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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第32回 小学校入学検査

要旨:

今夏、小学校に入学した息子は、入学前の5月に小学校入学検査を受けた。その内容は健康診断と知能およびドイツ語能力診断。人生初のテストということで緊張していた息子。さらに、ドイツ語テストもあるということで、私も少し不安に思っていた。医師の病欠により、当日キャンセルとなったが、2週間後に受験。二部編成のテストを間近で見ていた母親としてはジェットコースターのような心理状況だったが、無事合格!息子は8月から晴れて小学生です。

第1回でお伝えしたように、ドイツ国内では教育制度の決定は概ね州に委ねられています。従って、新学年も日本のように毎年4月1日に一斉に始まるわけではなく、州によって開始日が異なります。また同じ都市でも、年によって入学・進学日は変則的です。ベルリンでは今年は8月30日が小学校入学式で、息子もいよいよ小学生になりました。

この入学手続きは昨秋から始まりました。まずベルリンでは学校ごとに特色が異なり(詳しくは第24回第25回 を参照)、小学校を選ぶことができるので、希望の小学校に保護者が出向いて登録を行います。この登録は昨年10月に市内の小学校にて一斉に行われました。

登録が終わると、今年の1月から小学校入学検査が順次始まりました。ベルリン市から書面で検査日時の連絡があり、指定された日時に親子で保健所に出向いて検査を受けることになります。その内容は健康診断と知能およびドイツ語能力診断ですが、どれも医師によってテストされます。今年の2月頃には、保育園のクラスメートは次々に「検査を受けてきたよ!」と言ってきました。私たちは市からの手紙を心待ちにして、毎日ポストを確認していましたが、長いこと連絡はありませんでした。

5月に入り、さすがに焦り始めたところで、ようやく時間を指定した手紙が市の青年局から届きました。早く小学生になりたくて仕方がない息子は、この手紙に大興奮!私たちはそんな彼の様子を逆手にとって、調子に乗りすぎたり、お行儀の悪い行動をとったりした時には「あら、そんなことをして小学校に入れてもらえるかしら?ミニ園(保育園の1-3歳グループ)に送り返されちゃうかもしれないわよ!」と言い聞かせることもありました。これがなかなか効き目抜群で、彼はすぐに素行を正したので、この手紙にはマジック効果もあったのかもしれません。

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役所からの手紙


手紙には「5月8日午前10時15分に、添付の質問票と予防接種の記録を持って保健所に来てください」と書いてあります。実はこの検査、私も少し不安でした。渡独して3年、心身ともに順調に成長してきた息子。ドイツ語に関しても「普段のコミュニケーションもよく取れていますし、問題ありませんよ」と保育士の先生方からも言われていましたが、果たして医師はどのように判断するのだろうか?移民の多いベルリンでは、この入学検査で「ドイツ語能力が小学校レベルに到達していない」と判断され、保育園をもう1年延長する子どもたちも多いと耳にします。

さらに、私自身のドイツ語能力に対しても不安があります。「もし息子に何か問題があって、医師が専門的なことをどんどん説明し始めたらどうしよう・・・」というわけで、当日は夫にも有給休暇をとってもらい、万全の態勢で臨みました。

そして迎えた当日の朝。家族3人で朝食をとり、身支度を整えていると、8時に電話が鳴りました。それは役所からのもので「今日の検査は医師が病欠のため延期」とのこと。ベルリンではこのように「担当者が病欠」ということは珍しいことではありませんが、親子で少し緊張して準備をしていたので、このドタキャンには皆、脱力してしまいました。

気を取り直して、新しいアポイントメントを取るべく話を進めると「入学検査は平日の午前中のみの実施」とのこと。理由は「これは園児にとって、人生初の重要な『テスト』。午後になると園児は疲れてしまうから、本来の力が発揮できない」というものでした。夫はこれを「なんて大袈裟な」と一蹴していましたが、役所の規則ですから私たちにはどうすることもできません。

仕方がないので、2週間後に新しいアポイントメントを取りましたが、残念ながらこの日は夫がどうしても休みをとれない日です。テストを受けるのは息子なのに、なぜか私の方がドキドキしていた2週間でした。

さて、2週間後。平静を装いながらも息子以上に緊張している母親でしたが、保健所に到着すると優しそうな役所の女性に促され、医師の部屋の前で待つことになりました。親子一組ずつじっくり検査やお話をするため、しばし静かな廊下で待つことになりましたが、そこにはお絵かきセットと子ども用の椅子とテーブルが置いてあり、ちゃんと子どもが飽きずに静かに過ごせる空間が作ってありました。息子も全く騒ぐことなく、喜んで塗り絵やお絵かきに熱中していました。

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医師の部屋の前でお絵かきをしながら待つ息子

15分ほど待つと、男の子とパパが部屋から出てきて、別の部屋に案内されていきました。どうやら医師は二人で、別々の部屋におり、それぞれ異なる検査を行っているようです。入れ替わりに私たちが最初の部屋に通されました。そこでは、優しそうな女医さんが、まず息子の名前や年齢を聞いてきました。「緊張するなあ」と事前に言っていた息子ですが、案外すらすらと答えられていたので、こちらも一安心。続いて、視力・聴力検査、身長・体重測定が行われます。これらもかかりつけの小児科で行われる毎年の検診で慣れているので緊張することもなく、問題なく終了 !

