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所長ブログ

何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (4)

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2018年6月 1日掲載
今回は、奇妙な対義語についての話から始めたいと思います。対義語とは意味が反対あるいは対照的な一組の言葉のことです。例えば、「入学」⇔「卒業」、「出口」⇔「入口」といった反対の意味をもつ一組の言葉や、「申請」⇔「受理」、「質問」⇔「回答」といった時間軸に沿った前後関係をもつ言葉などのことです。

では、「相談」の対義語は何になるのでしょうか?人生相談なら「回答」「助言」、保険の窓口での相談なら、「説明」になるでしょうか?

今回の「何か変だよ」は、「相談」の対義語が「判定」になるというお話です。

「判定」から逆方向に対義語を探すと「審判」「審査」といった言葉が適切に思えます。ともに法律や正式の手続きに関する強制力を背景にもった言葉だと思います。それに対して相談は任意の行為です。人に相談するときに、まさか強制力を伴う可能性のある判定を求めている人はいないのではないでしょうか。

ところが、「相談」すると「判定」されるという奇妙に思える関係が生きている現場があります。それが今回のテーマ「就学相談」です。

私は大勢の自閉症スペクトラムや注意欠陥多動性障害に代表される発達障害をもつお子さんを見てきました。医師として最も労力を傾注するのは、もちろん症状を如何に軽減させるか、ということですが、日常生活一般の課題についても相談を受けた時には助言をしています。(ほら、やはり「相談」の対義語は「助言」が納まりがいいですね)

そうした相談で一番重いのが、就学の相談です。以前に本ブログで述べた真のインクルーシブが日本で実現していれば、相談は必要ありません。なぜなら、相談のほとんどが、通常学級に行かせるべきか、それとも特別支援学級(校)にするか、ということだからです。就学に関する相談のほとんどは、翌春に小学校入学を控えた秋に集中します。それは、「就学相談」の時期が秋以降であるからです。共感性や社会性に富んだ子どもたちの中にいることの意義を私は重視していますので、注意欠陥多動性障害や言語的なコミュニケーションがある自閉症スペクトラムのお子さんには、通常学級をおすすめすることが多くなっています。

私の助言(意見書を書くこともあります)を持って、就学相談に望んだ親御さんの中に、しばらくして困惑した面持ちで再診される方がかなりおられます。就学相談で「特別支援学級」ないしは「特別支援学校」が適当という「判定」をうけた、と言ってこられるのです。この判定をもらうと、親が希望しても判定以外の学校へは行くことができません。判定は地元の教育委員会による強制力をもったものなのです。いちおう文科省は、判定を行う時には、保護者との合意の上で行うことが望ましい、という見解を明らかにしていますが、合意できなければ教育委員会の「判定」が優先されるのです(そもそも教育委員会が賛成しなければ合意形成はできません)。

明らかに、就学相談はその結果が判定という強制力をもつ行為ですので、内容的には「審査」にあたると思えます。では就学相談ではなく、就学審査にすれば良いのに、と思われるかもしれません(私は賛成できませんが)。ところが、実情はとても変なことになっているのです。就学相談を受けると半強制的な「判定」が待っていますが、就学相談を受けるかどうかは「任意」なのです。

ある教育委員会から私の患者さんの親に届いた文面でそのことがわかります。

「前提として、就学先の決定は教育委員会が行い、原則として6歳に達した日の翌日以降の最初の学年の始めから通常の学級に進学していただくことになっています。特別支援学級や特別支援学校への就学を希望する場合に就学相談を受けていただくことになります」「就学先の判断には、教育、心理、医療の3点での資料が必要となります。万が一資料がそろわず就学先をご提案できない場合や、就学相談での判断が通常の学級が適しているという結果の場合は、地元の通常学級に就学していただくことになります」「また、就学相談での判断が、保護者の方のご希望と異なった場合は、お子さんや保護者の意見は最大限尊重されますが、お子さん・保護者、教育委員会、学校の3者の合意形成を行う必要があります」

この文面では判定ではなく、判断という言葉が使われていますが、保護者や子ども本人の希望は最大限尊重されるが、それも合意形成がなければ実現されない(教育委員会の決定が優先)ということです。

また就学相談は、特別支援学級や特別支援学校を希望する時に行われるとあり、通常学級にするか特別支援学級(学校)にするか悩んでいる保護者は相談の対象になっていないのです。

また、特別支援学級を希望している親は(規定から就学相談を受ける必要がありますが)、教育委員会が特別支援学校と判断(判定)すれば、それに従わなければならない、と読めます。

このように「就学相談」とは、どのような子どもであれ、通常学級を含めてその子にどの進路がいいのか幅広く「助言」をしてくれる場所ではなく、教育委員会の方針で、その子どもを「特別支援学級」か「特別支援学校」かに仕分けをする制度にしか見えないのです。通常学級か特別支援学級か、あるいは特別支援学級か特別支援学校か、とグレーゾーンで迷っている子どもと親にとってはとても使いづらい「相談」窓口です。相談で専門家の「助言」を受け、親と子どもが自分たちの希望と専門家の助言を天秤にかけた上で、親が最終方針を決定できる場ではないのです。

そんな訳で、特に通常学級か特別支援学級かで迷っているお子さんと親御さんには、就学相談をせずに通常学級に就学することを勧めています。就学相談を受けなければ、通常学級に自動的に入学することになります。後日もし通常学級で授業を受けることが困難であることが明らかになれば、その時に特別支援学級(学校)への通学について考えても決して遅くはないからです。

※過去の「何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (1)~(3)」はこちら

筆者プロフィール

sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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