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パネルディスカッション:国際調査から見る「社会情動的スキル」と親子のかかわり

榊原 洋一(CRN所長、ベネッセ教育総合研究所常任顧問、お茶の水女子大学名誉教授)
持田 聖子(ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 研究員)
無藤 隆(白梅学園大学大学院特任教授)
周 念麗(中国・華東師範大学教授)
ソフィア・ハルタティ(インドネシア・ジャカルタ国立大学教育学部長)
エリヴァ・シャムシアティン(インドネシア・ジャカルタ国立大学講師)
高岡 純子(ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長)

2019年3月15日掲載
English

座長:榊原 洋一(CRN所長、ベネッセ教育総合研究所常任顧問、お茶の水女子大学名誉教授)
結果の共有:持田 聖子(ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 研究員)
パネリスト:無藤 隆(白梅学園大学大学院特任教授)、周 念麗(中国・華東師範大学教授)、ソフィア・ハルタティ(インドネシア・ジャカルタ国立大学教育学部長)、高岡 純子(ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長)

司会:小泉 和義(ベネッセ教育総合研究所 副所長)

ベネッセ教育総合研究所の「幼児期の家庭教育国際調査」の概要
子どもの社会情動的スキルの発達を支える「寄り添い型」の養育態度

司会 ベネッセ教育総合研究所(以下、同研究所)では、2017年、社会文化的背景の異なる4か国、日本・中国・インドネシア・フィンランドの都市部で、4・5・6歳の子どもをもつ母親約4,900人を対象とした「幼児期の家庭教育国際調査―4か国の保護者を対象に―」(以下、同調査)を行いました。その結果に基づきながら、パネルディスカッションを行います。パネリストとしては、同調査に協力してくださった各国の研究者をお招きしています。

はじめに、同調査の結果の概要を、同研究所次世代育成研究室研究員・持田聖子が説明します。

持田 本調査では、4か国それぞれについて、生活習慣・社会情動的スキル(学びに向かう力)・認知的スキル(文字・数・思考)という幼児期に必要な3つの力、それらを支える母親 の養育態度や養育行動 、親子の基本的な生活実態、母親の子育て意識や子どもへの期待を調べました。資料は国名で表示していますが、調査は都市部で行ったもので、国全体の結果を表すものではないことにご留意下さい。

まず、4つの観点から各国の特徴を紹介します。

1つ目は、子どもの生活習慣として、挨拶などの社会的なスキルや、排せつの自立、就寝や衣服の片づけなどについて聞きました(図1)。結果をみると、「子どもは、夜、決まった時間に寝ることができる」については、日本とフィンランドで「とてもあてはまる」の比率が高く、この2国には規則正しい生活リズムが身についている子どもがより多い傾向にあるようです。

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図1

2つ目は、子どもの家庭学習における母親のかかわりです。図2を見ると、中国やフィンランドの母親が、知育玩具などを使って子どもに学習するような遊びをさせたり、子どもが文字や数に興味を示した時に、さらに学べるように環境を整えたりすることに熱心に取り組んでいることが分かります。また、その2国の母親は、子どもと一緒にお絵描きや工作などで遊んだり、子どもにお手伝いをさせたりすることにも、より力を入れていました。

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図2

3つ目は、母親の子どもへの意識です。母親が子どもをどのような存在としてとらえているかを聞いたところ、子どもをポジティブな存在として捉えていることは各国に共通する一方、国による特色も見られました(図3)。例えば、「生活や人生を豊かにしてくれる存在」という回答はフィンランド、「自分とは独立した人格をもつ存在」という回答は中国で目立ちました。インドネシアでは、「先祖や家を受け継いでくれる存在」「自分の夢を託すことのできる存在」「自分の面倒を見てくれる存在」といった回答が多く、未来を託す存在として子どもを捉えていることがうかがえます。日本で多かった回答は、「配偶者・パートナーとの関係をつないでくれる存在」であり、「子はかすがい」という言葉がある国らしい価値観だと言えるでしょう。また、「将来の社会を担ってくれる存在」という回答は、他国に比べて日本は少なくなっていました。子どもは未来のための存在というよりは、家族のものと捉えているのかもしれません。

