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【保育環境を創る】技02:保育環境をみんなで考える技

佐藤 将之(早稲田大学人間科学学術院准教授)

2014年6月 6日掲載
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僕は、建築・都市計画の視点に立ったワークショップ経験を活かし、園の先生たちとワークショップを行っています。A.保育施設を設計する時には「どんな建物を建てたいか」、 B.完成した後には「建物をどうやって使いこなすか」、あるいは C.園内環境を再考したり、室内の模様替えの時には「どんな子に育って欲しいか」を語りあい、みんなで一緒に出て来た言葉のつながりを考えます。

ワークショップしましょ!思いをひとつにする

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図1. お父さんたちが施工してくれた
「セミを捕るための遊具」
図2. 保育者たちとのワークショップでの
グループ発表
(図1,図2 共に川越ルンビニ幼稚園)

ワークショップには、何を作るか、何のために作るのかという思いをみんなでひとつにする力があります。「セミを捕るための遊具」をお父さんたちと作った事例をご紹介します。はじめは、「鉄製の登れる園庭遊具が錆びたので何か代わりにデザインしてください。」という依頼を受けたことがきっかけでした。そこで、先生たちと「こんな環境があったらいい」と語り合うワークショップを行いました(図2)。もし、ワークショップを行っていなかったら、「セミを捕る ための」といった方向性の遊具はできなかったと思います。

意見を引き出す、思いを創る

ワークショップにあたって、椅子と机と人と紙があれば、話し合いができます(図3,4)。はじめに、自分が提案しようとする具体的な場所(各室や園庭など)ごとに、少人数のグループに分かれることがポイントです。全員がそろう場では発言しにくくても、5~6名のグループでは、個々の意見が引き出されやすくなります(図3)。実はこの時、話し合いのグループ内に、当方の研究室スタッフや改修の実務者など、園の状況を知らない人に入ってもらうようにしています。保護者でも構いません。人に説明することでそれが欲しい理由や環境を変えようとする目的が保育者自身の中で整理されるからです。

グループで意見がまとまったら、次に全員でそれを共有することが大切です(図4)。さらに、保育室環境を議論する時には、薄く補助線を引いた平面図(技01に紹介)を用いると効果的です。平面図を用いると全体を客観的に見て考えることができ、具体的な環境が参加者全員に伝わることで、スケール感覚が身に付き、全員が環境設定のスペシャリストになっていきます。

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図3. グループに分かれて議論する
ワークショップの様子
図4. グループで考えたことを発表しあい、
思いを共有する
(図3,図4 共に南大泉にじのいろ保育園)

子どもの視点で捉える

保育環境を考える際には、子どもたちの視点も忘れてはなりません。図5は、スウェーデンの保育施設(フォーシュコーラ:就学前保育施設の名称)で見つけたものです。室内にある遊びの種類(各コーナー)の写真を掲示し、子どもたちは名前入りのクリップで自分の今気に入っているものに投票するという取り組みでした。ヒアリングしたところ、保育者らで話し合う材料としてこのシステムを試みているということでした。子どもたちの意見を聞く時、好きな場所、嫌いな場所を聞くのが最もわかりやすいかと思います。そうすると、大人からみて子どもが好きだろうと思っていた場所が実はそれほど好かれていなかったりする場合もあります。例えば、5歳児の描いた、園を紹介する絵を見てみると、自分なりの視点で園内の全体を捉えようとしていることがわかります(図6)。

現在、研究を重ねていますが、多様な環境が用意されていればこそ、子どもたちの多彩な描写を引き出すことができるでしょう。

音環境からみた子どもの環境把握を知るために、園内で集音した10秒間の「音クイズ」を用意して、ひとりずつ子どもたちに何の音かを聞いたことがあります。そうすると、子どもたちは音の出どころを答えようとするのではなく「○○くんと、○○する時の音」というように、人や活動と音とがセットとなり、子どもたちが体験する場面として説明することが確認できました。例えば、プールの近くにある風鈴の音を秋に聞いた時には、夏の水遊びの体験が語られました。この様に、子どもたちの感性を育むために園が設定した環境の効果を確認することができました(文1)。

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図5. 写真を掲示して投票する
図6.園を紹介するための描画として、
園庭を中心に俯瞰した図を描く例

(佐藤 研究室山岡史織が和光保育園にて調査)

環境づくりを通じた多様なつながり

環境づくりは、色んな人たちが関わることによってその意味や価値が変わります。図1の事例では、「見知らぬ先生が考えてくれた」というよりも「お父さんたちが作ってくれた」という方が、子どもたちにセミを捕ろうとする意欲が芽生え、遊具への愛着も湧きます。それだけではなく、お父さんたちも我が子の送迎時にはこの遊具にも目を向けるなど、我が子の保育環境に興味や愛着をもつようになったそうです。この取り組みを通して、お父さんたちの飲み会も開催され懇親が深まりました。環境づくりは、保護者の参画も含めて、色んな人たちが関わるきっかけを作ってくれます

図7の事例は、お父さんによる園庭の椅子づくりです。「パパ!いすを作って!!」と題して募集されました。本物の家具づくりのプロが指導する、お父さんの椅子づくりワークショップとしても捉えられるようになっています。ここでもお父さんたちのコミュニティが作られました。ワークショップを初めて開催する時には、恥ずかしがり屋のお父さんたちに応募してもらう工夫が必要です。子どもが作って欲しいと言っているというようなメッセージや、参加することによる面白さを伝えなければなりません。実は、図1の事例では、幼稚園からの勧誘の他に、父親参観の場で、僕が勧誘の漫談スライドショーをしました。

物理的環境は目に見えるものなので、お金をかければ、それなりに見栄えのよいものができます。それも大切なことですが、上に挙げた「欲しい・作りたい」「作らなければいけない」と思いを創り、環境ができあがるプロセス自体を楽しんでいただけると、それぞれの園ごとに意味のある環境ができあがっていくことでしょう。

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図7.公立保育園で土曜に開催した
園庭椅子づくり(協力=相澤陽さん)
図8.園庭で多用されている椅子。
回転して置くとテーブルにもなる。
(図7,図8 共に品川区小山台保育園にて)


文1) 佐藤将之・野口紗生・若盛正城,「保育施設における幼児の音環境認識に関する 研究」,こども環境学研究vol.6, No.1,p102、2010 年
筆者プロフィール
Masayuki_sato_2.jpg 佐藤将之

早稲田大学人間科学学術院准教授 1975年秋田生まれ.秋田高校,新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了.江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職.2男児(4歳児, 小1)の父.



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