ドイツではアタマジラミは比較的頻繁に発生しているようで、保育園でも年に数回「シラミが確認されたので、自宅でもお子さんをチェックしてください」という掲示を目にします。これは、他の園でも同様らしく、日本語幼稚園のママの間でも時々話題にのぼる程。小さな子どもを持つ家庭では、風邪薬と一緒にアタマジラミ駆除薬が常備されているそうです。
とはいうものの、渡独して間もなく、保育園でアタマジラミ発生の張り紙を初めて見た時には非常にショックを受けました。私はこれまでアタマジラミを体験したことがなく、アタマジラミと聞くと、第二次世界大戦の後、子どもたちが頭を丸坊主にされて、白い粉のお薬を散布されている画像が頭に浮かんできたからです。
しかし、よくよく調べてみると、現代の日本でもアタマジラミは頻繁に発生している模様。日本のあるウェブサイトでは、アタマジラミの感染が拡大している理由について「海外交流が盛んになり、アタマジラミが日本に持ち込まれたことから、アタマジラミは再び増えはじめ1980年にその発生はピークを迎えました。(中略)80年代後半にはアタマジラミはいったん減少したのですが、90年代に入って再び、小学生や幼稚園児、保育園児の間で増加し始めました。アタマジラミを知らない世代が親になり、子供の頭に感染しているアタマジラミに気づかないため、感染が拡大していると推測されています」 *1と記載されており、アタマジラミは不衛生だから起こるということでもないらしいことがわかりました。
ベルリン市でも「アタマジラミに感染したら」というマニュアル本を作成して、感染の経緯や駆除方法などについて記載し、市民に配布しています。さらに、アタマジラミに感染したからといって、保育園を登園禁止になるわけではありませんから、感染はそれ程珍しいことでもないようです。
そんな背景の元、先日、保育園にてアタマジラミ発生の掲示がありました。そこには、「保育園でアタマジラミが発生しました!確認日時4/30、5/3、5/12」と大きく書かれています。
保育園でのアタマジラミ発生の掲示
我が家では、これまでこのような張り紙を目にするたびに、一応、息子の頭をチェックしてきました。しかし、約3年に渡るドイツの保育園生活で、一度も感染したことがなかったこともあり、今回もあまり気にしていませんでした。
ところが、ある日、母親としての勘が働いたのか、少し気になって息子の髪の毛を触りつつ確認してみると、まず極小の白い物体を発見!「なんかゴミや埃とは違う!これはもしかしてアタマジラミの卵かも!?」と本能的に察知し、周辺をよくよく観察してみると、今度は動くベージュ色の小さな物体を発見!「うゎーーーーー!これがシラミか!?」
人生で初めて目にするアタマジラミに若干興奮するも、これまで現地および日本語幼稚園のママ友から、感染に関するエピソードは聞いていたので、不思議と気持ち悪いとは思いませんでした。冷静に頭全体をチェックしてみると、どうやらそんなに感染域は広くない模様。本人も一度もかゆみを訴えたことはありませんし、感染してから比較的日が浅いことが推測されました。ちなみに、息子はお友達や先生から時々「頭につく小さな虫」についてお話を聞いていたようで、怖がったり不快に思ったりする様子はありませんでした。
しかし、このまま放置しておくわけにもいきません。幸い、帰宅途中だった夫に連絡して、すぐに薬局で薬と、駆除専用の非常に目の細かいクシ(0.2ミリ間隔)を買ってきてもらいました。ちなみに値段は12ユーロ(約1,680円)でした。
夫が帰宅するや否や、まずは息子の頭をシャンプーで洗い、その後、薬剤を息子の頭全体にスプレーします。この薬剤は天然ハーブと油を調合して子どもにも優しい処方になっているようで、蚊をよせつけないハーブのような匂いがします。薬剤が髪全体になじんだら、目の細い専用のクシで少しずつ髪をとかしていきますが、何せ0.2ミリと目が細かいので、息子の短い髪の毛でもなかなか通りが悪く、痛がることも度々。しかし、髪の毛をとかす度にクシを観察してみると、小さなアタマジラミが薬剤と共にクシに付着しているのが確認できました。
