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【保育環境を創る】技04:デンマークにみる屋外環境の価値

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僕は、日本における幼稚園や保育所の一体化や待機児童問題に伴い、児童福祉施設最低基準や幼稚園設置基準について考えるようになり、特に屋内の環境に目を向けてきました。初めは、一人当たり面積にゆとりのある場所として北欧の保育環境に着目しました。「日本人はなぜそんなことに興味をもつんだ」と言われながら、数回に渡って訪欧しているうちに、僕は屋外環境に対する北欧の人たちの考え方に興味をもちはじめてきました。

都心から郊外にみんなで通う

写真01は、デンマークの首都、コペンハーゲンの都心にある2つの公立園の園児たちが通う場所です。写真中央にある2棟の建物は、住宅と馬畜舎とを転用したもので、2つの園がそれぞれを園舎として使用しています。写真の通り、広い草原と木々にあふれている場所で、園児たちは10時前から15時すぎまでの5時間半をこの場所で過ごします。都心からは車で30~40分の場所に位置し、それぞれバスに乗って移動してきます。(東京都で例えれば、都心の園に集まってからあきる野や高尾に行くと言ったところでしょうか。)それら2園のうち、馬畜舎を使用していた方の都心園を見学することができました。室内は非常に広いものの、建物の他の部屋は会社や住宅など様々な用途で使われており、中庭は石畳が敷かれ人工的になっていました(写真02)。都心で色々な人たちに見守られながら過ごすことも価値のあることではありますが、郊外に思い切り遊べる自然環境を確保していることが特徴的です。日本でも本園と分園とで移動するものがありますが、デンマークではそのスケールが大きく、子どものために環境を手厚く整えなくてはならないという考え方が非常にわかりやすくなっています。

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写真01. 2つの園がバスで通う
コペンハーゲン郊外の敷地
写真02. 都心園の窓からみた
建物の中庭

外に慣れる、ひとりで居る屋外

写真03は、ある公立園に設けられている昼寝用のかご(krybber)と昼寝スペースです。屋根はありますが、壁面はルーバーのみで、つまり屋根付きの屋外です。下に落ちている枯葉の量から、吹き込みの様子が分かると思います。3歳未満児がここで寝ています。これは、特別なことではなく、他の公立園でも見かけました。また、デンマーク語の通訳をお願いした日本人女性は、15年以上前に子連れで移住されたのですが、その方は、外気マイナスの雪日に外のかごで寝せられている我が子を見て、はじめは「殺されると思った」というエピソードを教えてくれました。日本では風邪を患いそう、という理由で一般的に普及するとは思えません。他方、秋田出身の僕は、東京に来た時に冬場の人たちの格好を見て、薄着をしていると思ったことを思い出しました。寒い秋田では「厚着をすれば、外に居てもなんともない」という感覚があります。それと似たようなことなのかもしれません。小さな頃から外で過ごす感覚を身につけさせ、衣服の延長としてのかごで過ごす環境設定が、個々で過ごす感覚を培っているのかもしれません。

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写真03.デンマークで見かける昼寝用のかご(krybber)と昼寝スペース

屋外で憩う

写真04は、6月下旬に園庭でおやつを食べている場面です。日常的におやつは屋外で食べているそうで、いくつか訪問した園の全てで、屋外でおやつを食べることが日常的に行われていました。この時期のおやつ時間には、西からの陽射しがまぶしく感じられるため、写真のように横向きに差す傘を広げています。このような傘が使われていること自体、屋外で過ごすための対策が練られていることがわかります。また、11月にダウンコートを着てデンマークを訪問した際には、その日の最高気温は9度で、おやつの時点ではそれよりも低い気温だったと思いますが、それでも子どもたちはおやつを屋外で食べていました。日本でも特徴的な園では行っていると思いますが、公立園で一般的に行われていることが注目すべき点です。北欧を歩くと写真05のように、屋外でカフェや飲食店が開かれている事例を多く見かけます。日本では北海道が気候的には北欧に近いと思います。真夏の札幌大通公園ではビアホールを見かけたりしますが、真夏以外でもこういった場所がどこにでもあるのが北欧の街並みだと言えます。以上のように、小さな頃から日常的に屋外空間に居る文化が広がっています。

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写真04.屋外で食べている場面
※一部加工しています。
写真03と04は公立のBørnehuset Bøgenにて撮影
写真05.路上に座席が置かれている
北欧の飲食店街

(写真は6月のスウェーデン)

北欧の保育環境は素晴らしいものとして語られているものを見かけますが、単にそれをまねればいいということではありません。文化や制度や社会背景が日本とは大きく異なっているからです。とは言え、日本の考え方、固定観念(ステレオタイプ)に対して警鐘を鳴らすという意味では非常に価値があり、日本の園が、自園にあるべき保育環境を考える材料になり得ます。屋外環境に対する見方・考え方を整理することで、屋内環境に対するそれらも変わってくるかもしれません。

また、海外に行くといつも、日本人の感受性がもっと豊かになればいいと思います。僕と一緒に行く日本人は、日本に居るときよりもオーバーリアクションをしていることに僕は内心反応してしまいます。日本でも何かを聞いた時のリアクションがみんなもっと大きければ良いのにと思っています。そのためには、「子ども用」としての偽物環境を用意するのではなく、常に「本物」を意識してとことん環境に向き合えるよう、大人が考え続けることが大切だと思います。屋外は自然環境との結びつきが屋内に比べて強く、「本物」の環境設定が達成されやすいのではないでしょうか。

筆者プロフィール
Masayuki_Sato_04.jpg 佐藤将之

早稲田大学人間科学学術院准教授 1975年秋田生まれ.秋田高校,新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了.江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職.2男児(4歳児, 小1)の父.



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