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【発達障害】第2回 注意欠陥多動性障害 そのⅠ

榊原 洋一 (CRN副所長、お茶の水女子大学大学院教授)

2012年5月25日掲載
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発達障害の中で最もその頻度が高いのが注意欠陥多動性障害です。英語名Attention Deficit Hyperactivity Disorderをそのまま翻訳したものですが、英語名をよく見ると、最後が「病気」を意味するdisorderとなっており、厳密に翻訳すると注意欠陥多動病ということになります。長い名前なのでこの英語の名前の頭文字をとってADHDとも呼ばれることが多くなっています。

ADHDとは―その特徴と診断基準

ADHDの子どもの特徴を簡単に言い表すと、まず「不注意で気が散りやすい」、「すぐに持ち物をなくす」、「物事を順序立てて行うのが苦手」「努力を要する作業や勉強を途中ですぐに投げ出してしまう」といった注意力、集中力が不十分なことによる行動特徴が挙げられます。ADHDの子どもの大部分は、この注意力にかかわる行動特徴だけでなく、多動・衝動性にかかわる行動の特徴をもっています。多動・衝動性にかかわる行動特徴とは「(教室などで)じっと椅子に座っていられない」「座っていても体を動かしたり、後ろを向いたりする」「自由時間には、走り回ったり、いろいろなところによじ登ったりする」「順番が待てず、列に割り込んだりする」「おしゃべりで、相手の話を途中までしか聞かない」などがあります。

でも、読者の皆さんの中には、「こうした行動は誰にでも見られるし、子どもの行動の特徴なのではないか」と思われる方が多いのではないでしょうか。まさにその通りで、こうした行動はどんな子どもにでも多少は見られるものです。

ADHDの診断は、その子どもに見られる上述のような行動の数(種類)が多く、それがいつでも見られ(頻度が高い)、そして何より重要なことは、そのために家庭や学校での日常生活に支障をきたしている、という条件を満たした場合につけられます。支障は英語ではimpairmentsといわれますが、例えば授業中席に着けず、そのために勉強に身が入らない、あるいは衝動的な行動によって友人やクラスメートとトラブルが多発する、さらには不注意のために頻繁にけがや事故を起こしている、といったものです。

こうした条件をきちんと診断に反映させるために、ADHDの診断基準というものがつくられ、世界中の医師がこの診断基準に従って診断と治療を行っています。やや長くなりますが、その診断基準を以下に示します。

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(1)注意欠陥:
以下の注意欠陥の症状のうち6つ以上が少なくとも6ヶ月以上続いており、そのために生活への適応に障害をきたしている。またこうした症状は発達レベルとは相容れない。
(a)  細かいことに注意がゆかず、学校での学習や、仕事その他の活動において不注意なミスをおかす
(b)  さまざまな課題や遊びにおいて、注意を持続することが困難である
(c)  直接話しかけられたときに、聞いていないように見える
(d)  学校の宿題、命じられた家事、あるいは仕事場での義務に関する指示を最後まで聞かず、そのためにやり遂げることができない(指示が理解できなかったり、指示に反抗したわけではない)
(e)  課題や活動を筋道を立てて行うことが苦手である
(f)  持続的な精神的努力を要するような仕事(課題)を避けたり、いやいや行う(学校での学習や宿題など)
(g)  課題や活動に必要なものをなくす(おもちゃ、宿題、鉛筆、本など)
(h)  外からの刺激で気が散りやすい
(i)  日常の活動のなかで物忘れをしやすい

(2)多動・衝動性:
以下の多動・衝動性の症状のうち6つ以上が少なくとも6ヶ月以上続いており、そのために生活への適応に障害をきたしている。またこうした症状は発達レベルとは相容れない。
多動
(a)  手足をそわそわと動かしたり、いすの上でもじもじする
(b)  教室やその他の席に座っていることが求められる場で席を離れる
(c)  そうしたことが不適切な場で、走り回ったりよじ登ったりする(青年や成人では落ち着かないという感覚を感じるだけ)
(d)  静かに遊んだり余暇活動につくことが困難である
(e)  じっとしていない、あるいはせかされているかのように動き回る
(f)  しゃべりすぎる
衝動性
(g)  質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう
(h)  順番を待つことが困難である
(i)  他人をさえぎったり、割り込んだりする(例:会話やゲームに割り込む)

注)DSM IV - TR (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision) American Psychiatric Association, 2000
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注意欠陥(不注意、集中力低下)の代表的な症状が9つと、多動・衝動性の代表的な症状が9つ挙げられています。これらの症状は、典型的なADHDの子どもの症状から統計学的に厳選されて選ばれたものです。

