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何か変だよ、日本の発達障害の臨床

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以前このブログで、日本の発達障害の過剰診断について書きました。その後も私の外来に過剰診断と思われる子どもが次々とやってきています。

友人と口喧嘩をして言い負かし、その子どもを泣かしてしまったことが学校で問題になり、発達障害を疑われて地元の発達障害専門医を受診、そこで告げられた診断名に納得できない親と9歳の男児が私の外来を訪れました。

私は初診の子どもとは、親から受診の理由を聞く前に直接話をするようにしています。どんな子どもでも医師の前では警戒心や恐怖心を抱くので、私は名前や年齢、生年月日、好きな食べ物といった答えやすい質問から始めるようにしています。この9歳の少年も警戒心だけでなく、私に対して少し敵愾心てきがいしんを抱いているようでした。きっと友人を泣かしてしまったことを聞かれると思ったのでしょう。なんでそんなことを答える必要があるの、といったやや反抗的な表情を見せながら、いやいや私の質問に答えていましたが、答えは正確でした。

母親に学校での成績を聞くと、中くらいとのことでした。この答えから知的発達は正常範囲であると判断できます。また私の質問への正確な受け答えや、病院を受診することへの不満そうな表情から、自閉症スペクトラムの可能性は低いと思い、初めて母親に受診の理由を聞きました。

そこで母親から手渡された地元の「発達障害専門医」の診断書を見ましたが、そこには我が目を疑う診断名が書かれていました。「自閉症 重症」と書かれていたのです。

診断書には、自閉症のチェックリストが添えられていましたが、回答できなかった項目数が基準値を超えたことが診断の根拠のようでした。母親に聞くと、「この子はその医師に反抗してわざと答えなかった」とのことでした。

チェックリストだけから判断することはもちろんですが、小学校3年生で成績が中程度で友人との口喧嘩で相手を泣かすことのできる子どもに、重度の自閉症という診断名をつけることの矛盾を理解できない専門医がいることに驚きました。へんな言い方ですが、友人を口喧嘩で打ち負かすためには、かなり高度の「他人の意図理解」の能力が必要なのです。

しばらく私はこの男児のことで頭がいっぱいでしたが、最近、今度は頭をガーンと殴られるような経験をしました。

それは不登校になっている小学3年生のある男児のことです。最初から診察室に入るのを嫌がっていましたが、私が質問を始めるとこの子の特徴が現れました。

「何歳?」と聞くと「2歳」、「好きな食べ物は?」「お母さん」、「そうか、では嫌いな食べ物は?」「お母さん」、(絵を描くことが好き、と問診票にあったので)「どんな絵を描くの?」「知らない」。唯一本心を答えたのは「大きくなったら何になりたい?」「研究者」だけでした。

診察室に母親だけ残ってもらい、「〇〇くんはワザと間違った答えをしていますね」と告げると母親は「その通りです。彼は全て分かっています。この間本人が納得したので知能検査を受けました」と言い、150近い知能指数結果を示してくれました。

この男児は幼稚園の頃から、自分のやりたくないことはやらないために、いつも教師から注意され叱られていたようです。次第に教師への反発が強まり、指示に従えない、などの理由で自閉症スペクトラムなどの疑いで、特別支援級に行くことになりました。支援級では年齢にそぐわない初歩の授業ばかりだったので、ますます無視や反抗をするようになり、ついに不登校状態になったのです。母親の大きな心配は、最初は母親の言うことは聞いていたが、最近は母親にも反抗するようになったことでした。

質問に答えなかったり、指示に従わなかったのは、それらが理解できなかったのではなく、本人に反抗心があったからでしょう、という私の説明にうなずきながら母親は次のように言いました。

「特別支援級に行かせたことがこの子の状態を悪くしてしまったと思っています。」

皆さんはお気づきでしょうか。この子は、今連載中の角谷詩織さんの記事にある誤診されたギフティッド児の一人だと思います。 そしてこの子のような定型発達から外れたギフティッド児の行き先が特別支援級しかない、という日本の現状が、この子の不登校の原因になったのではないでしょうか?


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筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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