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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第4回 トリリンガル環境における言語発達

要旨:

渡独して半年、現在3歳半になる息子の言語発達は著しい。日独英語のトリリンガル環境で育ってきた彼だが、日本では日本語が支配しており、ドイツ語は単語単位での発話に限られていた。それが、渡独後1ヵ月半でクラスメートとドイツ語で喧嘩したり、ドイツ語過去完了形を含む完全文を作成できるまでになる。英語に接する機会もドイツでは大幅に増えたため、発達を感じている。日本語能力に関しては、意識的に日本語に触れる機会を設けているためか、現時点では半年前と変わらない。
今回は現在3歳半になる息子の言語発達に関するお話をしたいと思います。渡独後1ヵ月半がドイツ語発達の最初のポイントでしたので、今回はその時期について主に述べることとなりますが、言語発達の記述に先立ち、まず息子の言語環境について簡単にご説明します。

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ドイツのカーニバル、ファシングにてピノキオに変装

我が家では3ヵ国語を用いてコミュニケーションをとっています。夫と私は英語で、夫と息子はドイツ語で、息子と私は日本語で話します。

息子は生まれた時から3歳の誕生日直前まで日本にいました。その間、ドイツ語で会話するのは父親と話す時のみ、英語は両親の会話を聞いていましたが、発話する機会はほとんどなく、それ以外は保育園も含め、ほぼ日本語環境で育ちました。

ただ、日本で通っていた保育園では英語の時間が週2回ほどありました。英語の歌を歌ったり、英語で遊んだりするこの時間が彼は大好きだったらしく、いつも先生の目の前に陣取って張り切っていた模様です。帰宅後も英単語やフレーズを嬉しそうに教えてくれました。これは私たち夫婦の会話を通して、英語を私のおなかの中にいるときから聞いていたので、英語と言う言語に馴染みがあったからかもしれません。

といっても、理解、発話ともにやはり日本語が圧倒しており、ドイツ語は完全に理解はしているものの発話は単語程度、英語に関しては理解、発話ともドイツ語より弱い状況でした。

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ペダルなし自転車の練習中

それが昨年8月の渡独以来、言語環境が大きく変わりました。

日本語での会話は、ほぼ私と話す時のみになり、英語は両親の会話に加えて、保育園(英語とドイツ語のバイリンガル)でも常に触れる状況になりました。この保育園では日本の保育園のように英語の時間を設けるのではなく、イマージョン方式で5人の園の先生のうち2人が英語の先生で、常に子どもたちに英語で話しかけています。また、週1回の音楽の時間も、専任の音楽の先生が英語でクラスを進めていきます。また送迎時にお会いする保護者の40%が非ドイツ語圏出身であり、子どもたちに英語で話している方も多く、日本にいるときよりも格段に英語に触れる時間が増えました。それ以外の先生方やクラスメート、夫側の家族などとコミュニケーションをとるときは全てドイツ語です。

こんな状況ですから、予想通り息子は渡独以来半年間で著しくドイツ語発達を遂げています。英語に関してもドイツ語程ではありませんが、伸びを感じています。日本語に関しては、日常会話に加え、毎日の読み聞かせを日課にしたり、日本語教材で遊ぶなど、意識的に日本語に触れる機会を作っているためか、現時点では半年前と同じ状態をキープしているといったところでしょうか。

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寒波で凍り、陸地と見分けがつかなくなってしまったSpree川(写真左側)

さて、息子のドイツ語の最初の飛躍に気づいたのは、ドイツに来て1か月半、保育園に行き始めて3週間がたち、園の生活にも徐々に慣れてきたころでした。最初は新しい環境に戸惑っていた息子も、このころには、毎朝スムーズに登園し、私が一緒でも自分からみんなのお部屋に入っていくことができるようになり、ちらほらとクラスメートの名前を口にするようになってきました。また、まだお友達と一緒に遊ぶほどではないけれども、ちゃんと輪の中に入ることができるようになった、と先生に伺いました。

さらに、クラスメートと玩具の取り合いか何かで、ドイツ語で軽い言い争いもするようになった模様。喧嘩でもなんでもそこまでコミュニケーションをとれるようになったということで、ドイツ語が伸びてきたという実感が初めてわきました。

また、それまではクラスメートや先生から朝、挨拶されても何も言えなかったのですが、このころから"Guten Morgen"と小さい声ながら、発話応対できるようになってきました。

ドイツ語が伸びてきているので、「ドイツ語で××、日本語では○○」と周りのものの説明をするのがお気に入りの遊びにもなりました。

「ママ~、あの電車はね、ドイツ語でICE(イーツェーエー)っていうんだよ。日本語ではね、新幹線っていうの。」

「パパ、これはドイツ語ではBirne。日本語では梨っていうんだよ。」と、ちょっと自慢げに人差し指を立てて教えてくれるので、文字どおり、歩く辞書!夫も私も大助かりでした。

それまではコードスイッチングといって、ドイツ語文を発話作成中にわからない言葉があるとそこは日本語で補っていましたが、この頃から完全な文をドイツ語でも作れるようになりました。

記念すべき第一号は
"Papa, ich muss ah-ah." (パパ、うんちしたい) 

トイレトレーニングの成果がこんなところでも発揮されるとは思ってもみませんでしたが、嬉しい瞬間でした。

しかし、それ以上にドイツ語の過去を表す表現が使用できるようになったことが、この時期の最大の飛躍ポイントだったと思います。

上記の作文第一号から数日後、キッチンで朝食をとっていると、飛行機が見えました。
息子:「ママ、飛行機見えたよ」
私:「ああ、本当だね」
息子:(夫に向かって)"Papa, ich habe Flugzeug gesehen!"

ドイツ語でも日本語と同じ意味のことを言っていますが、ここで特筆すべきはドイツ語でも過去の事象を表現できるようになったことです。

ドイツ語で過去の事象を示すには、英語のように動詞を過去形にする場合もあるのですが、発話の場合は大体、文法的に言うと完了形(形式的には英語の完了形:「have+動詞の過去分詞」と似たもの)を使用します。これがなかなかくせもので、動詞の過去分詞形を覚えなくてはならない上(この場合は"gesehen")、英語だと"have"と過去分詞形は常に隣り合っていますが、ドイツ語だと常にそうとは限らず、上記の文のように過去分詞が文尾に来る場合もあるなど語順の問題もあり、ドイツ語学習者にとっては、いわゆるつまづき所です。

しかし、息子は、"Flugzeug(飛行機)"の冠詞はとばしたものの、ドイツ語で過去の事象を正確に表現できるようになっていました。渡独して1ヵ月半でここまで発達を遂げた子どもの言語発達能力に改めて驚いた時期でした。

英語の発達に関しては、また別の機会にお話ししようと思います。
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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