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【韓国】韓国における就学前のインクルーシブ教育の現状と課題Ⅰ

要旨:

韓国において障害のある子どもが通える就学前施設には、教育部が管轄する①特殊学校の幼稚部、②特殊教育支援センター、③幼稚園の特殊学級・一般学級と、保健福祉部が管轄する④障害児専門保育園、⑤障害児統合保育園、⑥一般保育園がある。
そのうち、特殊学校の幼稚部(①)、特殊教育支援センター(②)を除いた幼稚園の特殊学級・一般学級(③)、障害児専門保育園(④)、障害児統合保育園(⑤)、一般保育園(⑥)の4つの施設でインクルーシブ教育が行われている。
幼稚園の場合、毎年、特殊学級が増えており、それによって、障害のある子どもとない子どもの分離に関する懸念がある。
また保育園の場合、統合保育園の数が増えており、保育現場におけるインクルーシブ教育に関する重要性が高まっている。より充実したインクルーシブ教育のためには、幼稚園の一般学級と一般保育園における支援についても工夫する必要がある。

キーワード:

韓国、インクルーシブ教育、ECEC、特殊教育(特別支援教育)
English

多様性を受け入れることが重要になっている今の時代。その中でも、障害のある人に対する福祉を保障するための様々な政策が行われている。特に、障害のある子どもが差別を受けることなく平等な教育を受けられるような制度の重要性が高まっており、「障害のある子ども」と「障害のない子ども」を包括するインクルーシブ教育の概念は、学校は無論、保育園と幼稚園まで浸透しているといえる。

韓国においても、インクルーシブ教育の重要性に関する関心は高まっており、幼稚園と保育園でもインクルーシブ教育が行われている。特に、保育園の場合、障害のある子どもが3人以上在園し、国が定めた条件を満たした場合、「統合保育園」として保育園を分類しており、その数は毎年増えている。このような点を踏まえ、ここでは、障害のある子どもが通える就学前施設を含め、韓国におけるインクルーシブ教育のシステムや課題について論じる。

1.韓国の就学前の保育・教育の施設

まず、韓国の就学前の保育・教育に関する理解を深めるため、韓国の乳幼児期における保育・教育の施設について説明する。韓国の場合、就学前の子どもが通う施設は、幼稚園とオリニジップ(直訳すると、「子どもの家」という意味になるが、ここでは、保育園と訳す)の2つに分けることができる。幼稚園は、日本の文部科学省に相当する教育部が管轄機関であり、3歳~5歳の就学前の子どもが通う施設である。幼稚園の教師になるためには、専門大学(日本の短期大学に相当する)またはそれ以上の大学で、「幼児教育」を専攻して卒業し、教育部が発行する「幼稚園正教師」の資格を取得する必要がある。保育園の場合、日本の厚生労働省に相当する保健福祉部が管轄機関で、0歳~5歳の就学前の子どものための施設である。免許に関しては、専門大学またはそれ以上の大学で、保育関連の科目および単位を履修し、保健福祉部により発行される「保育教師」の資格の取得が必要である。ただし、高校を卒業して、大学に進学しない人も、保健福祉部令で定められた教育訓練施設で教育課程を履修した場合は(保育士3級)、保育園で働くことができる。

表1.幼稚園とオリニジップ(保育園)の違い

幼稚園 オリニジップ
管轄 教育部(文部科学省に相当する) 保健福祉部(厚生労働省に相当する)
対象 幼児(3歳~5歳) 乳幼児(0歳~5歳)
教師資格 幼稚園正教師 保育教師
運営時間 法定運営日数:年間180日以上、園長の裁量で決定 年中無休(日曜と公休を除く)

2.障害のある子どものための就学前施設

管轄機関によって、障害のある子どもが通える様々な就学前の保育・教育施設が設けられている。まず、教育部が管轄している施設は、①幼稚園、②特殊学校(日本の特別支援学校に相当)の幼稚部、③特殊教育支援センターがあり、幼稚園以外は、障害のある子どものみ対象としている。また、幼稚園には、特殊学級が設けられている場合もあり、このような場合、決まった時間にだけ、障害のある子どもとない子どもが一緒になるため、部分的なインクルーシブになっているといえる。一方、特殊学級が設けられていない幼稚園も少なくなく、このような場合、一般学級でフル・インクルーシブ(full inclusion)の保育が行われ、全日制統合学級とも呼ばれている。

