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【日本】幼児期における「非」認知能力の因子構造と発達過程の規定要因を考える

要旨:

本研究は、 3歳、4歳、5歳という年齢的相違や発達の観点から、非認知能力の「非」を具体化することを目的としました。「非」が、定量化できない能力の総称とされ、概念的な重複や意味的な空白が生じているために、「非」が何を表すのかが特定されていないという課題1)から着想しました。非認知能力の発達は、保育の質や遊び経験などに影響されるというOECD2)などの報告がありますが、非認知能力の醸成過程における規定因や、獲得につながる機序に関わるエビデンスは多くはありません。本調査では、体を動かす遊び場面を中心に、「非」認知能力と想定される項目を収集選定し、無作為抽出した子ども1,724名に対しての、保育者862名の代理評定による質問紙調査を実施し、探索的因子分析、クラスタ分析を実施しました。その結果、「非」認知能力の因子構造が明らかにされ、年齢によって差異のある因子が特定されました。「非」が分岐したり収束されたりしながら、各年齢によって変容する関係や構造が説明されました。また幼児期における非認知能力の発達に対する規定因が示されました。
ここでは特に、環太平洋乳幼児教育学会第23回大会(23rd Conference of Pacific of Early Childhood Education Research Association [PECERA]: July 7-9, 2023, バリ・インドネシア)での発表内容を中心にお伝えしようと思います。

キーワード:非認知能力、社会情動的スキル、幼児期、醸成過程、遊び
English
非認知能力(non-cognitive skill)の「非(non)」

まず、いまさらですが、「非認知能力(non-cognitive skill)」は、非認知スキル、社会情動的スキル、社会情動的能力などとも称されますが、それぞれ一貫性のある明確な定義がないともされます。スキル(skill)は、技量・技能・技術と訳され、獲得することが可能なアビリティ(ability)と相互に言い換えが可能とされますが、スキルは先天的にもち合わせている能力については使用されていません。そこで本研究では、non-cognitive skillを、先天的、後天的双方の力として扱い、「非認知能力」と称することにしました。

日本の幼児教育において、非認知能力は、環境、遊び、総合性といった保育理念との親和性が高く、比較的違和感なく受け入れられてきたのではないでしょうか。けれど、遊びの質を向上させることで、結果として非認知能力が醸成されると考える傾向も強く3)、教育への介入に資する資料の検討までに達していないように見られます。その原因は、非認知能力が包含する概念の多様性、混在性、曖昧性、抽象性の高さから幼児教育における価値観との関係が不明瞭な点にある4)とされています。つまり、非認知能力を「認知能力以外の能力」として、「非(non)」が具体化されていないことに由来するのではないでしょうか。また非認知能力が具体的な活動や対象と結びつけて検討されていないため、可鍛性のある「非(non)」が同定されていない点にもあるとも考えられます。意図をもって適切な指導を行うための効果的な手段を考案することが求められているのです5)6)。そこで、エビデンスに裏付けられた非認知能力の「非」に当たる能力の具体化を着想した次第です。

体を動かす「遊び」を焦点として

では、幼児期における非認知能力の「非」の具体化のために、特に、体を動かす遊びを対象にしたのはなぜか。幼児教育において重視される中核的な活動である遊びを対象とすることが幼児教育にとって典型性の高い知見となりうると考えました。そのなかで、近年、子どもたちの体の問題は様々に危惧され7)、体を動かす遊びの推進を通じて、身体の健康を育むことに加え、非認知能力として、子どもの心や社会性を育むことに関心がもたれている状況に注目しました。ガラヒュー8)は、子どもが何かができるようになることのほとんどは身体運動に関わるとし、質の高い運動遊びは、認知的及び情緒的領域をも向上させると説いています。このことから、体を動かす遊び、すなわち「身体活動、運動遊び、集団ゲーム遊び、身体表現遊び、戸外遊び、自然体験など保育現場で用いられている呼称を、心の動きを含んだ『まるごとのからだ』9)として活発に動かして行う」活動を対象とすることにしました。

