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運動すると頭が良くなる!

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

2015年7月24日掲載
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私が子どもだったころには、住んでいた東京近郊の町にも、たくさん雑木林やはらっぱがありました。ゲームやテレビのなかった時代(街頭テレビはありましたが)でしたから、学校が終わると、夕方暗くなるまで近くの雑木林の中で隠れ家を作ったり、缶蹴りをして遊んでいました。

暗くなってから家に帰ると、よく母親からこんなことを言われたものです。
「遅くなるまで外で遊んでいないで、家で勉強しなさい」
「体を動かしてばかりいて頭を使わないと、お勉強ができなくなりますよ」

しばらくして、中学校に入り、ちょうど東京オリンピックの女子バレーの活躍で人気がでてきたバレーボール部に入りました。毎日毎日泥まみれになって帰ってくる私を見て、母は勉強がおろそかにならないか心配していました。

私の母に限らず、体を動かしている暇があったら、勉強をしてほしいと思っている親は多いのではないでしょうか。

そんな親にとっては耳を疑うような研究データが最近次々と発表されています。
そのデータとは、表題にあるように「身体を動かすと頭が良くなる」ことを示したデータなのです。

カナダのシェパード(Shephard, 1996)は、546人の小学1年生の子どもに、心拍数が157~178/分まで上昇する強さの身体運動を1日1時間行ってもらい、6年間にわたって認知機能を対照児と比較するという実験を行いました。実験後に知能テスト(Goodenough test, WISC)を行ったところ、身体運動を行った子どもの方が有意に高得点が得られることを報告しました。

2009年にはアメリカのドネリー(Donnelly, 2009)が3年間にわたって、117人の6歳~9歳までの子どもに1週間に45分以上の比較的強い身体運動を行ってもらい、3年後に対照児と知能テストで比較したところ、有意のスコアの上昇を認めています。

近年の研究では、上記のような経験的なものではなく、脳波を用いた脳機能の測定により、頭の働きが良くなることが発表されています。ドロレット(Drollette, 2014)は、9歳の対象児に、前頭葉機能を測定するテストを行い、その得点の高いグループと低いグループに分け、それぞれに20分間トレッドミルで身体運動をしてもらいました。運動の後に脳波測定を行い、脳の活動と関連のある脳波の成分をしらべたところ、得点の低いグループでは、その脳波成分の反応が大きくなることが分かったのです。

ドロレットの研究では、運動をした直後の脳の働きがよくなることが証明されたのですが、ヒルマン(Hillman, 2014)らは長期間身体運動をすることで、脳の機能の向上状態が長い間続くことを示しています。7歳から9歳の子ども221人を対象に、その半数に9か月にわたる放課後の有酸素運動(トレッドミル運動、身体活動を伴うゲームなどで構成)を行ってもらい、残りの半数の対照群とともに、脳の認知機能テストとテスト施行時の脳波による脳機能を測定したのです。そして9か月後に、有酸素運動群と対照群に、有酸素運動開始時と同じ認知機能テストと脳波による脳機能検査を再び行いました。その結果、9か月間の有酸素運動への参加率と、認知機能テスト成績ならびに脳波による脳機能向上の間に有意な相関があることが明らかにされたのです。

有酸素運動を行うと、その直後に実行機能の向上が一時的にみられるだけではなく、継続して行った場合に、持続する実行機能向上がみられることが証明されたのです。

これらの実験に共通して言えることは、そのメカニズムはまだ明らかになっていませんが、確かに身体運動は、知能指数や脳の実行機能を向上させるということです。

身体を動かすと筋肉はつくけれど、脳の働きは良くならない、頭を良くするためには静かに座って勉強しなくてはならない、という「常識」が覆されたのです。このブログをお読みのお母さん、お父さん、わが子が外で遊んでばかりいることで心配する必要はありませんよ。
運動すると頭が良くなるのですから。


参考文献
Donnelly JE et al. Physical activity across the curriculum (PAAC): a randomized controlled trail to promote physical activity and diminish overweight and obesity in elementary school children. Prev Med 49:336-341, 2009.
Drollette ES et al. Acute exercise facilitates brain function and cognition in children who need it most: An ERP study of individual differences in inhibitory control capacity. Dev Cog Neurosci. 7:53-64, 2014.
Hillman CH et al. Effects of the FITKids randomized controlled trail on executive control and brain function. 134: e1063-1071, 2014.
Shephard RJ. Habitual physical activity and academic performance. Nutr Rev. 54: 32-36, 1996.
筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学副学長)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学副学長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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