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子どもの新型コロナウイルス感染症の実態について

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2020年4月 3日掲載
English

新型コロナウイルスによる肺炎は、子どもでは軽症であると言われていますが、実際はそうなのでしょうか?

中国の研究者が、武漢から始まった中国の子どもの新型コロナウイルス感染症の実態について、アメリカ小児科学会の権威ある学術雑誌Pediatricsに調査結果を報告しましたので、ここでご紹介したいと思います。論文のタイトルは「Epidemiological Characteristics of 2143 Pediatric Patients With 2019 Coronavirus Disease in China(中国における2143人の小児コロナウイルス2019感染症の疫学的特徴)」です。この論文が掲載されるPediatrics誌はまだ発刊されていませんが、掲載が決まった論文は発刊前にウェブサイト上で公開されています。

この論文の筆頭著者は上海交通大学のYuanyuan Dong医師で、中国国内で2020年2月8日までに発症した2,143人の18歳未満の小児例について報告しています。Dong医師らは、まず新型コロナウイルス感染と判定する基準を設けて、感染例と感染疑い例を中国疾病予防センターに登録されているデータから抽出しました。 感染例とは、中国国内、特に湖北省の感染危険域内で、新型コロナウイルスと濃厚感染の経歴があり、①発熱、咳などの呼吸器症状あるいは下痢などの消化器症状、②白血球数減少、リンパ球増多、感染指標である血中CRP増加、③胸部レントゲンで肺炎所見ありの3条件のうち2つが揃ったものとしました。

このような基準を設けたのちに、Dong医師らは、2,143人の疑い例も含む小児新型コロナウイルス感染症患者を、その症状の軽重から5つに分類しています。

  1. 無症状感染:PCR検査陽性だが症状なし
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  3. 軽症:発熱、咳、鼻水、下痢などの症状のみ
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  5. 中等症:肺炎ではあるが呼吸困難や低酸素血症なし
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  7. 重症:発熱、咳、消化管症状、肺炎があり、チアノーゼあるいは血液中の酸素飽和度が92%未満
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  9. 重篤:呼吸困難、重症呼吸促迫症候群発症(ARDS)

2月8日までの2,143人のうち、PCR等でコロナウイルス感染症と確定されたのは731例、臨床症状からコロナウイルス感染症が疑われる例が1,412例でした。

新型コロナウイルス感染症の平均年齢は7歳、男女比はやや男児が多く56%でしたが、統計的には男女差はありません。症状別では、無症状94例(4.4%)、軽症1091例(50.9%)、中等症831例(38.8%)で重症例は5.9%と少数でした。

重症・重篤例の5.9%の年齢分布を見ると、1歳以下 10.6%, 1~5歳 7.3%、6~10歳 4.2%、11~15歳 4.1%、16歳以上 3.0%と低年齢層ほど重症例が多いことがわかりました。また2,143例中死亡例は14歳の男児1例でした。

このように、18歳未満の子どもの新型コロナウイルス感染症は、軽症が多く、死亡例は1例でした。しかし、低年齢ほど症状が軽いかというとそうではなく、乳幼児では死亡例はないものの症状が重くなる傾向も明らかになったのです。

著者らは、子どもで症状が軽い理由について、次のように推論しています。
一つは、小児は大人から守られており、手洗いなど個人衛生が大人より良いことが理由として考えられます。 また、子どもは新型コロナウイルスと同じ種類の普通のコロナウイルスによる風邪症候群に罹患することが多く、そのために新型コロナウイルスにも反応する免疫抗体を保有している可能性があります。

さらに、子どもは免疫機能が未発達なために免疫反応が弱く、肺での炎症の程度が軽いことも理由の一つと推測されます。

大人だけでなく子どもの新型コロナウイルスの病態については、今後研究が進められると思いますが、この論文はそうした研究論文の先駆けとして重要な意味をもっていると思います。

今、日本全国で新型コロナウイルスの感染が広がっており、子育て中の親は大変心配されていると思いますが、この論文には子どもは軽症であり死亡するような重症例は皆無ではないものの、稀であるというエビデンスが示されています。この論文が示しているように子どもはコロナウイルスに対して大人より抵抗力があるのです。


【参考文献】
Dong Y et al. Epidemiological Characteristics of 2143 Pediatric Patients With 2019 Coronavirus Disease in China. Pediatrics 2020 Mar 16.
https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/early/2020/03/16/peds.2020-0702.full.pdf
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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