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「遊びと学びの子ども学〜Playful Pedagogy〜」

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第9回東アジア子ども学交流プログラム~第2回ECEC研究会~@日本(東京)
「遊びと学びの子ども学〜Playful Pedagogy〜」

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プログラム・各登壇者の発表レジュメはこちら

ECEC研究会、第2回を開催

2013年10月26日(土)・27日(日)、CRN(Child Research Net)が主催し、第9回東アジア子ども学交流プログラム~第2回ECEC研究会「遊びと学びの子ども学〜Playful Pedagogy〜」を、慶應義塾大学三田キャンパスで開催しました。Playful Pedagogy(楽しく遊びながらの教育)、Guided Play(ガイドされた遊び)といった保育・幼児教育の概念を中心に、遊びと学びについての議論が、2日間にわたって展開されました。

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遊びと学びとはどのようにかかわるか

初日は、遊びと学びとの関係を理論的に考察する講演が中心となりました。

開幕を飾ったのは、小林登CRN名誉所長(東京大学名誉教授)による特別講演です。脳科学に基づく実証事例によって、喜びという感情が子どもの心身の健やかな成長にとっていかに大きな意味を持つかが解説されました。

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次いで、榊原洋一CRN所長(お茶の水女子大学大学院教授)は、Playful Pedagogyを「楽しく遊びながらの教育」と定義し、この意義について講演。Playful Pedagogyを実現するための重要な方法の1つとして挙げられたのが、Guided play(ガイドされた遊び)です。幼児教育の方法をDirect instruction(直接教示)とFree play(自由遊び)の2つに大別した時、両者の中間に位置づけられる教育法で、子どもの主体性を尊重しながらも、保育者が自らの教育目標に沿った環境を整え、子どもが自然にもっている好奇心や探究心を刺激するように目的を設定し、材料を選ぶことも重視すると、その特徴を説明しました。そして、Guided playこそ子どもの発達にとって最も有効であるとするアメリカの研究者の見解、遊びによって実際に学びが豊かになることを証明しつつある発達心理学や脳科学の研究成果などを紹介。日本の保育が伝統的に行っている、遊びを通して子どもを育てることの良さが世界的に認められる可能性を示唆し、自信をもって子どもと向き合ってほしいと、会場の保育者にメッセージを送りました。

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続いて登壇した、秋田喜代美氏(東京大学大学院教授)、朱家雄氏(華東師範大学名誉教授)は榊原所長の講演内容を受け、幼児教育のあるべき姿についてそれぞれ自説を述べました。

秋田氏は、幼児教育でいかに遊びが重要であるかを力説。「Guided Playにおける保育者の役割は、子どもが経験している遊びの中から、その子どもにとって何が学びの対象となるかを見とることである」と位置づけ、そうであるからこそ、「保育者には、子ども1人ひとりに応じてどのようにかかわるか、何を教育目標とするかなどを決める、つまり子どもやその時々の状況に対する多様な対応が求められる」と論じました。さらに、子どもが夢中になれる環境と活動をつくることの大切さも強調し、「子どもの遊びを支える大人も、遊び心を大事にしてほしい」と訴えました。

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朱氏も、遊びと学びを調和させることが子どもの健やかな成長には不可欠であると語り、Guided Playの重要性を強調。積み木遊びなどの例を通して、子どもが自由に遊ぶよりも、保育者が子どもと一緒に遊び、指導した方が上手につくれることが多く、そのため子どもの達成感や気づきも大きくなると述べました。また、保育者には、子どもの自主性に委ねる部分と自分がかかわる部分とのバランスをとるために、何を、いつ、どのように教えるかを常に考えてほしいと呼びかけました。

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理論を実践するために

初日の講演で述べられた理論を実践するためのヒントも、2日間でたくさん示されました。

初日最後の登壇者、張世宗氏(国立台北教育大学教授)は、教育とエンターテインメントを融合した、新たな学びの形「Edu-tainment」(楽育)を提唱。学びを意図した遊びには、遊ぶ空間や遊具・学具のデザインが重要であるとし、その実例として、展示物に触れられる博物館、親子がともに遊べる「親子センター」などを紹介しました。また、折り紙で動く鳥を折るなどのミニワークショップを開催し、「遊びで大切なのは、子どもの想像力を刺激し、自ら創意・工夫ができるように導くことである」と力説しました。