「非」認知能力(「non」cognitive skill)の醸成過程とその規定因を探るために

本研究の最終的な目標は、非認知能力の醸成過程に関連する規定因と獲得への機序を明らかにし、教育的介入に資する資料を得ることです。醸成過程における「非」の規定因や機序を知るためには、発達という観点からの年齢別の検討が必須と考えられましたので、幼児期におけるからだを動かす遊び経験を対象として、3歳、4歳、5歳という年齢的な相違、発達傾向の観点をもとに、非認知能力の「非」を具体化することを試みました。

本研究は以下の3つの手続きをとっています。
手続き1:従前の研究結果等をもとに、体を動かす遊びにおける「非」認知能力と想定される項目を収集選定10)
手続き2:幼稚園、保育園、認定こども園、計287園において、保育歴3年以上の保育者が無作為抽出した幼児2名前後を対象(5歳男女児各290名、4歳男女児各286名、 3歳男女児各286名 )に、5件法による代理評定を実施。
手続き3:手続き2のデータに対する年齢別の探索的因子分析、続いて因子得点を標準化したクラスタ分析を実施。

*本調査は愛知教育大学倫理綱領の下で実施されました。個人情報の保護、匿名性、研究への参加・脱退の自由の保証、結果の保管について同意を得ています。

「非」認知能力、「non」cognitive skillの因子構造

「非」認知能力の年齢別の因子構造を、表1、2、3に示しました。因子名の背景に<先行研究などから得られた共通性が認められる性質>を付与し、命名考察の裏付けとしました。

3歳児では、4因子23項目が抽出されました。第Ⅰ因子は<感情的抑制>という性質が通底する項目群となり【我慢する】を命名されました。第II因子は、<自他認識>をもとにした<コミュニケーション>の項目群であり【他児に関心をもってかかわる】となりました。第Ⅲ因子は、<好奇心>を抱き自分で受け止め、自分なりの目標を志向する<自己理解>を進め、思考して頑張り続けるという<思考の実行機能>が交錯して通底する特徴がとらえられ、【わたしの目標をわたしが続ける】となりました。第Ⅳ因子は失敗を気にしない、プレッシャーと感じないなど、ポジティブな結果を期待する傾向11)12)としての<楽観性>に寄っており、【失敗なんて考えていない】と命名されました。

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4歳児では、5因子40項目が抽出されました。第Ⅰ因子は、我慢の6項目、折り合いをつけるという5項目で構成され、3歳との違いとして、<抑制>に留まらず、対処や対応などの<調整>の要素が加わって一因子となっていたため【我慢して折り合いをつける】と命名されました。第Ⅱ因子は<自尊感情>4項目に、<レジリエンス>3項目が加わり、困難に向き合う際に、それを自分ごととした情動の制御が見られ、【恐れず挑む】としました。第Ⅲ因子は、アイディアを生み出したり別の方法を考えたりといった<拡散的な好奇心>をもとにした目標への<粘り強さ>の項目群となり【目標のために試行錯誤する】としました。第Ⅳ因子は、3歳の【Ⅱ:他児に関心をもってかかわる】4項目に加えて、「3歳の一方向的な対他関係から、双方的な関係を結ぶ<外向性><順応性>が通底する項目群となり【他者との能動的なかかわりをコミットする】としました。第Ⅴ因子は、<情熱><持続性><自己コントロール>が広がりを帯びて通底しており、【熱中して続ける】と命名されました。

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5歳児では、7因子38項目が抽出命名されました。第Ⅰ因子は、<目標達成><自己抑制>が通底し、それらが自覚的な<継続>と結びついているため、【目標の達成に向き合い進める】と命名されました。第Ⅱ因子は、<向社会的行動><共感性>が通底して混在する項目群となり【友だちを優先させる思いやり】としました。これは3、4歳では抽出されなかった因子です。第Ⅲ因子は、3歳の【Ⅳ:失敗なんて考えていない】の項目に、4歳の【Ⅱ:恐れず挑む】の項目を合わせ、特に<自尊感情>と<情熱><挑戦>の項目群であるため、【自尊感情をもとに挑む】としました。第Ⅳ因子は<忍耐>にのみ特化された項目群となったため【耐える】となりました。第Ⅴ因子は、自己主張をしつつも自分も相手も大事にする<社交性>や<アサーション>が通底する項目群であり【みんなの中のわたしになる】としました。第Ⅵ因子は、<レジリエンス>が逆境という厳しい状況からの回復力13)、<エゴ・レジリエンス>は日常生活におけるストレス状況を前提にした概念とされ、切り替えのうまさともされ14)、【逆境をしなやかに調節する】としました。第Ⅶ因子は、4歳の【Ⅴ:熱中して続ける】の<情熱><持続性>が<集中と没頭>へと収束し、<持続>(保たれる)が<継続>(人為的・意図的に行為を続ける)へ変容した項目群となったため、【粘り強くやり遂げる】と命名されました。