専用クシにてアタマジラミ駆除中
この作業を何度も繰り返し、頭全体に薬剤がいきわたったら、そのまま一晩おき、次の朝、シャワーで薬剤を落とします。天然素材で処方されているので、子どもが長時間つけたままでも、害はないようです。説明書によると、これでアタマジラミと卵は全滅とのこと。しかし、卵はシャワーでも落ちずにそのまま髪の毛についていることが多いらしいので、8日後に再び同じ作業を行って、ようやく駆除作業終了、とのことでした。
このように比較的簡単に駆除は終わりましたが、園に通う他の子どもたちの駆除が終わっていなければ、再感染の可能性もあります。現に、今回は数日後アタマジラミが再確認されたようで、下記のようなポスターが貼られていました。
「保護者の方へ 必ずもう一度お子さんのアタマジラミチェックをして下さい!!!」
日本のママさんによると、お子さんの通っている保育園でアタマジラミが発生した際は、先生方が毎日園児の頭髪をチェックし、アタマジラミのいる髪の毛は切ってくれるなど、きめ細かい対応をしてくださったそうです。その甲斐あって、1か月ほどで収束したそうですが、ドイツの園ではそのような対応はなく、全て保護者次第です。また、その園では、毎日、シーツと帽子を持ち帰るなど、衛生面の対策を徹底していたそうですが、息子の通う園では、そのように敏感に対応することはありませんでした。さらに、感染した子どもの保護者たちが寝具を持ち帰っているのかどうかもわかりません。従って、収束しているのかどうかもわからないまま再感染、というケースも発生しているかもしれません。
ちなみに、息子の通う園では同時にぎょう虫も発生していた模様で、最初の写真の下部に青字でその旨が記載されています。日本の園や小学校ではぎょう虫検査が必須だったものの、子どもの寄生虫感染率の低下に伴い、来年度以降廃止される方向になったそうですが *2、こちらでは元々ぎょう虫検査は実施していません。さらに、陸続きのヨーロッパの真ん中に位置するベルリンは世界中から人々が集まる多民族都市ですし、寄生虫が発生してもおかしくない環境なのかもしれません。今のところ、息子に感染の兆候はありませんが、肛門に激しいかゆみを感じたり、感染力も強いとのこと。アタマジラミ感染よりも深刻な事態になりそうなので、今後も手洗いを徹底させるなど予防に注力していこうという思いを強くしました。
さて、話をアタマジラミに戻すと、薬のおかげで比較的容易に駆除は行えたのですが、なんといっても大変だったのが洗濯です。息子の寝具一式、園で使用している枕、一緒に寝ているぬいぐるみたち、バスタオル、帽子、ジャケットなど身の回りの物全部は勿論、念のために、私たちのベッドカバーやシーツ、まくらカバー、バスタオルなど全てを洗わなければならない、ということで、一日に3度も4度も洗濯機を回さなければならない状態が続きました。さらに、アタマジラミ撲滅のため、水温60度で洗わなければならないので(ドイツの洗濯機は洗濯温度が選べ、設定温度が高くなるほど時間がかかります)、一回の洗濯に90分以上もかかります。折しも、アタマジラミに感染した頃は天候不安定で、雨が降ることが多く、また、最高気温も10度前後と肌寒く、洗濯ものには不向きな時節でした。1ラウンド終わると、ちょっとベランダに干したり、生乾きになったらアイロンをかけたり、なんとか洗濯物の山を低くすべくてんてこ舞い!この時はさすがに、もうアタマジラミは勘弁と思った一騒動でした。
- *1. お母さんのためのシラミ講座 http://www.danhc.co.jp/sirami/lecture01.html
- *2. YOMIURI ONLINE 2014年5月1日付
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20140501-OYT8T50068.html