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【発達障害】第3回 注意欠陥多動性障害 そのII 対応と治療

榊原 洋一 (CRN副所長、お茶の水女子大学大学院教授)

2012年8月17日掲載
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注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴については、前回ご説明しました。ではADHDの子どもに対して、私たちはどのように対応してゆけばよいのでしょうか。

ADHDは普通の病気と異なり、むしろ性格のようなものだと前回申し上げました。肺炎や喘息は、本人にも苦痛があり、また放っておくと命にかかわることさえあります。そのため肺炎や喘息を治療することに異議を唱える人はいません。ところがADHDは「性格のようなもの」であり、放っておいても本人に苦痛はなく、もちろん命にかかわるようなことはありません。また男児では10人に1人もいるのですから、男の子によく見られる性格のようなものなのだから、治療するなんておかしい、という意見をもつ人さえあります。

治療の必要性

それでも私は、ADHDの子どもで、その行動のためにさまざまな困難〔困り感という人もいます〕を抱えている場合には、放っておいてよいものではないと思います。

その理由は3つあります。

第一に、その生まれつきの行動の特徴のために、学校や家庭での生活に困難があり、人間関係が悪化したり、学業成績に悪影響が出ることです。授業中に集中できず、宿題も最後までやり遂げることができないために、もともともっている能力を発揮することができないのです。薬による治療を含めた対応によって、こうした困難を軽減できることが明らかになっているのです。性格のようなものなのだから「治す」ものではない、という考え方の方もおられますが、実際に「治る」ことがわかっているのです。

第二の理由は、前回も述べたように、ADHDは併存障害が多く、その中でも頻度の高い行為障害やうつ、あるいは不安障害は、ADHDの行動特徴によって、周囲から非難されたり叱られたりすることによる「自尊感情」の低下が原因であると考えられることです。もちろんADHDの子どもがみな行為障害やうつになるわけではありません。しかしアメリカで行われた長期追跡調査では、ADHDの子どもの半数近くが行為障害やうつになるという結果が出ています。日本での調査はなく、また行為障害は国によって発生率が違いますが、ADHDの子どもがハイリスク群であることには相違ありません。日常の行動の改善は得られても、治療によって行為障害やうつの発症を減らすことができるのか、以前ははっきりしたことがわかっていませんでしたが、数年前ハーバード大学の研究者が、10年間の長期追跡調査を行い、薬による治療を受けたグループでは、行為障害やうつの発症が、3分の一に減少することが明らかになりました。

第三の理由は、環境を変えたり薬による治療によって、家庭や教室でのいわゆる問題行動が減少し、本人にとってだけでなく、家族やクラスメートとの葛藤が少なくなることです。特に小学校低学年では、「小一プロブレム」と呼ばれる学級内での生活習慣の乱れが問題になっていますが、ADHDの子どもは、そうしたクラス内では調和を乱す子どものグループに入ってしまう可能性が高いのです。

薬による治療

ADHDの子どもへの対応には大きな3本の柱があります。薬による治療、環境の改善、そして行動療法です。どれか一つだけというのではなく、通常はこれらを組み合わせて対応します。

今回は薬による治療について説明し、環境の改善、行動療法については次回説明したいと思います。かつては、まず環境の改善、行動療法を説明し、薬による治療は最後にもってくるのが普通でした。しかし現在では、その効果からみて、薬による治療がADHDへの対応の中心になっています。

ADHDへの対応の中心が薬による治療になっている理由はいくつかあります。

第一に3つの対応策の中で最も効果が高いということです。これまでにたくさんの調査研究がありますが、薬による治療によって8~9割の子どもでADHDの行動が消失ないし軽減することがわかっています。

第二に、すでに述べたように行為障害やうつといった二次障害を確実に減少させることが証明されていることです。年齢が大きくなるにしたがって、家庭でのしつけや教室での対応を行うのはなかなか大変になります。薬による治療では、本人がどのような環境にいてもその効果が期待できます。

第三に、長年の臨床経験によって、かつて心配された薬による治療の副作用が少ないことが明らかになったことです。不眠や食欲減退といった軽い副作用はありますが、服薬を中止しなくてはならないような副作用はほとんどありません。現在ADHDへの治療薬として厚生労働省によって認可されているのはメチルフェニデート(商品名コンサータ)とアトモキセチン(商品名ストラテラ)の2つですが、メチルフェニデートは中枢神経刺激薬なので、薬物依存性があるのではないかと心配されていました。しかし、通常の治療量で子どもが薬物依存になることはありません。

コンサータは徐放錠で、朝一回飲むと夕方までカプセルから薬が徐々に放出される仕組みになっています。ストラテラは朝と就寝前の2回服用します。

薬の効果についてのたくさんの研究がありますが、ADHDの症状が消失ないしは軽減し、生活の質(QOL)が向上することが示されています。

表面的に症状が軽快するとはいっても、実際に薬が脳内でどのように働いているのか分かっていないのではないか、という批判もありましたが、現在では、たとえばコンサータにはADHDの原因の一つと考えられている脳内のドーパミンという化学物質の代謝の偏りを治す働きがあることが明らかになっています。

アメリカではADHDの子どもの多くが、コンサータやストラテラによる治療を受けています。学童期の子どもが服用しているさまざまな薬の中で、解熱剤やビタミン剤などとともに、子どもが最もよく飲む薬の中で第6位がADHDの薬であるという調査報告があります。こうした状況について批判もありますが、メチルフェニデートによる治療はアメリカの小児科学会が最近発表したADHDのガイドラインで推奨されています。
筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg 榊原 洋一 (CRN副所長(2013年4月より所長)、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN副所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会副理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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