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「非」認知能力因子得点によるクラスタ分析から「非」の規定要因を探る

「非」認知能力因子得点の各年齢別に、因子得点を標準化し、Ward法を用いたクラスタ分析を実施してみました。4〜6クラスタ数を設定し、解釈可能性などの総合的な判断と、平均値分散分析と併せてクラスタの特徴を示しました(図1、2、3)。

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3歳は5クラスタに分類されました。
第1クラスタ:楽観性のみが低い群、
第2クラスタ:楽観性と自他関係が高く感情抑制が低い群、
第3クラスタ:全低群、
第4クラスタ:全高群、
第5クラスタ:楽観性のみが高い群。

3歳児では、第Ⅳ因子【失敗なんて考えていない】にあたる楽観性がクラスタの特徴を左右する傾向が見られました。幼児期には、実際の自分の能力よりもできると感じる強い楽観性の存在が認められており、根拠のない自信ともされます12)。楽観性が、子どもにとっては出来なそうなことにも積極的に挑む原動力となりますが、楽観性のみが高い場合には我慢、かかわり、実行機能は高くはならず、楽観性が低い場合には他が高くなる傾向が読み取れました。自分の有能感に実際の能力が影響しにくく、むしろ無茶の加減が難しい3歳の「非」認知能力の実相の一端と考えられます。

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4歳は4クラスタに分類されました。
第1クラスタ:全高群、
第2クラスタ:外向性と順応性が高い群、
第3クラスタ:抑制が高く外向性と順応性が低い群、
第4クラスタ:全低群。

第Ⅳ因子【他者との能動的なかかわりをコミットする】にあたる外向性と順応性の高低がクラスタの特徴を左右していました。対人関係として自分と他者を分けて認識し、そのうえでの能動的な他者とのかかわりが4歳の課題となり、「非」認知能力の既定因として示唆されました。

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5歳は4クラスタに分類されました。
第1クラスタ全低群、
第2クラスタ全高群、
第3クラスタ忍耐のみが低い群、
第4クラスタ忍耐のみが高い群。

第Ⅳ因子【耐えるpatience】にあたる忍耐の高低がクラスタの特徴を左右していました。自分で考えて行動をしたいけれど、それを多くの他者の意見とも沿わせなければという自他のせめぎ合いの調整を、忍耐という要因が規定因となって取りもつと考えられました。

「非」認知能力の行方

まとめてみますと、以上の因子分析からは、年齢層によって異なる「非」認知能力が抽出されたわけですが、年齢層によって全く異なる因子によって生み出されているわけではなく、「非」は自己調整、自他関係、目標達成、レジリエンスなどの収束した概念のもと、因子の統合と分化を経て変容していくことが読み取れました。ある時点での「非」の状態が、次の段階での「非」を生むという、連続的な蓄積の機序が認められました。今後の保育実践への示唆として、ここで得られた「非」認知能力としての因子や項目は、幼児期における体を動かす遊びにおいて、その年齢の終わりまでに育ってほしい姿であり、体を動かす遊びの構想や教材開発において、保育者が大事に見つめたい子どもの姿であることが含意されていると考えます。

またクラスタ分析からは、3歳は楽観性、4歳は外向性と順応性、5歳は耐える、の高低がクラスタの特徴を左右し規定因となっていると考えられたわけです。この規定因の存在は、何を意味するのでしょうか。PECERA2023での発表の折、国内外の研究者から「これは日本的なのか?」「これこそが日本的といえるのか!?」「どこの国でも同じなのかも」との声が諸々飛び交い、反響をいただきました。話題の焦点は、「3歳ではoptimism(楽観性)、5歳になるとpatience(耐える)が出てくる、この特徴をどう解釈するのか」です。

