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所長ブログ

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何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (3)

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

2015年9月11日掲載
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前の2回のブログを読まれた方の中には、特別支援学級や特別支援学校の先生は一生懸命に努力されているのではないか、そうした努力に水をさすような内容なのではないか、という感想をおもちの方もおられると思います。また特別支援学級や学校がなくなったら、いまそこに通っている生徒はどうすればいいのか、という疑問をおもちの方もおられるでしょう。

専門家の中にも、イタリアのようにすべての子どもを一緒に教育する(トータルインクルーシブ)のは、現実的ではなく、部分的なインクルーシブ(パーシャルインクルーシブ)が日本の現状には適しているという意見もあります。

こうした意見が、1回目にご紹介した文科省の報告書の以下の文章に凝縮されています(下線部)。
インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して(中略)・・多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である
イタリアのように、すべての子どもを一緒の教室で教育したら、個別の教育的ニーズに対応できないではないか、という考えがその根底にあります。

では、個々の教育的ニーズに対して多様で柔軟な仕組みを整備する方法は、子どもを分離して行う以外にはないのでしょうか。同じ学校の中で、対応することは不可能なのでしょうか。

その答えはノーです。そう、不可能ではないことが世界の多くの国で実証されているのです。イタリアだけでなく、実際に世界中の多くの国や地域で、個々の教育的ニーズに応えながら、子どもたちを分離せず教育を行っているところが多数あるのです。

実際に多くの国々で行われているインクルーシブ教育では、その名の通り、子どもの通う学校を分離せず、地元の学校の中で、さまざまな工夫を行って、インクルーシブ教育を行っています。この様々な工夫とは、reasonable accommodationとよばれ、日本では「合理的配慮」と翻訳されています。accommodationとは、相手のニーズに合わせるという意味があり、辞書を引くと「便宜」という訳が載っています。つまり子どものニーズに合わせるということです。インクルーシブ教育という文脈で考えれば、それは障害のある子どもが、定型発達の子どもたちと一緒に学ぶことを可能にするための便宜を図るということです。パニックを起こしやすい子どもであれば、普通学級の中にパニックを起こさないような環境整備などの便宜を図ることになります。

私が、何か変だなと思う第2の点は、この「合理的な配慮」に、学校や教員に「過度の負担がかからない範囲で行えば良い」という但し書きが加えられていることです。どこからが過度の負担になるかは、何も書かれていませんので、普通学級の先生が「これは自分にはできない」と思ったら、特別支援学級や学校に子どもを紹介すれば良いことになります。いや、それどころか場合によってはそのような判断を「合理的配慮」と呼ぶことも、特別支援学級・学校がインクルーシブ教育の場であると認められている日本では可能なのです。

インクルーシブ教育では、そのゴールはあくまで、障害のある子どもとない子どもが一緒の学級で学ぶことです。日本では、障害者の権利に関する条約を批准したことによって、世界の多くの国と一緒に、インクルーシブ教育に向かうハイウェイに乗りました。ただ日本は、インクルーシブ教育に向かうハイウェイを逆走してしまっているのではないかというのが正直な感想です。

もちろん、特別支援学級や特別支援学校の現場で、多くの関係者が、子どものために大きな努力を払われていることを私はよく知っています。でも、前回のブログでご紹介したように、特別支援学校に通うお子さんがじわじわと増えている現状を見るにつけ、日本全体ではインクルーシブ教育から遠ざかっているという感を強くもってしまいます。そうした印象を裏付けるような、私が実際に経験した事例をあげて、ブログをおしまいにしたいと、思います。

その一つは、私が医師として実際に診ているお子さんです。多動行動があり、集団での行動が苦手なお子さんですが、通常学級をお勧めしたところ、就学前に見学に行った現地の小学校の校長先生から、次のようなことを言われびっくりした母親が私に報告してくれました。
「このようなお子さんがいると、他の子どもが迷惑するから、特別支援学校に行きなさい」
このような校長先生は例外と思いたいのですが、これがインクルーシブ教育における合理的配慮なのでしょうか?

もう一例は、特別支援教育推進のために、校舎新築の際に普通学級に特別支援学級を新規に併設した小学校の例です。この併設事業は地元の自治体でも、特別支援教育体制の充実の一環として、宣伝されていました。地元の障害のある子どもの親が、期待して新設された小学校の見学会に行って、落胆して次のことを私に話してくれました。

なんと特別支援学級が、普通学級から離れた別の建物の中に設置されていたのです。

これもインクルーシブと言えるのでしょうか?私の疑念は深まるばかりです。

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※「何か変だよ、日本のインクルーシブ教育」シリーズの続きは以下よりご覧ください。
何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (4)
何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (5) 大いなる誤解
何か変だよ、日本のインクルーシブ教育 (6) the general educationって何?
筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学副学長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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