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【ベルギー子育て奮闘記】 第5回 小学校生活の始まり

2011年12月にベルギーに来て、翌年の1月から幼稚園に通い、その年の9月から上の娘(以下「お姉ちゃん」)は小学校へ通い始めました。幼稚園に通ったこの8カ月の間に、夏休み2か月、その前にも合計3週間ほどのお休みがあり、通園期間は5カ月ほどでした。小学校に上がるにあたり、いろいろな試練がお姉ちゃんを待ち構えていました。今回は、そんなお姉ちゃんの試練、そして私の新たな挑戦について書きたいと思います。

進学テスト

1月に入園して半年、幼稚園にもようやく慣れてきて、お友達もたくさんでき始め、娘たちにも笑顔が出てきた6月の終わり。先生との最後の面談がありました。

そこで先生から衝撃の一言が。「○○(上の娘の名前)は幼稚園での出席日数が足りないから小学校に行くにはオランダ語のテストを受けないといけないの。それに落ちたら9月からまた私のクラスね」と・・・。私は聞き間違えたのかと思い、再度確認しましたが、先生は笑顔でもう一度同じ言葉をくり返すだけ。「そんなの聞いていない。知らない。」と私の頭の中は真っ白になりました。

夏休み間近で、それが終わるとみんなで小学生だね、なんて話していたのに、もしかすると小学校に行けない?すごく不安になり、帰ってすぐに主人に報告しました。

主人が同僚の方に聞いてみると、ベルギーでは外国人の子どもが小学校に上がる際、出席日数を一つの目安にし、足りていない場合、語学力のテストを受けなければ小学校に上がれないということでした。

そして、そのテストを受ける場所は市の指定機関。そこに個人で電話してテストの予約をするというもの。電話をするとすでに予約でいっぱいで、お姉ちゃんが受験できるのは8月30日。ということは、小学校の始まる9月1日の2日前にテストを受け、その場で「だめ」と言われたら9月からお友達と離れてもう一度幼稚園へ・・・。そんな酷なことがあるでしょうか?もっと早くしてほしいと懇願しましたが、そこの係の方は「夏休みの間に家庭教師を付けるなり、サマースクールに入れたほうがオランダ語は上達するわよ」と言うだけ。そんな簡単に言われても、と私は頭にきましたが、これ以上言っても仕方なかったので、あとはお姉ちゃんに頑張ってもらうしかないと思いました。

そして、夏休みの間、毎日のようにサマースクールに行き、ルーヴェンカトリック大学の日本語学科の生徒さんに週に一度家庭教師に来てもらい、お姉ちゃんの語学力を少しでも上げるべく奮闘しました。

そして、8月30日。朝から私は緊張しっぱなしでした。プレッシャーになってはいけないと思い、お姉ちゃんには詳しくは伝えていませんでしたが、それでもやはりテストというだけでお姉ちゃんも緊張しているようでした。

行ってみると、係の人が「20分ほどで終わるからお母さんはここで待っていてください」と言い、お姉ちゃんを別室に連れて行きました。

初めての場所で私と離れて、知らない人と会話したり、絵などを見て先生の質問に答えたりするテストなんて大丈夫だろうか・・・すごく心配でした。

そして、20分後、お姉ちゃんと係の人は戻ってきて、今度は親との面談です。

係の人には、「ぎりぎりボーダーラインですね。もう少し話せるようになるよう努力をしてください。でも小学校へのゴーサインは出します」と言われました。私はお姉ちゃんと手を取り合って喜びました。ぎりぎりでも何でもいい!!お姉ちゃんの望み通り、お友達と小学校に行ける!それだけで大満足でした。

お姉ちゃんは、後から先ほどのテストがダメだったら幼稚園に逆戻りだったと聞き、泣きそうな顔になっていました。「そんな大事なテストだったのか」という驚きと、「良かった。お友達と離れなくていい」という嬉しさの混じった、何とも言えないあのお姉ちゃんの顔を私は今でも忘れられません。

晴れて、小学校に行けるようになったお姉ちゃん。あとは、小学校へ上がる準備をするだけです!といっても、教科書もノートも鉛筆でさえも供給してくれるベルギーの小学校。何も準備することがないねと笑ってしまった親子でした。

引率おばさん

さて、9月になり、お姉ちゃんは晴れて小学生になりました。日本より半年早く小学校に上がることになります。

日本では、我が子の小学校入学と言えば、桜が咲き、ピカピカのランドセルを背負い真新しい服(制服)に身を包んだ子どもたち、暖色系のスーツを着たお母さん、ビシッと決めたスーツ姿のお父さん・・・というイメージを容易に想像できますよね。ここベルギーでは、またまたその概念は通用しません。

