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コロナ禍での子どものウェルビーイングとレジリエンス【前編】―レジリエンスとは何か

調査の背景

中国の武漢市で新型コロナウイルス感染症の第1例目の感染者が報告されたのは、2019年の12月。それから3年弱が過ぎましたが、2022年9月現在、新型コロナウイルスは依然として私たちの生活を脅かし、子どもたちの生活や学びに影響を及ぼしています。

CRNでは、2021年8~11月に、日本を含むアジア8か国*の5歳または7歳の子どもをもつ母親を対象とした「子どもの生活に関するアジア8か国調査2021」を実施しました。先行する調査や研究では、コロナ禍の長期化によって多くの子どもが心身に不調を感じ、「ウェルビーイング(心身の良好な状態、幸福)」の実現が脅かされていることが明らかになっています。

そこでCRNは、アジア8か国の共同研究者とともに、コロナ禍における子どものウェルビーイングの状況と、その実現に必要と考えられる「レジリエンス(困難な状況に適応して回復する力)」に着目した調査を企画しました。国際比較を通して共通点や相違点を発見することで、それぞれの国の実情に合った対策を検討することをねらいました。

*参加したアジア8か国:日本、中国、フィリピン、マレーシア、台湾、インドネシア、シンガポール、タイ

ウェルビーイングとは何か

調査結果をご紹介する前に、まず用語の解説から入りましょう。
「ウェルビーイング」とは、心身の良好な状態、幸福を指します。本調査では、QOL(Quality of Life=生活の質)を広く測定するKINDL尺度(Ravens-Sieberer & Bullinger開発)を使用し、子どものウェルビーイングの状況を測定しました。KINDL尺度は「身体的QOL」「心理的QOL」「自尊感情」「家族関係のQOL」「友達関係のQOL」「日常機能(学校や園)」という6領域で構成されています。

レジリエンスとは何か

「レジリエンス」とは困難な状況に適応して回復する力を指し、立ち直り力、精神的回復力、しなやかな強さ、折れない心、などと表現されることもあります。先行研究では、心の強さには「ハーディネス」と「レジリエンス」という、下記に述べる2種類があると言われていますが、今回ご紹介するCRNのアジア8か国調査は、ハーディネスではなくレジリエンスに着目して実施しました。

<2種類の"心の強さ">
  • ハーディネス:どんな逆境も跳ね返す屈強な抵抗力。ストレスの影響を受けない
  • レジリエンス:逆境にあってもストレスを受けても柔軟な心持ちで対応し立ち直る

レジリエンスには、逆境におけるレジリエンスと日常におけるレジリエンスの2つの側面があり、逆境では災害や病気からの、日常においては日々降りかかる苦境やストレスからの回復や立ち直りを支える力となります。このレジリエンスという用語が日本で注目されたのは、OECDのPISA調査です。ここでは、社会経済的背景が低いにもかかわらず良い成績をあげる生徒について、「レジリエントな生徒」という言い方で表現されました。これが、日本の教育界に「レジリエンス」という概念を知らしめたきっかけのひとつになったようです。

また東日本大震災以後の災害復興の文脈で、「レジリエンス」という言葉が広く一般に用いられるようになりました。2019年に出版されたOECDの"Educating 21st Century Children (21世紀の子どもたちの教育)"の中で、レジリエンスは社会情動的スキルやデジタルリテラシーと同列に位置付けられ、21世紀を生き抜くために必要なスキルとして語られています。2020年頃からは、新型コロナウイルスによるパンデミックが子どもにストレスをもたらしているという文脈で、英語圏ではレジリエンスが取り上げられるニュースが多く見られるようになりました。

本調査ではPMK-CYRM-R尺度(カナダのResilience Research Centre開発)を使用し、子どものレジリエンスを測定しています。この尺度は、「子ども個人に関わるレジリエンス(Personal resilience)」と「養育者等に関わるレジリエンス(Caregiver resilience)」の2領域で構成されています。

コロナ禍での子どものウェルビーイングには、レジリエンスの育成が重要

ではここから、調査結果をご紹介していきます。調査は5歳または7歳の子どもをもつ母親を対象に実施しましたが、すべての結果を紹介すると散漫になるため、本稿では5歳のデータを抽出して行った分析に焦点を絞ります。

分析結果より、8か国共通で、子どものウェルビーイングにレジリエンスが関連していることが明らかになりました(図1)。レジリエンスが高いほど、子どものウェルビーイング得点が高いということです。図2は、8か国データの中から日本のデータを抽出して分析した結果ですが、8か国共通で同様の結果が出ています。

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■図1 子どものウェルビーイングとレジリエンスの関連

※両者の相関係数は、日本0.630、中国0.679、フィリピン0.468、マレーシア0.473、台湾0.659、 インドネシア0.616、シンガポール0.691、タイ0.523(いずれも、p<0.001)

レジリエンスが高い群ほどウェルビーイングが実現できている
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■図2 【日本5歳】レジリエンスの高さ別の子どものウェルビーイング得点

※レジリエンス3群:レジリエンスに関わる17項目(PMK-CYRM-R尺度を使用)を5件法で調査、得点化して足しあげ、分布をもとになるべく均等に高群・中群・低群の3群に分割。
※ウェルビーイング得点:ウェルビーイングに関わる24項目(KINDL尺度を使用、「ぜんぜんない」1点~ 「いつも」5点)を合計して、項目数で割った数値(1~5点に分布)。上記では各群(レジリエンス高中低)の平均点を算出した。

これらの結果から、コロナ禍のような困難な状況で子どものウェルビーイングを実現するには、レジリエンスを育むことが重要だと言えます。

後編では、このレジリエンスを育むための要因について、調査結果に基づきご紹介します。



参考文献
  • Seiko Mochida, Mieko Sanada, Qinfeng Shao, Jiwon Lee, Junko Takaoka, Satoko Ando & Yoichi Sakakihara (2021): Factors modifying children's stress during the COVID-19 pandemic in Japan, European Early Childhood Education Research Journal, DOI: 10.1080/1350293X.2021.1872669
  • Office of Quality of Life Measures https://www.kindl.org/english/information/
  • 小塩 真司・平野 真理・上野雄己, レジリエンスの心理学, 金子書房, 2021
  • 小林 朋子編著, しなやかな子どもを育てるレジリエンス・ワークブック, 東山書房, 2019
  • Masten, A. S., Best, K. M., & Garmezy, N. (1990). Resilience and Development: Contributions from the Study of Children Who Overcome Adversity. Development and Psychopathology, 2, 425-444.
  • OECD, 2011, PISA IN FOCUS
    https://www.oecd.org/pisa/pisaproducts/pisainfocus/48165173.pdf
  • OECD's Centre for Educational Research and Innovation, Oct. 1, 2019, Educating 21st Century Children Emotional Well-being in the Digital Age
    https://www.oecd-ilibrary.org/education/educating-21st-century-children_b7f33425-en
  • Resilience Research Centre. https://cyrm.resilienceresearch.org/

筆者プロフィール
Junko_Ogawa.jpg 小川 淳子(CRN研究員)

チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)研究員、ベネッセ教育総合研究所研究員。
2004年(株)ベネッセコーポレーション入社。2013年よりベネッセ教育総合研究所に所属し、CRNを運営。近年はアジア諸国の研究者からなるCRNA(Child Research Network Asia)を組織し、アジア8か国の研究者との国際共同研究を推進している。
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