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創発的学びの場としてのプレイショップデザイン

宮田 義郎 (中京大学 情報科学部 教授)

上田 信行 (同志社女子大学現代社会学部 教授)

ヒレル・ワイントラウブ (ライター/デザイナー)

2005年10月28日掲載

要旨:

本稿で筆者らはPlayful Spirit(どんな状況でもその場の人とモノを活かして新しい意味を創造しようとする)をデザイン・エンジンとした「Playfulな学びの空間」として数々のプレイショップを実践してきた((1)(2))。この論文では、中京大学で2000年~2004年に実施した事例(音楽、英語、国際交流、アート制作などがテーマ、対象は小学生~大学生)を分析した結果((3)~(8))を踏まえ、このような場でどのような学びが起こっていたのか、次にどのようなプロセスがそれを支えているのか、さらにその実践は我々にとってどのような学びだったのかについて考察する。
創発的学びの場

社会のグローバル化の中で、既存の文化を超えた創造的な学びを捉えるためには、従来の「既存の知識・技能を獲得する学び」にとどまらない、新しい学びへの視点が必要であろう。認知科学の学習観も「個人による知識・技能の獲得」から、コネクショニズム、状況的学習論などを中心に「状況に埋め込まれた、分散協調的、創発的なプロセス」と捉えなおしてきた。

我々はPlayful Spirit(どんな状況でもその場の人とモノを活かして新しい意味を創造しようとする)をデザイン・エンジンとした「Playfulな学びの空間」として数々のプレイショップを実践してきた((1)(2))。プレイショップでは、従来の教授設計学のアプローチと異なり、参加者が到達するべき目標を最初に明細化せず、参加者もまわりも相互浸透的に変容する状況が立ち現れてくることを重視している。

この論文では、中京大学で2000年~2004年に実施した事例(音楽、英語、国際交流、アート制作などがテーマ、対象は小学生~大学生)を分析した結果((3)~(8))を踏まえ、このような場でどのような学びが起こっていたのか、次にどのようなプロセスがそれを支えているのか、さらにその実践は我々にとってどのような学びだったのかについて考察する。


個別的から関係的・創発的へ:世界観の変容

まず、どの事例においても、最終的には何らかの価値観・世界観(音楽観、表現観、外国観、人間観など)の変容が観察された。それらは「自分と対象を切り離された存在と観る、個別的世界観」から「自分と対象が関わり合うことで何かを創造すると観る、関係的・創発的世界観」への変容といえるものだった。(例:造形リフレクションでは、与えられたメディアを使う表現⇒自分が素材と関わり合いメディアを生み出す表現へ。音楽プレイショップでは「既成の楽器の熟達者が楽譜を演奏する音楽」から「自ら様々な素材を発見し組み合わせることで音の可能性を引き出す音楽」へと音楽観が広がった(4)。

オンラインでの発言の分析でも、自分のみ、相手のみについて述べる「個別表現」が減少し、自分が相手と関わり合おうとする「関わり表現」が増加したことは、「他と切り離された自分が望ましい特性を身に付けていく」という(学校教育的)個別的学習観から、「他人と具体的に関わり新しい意味を生み出していくことで互いに成長する」という関係的学習観への変化を示唆している。

初期のフェーズでは、他者との関係性についての意識が「他者に評価される」ことから「他者と自分の表現を重ね合わせて新しい意味を作り出す」ことにシフトする傾向があった。例えば、英語プレイショップでは、参加した小学生は「間違えると恥ずかしい」という意識が少なくなり、外国人と全身でコミューケションするようになった(5)。様々な場面で、参加者の意識が「正解を出す事(正しい英語を話す、正しい音を出す)」から「相手とコミュニケーションする事」へとシフトした。


学びのサポート

異文化連携活動で使用されたオンラインコミュニケーションツール上で、初期は自分と相手との関係のみを意識した発言が多かったが、4ヶ月の間に、より経験豊富なメンバー(大学生、教員など)が経験の少ないメンバーのコミュニケーションを促進する意図をもって発言する「サポート発言」が増加していることが観察された。さらに、サポート発言をサポートするより高いレベルのサポート発言が増加し、数ヶ月の間に個人のサポートのレベルが高くなっていることが分かった。

オンラインコミュニケーションで大学生は高校生がオンライン会話に慣れ、自発的に発言し、さらに発言をより具体化するように促すサポートを行っており、それに対し高校生も次第に自発的に発言し、それを具体化するようになってきていた。このように大学生は高校生の状況に合った段階的なサポートを効果的に行っていたようである。(8)


考察

このような研究の過程で我々が経験したConceptual Transformationについて述べたい。

学習環境のデザイン主体は?