診断をつけるためには、(1)と(2)の9つの症状のうち少なくとも6つを満たしていること(行動の数が多いこと)、少なくとも2か所以上(家庭と教室など)で行動がみられること、そしてそのために何らかの支障をきたしていること、の3つの条件を満たしている必要があります。診断基準に書かれている行動特徴(症状)はどんな子どもにもみられると最初に書きましたが、例えば5つ当てはまってもADHDとは診断しません。また、たとえ、6つ以上満たしていても、別にそのために教室や家庭で支障(友人関係、勉学等)がなければ、ADHDとは言わないのです。また、(1)の注意欠陥が6つ以上、(2)の多動・衝動性が6つ未満は不注意型ADHD、その逆は、多動型ADHD、両方とも6つ以上なら、混合型ADHDと診断します。

それにしても、ADHDの「診断」は通常の病気の診断とは似ても似つかないものであることには変わりありません。血圧や血糖値、肝機能、ウイルス抗体化、心電図などという定量的に測定した結果に頼ることの多い現代医学の診断とはかけ離れています。そうした事情から、現在でもADHDは性格のようなものであり、診断をつけたり薬で治療したりするのは行きすぎだとか、もっと極端に、医者と製薬会社が作り上げたものだ、という批判をする人がいるのも事実です。

しかし、私は順を追ってADHDは単に性格だといってそのままにしておいてよい状態ではないこと、また近年の脳科学や遺伝子医学の進歩によって、普通(定型発達)の子どもとは異なる状態であること、そして薬による治療にはきちんとした科学的な根拠があることをご説明しようと思います。

ADHDの子どもはどのくらいいるのか

ではADHDの子どもはどのくらいいるのでしょうか。上に示した診断基準を使って世界中で疫学調査が行われています。日本での調査で最も規模が大きいのは、2002年に文部科学省が全国の小中学校生徒を対象に行った調査です。詳細は省きますが、学校の先生方が付けた約45,000人子どもの行動のチェックリストから、ADHDと判断される子どもは、子ども全体の2.5%になることが分かりました。同時に行われた自閉症(高機能)と判断される子どもは0.8%でした。この2.5%という数字はあまり高くないように思えるかもしれません。しかし、それまでの障害児教育の対象とされる知的障害と肢体不自由児を合計しても2%前後ですので、2.5%というのはたいへんな数字です。

アメリカでは、ADHDの全国調査が何回も行われていますが、最近行なわれた調査ではほぼ7~8%という結果がでています。調査の方法や対象年齢によって異なりますが、世界中で行われた調査はほぼ3~7%の範囲に入っています。国によって頻度が異なる理由についてはまだその理由がよくわかっていません。私自身が最近行った日本の5歳児を対象とした調査では4%という値がでています。3~4%というと35人クラスに一人という計算になります。

なぜADHDの子どもに対して治療が必要なのか

ADHDは子どもの性格のようなものであり薬などで治療するものではない、という意見があることを前に述べました。しかし私は次に説明するような理由によって、ADHDの子どもに対して、行動療法や薬による治療が必要であると思っています。

第一の理由は、ADHDの子どもはその行動特徴である不注意や多動・衝動性によって、日常生活の様々な場面で困難を感じています。授業中集中できないために、勉強に身が入らず、実力に見合う成績が出せません。テストの成績だけでなく、不注意や物忘れのために宿題を忘れたり、提出物を忘れたりすることで、生活面での評価も低くなりがちです。また、多動や衝動的な行動のために、友達とトラブルになったりいじめの対象になったりしやすいのです。こうした困難は、本人が怠けていたり、教師に反抗することによって生じるものではありません。本人は決して悪気があってやっているのではないのです。ADHDの子どもはその行動の特徴のために、自分の実力が出せないばかりでなく周りから誤解されやすいのです。このような状態が続くことによって、ADHDの子どもの多くは低い自尊感情をもちやすいことがわかっています。

第二の理由は、自尊感情の低下と、集団の中での失敗体験の積み重ねによって、二次障害と呼ばれる様々な精神疾患を合併しやすいことです。二次障害の中でよく知られているのが、うつ、不安障害と行為障害です。子どものうつの背景に本人のADHDがあることは、日本ではあまり注目されていませんが、アメリカではよく知られています。また、アメリカでの調査ではADHDの子どもの3分の1から2分の1は、思春期以降に行為障害をきたしやすいといわれています。行為障害とはほぼ非行と同じような状態です。こうした二次障害は、自尊感情が育たないことと関係しているといわれています。

このようにADHDの子どもは現時点において、教室や家庭で様々な困難を抱えているだけでなく、そのままでゆくと近い将来にうつや行為障害などをきたすハイリスクグループであることが分かっているのです。

次回は、ADHDの子どもへの対応、治療について説明します。
筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg 榊原 洋一 (CRN副所長(2013年4月より所長)、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN副所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会副理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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