入学式などというものはないのです。幼稚園と小学校は同じ敷地内にある場合が多く、ほとんどの子どもたちはそのまま敷地内の小学校へ上がります。ですから、なんの新鮮味もありません。普段通りに通学し、校舎が変わるだけなのです。うちの子どもたちが通う学校は、例外で、なぜか幼稚園と小学校が歩いて10分ほど離れています。

そこで、親にとってはややこしい問題が発生します。幼稚園と小学校に兄弟姉妹がいる場合、両方に親が送り迎えをしないといけません。就業時間がほとんど同じなので、両方送り迎えすることは大変です。

小学校へ送り迎え?と疑問に思われると思いますが、ベルギーでは、12歳以下の子どもに対する保護者の監督責任が日本より厳しく、学校への通学はもちろん、公園で遊ぶとき、買い物なども保護者が必ず付き添っていかなければなりません。家での子どもだけでのお留守番なども禁止されており、これらを目撃したら警察へ通報する義務が市民にはあります *1

ですので、うちの子どもたちの通う学校では、小学生のうち希望者は朝幼稚園に集合し、保護者のボランティアが小学校まで引率するといったことをしています。下校時は先生が幼稚園まで引率して連れて帰ってきてくれるシステムになっています。

うちの場合、家から幼稚園までは歩いて10分、小学校までは20分ほどかかりますので、これに参加させてもらうことにしました。そして、その保護者のボランティアですが、共働きの家庭が多い中、なかなか時間の取れる人がいないというのが現状です。そこで、「引率をしてくれないか」とお友達から頼まれました。私は働いておりませんので、確かに毎日暇にしています。ですが、オランダ語も話せず、いざという時子どもたちに危険があっては大変だと思い、一度はお断りしました。すると、お友達は「○○(娘)が話せるから通訳してくれるよ。なんとかやってくれないか」と。こんなことを引き受けてもいいものかと思いましたが、半ば根負けした感じで、私の新しい挑戦が始まりました。

週に一度、朝に幼稚園から15人前後の子どもたちを引率して小学校まで送ります。

何度か引率してみて、やっぱり断るべきだったと後悔しました。オランダ語が話せないのは本当に致命的なことでした。通学路は歩道があるとはいえ、朝の通勤ラッシュの時間、車や自転車が多く行き交う道を通らなければいけません。私はお友達に、「走るな」「急いで」「気を付けて」などのオランダ語の単語を教えてもらい、いざ引率をしてみると子どもたちにはオランダ語でべらべらっと話しかけられますが、もちろん理解できず返すことができません。教わった単語を言ってみたものの「発音がおかしい」だの「お前の母ちゃんはオランダ語話せないのか」などお姉ちゃんに言っているようで、申し訳ないやら腹立たしいやらで何度もやめようと思いました。

ですが、お姉ちゃんは私に「ママ、続けて」と言ってくれました。「私が横でみんなが言ってること教えてあげる。ママの代わりに私が言ってあげる」と言ってくれるのです。私がお友達とどんな感じで接しているのか見てほしい、ママも私のお友達と仲良くなってほしい。そういうお姉ちゃんの気持ちを受け、引率は今ではもう、私のベルギーでの"お仕事"になりました。

何度かヒヤッとすることがあり、私がダッシュしたり、言うことを聞かないので日本語で怒鳴り子どもたちに笑われたり・・・。そんな一年半を過ごし、今では引率をしている子どもに街で会うとハイタッチをしてくれたり、「○○のママ~」と手を振ってくれる子も増えました。

お姉ちゃんのおかげで子どもたちとも仲良くなり、上記の単語だけは発音がうまくなりました。

ベルギーに来て、先月で丸2年が経ちました。子どもたちがいてくれたからこそ経験できたこの"引率おばさん"。私にとってはベルギーでの最大のチャレンジであり、唯一の"お仕事"でもあります。

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引率の様子

いろいろな人と出会い、友達になり、交流をする。そうすれば自然と日本では味わえない経験をすることにもなるのをこの2年で実感しました。この他にも、現在進行形で本当にたくさんのことを経験しています。それはまた次回に。


*1. 12歳以下の子どもでも、家庭の事情などでやむを得ない場合は学校に申請し許可をもらい、鞄に許可証を付けた子どもは、子どもだけで登下校できるそうです。

筆者プロフィール
奥村 沙織: 2011年より、夫の転勤に伴い二人の娘とともにベルギーのルーヴェンに在住。
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