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論文・レポート

Essay・Report

子どもたちの「新しい遊び環境」(2)

吉田 太郎 (立教女学院小学校 宗教主任)

2010年10月22日掲載

要旨:

「遊び」は子どもの成長の中では、なくてはならない重要なものである。それを認識して、立教女学院小学校では校内における遊具設置が決まった際、単なるジャングルジムやブランコといった運動遊具の設置計画から、新しい「子どもたちの遊び環境」の整備という教育プロジェクトへと移行した。創造性のある「遊び環境」を実現するために、導入されたのはデンマークのKOMPAN社の遊具であった。計画、遊具の設置、各遊具の特徴などの方面から、立教女学院小学校の「子どもたちの遊び環境の整備」プロジェクトを詳しく紹介する。

子ども時代に必要な運動とは

 

子どもが10歳になるまでにどれだけ多くの動作を経験したかという「動作の多様性」や、どれだけ身体を動かす経験をしたかという「運動量」は、子どもの身体能力だけではなく、認知力や情緒の発達にも影響を及ぼすのではないかといわれている。最新の科学的研究によると、運動が子どもたちの知的学習プロセスや集中力、社会性を発達させることに何らかの影響を与えるとも指摘されている。


本校が導入したKOMPAN遊具のふるさとデンマークでは、国家プロジェクトのひとつとして体育理論の研究が進められているという。

 

ちなみに、社会福祉の先進国として知られるデンマークやスウェーデンといった北欧諸国は、子ども向けのおもちゃや遊具についても優れている。そのデザイン性だけではなく、機能性も含めて子どもの成長や発達についてよく研究されているからにほかならない。では何故、北欧諸国が進んでいるのか? それは人口が少ないこと、社会福祉が進み、女性が仕事を持ちながら子育てをする環境が整っていること、子どもが安全に遊べるような環境を必要としていること、そして「子ども」を社会の資本として捉えていることで、よりよい成長や発達の必要性が十分に理解されているということだろう。つまり、国をあげての子どもへの手厚い教育行政がなされているといえる。



「遊び」と「学び」

 

「遊び」を通して人は考える筋肉を鍛えている。誰もが体験を通して「遊び」の楽しさを知っている。「遊び」は子どもの成長の中では、なくてはならないものである。
子どもの「遊び」は、「動物進化を追体験すること」だというユニークな仮説がある。「子どもが木登りを好むのは、かつて人類が猿から進化したからではないか」というもので、ヒトは「遊び」を通して、人類のDNAの中に残されている魚類から両生類、爬虫類、原始哺乳類から猿人への進化の過程を子ども時代の短期間に追体験しているのではないかというものだ。以下に子どもの「遊び」を分類した例を挙げる。

 

サカナ型活動...水遊び
カエル型活動...泥遊び
トカゲ型活動...はいはい
ネズミ型活動...いないいないばあ、隠れんぼ、穴掘り
サル型活動...木登り
ヒト型活動...追いかけっこ、乗り物、ごっこ遊び

 

子どもの「遊び」を観察していると、まるで子犬が駆け回るような姿と重なる部分が多く、共通性も見られる。故に、動物進化の追体験という仮説も経験的にうなずける部分があるだろう。

 

「遊び」の持つ可能性や重要性を認識したことで、単なるジャングルジムやブランコといった運動遊具の設置計画から、まったく新しい「子どもたちの遊び環境」の整備という教育プロジェクトへと移行していった。



「子どもたちの遊び環境」整備プロジェクト

 

新しい遊具の導入に際して、まず「遊び」についての認識を積極的に捉えなおすことから始めた。計画にあたっては、(1)学齢期の子どもが自分から自発的に「たのしく」身体を動かせること、(2)子ども同士のコミュニケーションが生まれること、(3)1年生から6年生までと幅広い年齢層の子どもたちが一緒にも、あるいは別々にも遊ぶことができること。この3点を重視しながら国内外から幅広く情報を集めていった。公園や学校などに設置された各メーカーの遊具を見て歩き、複数の遊具メーカー担当者の話を聞いた。

 

長い準備期間の末、「遊び」の持つ創造性や教育的価値を体現するような「遊び環境の整備」を実現するために選んだメーカーは、ボーネルンド社という日本のおもちゃメーカーが輸入するKOMPAN(コンパン社)というデンマークの運動遊具メーカーだった。ボーネルンド社からは「遊びこそが子どもたちを育み、その子どもたちが未来をつくる。つまり、遊びが未来をつくる...、だからこそ豊かな遊び環境の創造が必要」という考えを聞き、まさに立教女学院小学校の目指す、創造性のある「遊び環境」を一緒につくっていくことができるだろうということになった。



「サンド・アート」のイベント


report_02_107_1.jpg子どもたちにとっての「遊び」の重要性を大人が認識するために、まずは童心に戻って体験しようということで、2007年12月、プレイコートに3トンの砂を持ち込み、お父さんの会と一緒に「プレイフル・サンド・アート」イベントを行った。大勢の保護者と子どもたちが砂場遊びを通して創造性のある遊びの楽しさ、意味について考えることのできたイベントだった。

指導にあたったのは同志社女子大学の笠間浩幸教授(現代社会学部現代こども学科)。著書の中で砂場の持つ意味について以下のように記している。

 

 砂場はこどもたちにとって極めて重要だ。

 なぜなら砂場は可塑性をもった学習素材提供してくれるから。
 ある時、私は見たことがある。
 子どもたちが舗装された道路にあった穴ぼこのところへ夢中になって走っていたのを。
 彼らはそこで自由に形を作ることのできる土を穴ぼこから取り出していたのだ。
 もし子どもたち、とりわけ男の子たちに、あまり制限しないで自由に身体を動かせて、
 創造衝動を体験させる機会を与えてやれるなら、
 彼らの動物的な激情が抑制される。
 そしてこの目的のためには、木片、板、石などが砂場では役に立つ。
                     著書:『<砂場>と子ども』(東洋館出版社より)


最初に「遊具設置」と聞かされた保護者の多くは、ブランコや滑り台といったいわゆる公園遊具をつくるのかと考えた。そこから、「遊び」の価値を再認識するという作業を保護者、教職員をふくめて全員で取り組もうとしたのが、今回の「子どもたちの遊び環境」整備プロジェクトだった。



遊び環境の整備で大切にしたこと

 

①遊具の安全性

公園施設などでの遊具にまつわる子どもの事故が数多く報道されること(度重なる事故の報道)により、公園から遊具が姿を消す。そのため、土管・雲悌など(小学校遊具)の見直しが必要となり、安全性への認識・要望も強くなった。


report_02_107_2.jpg②リスクとハザード
「リスク」は、遊びの楽しみの要素で冒険や挑戦の対象となり、子どもの発達にとって必要な危険性は遊びの価値のひとつである。子どもは小さな「リスク」への対応を学ぶことで経験的に危険を予測し、事故を回避できるようになる。また、子どもが危険を予測し、どのように対処すれば良いか判断可能な危険性が「リスク」であり、子どもが危険を分かっていて行うことは、「リスク」への挑戦である。

 

「ハザード」は、遊びが持っている冒険や挑戦といった遊びの価値とは関係のないところで事故を発生させるおそれのある危険性である。また、子どもが予測できず、どのように対処すれば良いか判断不可能な危険性も「ハザード」であり、子どもが危険を分からずに行うことは、「リスク」への挑戦とはならない。

 

遊具に関連する「リスク」と「ハザード」は、それぞれ物的な要因、人的な要因とに分けることができる。 例えば、通常子どもが飛び降りることができる遊具の高さは物的「リスク」であり、落下防止柵を越えて飛び降りようとする行為は人的リスクである。 一方、遊具の不適切な配置や構造、不十分な維持管理による遊具の不良は物的「ハザード」であり、不適切な行動や遊ぶのには不適切な服装は人的ハザードである。

 

「リスク」...子どもが成長するために必要な挑戦
「ハザード」...安全のために排除しなければならない危険

 

③遊びの三つのポイント

遊びには三つの大事なポイントがある。
・「遊び」は本来楽しいもの...楽しいからこそ意欲が生まれる
・「遊び」は自由...監視や強制されて行うものではない
・「遊び」にはルールが必要...子どもたちの世界


工事について


report_02_107_3.jpgプレイコートとして限られたスペースの中で、1年生から6年生までの児童が安全に、飽きることなく、遊びの中で必要な運動を行い、加えて創造性のある遊びを生み出しながら、人間関係の構築にも資することのできる「遊び環境」を創る。以上のような命題を与えられ、設計にあたった(株)ボーネルンド社の担当者、デザイナーと繰り返しミーティングを重ねた。

 

 

report_02_107_4.jpg予算内でどのように希望を盛り込むかという点では、遊具本体が輸入品であり1基あたり数100万円、プレイトップ(下地)の処理に数100万円とこれまでには考えられないようなコストが見込まれたが、子どもたちにとって現時点で最も素晴らしいといえる「遊び環境」をデザインしようという意気込みで取り組むことができた。

 

希望の遊具を設置するためには安全範囲の確保が必要で、やむなく北側道路の桜の木を数本、駐車場の方へ移植させてもらうことになった。また新校舎建築時に新たに卒業記念品として購入した土管3本についてもやむなく撤去、教員の寄付で設置した雲悌も撤去せざるを得なかった。

 

約半年にわたるデザインの検討の末、2008年6月末から8月中旬までの期間で子どもたちの「新しい遊び環境」が完成した。検討開始から1期工事完了まで、約500日の歳月を要した。


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各パーツの主な特徴について

≪モザイクタウン≫
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原色を用いた色使いは低学年の子どもたちに自分達の居場所だと知らせる。シンボルタワーとして、そして誰にも邪魔されない秘密基地として。大切なコミュニケーションの場としても活用できる。幼稚園から小学生までが安全に遊ぶことができる。







≪スーパーノーバ≫

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傾斜した輪がダイナミックに回転する、全く新しいタイプのバランス遊具。ひとりで自分の可能性に挑戦することはもちろん、グループで遊ぶことも可能。コミュニケーションが自然に発生する遊具として一番人気。大人も子どもも手をつないで一緒に楽しむことができる。


 

 

≪ファンキーエレメンツ≫

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「もっと動きたい」「もっと挑戦したい」という子どもたちの欲求に応えるため、あらゆる角度から動きを研究し遊具に取り入れた運動遊具。チャレンジする喜びを感じながら遊び、身体をバランスよく育んでいくことができる。360度、どの壁面からもトップフロアへアクセスすることができる。新しい「遊び環境」のランドマーク的な存在。

 

 

≪ギャラクシー≫

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垂直・水平といった安定した場所がなく、すべてが可動で、重心のかかる位置を意識しながらバランスを取る事を要求される。バランス能力を高めると共に、普段使う事のない筋力の強化もはかり、総合的な身体能力を高めることができる遊具。難易度が高く、挑戦しようという意欲を育む。

 

 

 

 

 

≪プレイトップ≫(ゾーニング)

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異年齢間でのコミュニケーション・デザインの美しさ・優れた安全性。ここが子どもたちの遊び場所だと一目でわかる色づかい。衝撃吸収材を配したゴムチップは安全性が高い。
プレイトップにはアースカラーを基調とし、学院の環境にも調和するように配慮されている。



≪砂場≫
低学年の子どもが、安心して過ごすことのできる砂場の設置は予算の関係上、先送りとなっていたが、教員有志の寄付によって2009年の夏にようやく設置が実現した。

 

砂はホワイトサンドというガラスの粒子を加工して生成した砂を使用している。衛生面ではもともと無菌状態のものなので、清潔を保ち易い。見た目にも白くてきれいなので、心理的に泥遊びが苦手な子どもでも遊びやすい。鉄分を含まないため夏場でも砂が熱くならないという特徴がある。



おわりに


工事・設置費用については、小学校の保護者、藤の会役員、学年幹事の方々のご協力を得て、保護者の寄付によって費用を捻出していただくということになった。

 

いくつかの学校が遊具設置を検討するときに、「遊び」(なんか)にそんな予算はかけられないということで計画を縮小せざるを得ないという。もちろん各学校で様々な経済的事情はあるにせよ、子どもの「遊び」についての必要性の理解が保護者の中になければ、今回のような計画は実現し得なかっただろう。

 

新しい「遊び環境」は、子どもたちのよりよい成長や発達のために、また何よりも子どもたちが「学校はたのしい」と思えるようにと願う立教女学院につながる多くの人々の善意によって実現したことを改めて記したい。

 

子どもたちの発案で、新しい遊び場は「Joy Platz」と名付けられた。「Joy Platz」では、できるだけ子どもたちが自分たちの力で人間関係を構築していくことができるよう、大人がなるべく子どもの遊びに介入しないようにと教師間での取り決めをしている。大人が教える遊び方ではなく、子どもたちが自分たちで発見や挑戦をしていくような場所であって欲しい。子どもたちが、新しい「遊びの環境」を活かして、楽しみを発見し、体力を向上させるとともに、遊びを通してよりよい人間関係を築いていけるように見守っていきたい。




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