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何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (6) the general educationって何?

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以前、私はこの「何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (2)」で以下のように書きました。

文科省は、特別支援学校は一般的な教育制度内にあると宣言します。ただし文科省の自らの見解としてではなく、以下のように外務省の条約批准の担当者の意見を引用してその根拠としています。
障害者の権利に関する条約第24条にある「general education system (教育制度一般 (ママ) ) 」について、外務省に照会したところ、以下の回答があった。

条約第24条に規定する「general education system (教育制度一般) 」の内容については、各国の教育行政により提供される公教育であること、また、特別支援学校等での教育も含まれるとの認識が条約の交渉過程において共有されていると理解している。したがって、「general education system」には特別支援学校が含まれると解される。 (第5回特別委員会資料2)

書いた当時から、外務省の解釈は乱暴だな、とは思っていたのですが、この第5回特別支援教育に関する特別委員会資料2には、現行の教育システムを変更したくないという意図が透けて見えることに最近気がつきました。

これまでに何回も書いてきているように、インクルーシブ教育とは本来「障害のある子どももない子どもも一緒の教室で学ぶ」ということです。これは、特別委員会の委員や、官庁の担当者も知っていたはずです。

また、このインクルーシブ教育を取り入れるとうたった国連の「障害者の権利に関する条約」を日本は正式に国会で批准しています。

それでも、インクルーシブ教育体制ではない特別支援学校(学級)を残すためにどうすれば良いのか? それは特別支援学校もインクルーシブ教育の一環であるというロジックを作り上げることです。

上記の引用文をよくご覧下さい。何か変な表現が目につきませんか。それは「障害者の権利に関する条約第24条にある「General education system (教育制度一般 (ママ) ) 」という文章です。「ママ」とは、この文章で私がgeneral education systemを「教育制度一般」としたのではありませんよ、ということを皆さんに知らせるために書いたのです。なぜ、「ママ」としたのでしょうか。それはgeneral educationには普通教育という意味があり、特別支援学校などで行われている特殊教育special educationの対語であるからです。

試しに、辞書で普通教育の英訳を引いてみてください。general educationあるいはcommon educationとでてきます。また特別支援学校の英訳には、special support education schoolやschool for special needs educationがあるようですが、special educationという言葉は共通しています。そしてspecial educationを行う学校が、general education (system) の中にあるというのは、明白な論理矛盾になってしまうのです。

そしてその論理的矛盾を見えないようにするために、意図的かどうかは分かりませんが、general education systemを「教育制度一般」と翻訳することによって、その中に特別支援学校があるという矛盾しない論理を組み立てたのではないでしょうか。

下に文科省ホームページ上の訳と私の訳を示します。

第24条2(a)
障害者が障害を理由として教育制度一般から排除されないこと及び障害のある児童が障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと(文科省ホームページより)

障害があることによって、障害をもつ人が普通教育制度から排除されないこと、そして障害をもつ子どもが無償の初等義務教育、あるいは中等教育から障害をもつことによって排除されないこと(筆者訳)

原文は以下のとおりです。

2(a) Persons with disabilities are not excluded from the general education system on the basis of disability, and that children with disabilities are not excluded from free and compulsory primary education, or from secondary education, on the basis of disability;

微妙な違いに見えますが、この違いによって、日本では特別支援学校も、インクルーシブ教育の一環とすることの矛盾が消えるのです。

24条の第一項には、「国は生涯学習とあらゆる教育段階でのインクルーシブ教育を保障しなくてはならない(筆者訳)」と書かれており、その文脈から判断すると、the general education systemが普通教育体制を示していると考える方が自然ではないでしょうか。

いまさら言葉の揚げ足をとっても仕方がないかもしれませんが、前回に引き続き、やりきれない気持ちでこのブログを書きました。

※過去の「何か変だよ、日本のインクルーシブ教育」シリーズは以下よりご覧ください。
何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (1) ~ (3)
何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (4)
何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (5) 大いなる誤解
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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