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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第25回 小学校見学(2)

要旨:

小学校見学にて、学校システムの紹介後は、実際の授業見学。子どもたちの元気な様子や校舎内の作品から、教育内容に関する不安は消えていった。また、グループ作業が中心で、全員に同じことを教える、ということよりも、それぞれの子どもが一番効率よく学べることに重きが置かれており、初等教育から徹底した個人主義を育てている、という印象を抱いた。移民の割合もバランス良く、ドイツ語での授業も順調に進んでいる模様で一安心した。実際に学校を見学し、教育熱心な先生と話すことで、諸々の不安が消えたので、今夏から息子はこの小学校に入学予定である。

前回お伝えしたように、先日近所の小学校のオープンデーに参加してきました。先生方による学校システムの紹介の後は、セミナールームを出て、隣の校舎の最上階にあたる4階から、実際に一つ一つ部屋に案内されます。廊下には子どもたちの作品と思われる、絵や英作文、工作作品などが飾ってあり、「小学校4年生で英語の"There is"構文をこんなに沢山作れるんだ!」など、実際の学年で学習することが具体的にイメージできました。ちなみに英語の授業は3年生から始まるそうです。

さて、最初に見学した4階のクラスは全て「最初の学年」と呼ばれる、1-2年生の合同クラスの教室でした。絨毯の敷いてある明るい部屋に、机と椅子が置いてあり、上履きに履き替えた子どもたちが、きちんと座っています 。私たちが部屋に入ると「ハロー!」と目をキラキラさせて元気にあいさつしてくれます。「来年は息子も授業を受けるであろうこの教室で、この子たちは良い教育を受けているのだなあ」と、少し安心しました。

また、日本では、先生が黒板の前で話し、児童たちは皆前を向いて座り、同じ作業をしていた記憶がありますが、ここでは一クラス20人前後の子どもたちが、4-5人のグループに分かれ、各々自分のペースで作業をしています。例えば、見学した「最初の学年」の算数の授業では、数字の「2」を画用紙いっぱいにシールで形作っている子どももいれば、ドリルのようなワークブックに1から10の文字を書いて練習している子もいます。また、別のグループでは、トランプのような数字カードを作っている子どももいました。同じグループでも、同じ作業に取り組んでいる子どももいれば、異なる作業をしている子どももいたりします。さらに、廊下に置いてある机にて、一人でドリルに取り組んでいる子もいたのですが、先生曰く「この子は静かな環境で集中して取り組みたい、と言って来たので、許可しました。だから、廊下で一人でドリル学習をしているのですよ」と教えてくれました。

ちなみに、先生はセミナールームでの説明どおり2名おり、メインと思われる先生が皆の前で作業内容の説明をし、もう一人の先生はグループの間を行き来し、作業自体のサポートをしている模様。全員に同じことを教える、ということよりも、個々の子どもが最も効率よく学べることに重きが置かれており、初等教育から徹底した個人主義を育てているのだなあ、という思いを強くしました。

次に図書室に案内されると、先ほどの説明会で触れられていた高齢者の方が本の読み聞かせをしているところでした。図書室といっても、部屋には絨毯が敷かれていてソファが置いてあり、アットホームでかなりリラックスした雰囲気。子どもたちは「読み聞かせおばあちゃん」に抱きかかえられるようにして、本の内容に聞き入っていました。概してドイツ人は読書好きなようで、電車の中でも本を読んでいる人を非常に多く見かけますが、こんなところで読書の楽しさを身に付けていくのだなあ、と思いました。

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小学校近くの道路に設置されているスピードメーター


その後さらに1時間ほど、食堂や、放課後に子どもたちが時間を過ごす部屋などを見学させてもらいました。例えば、「放課後の勉強部屋」は、子どもたちが宿題にきちんと取り組めるよう、落ち着いた雰囲気になっています。また、「子どものカジノ」と呼ばれる部屋はポップなデザインが施されており、玩具もたくさん置いてあるなど、宿題を終わらせた子どもたちが、お迎えの時間まで楽しく過ごせるようになっていました。このG小学校では、通常、授業は午後1時半で終わってしまうので、放課後も学校に残る子どもが多い模様。ですから、放課後の学校は日本でいう学童保育の役目を果たすようになっており、そのための施設も上記のように整っているようです。

移民の割合に関しては、説明会で聞いた通り、クラスの6-7割は白人(ドイツ人なのか東欧系かロシア系かは見た目からはわかりませんでしたが)、それ以外の3-4割程度はアジア系、トルコ・イスラム系、アフリカ系と思われる子どもでバランスが良く、ドイツ語の授業も順調に進んでいるようでした。ベルリンでは移民の子どもたちが主な原因で起こっている「小1プロブレム」もこの日は見当たらず、安心材料になりました。

実は、他の小学校も見学しようと計画していたのですが、見学したG小学校では、どんな些細な質問にも先生方が答えてくれるなど、非常に教育熱心な模様でしたし、児童への接し方も丁寧、通学も安全便利ということもあり、夫とも話し合った結果、この指定小学校に入学を決めました。

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法定速度で車が走行すると「ありがとう(Danke!)」の文字が表示される


そして、ちょうど見学の翌日、G小学校から「入学登録のご案内」という手紙が申込書同封で届きました。実は見学の際、入学の手続き方法を伺ったのですが、我が家にはこの案内状が届いていないことがわかり、少し不安になっていたのです。息子は今年入学予定として公式にベルリン市から認められている、ということが正式にわかり、ほっとしました。

この案内状には「あなたのお子さんは2014年8月1日から小学校へ通う義務が生じます。従って2013年10月21日から11月1日の間に、同封の申込書とお子さんの出生証明書、あなたの身分証明書を持参の上、本校にいらして入学登録手続きを済ませて下さい」と書いてありました。

そこで申込書に目を移すと、両親と子どもの情報の記入欄があります。それぞれの名前や生年月日といった基本的情報の他に「国籍」「母語」「家で主に使用する言語」などの記入欄があります。2年前にドイツに移住してきた息子のドイツ語は現時点で会話には全く不自由していないレベルですが、果たして小学校入学レベルにまで到達しているのか、小学校でドイツ語補習クラスを受けなければならないのか?これらは今年1月より 2008年生まれの子どもを対象として行われる、専門家および医師による個別健康診断の結果によって判断されるそうです。

こればかりは今から心配しても仕方がないですし、まずはG小学校についての情報を得ることができ、通学予定の小学校の目途が立ったので、一仕事終えた感いっぱいの私達でした。

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ベルリン市内の公園にて

 
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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