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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第1回 日本とドイツの保育施設比較(前編)

要旨:

2011年8月に3歳の息子、夫の3人家族でドイツ、ベルリンに移住。本レポートでは日独の子育て比較をドイツ、特にベルリンの現状をふまえながら紹介していく。ベルリンでも保育施設に入るのは至難の業だが、旧西ドイツに比べれば、待機児童問題は小さい。日本と異なり、入園にあたって親の就労状態は問われないが、保育時間が異なってくる。ベルリンでの保育料は日本に比べると格段に安い。息子が通う保育施設の開園時間は、日本で通っていた園よりも短く、閉園日も多いが、これはドイツの労働環境に影響されているのかもしれない。
Guten Tag! 2011年8月に3歳の男の子と夫の3人家族で夫の故郷であるここドイツ、ベルリンに移住してきました。日本では共働きで、生後7か月より子どもを保育園に預けていましたが、今、息子は現地のバイリンガル(英語とドイツ語)保育施設に通っています。このレポートでは様々なエピソードを交えながら、ドイツの子育て事情をご紹介していきたいと思います。

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ベルリン大聖堂とベルリンのシンボルTV塔


背景

ドイツは連邦制国家です。それゆえ、教育に関して国は大枠を決めるだけで、具体的な事項を決める権限は州に委ねられています。これは、国が一元的に全てを決定する日本とは制度が異なります*1

またドイツといえども、東西ドイツの統一以前から、歴史的に異なる国々(プロイセン王国、バイエルン王国など)が一つの国にまとめられてきた経緯があり、東西間はもちろん、南北間でも生活様式や言語、経済活動が異なります。

従って、本レポートで記載する事柄は、あくまでも私たちが住んでいるベルリン州での事象であり、他の州の都市の事例とは異なる場合がありますので、ご了承ください。

さて、ドイツでは保育施設数に関しては、旧東ドイツ側の方が旧西ドイツ側よりも多く、旧東側でより多くの子ども達が保育施設に通っています*2

私の夫および夫の家族は全員、旧東ドイツ(東ベルリン)出身ですが、話を聞くと、私たちが日本の歴史の授業で習った東側事情とは異なった側面があるようです。例えば、当時の共産主義下では、男女の差なく国民全員が仕事に就くことができ、保育施設も充実していたので、出産後も安心して職場復帰ができたとのことでした。これは「夫が外に出て働き、妻は家で家事にいそしみ、育児に関しては、子どもが3歳までは家で母親と過ごすのが良し」とされてきた旧西ドイツ側(特に、カトリックの影響が強く残るミュンヘンなどバイエルン州周辺)とは対照的です。

このような歴史的背景から、統一後も東側には多くの保育施設が残され、現在、待機児童問題は西側に比べると小さいようです。


ベルリンの場合

とはいっても、ベルリンはドイツの首都にして、人口400万人の国内最大都市ですから、希望の保育施設に入るのは至難の業。妊娠がわかった時から、調査をし、予約をしておくという話をよく耳にします。

私たちが今年8月に移住してきた時も、すぐに近所の複数の保育施設に問い合わせましたが、どこも満員でウェイティングリストに名前を載せてもらうのが精いっぱい。いつ空きがでるのかは誰にもわかりません。

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ベルリン市内の公園にて



制度について

さらに、ベルリンでの入園申込にあたっては、まず、役所からGutscheinという保育施設入園への切符(許可)をもらい、希望の保育施設に入園申込書と一緒に提出します。しかし、この切符が発行されるのに、通常1か月はかかるとのこと。しかも、この切符は発行後3か月間しか有効でないので、たとえ切符を入手しても、3か月以内に希望の保育施設に空きがないと、意味をなしません。

このような制度の元、私たちの場合は、幸いにも1週間でこの切符が発行されました。また、義姉がベルリン市内で保育施設を経営している保育士なので、Gutschein入手後、すぐに申込み、「家族特別枠」で入園させてもらいました。彼女の保育施設にもウェイティングリストで待っている人たちがいたので、ドイツ到着後たった3週間で入園できたのは本当にラッキーでした。

