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【保育環境を創る】技03:保育環境を変えていく技

佐藤 将之(早稲田大学人間科学学術院准教授)

2014年8月29日掲載
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子どもたちが日常を過ごしている園環境をあらためて考えてみるのが、これまでの連載:技01技02でした。保育環境を考えるにあたって、子どもたちに何を育んで欲しいのかという全体的なコンセプトから、「ゴロゴロする」といった子どもたちの気持ちがわかるキーワード、「セミ捕り」など子どもたちに体験して欲しい具体的活動を考えていくことが大切だということを伝えてきました。

また筆者はこれまで、各園が他の園の好事例をまねたり、好事例を簡単にでも実践できればいいと思い、多くの事例を集めて伝えようとしてきました。しかしながら、実際の保育現場ではそれぞれの部屋事情がありました。例えば、保育所では児童福祉施設最低基準で幼児ひとり当たりの面積が決められていますが、「保育室又は遊戯室の面積は・・・」と書かれています。それゆえ、ひとりあたり面積の計算は、みんなでいる遊戯室ではクリアされていても、主にクラスの居場所となる保育室では不足しているという場合があります。概ねその計算は、布団が敷けるかどうかでわかります。このような場合には、保育室の面積は非常に狭く、好事例をまねするどころではありません。保育者にとっては毎日を乗り切ることだけで頭がいっぱいになるのが容易に理解できます。

ためしにやってみる

狭い限られた保育空間の中で、全体的なコンセプトを意識しながら、子どもたちの気持ち具体的活動づくりを実現するのは至難の業です。なぜなら、園の日常生活では、保育空間としての第一義になりにくい「食べる」「寝る」「支度をする」といった生活行動を行わなければならないからです。これら全てのバランスや優先順位を考えているだけで1年が過ぎてしまいそうです。完成形を考えて一気に環境を変えると、それらに対する子どもたちの適応まで考えなくてはなりません。とりあえず変えてみて、子どもたちの反応を見ましょう。

図1-図3の園では、年度はじめに子どもたちが落ち着けることをテーマに園内研究を進めました。なかでも本を読むスペースに着目すると、5月の時点では壁沿いに棚が設置されていました(図1)。この時、このスペースを囲ってみたら落ち着くのではと予想し、棚と壁で囲うように設置をしました(図2)。図1の時にはジャンプをするなど落ち着かない幼児がいたのですが、図2の配置では見られなくなる効果がありました。本を読むこの場所が人気となったため、より多くの子どもが居られるように、図1、図2に写っている壁とは反対側の壁やままごとセットを活用して、囲まれたより広い空間を造りました(図3)。これらの図以外にも細かな設定変更が行われています。

lab_01_57_01.jpg   lab_01_57_02.jpg   lab_01_57_03.jpg
図1. 3歳児保育室における4月の図書スペース
図2. 3歳児保育室における7月の図書スペース
図3. 3歳児保育室における11月の図書スペース
(図1、 図2、 図3全て品川区三ツ木保育園での取り組み)

振り返り、変えた理由を考える

ためしにやってみた時に、子どもたちの反応を見つつ、なぜそれをやってみたのか、を考えることが重要です。目的をもってやってみたことは全て何らかの成果が得られるはずです。図1から図2の変更では、囲うことで、子どもたちの利用度が増し、ジャンプをするなど落ち着かない行動がなくなりました。図2から図3の変更では、他のコーナーと合わせて囲ったことで、より多くの子どもが入れるようになりました。ところが、実はこのあと、ままごとのコーナーとセットになったことで、本を読む静とままごとの賑やかな動とが混ざってしまい、新たな設定を検討し始めました。重要なのは、なんとなく変更してみた時の意図を考えることで、そのように意図をもった設定の変更は、何らかの問題点を少しはクリアしているはずです。絶対に失敗ではありません。このような変更のおためしが、理由を考えることにつながり、変更レパートリーのストックを作り、保育者の思いと実際の環境設定とのつながりを強めます。環境設定変更を重ねることが、保育者みなさんの環境設定能力を少しずつでも高めることにつながっているのです。以上のように、ひとつずつ、変えられそうなこと、加えられること、減らせることをとりあえずためしにやってみる過程でその理由を振り返りながら次を考えていくことがポイントです。

また、同じ空間であっても、子どもの人数や個人個人のキャラクター、クラスの雰囲気、季節などによって全く違った行動が見られるはずです。予想外の結果となるのは不自然なことではありません。ぜひ気軽に、まずは環境を変えてみましょう。

替えやすいようにしておく

設えを変えることが難しいなと思うときは、部分だけでも替えやすいようにしておく設定がオススメです。気軽な方法としては、例えば技01の図04にも写っている天蓋があります。天井が下がって落ち着いた場所となるだけでなく、天蓋の上の飾りを替えるだけでイメージが変わり、四季折々の楽しみを演出できることでしょう。

lab_01_57_04.jpg
図4. 天蓋設置の例.天蓋だけではなく、その上に飾りを載せている
(ドイツ[Kindertagesstätte in Bremen "Entdeckerhaus"],1歳児室).

以上のように、面積や隣の部屋との連続性など、それぞれの保育室にはそれぞれの事情があります。ですから一連の連載では、保育環境を変えるために「何を揃えればいいか」という話ではなくて、「どのように実行していくか」という方法や様子を伝えることを大切にしています。


筆者プロフィール
Masayuki_sato03.jpg 佐藤将之

早稲田大学人間科学学術院准教授 1975年秋田生まれ.秋田高校,新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了.江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職.2男児(4歳児, 小1)の父.



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