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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第3回 保育士経験

要旨:

息子が通う保育施設で義務付けられている年10時間の奉仕活動の一貫として、親の保育時間に参加。2時間の保育にて、着替えやおやつの時間、自由遊びを手伝い、観察する。「自立」が重要なキーワードなため、本当にサポートが必要な時だけ手を貸すスタンス。ここでは日本の園のように一斉に何かを行ったりするよりも、個々の子どものペースに合わせて生活している模様。息子を含め子どもたちの園での過ごし方が観察でき、少し安心したと同時に非常に興味深い体験だった。
前回はベルリンの保育施設には大きく分けてKITAとKILAの二種類があること、KILAは私的機関であるため、保護者のイニシアティブが高く、その分運営に携わる頻度も高い傾向にあることをご紹介しました。また、息子が通うKILAでは年10時間の保護者の奉仕活動が義務付けられており、その選択肢には、月一回、通常第一火曜日の午後3時から5時まで、保育士の先生たちが全体ミーティングを行っている間、先生の代わりに子どもたちの保育をするというものもあります。今回はその保育時間に参加してきたレポートです。


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いつもの公園も雪景色


約束の午後3時に夫とKILAに到着した時には、お昼寝から起き出した子どもたちが、寝室から大きなプレイルームにぼちぼち集まって、着替えを始めていました。先生が手順を説明してくれ、もう一人の親と夫と私の3人で、一人ひとりの着替え&トイレを手伝っていくのが最初のタスク。

ただし、先生曰く「できるだけ早い時期での自立を促しているので、本当にサポートが必要な時だけ手を貸してあげて、あとはなるべく自分達でやらせてください。」とのこと。

この「自立」というのはドイツの子育てにおいて重要なキーワードで、保護者や先生は子どもたちがなるべく早く自分で自分のことができるようになるよう接しています。

なるほど、周りを見渡してみると、シャツを後ろ前や裏返しに着ている子がいます。でも本人のやる気を失わせないよう、先生はあえて何も言わないそうです。

最初に私が担当したのは3歳の女の子、Mちゃん。ブロンドのおかっぱ頭で、吸い込まれそうな青い目がじっとこっちを見ています。

Mちゃんはパジャマの上着を自分で脱いだ後、上半身裸でしばらくモジモジしていました。そのうち寒そうな素振りをしてきたので「お手伝いしようか?」と聞くと頷きます。シャツを着せて、トイレに連れて行って、パンツとタイツに履き替えさせて、おしまい。

彼女はその後も、私に玩具を持ってきたり、自分が描いた絵を何度も見せに来てくれたりと、スイートな女の子でした。

外はマイナス二けたの極寒世界ですが、ドイツの室内は概して暖かく、どの子も大体長袖シャツ2枚と下はタイツ、足元はサンダルもしくは厚手の靴下のみの格好をしています。

大きなプレイルームに戻ると、起き出した子どもたちがどんどん集まってきました。観察してみると、どんどん自分で着替え始めている子もいれば、とりあえずパンツ一丁のすっぽんぽんになって、自分の世界に入ってしまったのか、そのまま靴下で遊び始めてしまった子や、おしゃぶりを口にしたまま、パジャマ姿でぼーっと一点を見つめて突っ立っている子など、色々。

すっぽんぽんのL君は「手伝おうか?」と言っても「自分でやるんだ!」と言うので本人に任せることに。でも、なかなか服を着ず、結局ティータイム直前までパンツ君でした。

さて、ようやく全員のお着替えが終わり、ティータイム。

年齢が高いグループ(4~6歳)と低いグループ(1~3歳)の二つのテーブルに分かれて座ります。

今日のメニューは黒いパンのサンドイッチ(クリームチーズ、サラミ、エダマーチーズの3種)とバナナ。それぞれ大皿に盛ってあって、子どもたちが好き好きに取っていきます。日本の保育園のおやつもそうでしたが、「ティータイム」といっても、幼児の栄養補給という観点で献立が考えられているので、内容はほぼお食事と同じです。息子が通う園では、大体毎日サンドイッチと果物という組み合わせが多いようです。またこのKILAでは提供する食べ物は全てBIO(オーガニック)食品で、ランチはケータリング、ティータイムは先生方がBIO食品を使って準備しています。

飲み物は水で、普通の水と炭酸水から選べます。ちなみに、ドイツでは炭酸水の方がメジャーです。低年齢グループでは普通のお水を飲む子が多かったのですが、大きい子どもたち(4~6歳)の中には炭酸水を選ぶ子が多く、さすがヨーロッパだなと思いました。

寝起き時と同様、おやつ時でも、みんながテーブルに座って食べ始めているのに、うろうろ歩き回っている子や、水をバシャーとこぼしてしまった子、あまり食べないでぼーっとしている子、むしゃむしゃ食べている子など色々です。

日本の保育園ではお当番さんが「いただきます」「ごちそうさま」の合図をしてから、一斉に食べ始め、一斉に食べ終わっていましたが、ドイツの保育園では一応「Guten Appetit!(いただきます)」は言うもの、各自が好き勝手に食べ始めて、おなか一杯になったら、自分のコップだけはキッチンに持って行って、その後はプレイルームで遊び始めていました。みんなで同時期に一斉に何かをする、ということはないようです。

また、日本の保育園では、各子どもにお皿が与えられ、そこに各自の食べ物が均等によそられていましたが、こちらでは一つの大皿にどんと盛られていて、各自そこに手を伸ばしていく、いわば「弱肉強食型」。上述のぼーっとしている子は、気付くと食べ物がなくなっている、という事態になってしまいますので、そのような子どもには一応、お皿を回してあげたりしました。が、こちらでは自己主張をするよう、小さなうちから叩き込まれているので、もっと食べたい子は「もっともっと!」と手を伸ばしてきてあっという間にお皿が空っぽになってしまいました。

ここまで子どもたちから全く目が離せず、あっという間に時間が経ってしまいましたが、テーブルを片づけると、保護者たちもひと段落。


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保育園のお料理セットで遊ぶ


大きなプレイルームで本を読んだり、レゴをしたり、車で遊んだり、絵を描いたり、と思い思いに遊んでいる子どもたちと一緒に過ごしているうちに、4時のお迎えラッシュアワーになり、子どもの数は半分以下の7人ほどに。

改めてあたりを見回してみると、子どもの名簿があって、登園時間と下園時間が書き込まれるようになっています。日本の保育園ではタイムカードを使っていて、それが延長料金にも関わってくるので、お迎えぎりぎりの時は園にダッシュしたものでしたが、ここではそもそも延長保育というシステムがなく、タイムカードもないので、少しのんびりした感じです。

しかし、それ以外はこれといって子どもの様子を書き込めるようなものは特に見当たらず、また連絡帳のように日々保護者と先生がコミュニケーションをとるシステムもないので、保護者が下園時にその日の子どもの様子を尋ねた際の答えは、先生の記憶に頼るところが大きそうです。

この保育時間に参加したおかげで、息子がクラスメートとも楽しく遊び、KILAで普段どのようにドイツの子どもたちが過ごしているのかがわかり、少し安心しました。また、息子自身もうちでの顔と外での顔を使い分けているようで、KILAではきちんとルールを守ったり、彼なりに集団生活を頑張って送っていることがわかり、大変興味深い体験でした。


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冬のドイツでは子どもの交通手段はソリ
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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