CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 研究室 > 世界の幼児教育レポート > 【ドイツ】 ドイツにおける女性の雇用と保育事情

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

Laboratory

【ドイツ】 ドイツにおける女性の雇用と保育事情

バーバラ・G. ホルトス (ドイツ日本研究所)

2010年1月29日掲載

要旨:

ドイツと日本は同様の問題に数多く直面しているが、中でも両国がともに苦しんでいるのが統計上に見る急速な少子高齢化という課題である。本稿では、ドイツにおける女性の雇用と保育事情について、日本と比較しながら母親の労働参加・伝統的役割と税法・東西ドイツの差異・現在の保育園事情における欠点・政策の新しい流れの5点について論じる。

Keywords;
ドイツ, バーバラ・G. ホルトス, 保育, 保育園, 出生率, 少子高齢化, 幼児教育, 日本
English

社会的変化:日本との類似性

ドイツと日本は同様の問題に数多く直面しているが、中でも両国がともに苦しんでいるのが統計上に見る急速な少子高齢化という課題である。日本、ドイツともに平均寿命が延び続けている一方、両国ともに子どもの数は減っている。2008年の日本の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む平均子ども数)は、前年よりわずかに上昇して1.37であった。


ドイツの合計特殊出生率も似たような推移をたどっており、2007年に1.37であった。両国の出生率の低下は、複数の要因が原因であると考えられる。中でも重要な要因が、晩婚化と出産期の遅れである。ドイツ女性は以前に比べ、徐々に子どもを高齢になってから出産するようになっている。これは、25歳から29歳と35歳から39歳の女性の出産状況の変化を見れば特に明らかだ。1994年には出産した女性の37.4%が25歳から29歳であったのに対し、2004年には27.7%まで下がった。一方、1994年には35歳から39歳で出産しているのは9.9%であったが、2004年には18.9%に倍増した。

2004年には、ドイツ居住既婚女性が第1子を出産する平均年齢は29.6歳であった。第2子の出産は31.3歳、第3子の出産は32.8歳であった。この数字は地域によって異なり、旧西ドイツに居住する既婚女性は、旧東ドイツに居住する既婚女性に比べて高齢で第1子、第2子を出産している。

研究によると、他に出生率を抑える主要要因として雇用によって女性が労働と育児の両方を行うことの難しさが挙げられる。これはドイツだけでなく、日本でも同様である。ドイツ社会における母親と父親に対する伝統的な役割モデルの強要、特定の家庭政策が大きな原因である。

しかし、保育園(日本では保育園、ドイツではKindertagesstatte、Krippe)など制度化された保育が社会的に受け入れられ、経済的に対応できるもので、利用可能となり、なおかつ柔軟な保育時間と良質な保育が供給できるのであれば、この否定的相関関係もある程度改善されるであろう。しかしドイツにおける保育施設の数は特に3歳未満の子どもにとっては依然として比較的限られており、また地域によって大きな差があって様々な点で不十分である。

ドイツの母親の労働参加


家庭を持つ女性の子どもの有無による就労率を比較すると、実際の労働参加における差異は明らかである。4歳未満の子供を持つ母親の75%は、有給の職に就いてはいない。つまり、子どものいる家庭の女性は40歳までは明らかに職業活動を制限しており、その後働いたとしても、子どもを持たない女性に比べてはるかに高い割合でパートタイムの職に就く。雇用男性は保育の必要のある乳幼児がいても通常労働時間を減らすことがないのに対し、母親の就労状況は子どもの年齢に従って大きく変わる。女性の場合、子どもの年齢が低いほど就労の割合は低くなる。日本同様、ドイツの女性の多くは出産と同時にしばらくの間仕事を辞め、その後子どもが大きくなってから労働市場に戻ってくる。