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2日目に登壇した上田信行氏(同志社女子大学教授)は、自身が提唱するPlayful Learningを「楽しく学ぶ」ことではなく、「楽しいことの中に、学びがあふれる」状態をつくることであるとし、それをどのように実践するかについて、複数のワークショップの映像を通して紹介。本気でものごとにかかわる時に感じるワクワクドキドキ感が、学びの原体験として子どもたちにもっと必要であると訴えました。また、協働的なものづくりや対話を通して身につく学び、特定の対象に向けた情熱によって深められる学びというように、Playfulな学びの形も例示しました。

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東アジアの幼児教育の現状と課題とは

2日目に行われたシンポジウム「東アジアの現場から」では、中国、台湾、日本で実際にどのような幼児教育が行われているか、どのような課題があるかなどについて、各国の研究者3人が報告しました。

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周念麗氏(華東師範大学副教授)は、中国の子どもの現状について社会的発達に課題があると分析。これを解決するためには、幼児教育でDirect instructionが主流となっている現状を改め、Guided playを広く普及させる必要があると、神経科学のデータを示しながら訴えました。

台湾では2012年1月に幼稚園と託児所が一元化され、「幼児園」と改称しました。翁麗芳氏(国立台北教育大学教授)は「幼児園」での教育について、いくつもの国定基準に照らして評価されるため、教具、図書の量や質などが保証されていると紹介。子どもが保護者と一緒に読書をしたり、保育者を交えて友達とディスカッションをしたりするなど、保護者に歓迎される活動が多いことも伝えました。ただ、遊びについても保育者が一律に指導する園が目立つことから、子どもの自主性や多様性を十分に伸ばすための活動を行う上では課題もあると述べました。

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入江礼子氏(共立女子大学教授)は、子どもが「あー楽しかった!明日も遊びたい!」と感じるような保育を実現することこそ、保育者の使命であると語りました。ただ、幼児教育の現場には若い保育者が多く、保育者へのアンケート調査の結果からは、抱いている保育観と実際に行っている保育との間にギャップを感じる保育者がいることもうかがえると指摘。こうした状況を改善するためには、保育者に対して幼稚園、保育所などの施設種別に現職教育・研修を行うこと、さらに保育者志望の学生に対して在学中の実習などを充実させていくことが必要であると訴えました。

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Guided playを充実させるために

2日目の最後には、プログラムの締めくくりとして、張氏、上田氏、朱氏、周氏、入江氏の5名による総合討論が行われました。Guided playを充実させるためには保育者にどのような知識や技能が求められるかという、司会の榊原所長による設問について、中国と日本における遊び観の違いなど、さまざまな角度から論じられました。朱氏は、一人ひとりの子どもの気持ちに寄り添って対応する必要があるため、一定の型にはまった「知識」ではなく、柔軟性に富む「智恵」を身につけなければならないことを訴え、これは日々子どもと熱心に向き合ってこそ身につけられると強調しました。この朱氏の見解はどの登壇者からも賛同され、国境を越えた普遍的な幼児教育観が浮かび上がりました。

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総合討論後の登壇者と来場者との質疑応答でも、Guided playの実践面が論点となりました。特に、周氏が社会的発達を促す教育法として推奨する「Social pretend play(社会的なごっこ遊び)」(*)をどのように行うかについて、活発に意見が交換されました。
*病院や銀行、スーパーマーケットなど、社会生活でよく利用する場所を保育者が段ボールなどで教室に再現し、そこで子どもが行うごっこ遊び

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講演とワークショップ、シンポジウムを交え、理論と実践の両面から遊びと学びについて検討した今回のプログラムは、こうして幕を閉じました。2日間に登壇したどの研究者も、精緻な分析とユーモアあふれる語り口によっても来場者を魅了し、会場にはたびたび笑い声が上がりました。

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短い2日間でしたが、日本、中国、台湾の教育学者のみならず、医学者、発達心理学者、デザインの専門家など、それぞれの立場から議論を重ね、保育・幼児教育における遊びと学びの現状、課題が浮き彫りになりました。

編集協力:(有)ペンダコ



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