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【保育環境を創る】技06:オーダーメイドの保育建築でかたちの意味や価値を知る技 《ドイツの建物づくりも例に》

佐藤 将之(早稲田大学人間科学学術院准教授)

2015年3月 6日掲載
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「保育環境を創る」ことをテーマに技01から技05まで述べてきましたが、それらのポイントとしては、保育者自らが遊具やスペースなどを作ったり、それができない時にはパパを巻き込み自分たちで施工する「セルフビルド」の考え方をもつことの大切さを述べてきました。しかしながら、建物については、内装など建築仕上げ程度はセルフビルドがしやすいものの、工程の多くは建築設計や施工の専門家に頼らねばなりません。だからこそ、任せきりではなくて一つひとつを理解して欲しいと思います。

かたちに込められた意味や価値

僕は、Yシャツのオーダーメイド券を我が師匠より頂戴して一度作って以来、Yシャツはオーダーメイドのものを着るようにしています。ネクタイの省略形として「スタンド襟」を、といったように、かたちの一つひとつを選ばなければいけない状況になると、それらかたちの意味を調べたり、理解する必要があります。このことを通して、かたちとなって商品化されているものの中には、うわべでは気づきにくい、様々な要素や意味が含まれていることに気づかされました。(この文章を書きながら、上記はオーダーメイド券を通じた我が師匠からの教えだったことに気づきました。)

住宅では、1970年代に、設計者が間取りを全て決めて建てる「商品化住宅」(いわゆる「建売り」)が流行りました。その中で特に目立ったデザインは、和室は玄関近くに1つ造る等、より多くの人が嫌だと思わないような、消去法に基づいたデザインでした(文1)。このように、「何となく嫌ではない」ものがセットになっていることで、環境の本質が理解されなかったり、忘れ去られてしまうことが懸念されます。とは言え、昨今の新聞折り込みチラシで商品化住宅を見ると、丁寧に考えられているものも見られます。つまり、「商品化住宅」が悪いというわけではなくて、環境一つひとつの意味や価値を理解することが重要なのです。セルフビルドや注文住宅には、かたちの意味や価値を理解するプロセスが含まれており、それこそが実際の使いやすさや愛着と大きな関わりをもっているのです。

保育建築も同様に、技01から技05までご紹介したワークショップをご参照いただき、建築家と保育に関わるみなさんとが対話をしながら、双方がそれぞれの園なりの保育環境を理解しあっていただきたいものです。写真01~03は、ドイツの幼稚園(園名: Waldorfkindergarten Marburg)の設計プロセス事例です。通常の設計プロセスにおいて、室内の仕様について話し合うことはあるかもしれませんが、この事例では、室内だけに留まらず、園舎全体のかたちについての議論を建築家と保育者とが一緒に行っています。このようなプロセスを通して、建てる園側にとっても、保育者たちが環境について考える好機ととらえて楽しんでいただくことができます。

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写真01. できあがる建築の造形を考えてもらう、現場の先生がたへのワークショップ

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写真02. 設計案模型で語り合う様子
写真01, 02の建築設計・写真提供:plus+bauplanung GmbH Hübner-Forster-Hübner-Remes

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写真03. 完成したWaldorfkindergarden Marburg(筆者撮影)


子どもの育ちに思いを込めた保育建築を

一連の連載で何度か触れてきましたが、保育環境は大人の視点で造られやすいので気をつけなければなりません。園に関わるスタッフみなさんの意見を取り入れることは重要ですが、限られた条件の下で進めて行く中では、個々の保育者の担当場所を一番快適にしたいと考えることは当然で、そうした場合、リクエストのひとつが叶えられても、その分他の箇所が思うようにならないことがあり得ます。

以前、僕が途中から設計に関わった、東日本大震災で被災した地域の保育建築では、図01のようにL字でしか建物を建てることができず、この中で室配置を考えたことがありました。基本設計開始当初はスタッフみなさんの意見をできるだけ取り入れようと設計が進められ、調理スタッフの希望で、まずはじめにL字のコーナー部分に調理の諸室が配置されて、そのまま途中まで設計が進みました。それによって必然的にエントランス兼ホールの配置がきまり、その結果靴だなの横で子どもたちが昼寝する想定になってしまいました。その後、優先するべき環境を整理して、違った間取りに落ち着きました。

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図01. 当初の設計案での調理諸室配置
※完成した図を上からなぞって調理諸室のみピックアップしています。

全ての関わる方に意見を出してもらうことは非常に大切なことですが、食べる場所、寝る場所など、子どもたちの生活や活動場面を想定しないと、子どもにとって不幸な結果を産むことになってしまいます。誰のための保育建築なのか、誰にとっての○○環境(保育室環境、食事環境、等々)なのか、を忘れてはいけません。

また、小学校に入る前段階の施設として幼稚園・保育所・こども園の保育建築が位置づいていることも重要なポイントです。整備が進むこども園は「子どもの最善の利益を求める」施設として謳われていますが、小学校へ進む前に存在する場所として何ができるのでしょうか。筆者は、すべての子どもたちに共通する環境として、保育建築に「社会性を育める場」「社会性を獲得できる空間」づくりを期待しています。

保育建築を計画したり、環境設定を再考する際には、関わる人みんなが議論を行い、環境の意味や価値を理解頂いた上で、オーダーメイドの保育環境を実現して欲しいと願っています。


文1)
ご参考:鈴木成文「住まいを読む-現代日本住居論」建築資料研究社,1999年

ほか、保育建築議論に関するご参考
・社会性を獲得できる空間づくり(佐藤将之),新建築2011年6月号(特集:保育のための空間)pp.143-144
・地域とつながる保育施設(竹原義二×佐藤将之×難波元實),新建築2013年4月号(特集:共に育つ場のデザイン)pp.36-41
・少子化に応える保育建築への期待(佐藤将之)新建築2014年6月号(特集:地域ごとの保育の場)pp.72-73
・座談会これからの保育建築,近代建築2014年6月号(特集:保育建築の設計と計画)pp.122-126

筆者プロフィール
sato_masayuki_06.jpg 佐藤将之

早稲田大学人間科学学術院准教授 1975年秋田生まれ.秋田高校,新潟大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了.江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職.2男児(4歳児, 小1)の父.


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