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【発達障害】第6回 アスペルガー症候群 その1

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

2013年11月22日掲載
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自閉症や学習障害という言葉が社会的に知られるようになって、かなり年月がたっています。発達障害の子どもが普通学級の児童生徒の6.3%もいることが分かった10年前(2002年)頃には既に広く一般の人に知られていました。

それに比べて、アスペルガー症候群という名前が社会的に知られるようになったのは最近のことです。しかし比較的「新しい」アスペルガー症候群という名前は、いずれ消えゆく運命にあります。今回と次回は、この新しくて消えゆく運命にあるアスペルガー症候群についてご説明いたします。

アスペルガー症候群が消えゆく運命にあるのは、この症候群が実は自閉症などと本質的には変わらない状態につけられたものであるというのが理由です。

自閉症の基本的な特徴は、
 1)対人関係の質的な障害
 2)特定の物や行為への強い執着(こだわり)
 3)言語発達の遅れ 

であることは前回までの記事でご説明しました。定義上はアスペルガー症候群は、上記の自閉症の定義から3)の言葉の遅れを差し引いたもの、とされています。しかしこの定義は分かりにくく、多くの専門家からの評判も悪いのです。

アスペルガー症候群は、アメリカの児童精神科医のレオ・カナーが自閉症について初めて論文を発表した1943年の翌年1944年に、ドイツ語の雑誌に発表されました。発表者は、ウイーン大学小児科学教授のハンス・アスペルガー教授でした。敗戦国であるドイツの雑誌にドイツ語で発表されたアスペルガーの論文は、あまり広まりませんでした。数少ない例外が日本です。日本の小児科医平井信義先生は、小児科学を学ぶために、戦後アスペルガー教授のもとに留学していました。明治以来日本はドイツ医学をお手本にしていた伝統がまだ続いていたのです。平井信義先生は、指導教授であるアスペルガー教授から、その研究内容について詳しく教わっていたのです。ですから、日本でも、かなり昔から専門家の間で自閉症には「カナー型」と「アスペルガー型」がある、というように使い分けられてきた歴史があります。

アスペルガー教授が報告した4人の幼児には、共通点がありました。それは言葉の遅れや知的障害がないにもかかわらず、集団の場面で対人的な関係がうまくもてず、自分勝手な行動をしてしまうという特徴です。この4人の子どもたちは、言葉は理解できるのに、生活場面で他人の指示や要求がよく理解できないのです。そのために教室の中で浮いてしまっていました。4人の子どもの共通点を記載したアスペルガー教授は、この4人は一種の自閉症ではないか、と考えたのです。しかし幼児期の自閉症の症状の中で最も目立つのは、対人関係の質的障害より、言葉の遅れです。対人関係(社会性)は、しだいに身についてゆくものです。幼児期の対人関係能力は、定型発達の子どもでもあまり高くありません。そのために幼児期の自閉症の最大の特徴は「言葉の遅れ」になります。私自身も自閉症をはじめとする発達障害の子どもをたくさん診ていますが、ほとんどの自閉症の子どもの受診の理由は「言葉の遅れ」です。

アスペルガー症候群は、ドイツと日本以外の国ではほとんどであまり関心を持たれませんでしたが、その大きな理由は、言葉の遅れがないことから、自閉症とは本質的に異なる症候群と考えられてきたのです。

その状況が大きく変わったのは1980年代初頭に、自閉症研究の権威であるイギリスのローナ・ウィング博士が、アスペルガー教授の論文を「再発見」し、自閉症と関連のある状態であると英語圏の研究者に発表してからです。それ以来アスペルガー症候群の研究が大いに進み、アスペルガー症候群は自閉症と近隣の障害であり、ともにDSMの診断基準(アメリカ精神医学会が定期的に発刊している精神疾患の診断基準)の中で「広汎性発達障害」に含まれることになったのです。

アスペルガー症候群の診断基準

ではアスペルガー症候群とはどのような状態なのでしょうか。DSMの診断基準はあいまいで分かりにくいために、自閉症研究者として有名なスウェーデンの研究者であるギルバーグ(スウェーデン語ではジルベリと発音)は、自分で診断基準を作ってしまいました。それを次に示します。

_______________________________________________________________________

ギルバーグの診断基準*
社会性の欠陥(極端な自己中心性)(次のうち少なくとも2つ)
 友達と相互に関わる能力に欠ける
 友達と相互に関わろうとする意欲に欠ける
 社会的シグナルの理解に欠ける
 社会的・感情的に適切さを欠く行動
興味・関心の狭さ(次のうち少なくとも2つ)
 他の活動を受け付けない
 固執を繰りかえす
 固定的で無目的な傾向
反復的な決まり(次のうち少なくとも1つ)
 自分に対して、生活上で
 他人に対して
話し言葉と言語の特質(次のうち少なくとも3つ)
 発達の遅れ
 表面的にはよく熟達した表出言語
 形式的で、細かなことにこだわる言語表現
 韻律の奇妙さ、独特の声の調子
 表面的・暗示的な意味の取り違えなどの理解の悪さ
非言語コミュニケーションの問題(次のうち少なくとも1つ)
 身振りの使用が少ない
 身体言語(ボディランゲージ)のぎこちなさ・粗雑さ
 表情が乏しい
 表現が適切でない
 視線が奇妙、よそよそしい
運動の不器用さ
 神経発達の検査成績が低い

*Gillberg IC, Gillberg C (1989) Asperger syndrome: some epidemiological considerations: a research note. Journal of Child Psychology and Psychiatry 30:631-8 ______________________________________________________________________

さて皆さんは、この診断基準からアスペルガー症候群の子どもや大人の様子を想像できるでしょうか? 次回は、アスペルガー症候群の子どもの実際の特徴について説明します。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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