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【韓国】韓国における就学前のインクルーシブ教育の現状と課題Ⅱ

要旨:

韓国の幼稚園で障害のある子どもを指導するためには、教育部発行の「特殊学校正教師」の資格が必要である。その資格があれば、幼稚園と保育園の両方で保育者として働くことができる。公立幼稚園の特殊学級に配置されている「特殊学校正教師」は毎年増えているが、私立幼稚園に配置されている「特殊学校正教師」は全国でわずか2名に過ぎず、国公立幼稚園に限らず私立幼稚園においても特殊学級の新設・増設が求められる。一方、韓国の保育園では、障害のある子どもを指導するには、「特殊学校正教師」または「障害児のための保育士」のいずれかの資格が求められる。しかし、「特殊学校正教師」は、国家資格で、厳格な取得基準があるのに対して、「障害児のための保育士」の資格は、実習をしなくても簡単に取得できるため、専門性には疑問が残されており、資格取得の基準強化などの再検討が求められる。また、「特殊学校正教師」の資格をもつ教師は、勤務環境などを理由として幼稚園での就職を望む傾向があるため、保育園において「特殊学校正教師」を確保するには、勤務環境や待遇の改善も欠かせないと考えられる。

キーワード:

韓国、インクルーシブ教育、ECEC、特殊学校正教師、障害児のための保育士

前回は、韓国において障害のある子どもが通える施設を取り上げて、韓国のインクルーシブ教育のシステムや課題について統計資料などを用いて説明した。前回の記事に示したように、韓国の就学前の保育・教育施設は、幼稚園と保育園に分けられ、施設によって求められる教師の資格に差がある。例えば、幼稚園の場合、教育部が発行する「幼稚園正教師」、保育園は、保健福祉部が発行する「保育教師」の資格が必要である。このような資格の差は、インクルーシブ教育環境でも同様で、管轄機関によって障害のある子どものための教師に関する資格や条件などが異なる。ここでは、「韓国における就学前のインクルーシブ教育の現状と課題Ⅱ」として、教育部が発行する「特殊学校正教師」と保健福祉部が発行する「障害児のための保育士」の資格制度や教師配置を取り上げて、それらの課題について論じる。

1.幼稚園と保育園における、障害のある子どもを指導する教師の資格

まず韓国の幼稚園で、障害のある子どもを指導するためには、教育部が発行する「特殊学校正教師(幼稚園)」2級i以上の資格が求められる。「特殊学校正教師(幼稚園)」の資格を取得するためには、教育大学および師範大学の特殊教育科で幼児特殊教育を専攻し、実習を含め特殊教育および幼児教育関連の科目を計80単位以上履修しなければならない。また、国立または公立幼稚園で特殊教師として働くためには、採用試験を受ける必要があり、国公立幼稚園の場合、障害のある子どもに対する、より高い専門性が求められるといえる。一方、採用試験を受けなくても、「特殊学校正教師(幼稚園)」の資格をもつ者は、私立幼稚園や保育園で特殊教師として勤めることができる。

次に韓国の保育園で障害のある子どもを指導するためには、大きく2つのタイプの資格が求められており、一つ目が教育部が発行する「特殊学校正教師」、二つ目が保健福祉部が発行する「障害児のための保育士」である。「障害児のための保育士」は、2012年に改正された「障害児童福祉支援法」により新しくできた資格基準で、2016年から障害児のための保育園に順次配置することが義務になった保育士の資格である。この資格を取得するためには、保育士2級以上iiの資格を所持し、特殊教育またはリハビリ関連科目を16単位以上履修する必要がある。「特殊学校正教師」と「障害児のための保育士」の基準に関する詳細な内容は表1の通りである。