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図3

4つ目は、母親が期待する子どもの将来像です(図4)。各国に共通する傾向としては、「自分の家族を大切にする人」の比率の高さが目立ちます。国別に見ると、日本と中国では「自分の考えをしっかりもつ人」、インドネシアでは「リーダーシップのある人」、フィンランドでは「友だちを大切にする人」の比率が高くなっています。日本の特徴としては、「他人に迷惑をかけない人」という回答について、日本だけが4割以上となっていました。

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図4

次に、各国における社会情動的スキルの発達と保護者のかかわりを見ていきます。なお、ベネッセ教育総合研究所では、社会情動的スキルを、「好奇心」「協調性」「自己主張」「自己抑制」「がんばる力」から成る「学びに向かう力」と位置づけており、本調査でもこの枠組みを用いています(図5)。

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図5

図6には、6歳児における学びに向かう力の発達状況を国別・スキル別に示しています。いずれの国でも、好奇心のポイントが最も高くなっている一方、がんばる力や自己抑制のポイントは、好奇心に比べて低い傾向にあります。こうした結果を見ると、文化が違っても子どもらしさというものは共通しているように思います。

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図6

図7は、子育て方針について、母親が力を入れている程度をたずねたものですが、「他者への思いやりをもつこと」「自分の気持ちや考えを人に伝えること」「興味や関心を広げること」といった、「協調性」や「自己主張」、「好奇心」のような「学びに向かう力」として設定したスキルに関連するものが、各国ともに8~9割を占めていました(図7)。

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図7

また、母親の養育態度については、2軸を設定して調査しました(図8)。1つは、「子どもがやりたいことを尊重し、支援している」「どんなことでも、まず子どもの気持ちを受け止めるようにしている」といった「寄り添い型」であり、もう1つは、「私が一緒にいてあげないと、子どもは自分のことができないのではないかと心配になる」「子どもに対して過保護である」といった「保護型」です。結果を見ると、各国ともに、寄り添い型の養育態度の割合が高くなりました。但し、インドネシアにおいては、保護型のうち2項目について、他国よりも高い傾向がありました。

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図8

寄り添い型の養育態度は、子どもの学びに向かう力の発達と正の相関がみられました。例えば、いずれの国においても、母親の寄り添い型の養育態度が高くなると、子どもの好奇心の値も高くなっていました(図9)。母親が、子どもの気持ちに寄り添い、子どものやりたいことを尊重するような寄り添い型の養育態度が、子どもの社会情動的スキルを育んでいることがうかがえます。

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図9

今回の調査をはじめるにあたり、各国の保育所や幼稚園、家庭を訪問した中では、子どもの意思を尊重し、寄り添う母親の姿を目の当たりにしました。そして、言葉や文化、生活環境が異なる社会においても、母親が子どもに示す温かさは変わらないと、身をもって感じました。調査結果を見ると、各国の学びに向かう力の発達は似ており、寄り添い型の養育態度も共通しています。それは、私の実感を裏づけるものではないでしょうか。

日本の育児
人間関係を重視した育児が、社会情動的スキルの発達を支える

司会 続いて、各国のパネリストに、自国の育児の現状と課題について発表していただきます。

無藤 私は、同調査結果から見える日本の特徴を中心に、3つの観点から紹介します。

1つ目は、母親の育児の意識ですが、日本では、子どもの考えを尊重し、子どもの自立を促すことを重視しながら、友だちや家族との人間関係の構築に力を入れていることが分かりました。例えば、持田研究員の発表にもありましたが、子どもを自立した存在と認めながらも、自分と配偶者をつなぐ存在として見ています。これは、家族という人間関係の中で子どもを捉えていることの表れだと思います。また、おそらく日本の伝統的な価値観として、他人に迷惑をかけないようにするという意識も強く保持されています。