「なんだか、複雑な気分ですね。3歳はoptimism(楽観性)が発揮されるのに、5歳になるとpatience 、耐えなきゃいけなくなる。小学校の架け橋プログラム? 小学校で困らないように育てられている。そんな風潮が(悲しくも)現れているのでは」

「日本の教育は、集団に順応・適応できる人材の育成に向かっているようですね。4歳がそのプロセスとして、外向性と順応性がキーになっているところが、それを物語っているかのようですね。」 一方で、このpatience(耐える)とは、5歳で抽出された因子【友だちを優先させる思いやり】【みんなの中のわたしになる】【逆境をしなやかに調節する】などのような、他者への共感性に基づくレジリエンスなのでは、という「非」の解釈の意見もいただきました。

結論を導くには、本調査では十分なデータを得ていません。非認知能力の「非」の行方を追うべく、現在、前向き縦断研究を継続し、検証を開始しています。その分析が今後の課題です。


    引用文献
  • 1) 西田季里、久保田(河本)愛子、利根川明子、遠藤利彦(2018)「非認知能力に関する研究の動向と課題:幼児の非認知能力の育ちを支えるプログラム開発研究のための整理」. 『東京大学大学院教育学研究科紀要』. 58. 31-39.
  • 2) Organisation for Economic Co-operation and Development (2018) International early learning and child well-being study (IELS) in England: Introduction to the research.
    https://dera.ioe.ac.uk/32062/1/International_early_learning_and_child_well-being-study.pdf(閲覧日:2022.1.10)
  • 3) 無藤隆(2016)「生涯の学びを支える非認知能力をどう育てるか」.ベネッセ教育総合研究所.
    https://berd.benesse.jp/up_images/magazine/018-021.pdf(閲覧日:2022.10.1)
  • 4) 遠藤利彦(2017)「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」. 国立教育政策研究所. 7-8.
  • 5) McLaughlin, T., Aspden, K. & Clarke, L.(2017) How do teachers support children's social emotional competence: Strategies for teachers. Early Childhood Folio.21.21-27.
    https://doi.org/10.18296/ecf.0041
  • 6) Rosenthal, M. K., & Gatt, L.(2010) Learning to live together: Training early childhood educators to promote socio-emotional competence of toddlers and pre-school children. European Early Childhood Education Research Journal.18.373-390.
  • 7) 澤江幸則、木塚朝博、中込四郎(2014)『身体性コンピテンスと未来の子どもの育ち』.明石書店. 3-4.
  • 8) ガラヒュー,D.L.(1999)『幼少年期の体育 発達的視点からのアプローチ』.杉原隆(監訳).大修館書店. 37-48.
  • 9) 柴真理子(1993)『身体表現―からだ・感じて・生きる』.東京書籍. 57-69.
  • 10) Suzuki.Y.(2020) The Effect of Physical Play Experiences on Early Childhood Non-cognitive Skills Development. Journal of Education and Development, 4-3, 54-72.
  • 11) Scheier, M. F., & Carver, C. S.(1985) Optimism, coping, and health: Assessment and implications of generalized outcome expectancies. Health Psychology, 4, 219-247.
  • 12) 中澤潤、泉井みずき、本田陽子(2009)「幼児の有能感の認知と遂行の関連―幼児楽観性の視点から―」.『千葉大学教育学部研究紀要』. 57. 137-143.
  • 13) 平野真里(2021)「レジリエンス」.小塩真司(編)『非認知能力』. 北大路書房. 225-238.
  • 14) 小野寺敦子(2021)「エゴ・レジリエンス」. 同上(13). 239-252.
筆者プロフィール
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鈴木裕子(すずき・ゆうこ)


(愛知教育大学幼児教育講座教授)
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科修了。博士(学校教育学)。 専門は保育内容学、身体教育学。乳幼児期の子どもの体と心の相互作用をテーマとし、模倣、感性、遊び込む、身体表現活や動運動遊びの心理社会的効果などの研究に向き合ってきた。近年は、非認知能力の醸成を明らかにしたいと、試行錯誤しつつの日々。現在、3歳児からの縦断的調査を継続中。
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