次に、費用に関してですが、ベルリンの公立保育施設では3歳児以上は24ユーロ(約2,400円)の食費代のみで保育料は無料、私立保育施設でも保育料は60ユーロ(約6,000円)と非常に低い です。この公立保育施設の無料化は近年、移民問題を抱えるベルリン州が、小学校入学までに移民の子どもたちもドイツ語を習得すべく保育施設に通えるよう取り組んだ結果のようです。

息子が通っている保育施設は私立なので、食事代24ユーロに加えて、上記の60ユーロの保育料が発生しますが、それでも月額計84ユーロ(約8,400円)ほどです。日本では10時間半預けて月5万円を納めていましたので、今はコストが抑えられて助かっています。

また、日本では全国一、二を争う激戦区の地域に住んでいたため、認可保育園に入園が許可されるには、両親の雇用証明書が必要でしたし、会社勤めの方が、自営業よりも入園しやすいなど、審査は非常に厳しいものでした。実際、私たち夫婦は二人とも会社員でフルタイム勤務でしたが、それでも息子は国の認可保育園には入れず、妊娠中から予約していた横浜市の認証保育園に通っていました。

しかし、ベルリンでは、親の勤務状態に関わらずGutscheinは発行されます。さらに、3歳になると、就学前まで無料で保育を受ける権利が発生しますので、3歳以上の子どもは必ず保育施設に入ることができます。

ただし、保護者の就労状態によって、保育時間が異なってきます。フルタイムで仕事をしている親はフルタイム(息子が通う保育施設では最長9時間)で預けられるのに比べ、就職活動中の私たちの場合はパートタイム保育となり、息子は7時間の保育となっています。

「フルタイムで預けて9時間?」と思った読者の方もいらっしゃるかもしれませんので、次は保育時間について記したいと思います。


短い保育時間

今、息子が通っている保育施設の開園時間は朝8時から夕方5時まで。延長保育はありません。施設によって朝7時から夜6時まで開園しているなど、ばらつきがあるようですが、ドイツ到着後に見学した保育施設はいずれも開園時間は8時で、金曜日は午後3時までのところもありました。日本で通っていた保育園は朝7時半から午後6時半まで、延長保育を含めると午後6時まで開いていたので、それに比べるとかなり短いです。

また、現在通っている保育施設のお休みも夏休み3週間、冬休み2週間、春のイースター休暇など、年末年始のみが閉園だった日本の保育園に比べるとかなり多いです。さらに、通常期間でも3日間「先生の研修」と称して、閉園してしまうこともあります。この間、勤労保護者は同様に仕事を休んで子どもの面倒をみるか、祖父母など親戚に世話を頼むか、他の保育施設に一時保育で預けているようです。

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たくさんの玩具に囲まれて


ここでドイツの労働環境をご紹介しておきます。一般的に、有給休暇(通常は年30日)は大体、皆さん使い切るようですし、病気になった時も、有給休暇とは別に、最大6週間有給でお休みすることができます 。それ以上の病欠は無給となりますが、給与相当額が健康保険組合から支払われます。ただし、病気を理由とした欠勤が連続して3日以上になる場合は、医師の診断書の提出が必要になります *3。また、12歳未満の子どもが病気になった時も、休暇が認められています。さらに、税制上の理由から、残業した分は給与として与えられるのではなく、その分、振替休暇となります。そして、これらの休暇をとるのは広く当然の権利とみなされています。

このように日本に比べて、保護者の労働時間が短く、休暇も多いことが、短い開園時間という結果に結びついているのかもしれません。

これは主観ですが、働く側からすると、ドイツでは仕事の休みは多いし、家族・個人生活が重視されている「働きやすい環境」ですが、立場が変わって「サービスを受ける側」となると、不便を感じることもあります。これは、日本の「休みにくく、労働時間が長い環境」、裏返せば「常に一定の良いサービスが受けられる環境」と対照的です。 具体的なエピソードはまた次回、保育施設での生活と合わせて記していきたいと思います。

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ベルリンのクリスマスマーケット



参考文献

*1 「ドイツの教育制度」森栗恭子
http://www.city.amagasaki.hyogo.jp/dbps_data/_material_/localhost/sosiki/004/koryu/augsburg-seinen-hokoku014.pdf
*2 「ドイツの保育制度 ―拡充の歩みと展望―」齋藤純子
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/pdf/072102.pdf
*3 「ドイツの報酬継続支払法」JETRO
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000115/0908R3.pdf
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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