれています。

  • 高度に制限され固定化された関心で、その対象や程度が異常である。例えば異常な(普通は関心の対象にならないような)ものへの強い愛着や執着、過剰に限定された、頑固な関心*
  • 型にはまった、あるいは繰り返す動きや、物の使用法、あるいは話し方。たとえば単純な動きを繰り返す、おもちゃを並べる、あるいは物をひらひらさせる、反響言語や鸚鵡返しなど**

お気づきのように、診断基準では「こだわり」をその対象、程度、行動の3つの点から規定しています。これは、そうした細かい規定を示さないと、アスペルガー症候群のこだわりは誰にでもあるこだわりと区別できないからなのです。特に、いわゆる「オタク」的な趣味との間に線を引くことができないような「こだわり」もあります。アスペルガー症候群のこだわりと「オタク」的趣味との鑑別は、その人に他人の意図を理解したり、言葉のあや(比喩、皮肉など)を理解したりするソーシャルスキルの不全があるかどうかを判断しないと、できないと言っても良いかもしれません。

具体的に、私が診ているアスペルガー症候群の人の「こだわり」をご紹介しましょう。

Nくんは時間やカレンダーへのこだわりの強い小学生です。会話は普通にできますが、私の診察中、付き添ってきた母親に、頻繁に「今何時?」と時間を尋ねます。時間だけでなく日にちにも強い興味をもっており、私が「前に診察に来た日はいつだっけ?」と聞くと、即座に「それは○月○日だった」と答えが返ってきます。さらに前の年に受診した日も、正確に覚えています。「去年の1月1日は何曜日?」といった質問や、「来年の君の誕生日は何曜日?」といった質問にも正確な答えが返ってきます。アスペルガー症候群や自閉症の子どもによく見られる並外れた才能を「サヴァン症候群」と呼びますが、この小学生のような能力は「カレンダーサヴァン」の例です。

Rくんは、幼稚園の頃から、やはり数字に強い関心がありました。8歳の時に母親にプレゼントした絵には、その特徴が現れていました。家が並んだ街の様子を描いた絵ですが、背景の空に細かな数字がたくさん書かれています。よく見ると地面に近い方には20、23、25といった20台の数字が書かれていますが、上空にいくに従ってその数字は小さくなり、7とか9といった一桁の数字になっています。私がこれは何か、と聞くと「それは空気の温度です」という答えが返ってきました。Rくんの数字への強い関心の対象は、形を変えながら続いていきます。しばらくして、Rくんが私に見せたいと言って持ってきた紙には、駅名と駅名の間がびっしりと数字で埋められた表が書かれていました。これは何かと問うと、彼が独自に作った時刻表でした。しばらくしてRくんの関心は天候に移り、各地の気温や降水量を紙全体にびっしりと書きつけた表を持ってきて、数字の間の関係を見出して将来の気候の予想ができるのではないか、と目を輝かせて語っていました。

Tさんはすでに成人した男性ですが、職場で自分の気持ちを上司に伝えることができず、また仲間の些細な言葉ですぐに傷ついてしまうために、何回も転職を繰り返しています。人前で思ったことが言えないために、私の外来受診時も、メモ帳に細かく書かれた内容を私の前で読み上げます。彼のこだわりの対象は、バスと電車です。いわゆる「鉄ちゃん」とバスマニアなのですが、その打ち込み方の程度が並外れています。家にはバスの模型が500台近くあり、日本全国で開催されるバスに関する行事予定を全て把握しており、それに参加することが生きがいになっています。バスの行事が天候などでキャンセルされるとTさんの気分は大きく落ち込み、仕事を休んだりしてしまいます。

アスペルガー症候群の人のこだわりはこのように、典型的な自閉症の子どもに見られるような比較的単純な対象に対する関心(蛇口から出る水、ひも、ドアの開け閉め)ではなく、誰にでもある趣味への傾倒の仕方が並外れているといったものが多いように思います。


  • * Highly restricted, fixated interests that are abnormal in intensity or focus (e.g. Strong attachments to or preoccupation with unusual objects excessively circumscribed or perseverative interests.
  • ** Stereotyped or repetitive motor movements, use of objects, or speech (e.g. simple motor stereotypes, lining up toys or flipping objects, echolalia, idiosyncratic phrases.)
  • いずれもDiagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition., American Psychiatric Association. American Psychiatric Association Publishing.より。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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