続いては、提示された図形と同じものを書いて下さい、という作業。その後、「ドイツに来たのはいつですか?」「自宅で息子さんは誰とどの言語を使っていますか?」「日本語を話す頻度はどれくらいですか?」など、言語に関する質問が母親の私に向かって続きます。やはり、私が非ドイツ人であるため、息子の言語環境や使用状況について詳しく聞かれたのでしょう。それでも、全ての質疑応答がなんとか問題なく終わり、ほっとしたところで、「では、最後に予防接種の記録を提出して下さい」とのこと。

「はあ、これでテストの前半が終わったわー」と思いながら書類を出すと、まさかの問題発覚!日本で産まれて3歳になる直前で渡独した息子は、三種混合(DTP)など多くの予防接種を日本で受けました。そして、それらに関しての証明書(母子手帳)は「日本の書類なので不要だろう」と夫婦で判断し、持参しませんでした。ですから、この日提出したのはドイツの小児科で受けた予防接種のみの記録書類。この点を指摘され「全ての予防接種記録なしでは、入学許可を与えることはできないわ」と女医さんは仰いました。さっきの安堵感は一気に吹き飛び、目の前が真っ暗になりましたが、「日本語の証明書をお持ちでしたら、ドイツ語に訳したものをスキャンしてメールで送ってくだされば大丈夫ですよ」と言って下さったので、なんとか胸をなでおろした次第でした。

ジェットコースターのような心理状況でなんとか最初のテストを終えると、再び廊下へ促され、次の男性医師に呼ばれるのを待ちます。女医さんとのテストは和やかな雰囲気の中で終わりましたが、今度は慣れない中年男性医師ということもあり、息子は再び緊張している様子。少しこわばった顔をしています。

さらに、このテスト第二部は知能テストのように、パターン認識や同じものを選択する問題から始まりました。傍から見ていても、結構複雑で難しいものもあったのと、何しろ緊張していた息子は4問中1問しか正解せず・・・。母親の心拍数は再び急上昇してしまいました。

それでもテストは進行し、今度はいよいよドイツ語のテスト。まず「僕と同じことを言ってね」と、子音が続き、舌をかみそうなドイツ語単語を先生が言った後に、息子がリピートするもの。また、意味をなさない文に関しても、同様に先生の発話の後に、息子が繰り返します。これらは私には難しく、頭の中は常に「???」状態で、一言も言えそうにありませんでしたが、幸い、息子はすらすらと全く医師と同様に言うことができていました。「3年間でドイツ語も完璧になったんだわ!」とほっとした瞬間でした。

発音テストの後は、ドイツ語の文法に関するテストです。母親が内心「あれ、なんだっけ?」と答えにつまっているのとは対照的に、息子はすらすらと答えることができていました。

最後は、片足ケンケンと反復横跳びといった運動能力のテストでした。体を動かすことが大好きな息子はこのテストは全く緊張した様子もなく、楽しそうに臨み、お手本通りの完璧な動きを見せていました。

すると先生は「息子さんには問題がないので、今年から小学校に行けますよ」と仰いました。知能テストのような問題のことを聞くと「テストの最初の問題だったので、緊張していたのでしょう。大丈夫、問題ありませんよ」とのこと。逆に「何か質問などありますか?」と聞かれたので、小学校入学までに何か準備しておいた方がよいことがあるかどうか聞いてみると「息子さんの場合、特にありませんが、ご自宅ではドイツ語はどのように話していますか?」と質問されました。「父親とはいつもドイツ語で話しています」と返答すると「冠詞が違っている時があるので、それを直すぐらいですね。といっても、この年の子どもたちはドイツで生まれた子どもたちもみんなそうですから、特に心配しなくてもいいですよ。小学校生活を楽しんでね!」と言ってくださいました。

こうして1時間のテストは無事終わりました。人生初のテストに緊張していた息子も、医師とのコミュニケーションに不安を抱いていた私も、かなり安堵しました。やはり、移民が多いベルリンでは役所の方や医師たちも外国人の親に慣れている模様で、対応が良かったことも、息子の心理にポジティブに働いたのかもしれません。帰宅してからは二人で和菓子をつまんでお祝いしました。これで晴れて息子は小学生です!

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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