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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第30回 保育者と子どもの関わり方~自由遊び

シュリットディトリッヒ 桃子

2014年7月11日掲載

要旨:

記念すべき30回はECEC(Early Childhood Education and Care)に関連付け、「保育者と子どもの関わり方」という観点から息子の通う保育園を取材した特別レポート。ベルリンの園では、遊びを中心とした幼児教育、特に子どもが自主的に遊びを選択する「自由遊び」が重視されている。保育者は遊びの環境を準備して手助けをすることはあっても、子どもに干渉せず見守るだけ。渡独当初、私たちは「自由遊び」という名のもとで、子どもたちが「放置」されているように思え、当惑していた。しかし、今回の取材を通じて、ここでは「自由遊び」を通じて「子どもの自主性を育てること」「子どもの自立を促すこと」「子どもの問題解決能力を育てること」に重点が置かれていることがわかり、その方針にも納得がいくようになった。
English

早いもので本連載を担当させて頂いてから2年半が過ぎ、記念すべき30回目を迎えました。このような長期連載が可能になったのは、ひとえに読者の皆様およびスタッフの方々のお蔭です。今回は感謝の意をこめて、CRNで研究を行っているECEC(Early Childhood Education and Care)に関連付け、「保育者と子どもの関わり方」という観点から息子の通う保育園を取材しましたので、その特別レポートをお届けします。

2014年2月に行われたCRN主催第3回ECEC研究会 *1では、遊びを中心とした幼児教育の重要性が謳われていました。そして遊びの質を高めるためには、保育者が一人ひとりの子どもの状況を理解した上で、遊びを選択する姿勢も重要視されていた模様です。

また、島田ミチコ氏(1992)によると「昭和23年、保育要領 *2で『自由遊び』が脚光をあびたにもかかわらず、昭和31年以降『自由遊び』が消滅してしまった。しかし、その反省をもとに再び平成2年、『遊び』を通しての指導を前面に打ち出し、今や『遊び』の重要性は定着してきた」 *3という経緯があるようです。そして、その後、現在の幼稚園教育要領 *4および保育所指導指針 *5においては、子どもの自発性を重んじた「遊び」を中心とした指導・保育が重要視されている模様。

一方、ベルリンの保育要領でも「『遊び』は子どもが自発的に行うものである。『遊び』を通じて、子どもたちは社会性を身に着け、想像力を高め、現実に対応できる能力を身に着けていく。また、保育者が率先して『遊び』を行ってはならないし、教育的観点から『遊び』を導入してもいけない。子どもにとって、『遊び』とは目的のないアクティビティであるので、大人が設定した目標を達成するためのツールとなってはならない。」とあくまでも「子ども主体の自由遊び」の重要性を説いています *6

息子の通う保育園でも「自由遊び」が推奨されていますが、渡独当初、私たち家族は戸惑うことが多々ありました。なぜなら、「自由遊び」という名のもとで、先生たちは何もせず、子どもたちが「放置」されているように思えたからです。後で詳しく述べますが、当時、3歳児以下の子どもたちの施設から4歳児以上の施設に移った後しばらくの間、息子がソファの上で独りぼっちで元気なくぼんやりしている光景を何度も目にしました。

しかし、今回取材を通じて先生方の話を聞いてみて、こちらでの保育のポイントやその成果を知ることができ、目からウロコが落ちた気分でした。以下、ベルリンの保育園での「自由遊び」の様子をお伝えします。

訪れた日はイースター休暇の週でしたので、通常より先生および子どもたちの数も少なめ。先生2人(ドイツ人一人とアメリカ人一人)に4歳から6歳の子ども12人が登園していました。また、この日はちょうど週一回の「おもちゃデー」という、自宅から玩具を持参して良い日だったので、子どもたちは様々な玩具に囲まれて思い思いの遊びを楽しんでいました。

この日のスケジュールは以下のとおりですが、特別な行事がない限りは、大体このように一日を過ごしているようです。

8時 開園~順次登園
8時半 朝食
9時 自由遊び
13時 昼食
13時半 片づけ、歯磨き
14時 静かな時間(大半の子どもはお昼寝をしないのですが、各自マットを敷いてその上に横たわったり座ったりして、先生のお話を聞くなど静かに過ごします)
15時 おやつ
15時半 自由遊び~順次降園
17時 閉園

また園のレイアウト は下記のとおりです。ちなみに、1-3歳児は別の施設で保育を受けていますが、同一施設内で年齢別に部屋を分けることはありません。

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このような環境で、訪問当初には、子どもたちは以下のようなグループに分かれていました 。

グループ1:ドイツ人先生がいるテーブルで工作(2-3人)
グループ2:アメリカ人先生がいるテーブルで絵具を使ったお絵かき(1-3人)
グループ3:電車や線路を使った遊び(男の子1-2人)
グループ4:廊下の暗いところで光る玩具を使った遊び(3人)
グループ5:お人形遊び(女の子2人)

