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所長ブログ

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何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (1)

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

2015年8月21日掲載
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60年も生きてくると、世の中には色々訳のわからないことがありますが、そこにはそれなりの理由があることもわかってくるようになりました。でもその私が今でもどうしても解せないことがあります。わざわざ個人的に理解できないことをこうして大勢の人に向けたブログに書く必要はあるのかと言われれば、その通りなのですが、その解せないことが私が最も専門とし、また社会的にも多くの人が関心をもっていることですので、ブログにはやや似つかわしくない硬い主題ですが、2回に分けて書きたいと思います。タイトルにあるようにそれは、日本の特別支援教育の今後の方針の柱でもあるインクルーシブ教育のことです。

インクルーシブ教育とは何でしょうか?インクルーシブ教育を早くから取り入れている欧米での定義を、カナダとアメリカのインクルーシブ教育についてインターネットを検索して調べてみました。

カナダのNPOであるInclusionBCという団体のホームページにはこのように書いてあります。(以下、筆者訳)
インクルーシブ教育とは、すべての生徒が、その住んでいる地域の年齢相当の普通学級 (regular classes) に迎え入れられて通学し、学校生活の活動全てを学習し、参加貢献する、ということです
さらにそのホームページのQ&Aには、次のように書かれています。
質問:インクルーシブ教育は全ての子どもにあてはまるのですか?
回答:答えは簡単です。イエスです。しかし個別のニーズによって、一部の生徒は普通学級以外でも目的に従った授業を受けることがあります。しかしそれは例外的なことです。
もう一つアメリカの「PBS parents」というホームページを見てみましょう。そこにはこのように端的に書かれています。
インクルーシブ教育は、障害のない子どもと障害のある子どもが、同一のクラスに出席し学ぶ所に成立します。
インクルーシブ教育についてのこれらの定義から明らかなように、端的に言ってしまえば、インクルーシブ教育とは、地域の全ての子どもが同じ教室で勉強することです。

では日本の特別支援教育はインクルーシブなのでしょうか?そもそも、特別支援学級や特別支援学校に通うことはインクルーシブ教育と言っていいのでしょうか?

日本の文部科学省の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進 (報告) 概要」というホームページ上の記載を見てみましょう。報告書の冒頭にある「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育とシステムの構築」には次のように書かれています。
障害者の権利に関する条約24条によれば、「インクルーシブ教育システム」とは (中略) ...障害のある者が「general education system」 (仮訳 教育制度一般) から排除されないこと (後略) 。
とあり、引き続いての記述には
インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して (中略) ...多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。
と書かれています。

どうでしょうか?あくまで例外的に通常学級以外の場での教育を認めるアメリカやカナダのインクルーシブ教育と、「多様な場を用意することが必要である」として特別支援学校などを重要視する日本とは明らかに大きな相違があります。
アメリカのホームページの定義に従えば、通常学級と特別支援学校に「別れて」教育を受けるところにはそもそもインクルーシブ教育は成立しないことになります。

次回は、なぜそのようなことになったのか、考えてみたいと思います。


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<参照URL>
InclusionBC - What is Inclusive Education?
http://www.inclusionbc.org/our-priority-areas/inclusive-education/what-inclusive-education

PBS parents - Inclusive Education
http://www.pbs.org/parents/education/learning-disabilities/inclusive-education/

文部科学省「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学副学長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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