表1.特殊学校正教師と障害児のための保育士の違い

特殊学校正教師(幼稚園) 障害児のための保育士
管轄 教育部 保健福祉部
勤務先 特殊学校、幼稚園の特殊学級、障害児専門保育園、障害児統合保育園 障害児専門保育園、障害児統合保育園
資格条件 特殊教育関連42単位以上、および幼児教育関連38単位以上の計80単位以上が求められ、実習も含まれている。
ただし教育大学院の場合、特殊教育関連30単位以上が求められる。
保育教師2級以上の資格を所持した者で、特殊教育またはリハビリ関連教科および単位の履修が求められ、実習はない。
2012.8.4.以前に編入または入学した者は8科目(16単位)以上履修
2012.8.5.以降に編入または入学した者は8科目(24単位)以上履修
2.「特殊学校正教師」と「障害児のための保育士」の配置現状

幼稚園の特殊学級では、障害のある子ども4人に対して1人の「特殊学校正教師」の配置が義務になっている。統合保育園においては、2016年度から順次、障害のある子ども3人に対して専門教師として1人の「特殊学校正教師」または「障害児のための保育士」の配置が義務になり、専門保育士2人のうち1人は、「特殊学校正教師」の資格をもつ者でなければならない。障害児専門保育園も、障害児3人当たりに1人の専門保育士の配置が必要で、障害児が3人以上になるたびに1人ずつ保育士を増員し、保育士3人のうち、1人は「特殊学校正教師」でなければならない。以上を踏まえ、ここでは、2012年度から2021年度までの「特殊教育統計」と「保育統計」に基づいて幼稚園と保育園における「特殊学校正教師」と「障害児のための保育士」の配置現状とそれに対する課題について述べる。

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図1.幼稚園の特殊学級に配置されている特殊学校正教師の数
*「特殊教育統計」に基づいて筆者作成

まず、幼稚園の特殊学級に配置されている「特殊学校正教師」の数を見ると(図1)、2021年には、1級と2級を含め計1,198名がいることが分かる。前回の記事で確認したように、2021年に特殊学級で在籍している障害児は4,444名であることから、障害児4人当たり1人の「特殊学校正教師」という配置の基準が守られていると言える。また、ここには記載していないが、「特殊学校正教師」が配置されている幼稚園を設立別にみると、国立幼稚園4名、公立幼稚園1,192名、私立幼稚園2名で(教育部、2021)、ほとんどの「特殊学校正教師」は、採用試験を通過して国公立幼稚園に雇用されていることが分かる。他にも、インクルーシブ教育は行われていないものの、特殊学校における幼稚園に勤めている「特殊学校正教師」は356名で、これらの教師も国公立学校の場合、採用試験を通過して雇用されている。

また、特殊教育統計をみると、幼稚園の特殊学級に勤める「特殊学校正教師」は継続的に増えていることがわかる。それは、前回の記事でも説明したように「特殊教育発展5か年計画」における幼稚園の特殊学級の新設・増設計画の結果であると考えられる。しかし、上述したように、私立幼稚園に配置されている「特殊学校正教師」はわずか2名に過ぎないことから、未だに私立幼稚園には特殊学級の設置が進んでいない。つまり、私立幼稚園に在籍している障害児に対する支援が行き届いていない可能性がある。そのため、幼稚園の特殊学級の新設・増設を国公立幼稚園に限らず私立幼稚園にも拡大し、どの幼稚園においても障害児が適切な支援を受けられるような環境作りが求められると考えられる。

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図2.障害児専門保育園に配置されている特殊教師・障害児クラスの保育士iii・治療士ivの数
*「保育統計」に基づいて筆者作成


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図3.統合保育園に配置されている特殊教師・障害児クラスの保育士・治療士の数
*「保育統計」に基づいて筆者作成

また、障害児専門保育園と統合保育園に関する統計をみると、治療士の人数には大きな変化は見られないが、特殊教師(特殊学校正教師)の人数は2018年以降、少しずつ減少している一方で、障害児クラスの保育士、つまり「障害児のための保育士」の人数は2016年頃から継続的に増加していることが分かる。(図2、図3)

特に、統合保育園の場合、「障害児のための保育士」の数が10年前の2012年と比べ、約2倍に増えている。その背景として、2012年に改正された障害児童福祉支援法により2016年から順次「障害児のための保育士」の配置が義務になったことが大きな理由であると言える。そういう意味で、今後保育現場における「障害児のための保育士」の役割は、ますます重要になっているといっても過言ではない。ただし、「障害児のための保育士」の資格は、「特殊学校正教師」とは違って実習をしなくても簡単に取得できるため、専門性には疑問が残されている。障害児に対する、より充実した支援のためには、「障害児のための保育士」の資格取得の基準強化などの再検討が求められると考えられる。また、「特殊学校正教師」の場合、フルインクルーシブで園児の保育時間が長い保育園よりも、部分統合を行い、かつ、保育時間が短い幼稚園での就職を望む傾向があるため、保育園で「特殊学校正教師」を雇うことは容易ではない。「障害児のための保育士」だけではなく、障害児の指導に関する専門的知識をより多くもっている「特殊学校正教師」を確保するためには、保育園における勤務環境や待遇の改善も欠かせないと考えられる。


  • i:「特殊学校正教師」資格の場合、1級と2級に分けることができる。2級の場合、教育大学および師範大学の特殊教育科卒業または、特殊教育関連学科で教職課程を修了した者などが取得できる。また、1級の場合、2級資格を持ち、3年以上の教育経験がある者で、一定の教育を受けたり、1年以上の教育経験で、教育大学院または教育部長官が指定している大学院で特殊教育を専攻し、修士号を取得した者などが取得できる。
  • ii:保育士の資格の正式な名称は、「保育教師」であり、全部で3級に分かれている。3級の場合、高校またはこれらの水準以上の学校を卒業した者で、保健福祉部令が定める教育訓練施設で教育課程を履修したら取得できる。2級の場合、専門大学またはこれらのレベル以上の学校において、保健福祉部令で定める保育に関する科目及び単位を修めて卒業したり、3級資格を持ち、2年以上の保育業務経験がある者が取得できる。最後に1級の場合、2級資格を持ち、3年以上の保育業務経験がある者で、保健福祉部長官が定める教育を受けたり、保育関連大学院で修士号を取得し、1年以上の保育経験がある者が取得できる。
  • iii:保育統計では「障害児クラス」を担当している保育士の資格までは記載されていない。ただし、2016年度から障害児のための保育園において、「特殊教師」と「障害児のための保育士」の配置が義務になっており、ここで言う「障害児クラス」を担当している保育士は、「障害児のための保育士」であることが推測できる。そのため、本文において「障害児クラス」を担当している保育士は、「障害児のための保育士」の資格を持つ者と前提して書くことにする。
  • iv:治療士とは、理学療法士や作業治療士、言語聴覚士、臨床心理士など関連分野の国家資格を所持し、障害児専門保育園と統合保育園に在園している障害児の治療のため配置されている人を意味する。


文献

  • 教育科学技術部「2012年度特殊教育統計」
  • 教育部「2013~2021年度特殊教育統計」
  • 教育部「障害者等に対する特殊教育法(特殊教育法)」
  • 教育部「障害者等に対する特殊教育法施行令」
  • 教育部「幼児教育法」
  • 保健福祉部「2012~2021年度保育統計」
  • 保健福祉部「障害児童福祉支援法」
  • 保健福祉部「障害児童福祉支援法施行令」
  • 保健福祉部「乳幼児保育法」
  • 이정림, 김은영, 엄지원, & 강경숙. (2012). 장애 영유아 통합보육· 교육 현황과 선진화 방안(障害乳幼児の統合保育・教育の現状と先進化方案).

筆者プロフィール
安 世羅(アン・セラ)

創価大学教育学部助教。韓国出身。韓国の大学で幼児教育を専攻して卒業。創価大学大学院文学研究科教育学専攻博士後期課程修了。博士(教育学)。障害のある子どもとその家族に貢献できる研究を目指し、「韓国のインクルーシブ保育における障害のある子どもとない子どものかかわりや保育士の支援」について研究を行っている。
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