このように、母親がフルタイムで働く割合は低い。大半の母親は、パートタイムで働いている。全体的に見れば、2005年のパートタイム労働者のうち70%は女性であり、パートタイム職に就いているのは(少なくともドイツ西側においては)依然として男性より女性が多い。3歳未満の子どもを持つ母親のうち働いているのは33%であり、そのうち63%はパートタイムで働いている。

ドイツでは、パートタイムが可能な選択肢にない職の場合、出産自体をあきらめるという女性の数が増えつつある。全国的に見れば、約25%のドイツ女性が出産しないことを選んでいる。特に学術界では、女性にとっての状況は厳しい。40%もの雇用女性が、出産をあきらめているのである。ドイツにおいてキャリアと子どもの両方を手に入れることが難しいことは、明らかである。

伝統的役割と税法


この状況の助長には、特に2つの要因が考えられる。1つは、母親と父親が仕事と家庭に割く時間のバランスと役割分担に対し、かなり「伝統的な」理想像が今も存続していることである。この理想像では父親が一家の稼ぎ手であり、妻は専業主婦か、あるいは必要な場合であってもパートタイムで働くことが好まれる。

これと同時に、ドイツの家庭政策が伝統的役割分担、つまり一般的に男性のみが稼ぎ手となるというモデルを支えるものとなっており、この点も日本に類似している。両国とも、所得税制度により既婚女性は労働市場から退くことを促されるのである。ドイツの夫婦単位課税制度(Ehegattensplitting)では、夫婦のうち一方が高い所得を得、他方が無所得、あるいは低所得である夫婦に対して経済的に有利に働く。夫だけでなく妻もフルタイムの職に就いている場合、家庭全体の所得にかなり高い割合の税が課せられる。純所得の下がる場合すらある。

一方、女性が働き続けようとしたところで、両親以外に子どもの世話をしてくれるところがないため不可能となる場合が多い。女性が労働力として残るには保育園が子どもの世話をする代替手段となるべきところなのだろうが、特に3歳未満の子どもの保育施設の数は依然として非常に限られている。

ドイツにおける保育状況:東西の差異


一般的に、ドイツにおける保育は主に公立のものである。これは日本の状況とは大きく異なり、日本では公立の保育園も多いが民間保育園市場も大きく、民間保育園市場は現在も成長しつつある。親にかかる保育費用の点では、ドイツにおける保育費用は日本同様世帯収入に従ったものであり、比較的手ごろである。

1996年以降、3歳から6歳の子どものいる親には子どもを公立の保育園に半日預ける権利が法的に認められている。これは正しい方向性であると言えるが、半日保育では依然として主たる養育者となる親のフルタイム雇用は無理である。3歳未満の子どもについては、そういった状況の提供はいまだにない。この点に関しては、ドイツ全体の状況を語るのは難しいことを明記しておく必要がある。20年前に東西ドイツ再統一が行われたとはいえ、旧東ドイツと旧西ドイツの間には社会問題、就労率、人口統計、出生率(図1参照)、社会と家庭における女性と男性の役割、保育のシステム(図2参照)において、歴然とした差異が多く見られるままなのである。

図1: 合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む平均子供数)
lab_01_20_1.jpg出典:
http://www.destatis.de/jetspeed/portal/cms/Sites/destatis/Internet/DE/Content
/Statistiken/Bevoelkerung/AktuellGeburtenentwicklung,templateId=renderPrint.psml

2009年7月6日

図1からわかるように、西ドイツの合計特殊出生率は日本とよく似た推移を示している。しかし東ドイツでは、1970年代半ばに出生率が再上昇している。1990年の再統一後数年で著しく下がって最低の0.7を記しているのが特徴的であり、これは政治的要因とその後の社会環境によるものである。しかし、2007年までには東側の出生率は再び上がり、西側とほぼ同じになった。

全国的にみると、現在、3歳未満の子どものわずか22.1%しか保育園に通うことができないでいる。。しかし、西側と東側で状況を比較してみると大きな違いが顕著になる。東側では3歳未満の子どもの36.7%に対して保育園の受け入れ準備ができているのに対し、西側ではわずか9.6%に対してしか準備がないのである(Bundesministerium fur Familie, Senioren, Frauen und Jugend, Oktober 2007. Zentrale Ergebnisse des Berichts der Bundesregierung, page 3; http://www.bmfsfj.de)。