次に、保健福祉部の管轄で、障害のある子どもが通える施設は、①一般保育園、②障害児専門保育園、③障害児統合保育園がある。「障害児専門保育園」と「障害児統合保育園」は、特殊保育の保育園として区分され、障害のある乳幼児のための保育園として指定された施設である。より詳しく説明すると、「障害児専門保育園」は、障害のある乳幼児12名以上を保育することができ、障害のある子どもの治療や支援に焦点を当てた施設である。ただし、インクルーシブ保育のため、定員の40%まで障害のない子どもも一緒に保育することができる。

また、「障害児統合保育園」は、定員の20名以下かつ3名以上の障害のある乳幼児を保育する施設である。施設名からもわかるように、統合=インクルーシブに、より特化した施設であるといえる。また、幼稚園とは違って、基本的に特殊学級が設けられていないため、障害のある子どもとない子どもがずっと同じクラスで生活するフル・インクルーシブ保育を実施している。

最後に、「障害児専門保育園」と「障害児統合保育園」に該当しないものの、障害のある子どもが在園している施設を「一般保育園」として区分している。管轄機関による各施設の定義は以下の表に示す。

表2.障害のある子どもが通える就学前の施設

管轄 施設名 定義
教育部 特殊学校の幼稚部 特殊教育(日本の特別支援教育に相当する)機関として、対象者に幼稚園の課程を教育する特殊学校および特殊学級
特殊教育支援センター 特殊教育対象者の早期発見、特殊教育対象者の診断・評価、情報管理、特殊教育の研修、教授法・学習活動の支援、特殊教育の関連サービス支援、巡回教育iを担当する施設
幼稚園 特殊学級 特殊教育対象者の統合教育を実施するため一般学校に設置された学級
一般学級 特殊学級ではなく、健常児に交じって障害児が在籍している学級
保健福祉部 障害児専門保育園 障害児童福祉支援法第32条による要件を満たし常時12名以上の障害児を保育する施設のうち、地方自治体が指定した施設。統合保育のため定員範囲内40%まで障害のない子どもを保育することが可能
障害児統合保育園 障害児専担教師(保育士)を配置し、定員の20%以内で障害児全日クラスを編成・運営したり、未就学の障害児3名以上を統合保育する保育園として、市・郡・区が指定した施設
一般保育園 「障害児統合保育園」と「障害児専門保育園」とは違い、特殊保育の保育園として指定されていない保育園として、健常児に交じって、障害児が在園している施設
*特殊教育法と障害児童福祉支援法に基づいて作成

また、毎年、教育部は「特殊教育統計」、保育福祉部は「保育統計」を発表しており、そこには上記の施設に関する統計も含まれている。ここでは、2012年度から2021年度までの「特殊統計」と「保育統計」に基づいて作成したグラフを踏まえ、就学前の障害のある子どものインクルーシブ教育の現状について述べる。

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図1.障害のある子どもが在籍している教育部管轄の施設の数(ヶ所)ii
*「特殊教育統計」に基づいて筆者作成


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図2.教育部管轄の施設に通っている障害のある子どもの数(人)
*「特殊教育統計」に基づいて筆者作成


前述したように、幼稚園の場合、「特殊学級」と「一般学級」に分けられており、「特殊教育統計」においても、この二つを区別して数値を示している。

①グラフから、4つの施設のうち、特殊学級だけが、持続的に増加しており、特殊学級に在籍している障害のある子どもの人数はどんどん増えていることがわかる。

②また、特殊教育支援センターだけがその数が減少しており、一般学級と特殊学校の幼稚部の数には大きな変化は見られない。その背景には、「特殊教育発展5か年計画」があるといえる。「特殊教育発展5か年計画」とは、特別支援教育のニーズがある生徒のための教育基本方向を政府が提示したもので、1998年から始まり、今回「第6次特殊教育発展5か年計画2023年~2027年」が新しく発表された。「第4次特殊教育発展5か年計画(2013年~2017年)」の成果として、幼稚園の特殊学級の新設・増設があげられており、第6次の計画にも、幼稚園の特殊学級の拡大を計画していることが発表されている。無論、特殊学級を拡大することで、障害のある子どもの教育に関する選択肢が広がることも重要であるが、その分、障害のある子どもとない子どもが分離される時間も増えるかもしれないという懸念もある。