2つ目は、好奇心・協調性・自己主張・自己抑制・がんばる力で構成される、学びに向かう力についてです。ポイントが最も高くなったのは、4か国ともに好奇心でしたが、2番目に高ポイントになったものは国によって分かれ、日本では協調性でした。これは、幼児期から他者と一緒に活動することを大切にするという、日本の育児の特徴を示していると考えられます。

3つ目として、学びに向かう力の発達と関連する親の養育要因を見ていきます。持田研究員の発表でも述べられたように、今回の調査では、養育態度を寄り添い型・保護型に二分しましたが、各国ともに寄り添い型が多くなり、そうした養育態度が子どもの学びに向かう力の発達と関連しているということが分かりました。データとしては出していませんが、寄り添い型の中でも、親子で一緒に遊ぶ機会が多いほうが、子どもの好奇心は高くなっています。特に、人と人のつながりを重視した育児が行われている日本では、親子の関係を含む人間関係の質が、学びに向かう力の発達を左右する重要な要素になっていると言えるでしょう。

一方、数や文字の学習に関係する、いわゆる認知的スキルの発達では、養育態度そのものが直接影響するというよりも、知的な学習のための教材を用意したり、定期的に知的な遊びを取り入れたりするといった学びの環境整備と相関があるようです。そのため、数や文字といった認知的スキルと、社会情動的スキルである学びに向かう力とは、発達のルートが相当に異なっていますが、両者の間には、おそらく何らかのつながりがあると思います。私は、両者をつなぐものの1つとして、思考力があるのではないかと推測しています。

親が子どもに質問したり、理由を尋ねたりするといった子どもの思考を促すやりとりは、学びに向かう力の発達と相関があると考えられますが、認知的スキルにかかわる、さらに広い思考力の発達にも影響を及ぼしているのかもしれません。つまり、社会情動的スキルと認知的スキルをつなぐものとして、子どもの広い意味での思考力の発達があり、それが、例えば好奇心などによって支えられている可能性があるのです。子どもの思考力の発達過程を、親への質問を通して把握するのはなかなか難しく、今のところは確定的なことは言えませんが、今後の調査の課題にしたいと考えています。

中国の育児
本当に子どもの意思を尊重しているだろうか

 今回の調査結果を見ると、中国の母親は、子どもの学びに向かう力のうち、自己主張を大切にする一方、自己抑制をあまり意識しない傾向があることが分かります(図10)。中国の3都市、上海・北京・成都で4・5・6歳の子どもをもつ母親を対象に調査を行いましたが、自己抑制よりも自己主張を重視しているという結果が出ています(図11)。

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図10
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図11

中国の母親の8割以上は、子どもの意思を尊重したり、子どもの自立を促したりすることについて「意識している」と回答しています。しかし、本当にそうしているでしょうか。例えば、中国では、受験に向け、非常に早い段階から認知的な学習に力を入れる家庭が少なくありません。また、子どもが4・5歳になっても、ご飯を自分で食べず、親が食べさせている家庭が目立ちますし、町を歩いていると、子どもの持ち物を、親が代わりに持ってあげている姿をよく目にします。つまり、実際には、子どもの意思や自立を重視しているようには見えない親が多く、調査結果との矛盾が感じられるのです。

人間は、個人の特性だけではなく、その人の置かれた心理的な環境から様々な影響を受けて行動しているため、個人の行動を改善するためには、集団の心理的環境に注目する必要があります。これを、「『場』の理論」と言います。

「場」の理論の観点から中国における育児を見ると、母親の心理的な環境を形成する要因は2つあると考えられます。1つは西洋文化であり、もう1つは中国の伝統的な文化です。ただ、前者については、表層的な憧れにとどまり、本質を理解していないと思います。また、後者については、経済的な成長などを背景に、以前とは大きく変わってきています。そうした両者の課題が、子どもの自己主張ばかりを重視したり、意思や自立の尊重と矛盾する行動に出たりするといった、育児の課題を生んでいると考えられます。

母親の矛盾した行動に基づく育児が、子どもの成長によい影響を及ぼすわけがありません。中国の伝統的な思想の1つである陽明学では、言行の一致を重視します。中国の母親には、陽明学を思い出すとともに、西洋文化への理解を深め、自身の行動を振り返り、改善していってほしいと思います。そうするための「場」の整備が、今後の国家的な課題になると考えています。