図2:ドイツにおける3歳未満の子どもに対する保育園の数(3歳未満の子ども100人に対して受け入れられる数)


lab_01_20_2.jpg出典:Statistische Amter des Bundes und der Lander (2004): Kindertagesbetreuung regional 2002. Krippen-, Kindergarten- und Hortplatze im Kreisvergleich, p. 18.

現在の保育園事情における欠点

上図の数字を見ればわかるように、ドイツ、特に西ドイツにおける保育施設の利用可能状況は非常に限られている。日本と比較しても、その数ははるかに少ない。しかしこういった数に見る欠陥点だけでなく、制度自体にもさらに欠点が見受けられる。たとえば、保育園の開園時間が問題点の1つである。

■多くの保育園が午後5時、遅くとも6時には閉園となる。日本では延長保育として公立保育園の場合でも7時まで、民間であれば8時、10時まで開いていることも珍しくない。

■全保育園のうちおよそ50%は依然としてお昼の時間は閉園となり、親がフルタイム勤務であれば利用できない。

■ドイツの就労者の半数は週末か夜間、あるいはシフト制で働いている。しかし保育園の開園時間は柔軟に対応しているとは言えず、週末も夜間も開いていない。日本でもまた、シフト制勤務に就いている場合は保育園を見つけるのが難しく、ニーズを満たすために公立の保育園から民間保育園へと移らなくてはならないことが多々ある。

■多くの保育施設は、夏季に4週間から6週間休園となる。ドイツでの休暇は平均して日本の標準的休暇よりもかなり長いとはいえ、両親ともに働いている場合には夏季の長期休園に対応するのは大変難しい。

保育の質をドイツと日本で比較するのは難しく、当然ながら様々な違いがある。しかし日本でもドイツでも以前は保育園での保育者はまず間違いなく女性であったが、日本ではその状況は変わりつつあり、特に民間保育園において、そして公立保育園においても男性保育者の数が増えつつある。この傾向は保護者から肯定的に受け止められており、子どもにとって男性保育者の存在は長時間労働による父親の不在を補うロールモデルになるとして歓迎されている。

政策の新しい流れ


日本では1990年以降、保育施設増設の政策が考えられてきた(エンゼルプラン等)。ドイツでは数年遅れてこのような政策が計画され、様々な点で日本に類似している。

家族問題・高齢者・女性・若年者担当相のウルスラ・フォン・デア・ライエン氏はここ数年、ドイツの保育園不足の問題に特に熱心に取り組んできた。興味深いことに大臣自身も、夫と7人もの子どもを持つ仕事熱心な政治家である。

大臣の努力は功を奏し、2007年,ドイツ政府は3歳未満の子どもの受け入れ保育園数を2013年までに3倍に増やし、この年齢層の子どもの35%が保育園に通うようにすることを決めた。さらに、子どもを保育園に入れない家庭には家庭内での保育支援として月150ユーロの現金支給がある。また、2013年より3歳未満の子どもを持つ親には子どもを保育園に入れる法的権利が認められるようになる(3歳から6歳の子どもに関しては、すでに同様の権利が認められている)。

こういった保育環境の改善が成功するかどうかを見極めるには、もう少し時間が必要であろう。

詳細については以下を参照:
Germer, Andrea, Holthus, Barbara. 2008. 男女不平等とワーク・ライフ・バランス -- ドイツにおける社会変化と少子化問題 (Gender Inequalities and Work-life Balance: Social Change and Low Fertility in Germany). Tokyo: Deutsches Institut fur Japanstudien / Stiftung D.G.I.A.. 36 p.
http://www.dijtokyo.org/doc/WP0801_GenderIneq-Work-lifebalance.pdf

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP