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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第19回 多言語教育の難しさ

シュリットディトリッヒ 桃子

2013年7月12日掲載

要旨:

先日、毎年恒例の保護者面談が行われたが、そこで息子のドイツ語能力に関して指摘を受けた。それまで、ドイツ語環境で育っていること、および家族とのコミュニケーションにも不自由していない、という理由から、家庭ではドイツ語教育に関しては、特に何もせず、日本語教育にばかりに力を注いできた。しかし、来年夏の小学校入学に向けて、今後はドイツ語にも力を入れていかなければならない模様。本当の意味でのマルチリンガルに子どもを育てるのは大変だと実感している。

先日、保護者面談が保育園で行われました。日本の保育園では毎日、連絡帳で子どもの日々の様子を先生と共有していましたので、その日の様子や体調を細かく知ることができましたが、ベルリンの保育園にはそのようなシステムはありません。それどころか、お迎えの時に先生と会わないことも多々ありますし、たとえその日の様子を聞いたところで「いつもと変わりませんでしたよ」というのが、お決まりの返答です。

ですから、この年1回の面談は、日頃どのように息子が園生活を送っているのか、順調に成長しているのかなど、じっくり伺う絶好の機会です。今回は去年に引き続き2回目の面談でしたが、去年の10月から担当の先生が変わったこともあり、事前に夫と質問リストを作成して面談に臨んできました。先生も、60分の予定を大幅に上回る1時間半以上、熱心にお話してくれました。

面談はまずお褒めの言葉から始まりました。
昨年、園のマラソン大会で優勝したこともあり、身体能力と持久力の高さを評価して下さいました。

実は同様のことを去年の面談でも言われました。赤ちゃんの時からパパに連れられて、ベビーカーに乗らずにお散歩を沢山していたのが功を奏したのでしょうか?ドイツの厳しい気候環境で生き延びていくには、何より体力第一ですから、このコメントは嬉しく思いました。

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去年のマラソン大会

さらに「『ありがとう』『お願いします』などのご挨拶がきちんと言えますし、食事の仕方も綺麗です。お片付けも着替えも一人で全部できています。」と続きます。自宅での甘えん坊ぶりとあまりにも異なるので、にわかには信じることができませんでしたが、本人は外の世界で頑張っているのでしょう。

そして本題。それは息子のドイツ語能力についてでした。先生は例を挙げて「息子さんのドイツ語理解が完全でないと思われる時があります。」とおっしゃったのです。これはいささかショックでした。というのは、前回の面談時では「他のお友達と同じようにドイツ語を話して、ちゃんと周囲ともコミュニケーションをとっています」と、当時の担当の先生がおっしゃっていましたし、一歩、園を出てしまえば、圧倒的にドイツ語環境。否が応でも目や耳に入ってきますし、こちらでのコミュニケーションツールとしての第一言語ですから、特に何もしなくても、自然に発達するだろうと勝手に思い込んでいました。現に、夫や親戚たちとの会話にも不自由していない様子ですので、ドイツ語教育に関しては特別なことは何もしてこなかったのです。

それに対し、普段、日本語インプットができるのは私だけ。いかに日本語能力を高めていくか、ということにばかりに力を注ぎ、週一回の日本語補習幼稚園に加え、毎日の本の読み聞かせ、通信教育への取り組みなど、時間が許す限り日本語に触れさせるようにしてきました。

状況を説明すると、先生は「渡独して1年半しかたっていないので、ドイツ生まれの子どもよりドイツ語能力が低くても不思議ではありません。しかも、英語とドイツ語のバイリンガル園に通っていることにより、息子さんの小さな頭の中には3言語がうずまいているから、仕方がないですよ。」と一応、理解を示していました。

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先日訪れたドイツ最大の日本人街デュッセルドルフでは
薬局の看板も日本語とドイツ語のバイリンガル表記

確かに、3言語に囲まれて生活しているので、各言語の能力がモノリンガル環境で育っている子どもたちに比べて低くなってしまう可能性はあります。しかし、夫と私が恐れているのは、どの言語も中途半端のまま息子が成長してしまうことです。今後、益々概念や感情が発達する時期に、それを言葉に置き換えて表現できる言語力をもっていないと、本人のストレスにもなってしまうので、それは避けたいと思っています。

また、今後ドイツの学校に通う以上、まずはドイツ語をきっちり身に付けていないと、一番困るのは息子本人です。保育園経営の義姉にも相談してみましたが、「彼(息子)のドイツ語理解力は今のところは問題ないと思うわ。でも、来年夏の小学校入学に向けて、ドイツ語力を伸ばすことは必要よ。モノリンガルの子どもだって、ドイツ語の本の読み聞かせをしたり、準備をしているのだから。」とのこと。

現在4歳の息子は、日本に住んでいれば、再来年4月の小学校入学まであと約2年ありますが、ベルリンでは新学年は8月に始まるので、来年の8月に小学校入学となります。来年早々に実施される、入学にあたっての心身および言語テストまでには、小学校レベルのドイツ語能力を身に着けなければならない、とのこと。人種のるつぼベルリンでは、ドイツ語テスト合格が小学校入学の必須条件なのです。

といっても、ベルリンでは小学校入学年はフレキシブルなので、このテストに合格しない場合は、入学を1年遅らせてじっくりドイツ語力をつけることも可能です。事実、この年齢での1年は大きいので、敢えて1年入学を遅らせる夏生まれの子どもも多い、とのことでした。

それでも「さらに1年、保育園に通わせるのも気が引けるね」と夫と話していたのですが、かといって無理に来年入学して、授業についていくことができずに、小学校1年生から留年というのも可哀そう(注:ベルリンでは小学校から留年制度があります)。

色々悩み、話し合った結果、今後はドイツ語教育にも力を入れていこう、という結論に達しました。普段は帰宅後、シャワー、晩御飯、日本語幼稚園の宿題をして就寝、と慌ただしく時間が過ぎていきますが、さらにその間をぬって、夫がドイツ語の本の読み聞かせを開始しました。本当の意味でのマルチリンガルに子どもを育てるには、中学受験並みの努力と時間管理が親子ともに必要、とどこかで聞いたことがありますが、それを実感した保護者面談でした。

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日本人が多く住むデュッセルドルフではメニューも日本語とドイツ語のバイリンガル表記

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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