インドネシアの育児
親族や地域が力を合わせて育児をするという伝統

司会 インドネシアについては、ジャカルタ国立大学教育学部からお招きした2人の先生、ソフィア・ハルタティ教育学部長とエリヴァ・シャムシアティン講師から発表していただきます。

ソフィア・ハルタティ 子どもの学習の動機・生活習慣・育児中の親のワークライフバランスという3点から、インドネシアの育児の全体的な傾向を見ていきます。

学習の動機については、就学前から読み書きや数字の習得に力を入れなければならないと考えている母親が目立ちました。そうした意識はありながらも、全回答者のうち、知育玩具を与えていない人が約半数、絵本を与えていない人が約2割を占めています。また、多くの子どもが、スマートフォン(以下、スマホ)を使っていました。 一方、文化的な背景として、ほとんどの母親が、子どもと踊りや音楽、歌を楽しむような活動をしていました。そうした活動が、子どもの学びに向かう力を発達させる大きな要因になっていると考えられます。

生活習慣については、母親の約6割が、子どもに早寝早起きをさせていました。インドネシアでは、国民の9割近くがイスラム教徒ということもあり、今回の調査においても、親子で6時30分までには起床し、ともに朝のお祈りを行っているという回答が目立ちました。そうした、母親の宗教的な熱心さは、子どものイスラムの学習にも見られます。コーランを早くから読ませるとともに、回答者の約4割が、コーランを学ぶ習い事をさせています。敬虔な宗教心をもつことにより、子どもの学びに向かう力の発達を促し、豊かな生活につながると考えていることがうかがえます。

また、屋外での遊びを重視する傾向や、友だちとの交流を大切にする傾向も見られます。一方、おもちゃを片づけたり、食器を洗ったりするといった簡単な家事を子どもに手伝わせている母親が多く、それらが、子どもの生活スキルの獲得につながっていると言うことができるでしょう。

育児中の親のワークライフバランスについては、子どもや友人、親族との交流を仕事に優先させたいと考えている母親が目立ちました。また、おじ(伯父・叔父)やおば(伯母・叔母)、祖父母、あるいは地域の人の手を借りて、子どもたちの安全を確保しながら、育児をしているという回答も少なくありませんでした。

エリヴァ・シャムシアティン 両親が共働きをしているある家族を例に、具体的な育児の様子を紹介しましょう。祖父が毎日のように家にきて、親代わりをしたり、コーランの知識が豊富なおばが、子どもの学習を手伝ったりするというように、親族の協力を得ながら育児をしています(図12)。

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図12

図13の左の写真は、お祈りをしているところです。お祈りはしつけの重要な要素と位置づけられています。親は宗教教育の責任も担っており、家にいれば子どもとともにお祈りをします。

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図13

また、先ほどソフィア・ハルタティがお話ししたように、スマホが頻繁に育児に活用されています(図14)。親としては、スマホを使うことによって、好奇心を満たすことができると考えているようです。

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図14

こうした現状を見ると、インドネシアの育児は個人の力に頼っているところが大きいと感じます。よりよい育児を実現するためには、行政的な支援を充実させていく必要があるでしょう。例えば、国策により、絵本を始めとする書籍や幼児教育の教材を家庭に提供するべきだと考えています。また、子どもの認知的・非認知的の両スキルの育成について、親の知識を高めていけるよう、幼児教育サービスにおける親向けのプログラムの開発も必要だと思います。

育児に関する研究や調査も、今後の課題です。その1つとして、育児に関する親の価値観をさらに調査していくべきだと考えています。そうすれば、より多くの教材を親のために開発することにつながるでしょう。また、幼児教育や初等教育のカリキュラムに基づきながら、子どもの学びに向かう力の発達を研究しなければなりません。インドネシアでは、3年前にカリキュラムの改革が行われたため、今後は、新しいカリキュラムに即して教材を開発していく必要があります。