「学習環境のデザイン」といったときに、その環境をデザインする主体は教育者側あるいは研究者にあるだろう。我々も1999年当初は「我々はどんな環境をデザインすればよいのだろう」というスタンスであった。しかし、その後の実践の中でこのスタンスは変容してきた。

例えば(4)で示したように、国際交流イベントのオンラインコミュニケーションにおける参加者の発言の中で、2001年7月~11月にかけて、サポートした側(大学生)だけでなく、サポートされた側(高校生)の「サポートレベル」も上昇していた。さらに他人のサポート発言をサポートする発言もみられるようになった。11月には今までサポートしてもらっていた大学生と、新しい高校生メンバーとのコミュニケーションを目的とした企画も実現させた。

すなわち参加者は、企画者が用意した活動に参加することをきっかけに、自ら目的を持ち、役割を見つけ、他人をまきこみ、周りにあるモノと人を活かして意味を生み出す場を創出しようとしていた。参加者が最終的には企画者になっていったのである。

プレイショップでは、参加者が主体的に何かを創り出すような活動や、参加者同士のコラボレーションを多く取り入れている。しかし、それは単に体験から学習するというにとどまらず、他者にとっての学習環境を創り出し、その行為が自らにとっての学習環境を創り出すことでもある、ということが起こっていた。環境をデザインするという行為そのものが、活動を通じて伝搬していくらしいことが明らかになってきた。


創発的な学びとは?

その場が持続可能な学習環境となるには、企画者が育っていく(参加者が企画者になる)必要があるだろう。そのためには、ここで観察されたようなサポートできるようになるサポート(メタ・サポート)が重要であると考えられる。

創発的な学びとは、このように「学びを創り出す学び」であるのだろう。ワークショップに参加していい体験をすることが目的ではなく、その体験を活かして、日常の自分の周りの環境を創り直し、それによって自分の周りの人たちとの関係性を作り直していくようになったのであり、我々はそのような学びを目指している。

Playful Spiritとは、日常の自分の当たり前の環境を新しい目で見直し、そこに隠されている無限の可能性を発見し、それらを活かして新しい意味を創出していく、そのようなはたらきである、と我々はこの研究を通して捉え直してきた。

そしてその「環境」とは、物理的な空間やソフトウェアだけでなく、周りの人たちとの関わり方そのものが最も重要な要素となってくる。自分の創り出す環境によって、そこに関わる人たちがさらに、それぞれ自分の周りの環境を作り直していく、という循環が起こってはじめて、そのような環境が自律的で持続可能なものになっていくのであるから。

このような大きな循環を創り出すためには、おそらく1、2日間の単発のワークショップでは限界がある。単発のワークショップでは「始まりのデザイン」では、参加者にインパクトのある体験をしてもらうことができるようになったが、その次の「継続のデザイン」、すなわちその体験がきっかけとなりより大きな循環となってくるまでのサポートについては、今後の重要な研究課題である。


謝辞

本研究に対するCANVAS、Child Research Net、WYM実行委員会、藤岡町国際交流協会、日本学術振興会(科研費課題番号15500642)他の支援に感謝する。


<参考文献>
(1) Playful Pieces, Mudpie Unlimited, & CRN 1999, Child Research Net
(2) Connections and Emergence, Mudpie Unlimited, 2001, Workshop in the 18th meeting of the Japanese Cognitive Science Society.
(3) For Embodied Self View - In Multi-Cultural Collaboration、2003、Proceedings of the 4th International Conference on Cognitive Science
(4) Music Playshop, 宮田他, 2003, 「CANVAS2,002年度活動報告」に収録
(5) English Playshop in Fujioka, 宮田他、2002、藤岡町国際交流協会
(6) 異文化連携のサポートモデルと関係的・創発的世界観、宮田他、2003、日本認知科学会台20回大会予稿集
(7) 長期的異文化連携における学びとサポートの構造、宮田他、2004、日本認知科学会台21回大会予稿集
(8) オンラインの話し合いにおける発言の自発化、具体化を起こす、段階に合ったサポート, 加藤、2005、日本認知科学会第22回大会予稿集



この文章は、2005年7月29日~31日に京都大学で行われた日本認知科学会が主催する第22回大会にて発表された内容を転載したものです。
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