CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 研究室 > 世界の幼児教育レポート > 【保育環境を創る】技01:保育環境を把握する技 《日本とスウェーデンを例に》

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

Laboratory

【保育環境を創る】技01:保育環境を把握する技 《日本とスウェーデンを例に》

佐藤 将之(早稲田大学人間科学学術院准教授)

2014年4月 4日掲載
中文 English

僕は、子どもの居場所をフィールドの中心として活動する環境行動研究者です。建築学を学びながら培ってきた環境を捉える視点を活かしながら、保育者や保育園・幼稚園運営者などの使い手が建築家となる(思いを実現できる空間を創造したり、具体的に作れるようになる)ことを目指して研究や活動を行っています。

全体を捉える・客観的な視点をもつ

図01、図02は、スウェーデンで見かけた事例で、保育室内での活動が一望できる位置に椅子を置いて保育者が座っている場面です。これがスウェーデンの特徴だと言いたい訳ではありません、日本では見かけにくい場面だというのが伝えたいことです。北欧では似たような場面を度々確認することができました。

lab_01_51_01.jpg   lab_01_51_02.jpg
図01. 保育者からみた保育室・
子どもたちの活動
図02. 平面図を活用した保育室内における保育者と子どもの位置関係
(図01.を平面図で表したもの)

読者のみなさんの中には、座って見ているだけではなく、子どもと何らかの関わりを持つべきだ、と思う人もいらっしゃることでしょう。僕からみなさんにお伝えしたいのは、海外の事例には、倣うことを見つけることよりも、自分たちが過ごしている「当たり前」を見つけることに価値があるということです。この事例では、保育に対するスタンスを捉えることができます。数回北欧を訪れた私の感覚では、居たいようにすればいいと思う、個人の行動を尊重する個人主義の居方がこのスタンスの背景にあると考えています。併せて、この場面から学ぶべきは、保育者が空間全体を捉えようとしていることにあります。この事例では、単に放任しているわけではなく、それぞれの活動を把握できる状態を作っていることに特徴があります。

保育室内のレイアウトを考える

実は、日本における保育施設内の家具が入った配置図・平面図をみると、建築を学んだ立場から強い違和感を持つことがあります。幼稚園や保育園を紹介するホームページやパンフレット等で見かけるのですが、掲載されている配置図などをみると、部屋と家具との縮尺や図の縦横比がバラバラで実際の環境とはかけ離れているものがあります。これらの図は保育者養成では「環境図」と呼ばれ、養成課程の中で学ばなければならないものとして、学生らが描いているようですが、養成校によっては、単に線で囲まれた枠内に部屋や家具を描いているそうです。保育建築では学校建築に比べて、保育室のかたちが多様にありますが、残念ながらそのかたちが環境図に反映されない事例、例えば実際の保育室が正方形の部屋であるのに、枠線に合わせた長方形の中に環境図が描かれるような事例も見られます。これでは計画された配置図が現実のものとは成り得ないものが作られます。

私が、園内研究や園内環境変更に関わる際には、必ず実際の平面図を用いています(図03)。図面には、日本の空間規格である90cm(畳の寸法が約90cm×180cm)ごとの補助線を薄く引くこともあります。

lab_01_51_03.jpg
図03. 保育者自らが付箋を切り貼りして検討した保育室内レイアウト案
(南大泉にじのいろ保育園)

これによって、平面図には家具の配置を描くだけで、現実に近い寸法の配置案ができあがります。図03では、保育者自らが付箋を切り貼りして家具のレイアウト案を作りました。

この時重要なのは、保育空間を変えることによって達成しようとするキーワードをセットにすることです。図03では、「支度をする」といった生活のキーワードや「ゴロゴロする」といった子どもたちの気持ちがわかるキーワードが記入されています。平面図を活用することで、遊びと生活のゾーンなどを対比したり、その空間でこそ達成される保育など、現場に立った時には気づきにくい客観的な視点を持ち、空間全体のバランスを捉えることができます。
※この、平面図を利用した園内環境研究ワークショップの方法については、また次回以降綴ります。

空間把握が人々を育む

日本の狭い保育室では、広く使おうとすると壁面に沿って家具配置をしようとする傾向が見受けられます。しかし、上記スウェーデンの事例や筆者らの研究(例えば、注1)から明らかになってきたことは、保育者にとって保育室が「広い」ということは、「広い面積が見える」のではなく、「より多くの活動場面が把握できる」ことだということです。そのために、家具は、いつも壁づたいに並べるのではなく、時には壁に対して垂直に、壁と家具がT字となるように設えること(図04)を保育者・運営者のみなさんに試して欲しいと思っています。

lab_01_51_05.jpg
図04. 保育者が園内研究で考案したレイアウト例
(品川区立小山台保育園,撮影・編集:佐藤研究室麻生沙希)

また、このような平面方向だけではなく、垂直の高さ方向で考えることで、ロフト(遊具)の設置という提案もできます(図05)。ロフトの設置は、実は保育環境把握に役立つと同時に、保育を行う床面積を増やす役割も果たしています。
※その他の効用についても次回以降綴ります。

lab_01_51_06.jpg
図05. 保育室に追加されたロフト
(こども園こどもむら,栗橋さくら幼稚園)

建築設計の際に創り出される空間は、高さ方向に関する提案を含んでいます。断面図がそれに当たり、平面では伝わらない面白さを高さ方向に対して行えているかどうかが鍵となります。設計の不得手な人は、断面図の提案が不得手です。ですから、保育者の環境設定能力には、高さ方向を含む環境の把握能力「空間把握能力」が関係していると、私は予想しています。空間把握能力を育むために、平面方向や断面方向に対して多様な要素を作り、その中で過ごすことが保育者の環境設定能力の向上につながるとの仮説を立てています。現在、当方の大学院生稲葉直樹がこの課題に取り組んでおり、その結果が楽しみな日々が続いています。


  • 注1)佐藤将之(研究代表者)ほか「保育・生活場面の展開と心身や空間把握能力の発達からみた保育施設環境の所要規模に関する研究」2009年3月,厚生労働科学研究費補助金(政策科学推進研究事業)研究報告書
筆者プロフィール
Sato_Masayuki.jpg 佐藤将之

早稲田大学人間科学学術院准教授 1975年秋田生まれ.秋田高校,新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了.江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職.2男児(4歳児, 小1)の父.


このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP