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【スウェーデン】 幼児教育における理論に基づく学びの活動

モナ・ホルムクヴィスト・オランダー氏 (ヨーテボリ大学教育カリキュラム専門研究学部准教授)

2014年4月18日掲載

要旨:

本稿では、ラーニング•スタディーとは何かを解説する。そして、スウェーデンの幼児教育において、ラーニング•スタディーがどのような方法で遊びによる学びの効果を高め、促進しているか、また、面接や観察によって、子どもたちの学びの成果を評価する方法について論じる。ラーニング•スタディーは、教諭が就学前の子どもたちの学びを研究するためのモデルであり、一回目に実施した研究授業の結果を元にして修正を加えた後に、別の子どもたちを対象に実施する、その反復のプロセスである。このモデルは、学びの理論的枠組みを元にしているが、プロセスという面では、従来の研究授業から大きな影響を受けている。ラーニング•スタディーにおける最初のステップは、子どもたちに学ばせたい学習の対象、能力、または内容を定めることから始まる。次に、子どもたちは既に何を知っていて、新しい知識を発展させるためには何を理解しなくてはならないのか、といったことを知るために子どもたちの能力の分析を行う。はじめに、あるグループの子どもたちを対象に学び(学習)活動の最初のデザイン案が実施され、「学習獲得の範囲(zone of gain)」(観察にもとづいた、学びを実施する前と後との評価の差)が分析される。そして、新たにデザインを改善したアクティビティーが別のグループの子どもたちに向けて実施され、改善の前後における「学習獲得の範囲(zone of gain)」を比較し、子どもたちの学習において、重要となっている要素を見出す。ラーニング•スタディーのサイクルは、子どもたちの発達を促進するのに欠かせない要素を教師が見つけるまで繰り返し実施される。
English
スウェーデンの幼児教育

スウェーデンの幼児教育は3つの就学前活動から構成され、1歳児から5歳児にはプリスクール、6歳児には個人保育所とプリスクールクラスが用意されている。年間525時間以上の授業時間をカバーするプリスクールクラスは非義務教育、無料であり、園児の発達と学びの促進を目的としている。プリスクールクラスの授業は、プリスクールと小学校で用いられるそれぞれの教育学的手法を組み合わせて実施され、その先に続く学校教育の基盤となる。プリスクールへの登校は任意であり、7歳から16歳を対象とした義務教育とは異なる。スウェーデンの学校システムは国により目標を設定されており、その達成においては地方自治体が大きな責任を負っている。1〜5歳を対象としたプリスクールは有料であるが、授業料は保護者の収入に応じて決定される。6〜16歳を対象とした教育は全て無料で、子どもたちを成績によって別々の学校に振り分けるシステムは採用していない。2011年、スウェーデンでは新しいカリキュラムが編成され、プリスクールにも1〜5歳児を対象とした独自のカリキュラムが制定された (Ministry of Education and Research, 2010) 。プリスクールでも、能力別保育を実施しておらず、1~5歳まで年齢で分けることなく保育を行っている。

スウェーデンにおけるプリスクールの役割は、ここ数年、保育または教育のどちらに主眼を置くべきかで揺れ動いている。スウェーデンのカリキュラムは、当初、「教諭が子どもたちを誘導することなく、子どもたちの興味や成長に沿ったアプローチを採るべき」だと提唱したフリードリッヒ・フレーベルの影響を強く受けていた。これは、保育と教育の両方から良い点を採用し、状況に応じて取り入れるというよりも、小学校で行われている学習活動はプリスクールには適さないということ、また、その逆もしかりであるという考え方を意味してきたものであると言える。子どもたちに正しい答え(もし、そういったものが存在するのであればであるが)を教えることを含め、あらゆる誘導的なアプローチを排除してきた背景には、教諭のそのような介入を、子どもの自然な好奇心と学びを抑制するリスクとして見てきたことがある。子どもたちの質問に答えないことが、好奇心を刺激することになるのか、これまでのアプローチにおけるそのような相関関係には、ずっと疑問がもたれてきた。こういったアプローチは、子どもたちをわからないままにさせ、新しい「なぜ?」を刺激するよりも、逆に、答えを探すことを諦めるような気持ちにさせてしまっているという、矛盾した結果をもたらしているかもしれない。プリスクールは、子どもたちの学びを促すためにそのリソースを活用できていない (Promemoria U2008/6144/) という評価結果の影響もあり、改訂されたプリスクール・カリキュラムでは、特に言語、コミュニケーション発達、算数、科学及びテクノロジーの分野において、学習的側面が見られるようになった (Ministry of Education and Research, 2010)。 その結果として、プリスクール児童の学びを刺激する新しい方法の探求、学習活動をデザインするために教諭の専門的能力を発達させることについて、教諭間の関心が高まっている。

スウェーデンの幼児教育におけるラーニング•スタディー

ラーニング•スタディー (Marton & Tsui, 2004) は、初等教育、中等教育における教授方法の質を発展させるために、この10年、スウェーデンで活用されてきた。しかし、ラーニング・スタディーを幼児教育にどう取り入れるかは、ずっと最近になって出てきた問題であり、その活用のされ方も、初等・中等教育におけるものとは異なっている。学びとは、人や場所を問わず、誰もが日々関わり発展させているものである。ラーニング•スタディーは、意図的学習、つまり、誰かが(大抵の場合は教諭)、誰かに向けて(大抵の場合子どもや生徒)、学習対象と呼ばれる何か(大抵の場合能力や内容)を教授する状況で発生する学びに焦点を当てている。すなわち、1)学習の対象、2)指導を意図する者が学びの機会を提供する方法、3)学習者が自分の能力をいかに発達させるか、といった3点に焦点が当てられている。学習が起こるのは、この3つの視点が交差する時である。ラーニング•スタディーは、「学習の変異理論」という、学習についての理論によって構成されている (Lo & Marton, 2012) 。この理論を指針として活用した場合には、後述する積み木の例のように、不変の要素に対して、学習対象となる要素を変異させることとなる。

プリスクールと小学校では、ラーニング•スタディーの目的や実施方法に類似点があるものの、そのために用いられるアクティビティーや、そこからもたらされる学習の成果の評価方法が違ってくる。幼児教育においては、園児の「人」としての発達に特に焦点が当てられており、学びを促す際には、授業ではなく、遊びのようなアクティビティーを実施する傾向がある。学習や様々な能力を発達させる上で必要な要素を探るために、系統立った細かい分析をラーニング•スタディーの中で用いるという点は両者とも変わらない。ラーニング•スタディーは、教師が日常業務の中で行う方法ではなく、教師が子どもの学びを促進・評価する方法を向上させ、また、理論に基づいたアクティビティーの活用方法を身につけるための園内(校内)研修であり、学習の質を高めることを目的とする。これらを考慮すると、ラーニング•スタディーを全ての教育現場で活用することはできない、とは言えなくなる。なぜならば、学習のためのアクティビティー設計に取り組んでいる教師は、子どもの学びに必要な条件や状況についての専門知識を高める必要があるからだ。ラーニング•スタディーの中で、教師は学びにおける理論的枠組みに関する知識を獲得する。そしてそれは、その後のあらゆる学びの機会において、学習をデザインし評価するために、活用できるものである。この、学びを文字通り見る、あるいはしっかりと見るといった方法は、学習に対する共通の理解を強化するものであり、欧米の教育界にはこれまでなかったものである。例えば、日本では教諭たちが、学習内容に応じて、違いや類似性をパターン化する(必ずしも常に明確に分類できるわけではないが)ことを学びととらえるという共通認識を持っている。ラーニング・スタディーは、著者がこれまで見てきた、このような一般的な方法とは異なっている。

ラーニング•スタディーは、学習対象を定め、その対象を学習する際に発生した問題を教諭間で共通認識としてもつことから始まる。そして、子どもたちの能力を観察し、子どもたちには何が分かっていて、何が分かっていないのか、そして、質的により深く、発展した知識を得るために何を分かるようにする必要があるのかを明白にしていく。これらを見極めるために、ゲームや面接を通して、あるいは、用意された教具を子どもたちがどのように扱うか、普段の園などにおける活動と変わりのない、子どもたちの活動を観察する。教諭は、子どもたちに教えるべき要素のうち、子どもたちがまだよくわかっていないと思われる要素が最前面に出るように、学習活動をデザインする。例えば、幾何学図形の違いを識別できるように指導したい場合、複数色の積み木を使うと、子どもたちは色に注目し、形ではなく色別に積み木を分類する可能性がある。そのため、一色の積み木を使い、形を前面に出せば、色の要素を取り除くことができ、子どもたちが積み木を分類する際に、色ではなく、形を分類の指標にする可能性が高くなる。このように、ラーニング•スタディーはプリスクールで普通に行われているような活動をベースにして行うものではあるが、子どもたちの行動を更に展開させ、自分たちの周りの世界について、新しく、質的に向上した知識を得、それをさらに発展させられるように意図してデザインされている。

初回のアクティビティーを実施する前に、第一グループに属する子どもたちの特定の知識を評価する。そして、初回のアクティビティーを実施した後に、再度評価を行う。実施の前と後の差は「学習獲得の範囲(zone of gain)」と呼ばれ、この違いが大きければ大きいほど、学習のためのアクティビティーが効果的であったことを意味する。初回のアクティビティー実施後の結果は、教員会議で共有され、第二グループの子どもたちを対象とした二回目のアクティビティーをデザインする際の参考とされる。この循環型プロセスは、その学習対象を教える上で決定的となるものを教諭が発見するまで繰り返される。通常、3回から4回のアクティビティー介入がそれぞれ異なるグループに向けて実施される。各アクティビティー間の「学習獲得の範囲(zone of gain)」を比較し、特定の学習活動の中で重要なものは何か、また、重要ではないものは何かについての理解を深め、他の教諭が同じテーマを教える際に活用できるよう、学びに関して得た知識(授業デザインそのものの知識ではなく)を教諭間で共有する。

スウェーデンの幼児教育において実施されるラーニング•スタディーに関する研究結果

この研究は、次の3つのレベルに焦点を当てている。一つは子どもの学習、次に教諭の学習、そして、教諭の専門性を高めるためにラーニング•スタディーを活用することの有効性である。学習活動をデザインする中で学習の変異理論 (Lo & Marton, 2012) を検証したこの最初の研究は、それぞれ4、5、6歳である3名に「半分」の概念を学ばせるものであり、理論的仮説が幼児の学習機会にも効果を発揮することを示した。この研究では、"物体を二等分(半分)にする"という点には変異を与えず、ケーキ、りんご、なしというように、その対象(外見)に変異を与えた。子どもたちには、一つの物体の中にいくつの「半分」があるかをたずねた。そしてその後に、一つの物体がどのようにして、二つの「半分」に切り分けられるのかを見せた。子どもたちは、対象(外見)が変わった時に、一つの物体の中にいくつの「半分」があるのか、非常にあいまいな理解を示した。ここでは、子どもたちが、「半分」の概念を「(全体ではなく)分かれている」ことと同様に認識していることが分かった。つまり、「分かれているもの」の数は何回切り分けるかによって決まるため、一つの物体の中に半分がいくつあるのか、分かっていないということになる。子どもたちは、「二等分にする」という定義を認識できていなかった (Holmqvist & Tullgren, 2009) 。

プリスクールにカリキュラムがあるという事実に基づき、我々は研究の中で、特に算数に重きを置き、ラーニングスタディーを活用したアクティビティー設計がどのようにしてそのカリキュラムゴールを達成するかに注目した(Holmqvist, Tullgren & Brante, 2012) 。この問題に注目する他の方法として、プリスクール教師の、子どもの学びを評価する能力、及び、どのアクティビティーが子どもたちに有益かを予測する能力に注目する方法もある (Holmqvist, Brante & Tullgren, 2012) 。プリスクールにおいて、ラーニング•スタディーが導入されてきた方法については、ラーニング•スタディーを園内研修した24名のプリスクールの教師による研究で解説されている。ここでは、各グループが1つのラーニング•スタディーを実施した (Holmqvist Olander & Ljung-Djärf, 2012) 。そして、彼らが子どもたちの学びを理解するためにラーニング•スタディーを活用した5事例が紹介されている (Ljung-Djärf & Holmqvsit, 2013) 。

結論

ラーニング•スタディーの視点に立った様々なプロジェクトが近年スウェーデンの書籍で紹介された (Holmqvist, 2013) 。この書籍は、現役のプリスクール教師と着任前の新任教師に向けて、算数、言語、科学といった分野において要求されている高い教育の質を、どのようにして満たしていったらいいのか、その方法を提示することをねらいとしている。

これまでに発表された研究や前述の調査は、ラーニング•スタディーのプリスクールにおける将来的な活用を有望視しているが、何よりもプリスクールでの学習の質を高めることが重要であると述べている。スウェーデンでのプリスクールでは、過去において、一人ひとりの子どもの認知能力を評価するために子ども個人の観察が実施されていた時期があったが、後に変化が見られ、個人に対する評価の実施は概ね廃止されている。その結果、学習活動そのものや、教師、環境に対してより多くの関心が向けられるようになってきた。子どもの発達をもとにアクティビティーの質の高低を判断するには、いくつかの問題点が残る。その理由は、これが、アクティビティーを計画した教師と同じ教師が作成した評価による一般的な視点を基準としているからである。アクティビティーを修正、改良するために、子ども一人ひとりを評価したり、点数を付けるのではなく、グループ単位で子どもの発達を評価する新しい方法が試されている。

プリスクールにおいては、子どもは学ぶべきか、遊ぶべきか、といったことを議論し、どちらか一方が勝るといった見方ではなく、この2つを融合させた、目的のある遊びに焦点を当てるべき時が来ているのではないだろうか。


References
  • Holmqvist, M. (Ed.) (2013). Learning Study i förskolan. [Learning Study in Pre-School]. Lund: Studentlitteratur.
  • Holmqvist, M., & Tullgren, C. (2009). Pre-school children discerning numbers and letters. Forum on Public Policy.
  • Holmqvist, M., Tullgren, C. & Brante, G. (2012). Variation theory - a tool to achieve preschool curricula learning goals in Mathematics. Curriculum Perspectives, Vol 32, No 1, April 2012, pp 1 - 9.
  • Holmqvist, M., Brante, G. & Tullgren, C. (2012). Learning Study in Pre-school. Teachers' expectations for children's learning and what they actually learn. The International Journal for Lesson and Learning Studies, Vol 1, No 2, pp 153-167.
  • Holmqvist Olander, M. & Ljung-Djärf, A. (2012). Using Learning Study as In-Service Training for Preschool Teachers. In Sutterby, J. (ed.): Early Education in a Global Context. Advances in Early Education and Dau Care, Vol. 16, pp. 91-108.
  • Lo, M. L., & Marton, F. (2012). Towards a science of the art of teaching: Using variation theory as a guiding principle of pedagogical design. International Journal for Lesson and Learning Studies, 1, 7-22. Doi: 10.1108/20468251211179678
  • Ljung-Djärf, A. & Holmqvist Olander, M. (2013). Using Learning Study to Understand Preschoolers' Learning: Challenges and Possibilities. International Journal of Early Childhood, 1(45), 77-100.
  • Marton, F. & Tsui, A B M. (Eds). (2004). Classroom Discourse and the Space of Learning. London: Lawrence Erlbaum Associates, Publishers.
  • Memorandum U2008/6144/S (2008). Uppdrag till Statens skolverk om förslag till förtydliganden i läroplanen för förskolan [Assignment to the National Agency of Education on proposed clarifications in pre-school curriculum]. Stockholm: Ministry of Education and Research.
  • The Swedish National Agency for Education (2010). Curriculum for the preschool Lpfö 98/2010, Retrieved July, 2013.
筆者プロフィール
Mona Holmqvist Olander (small).jpg モナ•ホルムクヴィスト•オランダー(博士)

スウェーデン、ヨーテボリ大学教育カリキュラム専門研究学部准教授
スウェーデン、クリシャンスタード大学非常勤講師
専門は、学習における研究、特に、精神・神経疾患の診断を受けた児童、受けていない児童の、プリスクールや学校教育における意図的学習を研究対象としている。関心のある理論は、自身の研究の基盤となる現象記述学、学習の変異理論とラーニング・スタディーへの方法論的アプローチ。1961年生まれ。1995年にルンド大学博士課程を卒業。研究員として働く傍ら、1996年から、ヨーテボリ大学の現職に就く2011年まで、クリシャンスタード大学の教員研修プログラムにて教鞭を取る。
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