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2歳児の奇跡

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2018年12月14日掲載
子どもの発達に関わる人たちの中で以下のことは常識中の常識になっています。

2歳児はイヤイヤ期の最中にあり、自己中心的な存在である。
他人の気持ちを理解する能力である「心の理論」が身につくのは4歳から5歳頃である。

こうした常識を、2歳になったばかりの女児が吹き飛ばすシーンを目撃しました。

場所は、今年の「子ども学会」の会場である京都の同志社女子大学のホールでした。砂場の研究で有名な同大教授の笠間浩幸先生の講演の中で、1歳から6歳で卒園するまでの5年間にわたってAちゃんという園児を砂場で撮り続けたビデオが供覧されました。その中にそのシーンはありました。

Aちゃんが2歳になったばかりの頃の砂場で、どの園でも見られるような小さな事件がありました。Aちゃんと同年齢くらいの男の子が、そばで遊んでいた別の子どもの頭に砂をかけたのです。近くにいた保育士が砂をかけた子どもを、かけられた子どもから引き離しました。その時その様子をそばでAちゃんはじっと見ていたのです。保育士と砂をかけた子がその場を去ると、どうでしょう、Aちゃんは砂をかけられた子どもに近づき、髪の毛についた砂を一生懸命にはらいはじめたのです。

2歳児にもこんなに共感性があるのだ、と感動したのですが、笠間先生が「この30分後にもっと驚くべきことが起こりました」と静かに説明をされました。

そして砂かけ事件から30分後の砂場で奇跡が起こりました。
先程砂をかけた子どものそばにAちゃんが立っています。すると、スーッとその子どもに近づいたAちゃんの手から、砂がサラサラとその子どもの頭にかけられたのです。
砂をかけられてびっくりしている子どもからAちゃんはそっと離れて行きました。

Aちゃんは、砂をかけた子どもに、「砂をかけられるとこんな気持ちなのよ」と知らせたのです。4、5歳になって可能になるという心の理論の能力は、2歳のAちゃんにすでに備わっていると考えるしかありません。
私たち大人は子どもの心を知っていると思っていますが、本当にそうでしょうか。

でもこのビデオを見たとき私は、大人の知識である心の理論への疑問を感じたのではなく、生まれてたった2年でこれほど豊かな共感性を身につけることのできる人間の子どもの素晴らしさに、ただただ感激していました。

筆者プロフィール

sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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