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【保育環境を創る】技05:保育環境で感性を育む技<「本物」を用意する>

佐藤 将之(早稲田大学人間科学学術院准教授)

2014年12月19日掲載
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環境づくりには、誰のため、何のためなど、使い手がその環境の目的を考え、保育者の思いと実際の環境とを結びつける役割があることを、これまでの連載を通して記してきました。これまでは、環境づくりの効果として、落ち着いたり集中したりといった子どもたちの気持ち(心理的な側面)を中心に焦点を当ててきましたが、実は環境づくりには物の性質などに対する子どもたちの感性的な側面を育む役割もあります。例えば、CRNの記事でも紹介された「芸術士のいる保育所」の事例では、芸術士=プロフェッショナルな人材の視点は、「絵を描いてみよう」「洋服を作ってみよう」といった、製作を通じた子どもたちの感性的な側面の充実が非常にわかりやすいものとなります。言い換えれば、「子ども用」としてではなく、「本物」を保育に導入していると捉えられます。この様な芸術士システムが全国的に広がって欲しいのですが、すぐに全国に普及することは難しいと思います。そこで今回は、どこでも誰でもできる環境づくりとして、保育者みずからが保育環境づくりに携わる価値を今一度考え、それによって子どもたちの感性が育まれることにつながっていることを伝えたいと思います。

保育者みずからが作ることで子どもに伝わる

写真01、写真02は、品川区立東中延保育園での園庭造りの例です。砂場から敷地境界壁までのそれまであまり使われていなかった場所を活用しています。園庭の隅(コーナー)は、園庭の整備や遊ぶための道具などが置かれ、活動場所として設えられないことも多いのですが、この事例では保育者らがその使われにくい場所に着目して環境設定変更を行っています。空間の隅は、物理的に考えると全体を眺めることができる場所なので、子どもたちの居場所が広範囲となり、その場所(この事例では園庭)全体が広く感じられやすくなります。

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写真01. 品川区立東中延保育園の園庭隅(2014年4月)
写真02. 写真01と同じ場所に保育者らが考案し、作り続けている環境(2014年11月)

この事例で最も伝えたいことは、今までご紹介したでの事例と同様に、保育者らが園内で何が必要かを話し合って環境づくりを行っていることや、保育者みずからが施工に関わっていることです。今回は、廃材の木々(板や、園児の父に丸太をカットしてもらったもの(写真02の右側))や竹、購入した2種類の砂利などが新しく園庭の素材として加わりました。さらに、この事例では、変更後に初めて子どもたちが園庭を使う際、園庭に移動する前に、保育者が園庭づくりの経験を子どもたちと共有し、今回の新しい園庭づくりに使用した素材を紹介しています(写真03)。

その際子どもたち(4歳児)は、木や竹のにおいを嗅いでみたり、頬に当ててみたりしていました。石を触ると「冷たくてツルツル、握ってたら暖かくなってきた」などのリアクションが見られました。竹が割られてから使われていることを聞いたためか、地面(写真02)に並べられた竹を持ち上げて、2つを合わせて竹の本来のかたちを確認している子の姿も見られました。

このように、保育者みずからが考案し、実際の施工にも携わったことが、子どもたちへの新しい園庭素材の話題提供を生み出していると言えます。この一連のプロセスが、子どもたちの内面に働きかける保育環境づくりとしての1セットとなっているのです。子どもたちのために、「何を用意するか」も大切ですが、「どうやって用意するか」をぜひ、今一度みなさんで考えて欲しいと思います。

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写真03. 園庭づくりに使った石を握る様子

印象に残る場面を設定する

筆者は以前、幼児がどのように園内の音環境を把握しているのかを知るために、園内の音クイズを用意して答えてもらう研究をしたことがありました(注)。その際、常設されたプールの近くに園が設置した風鈴の音をひとつの設問として設けましたが、回答した子どもたちの中には、「風鈴の音」と答えるのではなく、「プールに入る時の音」と答える幼児が居ました。ランチルームで流される音楽も同様に「~くんとご飯を食べる時の音」といったように、語られていました。

この研究からわかったことは、音環境は、音を出すもの(音源となるモノ)として記憶されているのではなく、子どもたちが体験する場面とのセット、つまり場所や活動の記憶として残されていることです。

現在、研究室のメンバーが色彩と環境把握との関係を研究しているのですが、「~する時の音」に比べると、「~する時の色」とは言い難く、色彩については、音と場面とのセットとはまた違った環境把握の手がかりが明らかになりそうです。また、日本では僕はほとんど見たことがない、サイレントスペース(静かに過ごす部屋でクワイエットルームと呼ぶ場合などもある)や昼寝専用スペース(写真04)だと音環境要素が少ないので、色彩など、音以外の環境把握の手がかりが明らかになりやすいとも考えています。

音や色彩、素材など、一つひとつそれぞれの要素が全体的な雰囲気をつくり出すことを意識し、思いを込めることで、その環境がもつ、子どもたちの感性に与える影響のポテンシャルが高くなるように思います。子どもたちが過ごす場面を想定して語る「環境のソムリエ」になった気分で部屋を設えてみたら面白くなるのではないでしょうか。

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写真04. ドイツ・ブレーメンのKITA(幼保一体化施設)
(Kindertagesstätte in Bremen "Entdeckerhaus")の昼寝をする部屋の例
ドイツで昼寝をする部屋(「寝室」(Schlafzimmer)や「夢の部屋」(Traumzimmer)と呼ばれている)の例。天蓋や暖色系の壁紙やカーテンがあり、一律のものではなく個々が持ち込んだふとんを使用している。個々の特徴(場合によっては個々の家庭の特徴)が反映されたり、この部屋だけがもつ色味のある雰囲気となっており、他のいくつかの施設でも見られた傾向だった。


注)
佐藤将之・野口紗生・若盛正城,保育施設における幼児の音環境認識に関する研究,こども環境学研究vol.6, No.1,p102,2010年

筆者プロフィール
sato_masayuki_05.jpg 佐藤将之

早稲田大学人間科学学術院准教授 1975年秋田生まれ.秋田高校,新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了.江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職.2男児(4歳児, 小1)の父.


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