親族同士や地域が力を合わせて育児をするという素晴らしい伝統を守りながら、そうした連携の輪を、学校や社会へと広げていきたいと考えています。

フィンランドの育児
子どもの独立を理想とし、家庭では子どもの興味・関心に任せる

司会 本日、フィンランド・ヘルシンキ大学の先生方は来場されていませんが、代わりにビデオメッセージを頂きました。ビデオメッセージを観た後、ベネッセ教育総合研究所次世代育成研究室研究室室長・高岡純子が代わって発表します。

高岡 フィンランドの育児や親子関係の特徴を、5点にまとめて紹介いたします。

1点目は、子どもの生活リズムが規則的であるということです。ほとんどの母親が子どもを保育所に預け、フルタイムで働いているため、子どもは朝食を保育所で食べることがあり、そのような生活の中で、生活リズムを身につけている様子がうかがえました。

2点目は、父親が日常的に家事や子育てに参加している様子がみられる点です。フィンランドでは、就業開始の時刻が早く、帰宅時間が父親も母親も早い傾向にあります(父親は16時台と17時台で約8割、母親は16時台で約5割)。そのため、父親も日常的に家事・育児にかかわる比率が高い傾向が見られました。

3点目は、家庭における子どもの教育です。家庭では、子どもの興味を大切にした子育てを重視している様子がうかがえました。家庭においても、手紙や数字遊びなどを通して文字などを学ぶことはありますが、基本的には子どもの好奇心に応じた関わりを大切にしています。小学校入学に向けて特別な準備をしていなくても、約3分の1の子どもたちは入学時には文字を読めるようになっています。

4点目は、家庭におけるデジタル機器の普及や習い事の高さです。タブレット端末を週3日以上使っている子どもの割合は、約46%と他国より頻度が多くなっています(日本では約15%)。また、スポーツや音楽活動を中心に、習い事をしている子どもは約78%であり、日本よりも高い割合となっています(日本では約68%)。

5点目は、親の子育て観です。フィンランドでは、学びに向かう力を育むことや、仲間同士の協力的な関係作りなどが重視されていました。「親子でたくさん触れ合うことが大事である」という回答も多く、約73%を占めています(日本は約30%)。一方、親が子どもの自立や成長を積極的に支援する傾向が見られ、「子どもの自主性を重んじている」という回答が約66%を占めました(日本も約70%と高い傾向)。養育態度では寄り添い型が非常に高く、保護型は低くなっています。

また、「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」という回答は約83%で、4か国の中で最も高い比率となっています(日本は約57%)。母親としての人生と、1人の大人としての人生を両立させようとする気持ちがうかがえるかと思います。

フリーディスカッション
社会情動的スキル・学びに向かう力についての多角的考察

榊原 ここまでの発表を踏まえ、パネリストと会場の皆様とのフリーディスカッションを行いたいと思います。

質問者A インドネシアのジャカルタ国立大学の者です。なぜ、社会情動的スキルを学びに向かう力と呼んでいるのでしょうか。

無藤 社会情動的スキルは、国際的にはしばしば非認知的スキルとも呼ばれています。子どもの成績や集団への適応性などを検討するためには、認知的スキルだけではなく、社会性や情動性も重要だということが明らかになった2000年代以降、世界中で注目されるようになりました。

日本では、伝統的に、子どもの社会性や情動性を大切にしてきました。特にこの10年は国際的な動きを取り入れながら、新しい保育所や幼稚園のあり方を模索する中で、国としても、知識や思考力とともに、社会情動的スキルに基づく学びに向かう力を重視するという方針を設け、そのカリキュラムの作成を目指すようになったのです。

さきほど持田研究員も述べていましたが、学びに向かう力とは、好奇心・協調性・自己主張・自己抑制・がんばる力で構成されています。それらは、感情や人とのかかわりに支えられて働くものです。例えば、自ら目標を立てて頑張るためには、認知的スキルだけではなく、強い動機づけという非認知的スキルが必要になります。幼児期からそうした力を発達させていく中で、学ぶこと自体を楽しいと思える子どもになってほしいという意味を込めて、学びに向かう力と名づけたのです。