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グループ1と2:工作グループ(奥)とお絵かきグループ(手前)


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グループ3:電車遊び


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グループ5:お人形遊び


これらのグループ構成は時間が経つごとに変わり、ある時にはグループで遊んでいても、時が経つと一人で遊んでいる子も見られました。先生によると、特定の「お気に入り」のお友達がいる子どもでも、1週間後、1か月後には他の子どもが「お気に入り」になるなど、交友関係はフレキシブルに変化していくそう。ただし、女の子は特定のお友達とだけ遊ぶ傾向があり、また想像力に非常に富んだ子どもは確固とした自分の世界を持っているため、一人遊びを好んでする傾向があることも事実、とのことでした。

また、先生が入っているグループも、基本的には「自由遊び」なので子どもたちが「**をしたい」と意思表示をするまで、先生は子どもに積極的に関わることはありません。ドイツ人の先生はずっと同じ椅子に座ったまま、色紙に数字を描いたり、絵を切り取ったりしています。一方、アメリカ人の先生はお絵かきの相手をしながら、雑用をこなしています。その周りに、子どもたちが入れ替わり立ち代わり寄ってきては工作を一緒にしたり、絵を描いたりし、自分で満足だと思うと、別のグループや部屋に行って、別のアクティビティを始めるなど、極めて流動的な様子でした。

例えば、ある子どもが「絵具でお絵かきしたいの」と先生に言いました。すると先生は「じゃあ、何が必要かな?」とその子に尋ね、準備の手伝いをします。子どもがお絵かきを始めると先生は「これは何?」「これは何の数字かな?」などと話を展開させて、言葉を引き出します。「保育者はアクティビティの補助や道具の提供は行いますが、イニシアティブをとることはありません。あくまでも子どもの自主性にまかせることが重要なのです。また、子どもが自分の世界に没頭している時には、声掛けも控えます」とのこと。

但し、危険性が見られた時にはすぐに先生は止めに入ります。取材中も、遊びがエスカレートして男の子同士で押し合いへし合いの騒ぎになっていましたが、先生が「ちょっと一旦離れてみようか」と間にはいって、クールダウンさせるシーンがありました。上記のドイツ人の先生は遊びのお部屋に座って周辺に目を配っていましたが、アメリカ人の先生は雑用をこなしつつ、別の部屋や廊下を定期的にチェックしていました。

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一人でお絵かきをする女の子


ところで、好んで一人遊びしているのではなく、何らかの理由でうまくグループに入れない子どもにはどう対処するのでしょうか?先生曰く「勿論、新入生やドイツ語・英語の理解が遅れている子どもには特に注意を払いますが、基本的には観察するのみで、子どもによって対応を変えることはあまりありません。これは子どもの自主性および主体性を育てることを重視していることと、小学校入学以降に必要となる、『自分で問題を解決する能力』を育てるためです。子どもが色々な意味で早く自立できるように、手助けするのが保育士の勤めですから」とのこと。

先述のように息子にも独りぼっちで他の子どもたちを観察していた時期がありました。「保育園楽しくないから行きたくない」と渋る息子を私たちは心配していましたが、先生方は「ほら、あの子たちは何してるのかしら?行ってみましょう!」「このグループではお絵かきしてるね。一緒にやってみる?」などと誘ってはくれるものの、本人が嫌といえば、それっきり。そのままソファに「放置」でした。そんな光景を目の当たりにして、当時の私は「なぜもっと先生が率先して、彼をグループに入れてくれないんだろう」とヤキモキしていました。

しかし、思い返せば、それから2-3か月も経つと息子は次第にお友達の話も楽しそうにしてくれるようになりました。そして、今では元気いっぱい、ある意味「クラスのガキ大将化」しています。また保育園外でも、知らない子どもたちに混じって様々なアクティビティに積極的に参加できるようになった彼をみると「あの頃、息子は周辺を観察しつつ自分の居場所を探していたのだろう。さらに、自分から他の子どもたちに働きかけて自分の居場所を作る術を学んだのかもしれない」と最終的に自ら問題解決することができたことを認識しました。

このように、息子が通うベルリンの園では保育者が主体的に遊びに関わるのではなく、あくまでも其々の子どもが主体的に遊びに関わる手助けをしている印象を受けました。実際、取材中の子どもたちは自分の興味のあることをトライ&エラーで追求し、彼らの個性を存分に発揮しているようでした。これは「徹底した個人主義を育てている」という意味で、以前ご紹介した「小学校開放日」 *7で目にした授業の様子に似ていると思いました。どのような関わり方が最適かということは、子どもが育っている環境や彼らの特性によっても異なってくると思いますし、「自由遊び」が全ての子どもに有効かどうかはわかりません。しかし、今回の取材を通して先生と子どもたちの関係性を目の当たりにし、ベルリンの保育園の方針を理解することができたことは大変意義深い経験だったと思います。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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