③障害のある子どもの保護者の中には、我が子と障害のない子どもとのかかわりを望んで、フル・インクルーシブ教育を希望する保護者も少なくない。そのため、特殊学級の増設だけではなく、既に設置されている一般学級においてインクルーシブ教育を充実させるための、より実質的な工夫も必要だと考えられる。

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図3.障害のある子どもが通っている保育園の数(か所)
*「保育統計」に基づいて筆者作成


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図4.保健福祉部管轄の施設に通っている障害のある子どもの数(人)
*「保育統計」に基づいて筆者作成


保健福祉部による施設の場合、グラフからわかるように、三つの施設のうち、①障害児統合保育園に関する数値だけが持続的に増加していることがわかる。
これは、保育現場においても、インクルーシブ教育に関する重要性がますます高まっていることを証明することであると考えられる。

②一方、一般保育園に関する数値は10年の間、半分以上も減少している。
この数値が意味することは何だろうか。グラフが示しているように、本当に障害のある子どもが減っているのだろうか? その背景には、2012年から施行している無償保育が関係しているといえる。2015年全国障害児統合保育園協議会が主催した「社会統合と障害児統合保育カンファレンス」では、無償保育の実施以降、障害の診断を受けなくても、保育料の支援を受けることができるようになり、そのため、障害の診断を受けず、一般保育園に在園している障害乳幼児のケースが増えていると発表している。

③つまり、実際に障害のある子どもの数が減少したのではなく、障害児に対する保育料の支援を受けずに、一般無償保育を受けている乳幼児が増えていると考えられる。

このような現象は、結果的に障害のある子どもが適切な支援を受ける機会を失わせ、一般保育園における保育士にも大きな負担となる可能性が高いと考えられる。そのため、統合保育園に限らず、一般保育園においても障害のある子どもに対する支援が行われるよう、制度の再検討が求められるだろう。

今回は、「韓国における就学前のインクルーシブ教育の現状と課題Ⅰ」というテーマで、教育部と保健福祉部による障害のある子どものための施設や各施設の10年間の統計資料に基づき、インクルーシブ教育の現状について論じた。次回は、「障害のある子どものための教師」の制度やそれに対する課題について説明する。


  • i) 「巡回教育」とは、特殊教育教員および特殊教育関連サービス担当者が各級学校や医療機関、家庭または福祉施設などにいる特殊教育対象者を直接訪問して実施する教育を意味する。
  • ii) 特殊学級と一般学級の場合、各学級が設置されている幼稚園の数を示したものである。


文献

  • 教育科学技術部「2012 年度特殊教育統計」
  • 教育部「2013 年~2021度特殊教育統計」
  • 教育部「障害者等に対する特殊教育法(特殊教育法)」
  • 教育部「障害者等に対する特殊教育法施行令」
  • 教育部「第6次特殊教育発展5か年計画」
  • 教育部「幼児教育法」
  • 保健福祉部「2012~2021 年度保育統計」
  • 保健福祉部「障害児童福祉支援法」
  • 保健福祉部「障害児童福祉支援法施行令」
  • 保健福祉部「乳幼児保育法」
  • 무상보육 시대, 딜레마에 빠진 장애아 통합보육(無償保育の時代、ジレンマに陥った障害児統合保育) . ビマイナ. 2015-04-30, ビマイナデジタル,
    http://www.beminor.com/news/articleView.html?idxno=8284 , (参照2022-12-09).
筆者プロフィール
安 世羅(アン・セラ)

創価大学教育学部助教。韓国出身。韓国の大学で幼児教育を専攻して卒業。創価大学大学院文学研究科教育学専攻博士後期課程修了。博士(教育学)。障害のある子どもとその家族に貢献できる研究を目指し、「韓国のインクルーシブ保育における障害のある子どもとない子どものかかわりや保育士の支援」について研究を行っている。
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