質問者B 自己主張は、英語では「self-assertion」であり、相当に幅広い概念を含みます。むしろ「自己表現」のほうが適していると思うのですが、いかがでしょうか。

無藤 自己主張は、まとめとして用いている言葉です。具体的な質問項目は、「自分が何をしたいかを言える」「ほしいもの、してほしいことを大人に頼める」「友だちからいやなことをされたら、『いや』『やめて』などと言える」「友だちと意見が違っても、自分の意見を主張することができる」であり、自己主張と自己表現を織り交ぜたような内容になっています。

質問者C マレーシアのクリニックで小児科医をしている者です。マレーシアでは、育児に祖父母が密接に関係しており、母親以上に子どもに影響を与えている祖父母も少なくありません。そのため、祖父母は、子どもの教育を左右する存在だと言っても過言ではないほどです。4か国における祖父母のかかわりについて、データはありますか。

持田 「母親以外に子どもの面倒を見る人はだれか」を複数回答で尋ねたところ、中国では、「祖父母」という回答の割合が最も高くなりました。ほかの3国でも、6割強が祖父母と回答しています。祖父母以外では、インドネシアでは「近所の人」、日本では「保育園の一時預かりや幼稚園の預かり保育を利用する」という回答比率が他の国より高い傾向がみられました。

質問者D マレーシアのスルタン・イドリス教育大学国立子ども発達研究所の者です。周先生の発表では、西洋文化の育児への影響が述べられました。そうした影響は、アジアの他国ではありますか。

ソフィア・ハルタティ インドネシアでは、近年、社会階層が比較的高い都市部の親は、子どもを保育所に預ける傾向にあります。これは、西洋文化の影響を受けた結果だと思います。一方、社会階層がそれほど高くなかったり、地方に住んでいたりする親は、子どもを保育所に預けるよりは、夫婦や親族、地域が力を合わせて面倒を見るという従来通りの育児をしています。

無藤 日本では、必ずしも西洋文化の影響ではありませんが、伝統的な育児が継承されにくくなっています。

今回の調査は、4か国ともに都市部で行いました。日本では、東京を中心とした首都圏において核家族化が進み、祖父母の同居率が非常に低くなっています。そのため、時々、祖父母の手を借りることはあっても、毎日のようには助けてもらえないという状況になり、育児について、祖父母から助言をもらう機会も減っています。一方、20~30代の母親では、自分の友達やインターネットを介して様々な育児の情報を参考にするという人が目立ちます。そうした中で、伝統的な日本の育児のスタイルとは少しずつ変わってきています。今後、変化はさらに進行するでしょう。

質問者E 元十文字学園女子大学教授です。私も、周先生の発表内容に関連する質問があります。中国では、母親の回答と実際の行動に矛盾が見られるという話でしたが、従来の育児の調査結果を見ていると、日本でも、建前と本音を分けて答えたり、調査で期待されていることを忖度して答えたりする傾向があったと思います。今回の調査では、回答と実態の整合性を検証していますか。

高岡 今回の調査では、そうした点をチェックする項目は設けていませんが、各国の監修の先生方と相談しながら、どの程度ずれが生じているのか、妥当性はどれくらいなのかについて確認を行っています。

榊原 私は、今回の調査のアドバイザーを務めていますが、回答と実態に違いがあることは十分に意識しています。実態をしっかり把握するためには、現地へ足を運び、自分の目で観察・確認する必要があります。将来的には、そうした調査を行いたいと考えています。

質問者F 昨今の傾向として、保育園に通う子が増える中で、子どもの社会情動的な発達のためには、第二の親のような存在として、保育士たちの関わりも重要になると思います。今回の調査を、カリキュラム策定や保育者トレーニングに生かすという可能性はあるでしょうか。

無藤 日本の幼稚園教育要領や保育所保育指針には「学びに向かう力」という記述がありますが、まだその実態がはっきりしていない部分もあります。今回の調査結果が先生方の実践につながるように期待しています。

質問者A 問題提起を兼ねてうかがいます。子どもの発達には、認知的スキル・非認知的スキルがともに必要だと思いますが、両者を最も効果的に涵養するためには、どのようなプログラムが考えられますか。

榊原 今のところ、そうしたプログラムを具体的に示すことは難しいのですが、遊びは、両スキルの発達にきわめて大きく影響しています。

このパネルディスカッションは非常に対話的で、いろいろなことを学ぶことができましたが、時間が来てしまいました。パネリストの皆様、オーディエンスの皆様、ありがとうございました。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg 榊原 洋一
医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。
主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。

Seiko_Mochida.jpg" 持田 聖子
妊娠・出産期から乳幼児をもつ家族を対象とした調査・研究を担当。主な調査は、「妊娠出産子育て基本調査」「未妊レポート─子どもを持つことについて」など。 生活者としての視点で、人が家族を持ち、役割が増えていくなかでの意識・生活の変容と環境による影響について調査・研究を行っている。 2016年より、幼児期の「学びに向かう力」と家庭教育についての国際調査に携わっている。

takashi_muto.jpg 無藤 隆
白梅学園大学大学院特任教授。聖心女子大学、お茶の水女子大学などを経て現職。専門は、発達心理学、幼児教育。
主な著書に、「幼児教育のデザイン」(東京大学出版会)、「幼児教育の原則」(ミネルヴァ書房)、など。
社会的活動として、元・日本発達心理学会会長、保育教諭養成課程研究会理事長、国立教育政策研究所上席フェロー、文部科学省中央教育審議会委員、内閣府こども・子育て会議会長。

nianli_zhou.jpg 周 念麗
中国・華東師範大学就学前教育学部心理研究室主任、教授。1995年にお茶の水女子大学心理学士号、1998年東京大学大学院教育学修士号、2003年中国華東師範大学心理学博士学位取得。2004年6-12月、米国Arizona State University客員研究員として乳幼児の情緒発達を研究。2006年5月-2007年3月、国際交流基金フェローとして、名古屋大学で統合保育について研究。研究領域は児童心理、親子関係、0-3歳児の多元知能の測定と育成方案。主な著作に、「就学前児童の発達心理学」「就学前児童の心理健康と指導」「自閉症児の社会認知――理論と実験研究」「就学前特殊児童の統合保育における比較と実証研究」、「0-3歳児の多元知能の評価と育成」など。

sofia_hartati.jpg ソフィア・ハルタティ
ジャカルタ国立大学教育学部長、インドネシア幼児協会(APG-PAUD)会長。 PECERA(太平洋幼児教育研究協会)インドネシア代表理事。国立アクレディテーション機構高等教育査定官。
研究分野:0~8歳児の社会科および社会研究。教員養成および教育技術。
実績:幼児教育の書籍や記事を多数執筆。大統領夫人が運営する、政府系地域児童向けプログラム「Mobil Pintar(スマートカー)」の教育コンサルタント。幼児教育教員養成のカリキュラム開発。

Eriva_syamsiatin.jpg エリヴァ・シャムシアティン
ジャカルタ国立大学教育学部幼児教育講師、インドネシア幼児協会(APG-PAUD)会員。国立アクレディテーション機構幼児教育査定官。
研究分野:研究分野は、0-8歳児の算数の他、教員の能力開発、リーダーシップ養成、また子どもの象徴機能の発達など。
実績:幼児の研究を国内外の学会で共有、国立教員能力試験により測る教員の能力の主要研究者。

Junko_Takaoka.jpg 高岡 純子
ベネッセ教育総合研究所次世代育成研究室 室長/主任研究。2006年より現職。乳幼児領域を中心に子ども、保護者、教師を対象とした意識や実態の調査研究、「学びに向かう力」の発達研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。これまで担当した主な調査は、「幼児の生活アンケート」、「乳幼児の父親についての調査」、「妊娠出産子育て基本調査」など。文部科学省 「幼児教育に関する調査研究拠点の整備に向けた検討会議」委員(2015年度)、三重県家庭教育委員会委員(2016年度)、千代田区こども子育て会議委員(2014年~)、など。

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