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【発達障害】第5回 自閉症スペクトラムその2

榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

2013年8月 9日掲載
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前回は自閉症スペクトラムがどのようなものであるのか、概略を説明しました。今回は、自閉症スペクトラムの子どもがどのような困難を抱えているのか詳しくお話します。

言葉の遅れとコミュニケーションの困難

自閉症スペクトラムの子どもには、程度の差はありますが、言葉によるコミュニケーションに大きな支障があります。重症の子どもは、言葉の理解と表出がほとんどできません。身振りや手振りによる意思の疎通も困難です。外国語が全く理解できなくても、私たちは身振りや手振り、あるいは表情で相手の気持ちや意図を理解したり、自分の気持ちをある程度伝えることができます。ところが、自閉症スペクトラムの子どもは、身振りや手振り、さらには他人の表情を読むことができないのです。

言葉が理解できない状態は、たとえばその国の言葉が全くわからない国を旅行することを想像すれば理解することができます。私はロシア語が全くわかりません。でも、店先で買いたいものを指さして、財布を取り出してロシア人の店員に提示すれば、私が買い物をしたいのだということを理解してくれます。しかし、自閉症スペクトラムの子どもには、他人の動作の意味を知ることができないので、私のように身振りで自分の意思を伝えるような真似はできないのです。

ご本人が高機能自閉症(これは知的障害がなく、のちに言葉が理解できるようになるタイプの自閉症スペクトラムです。次回に詳しく述べたいと思います。)のテンプル・グランディンさんというアメリカの女性は、自分のことを「火星の人類学者」であると書いています。火星人がいるとしての架空のたとえ話ですが、他人の間にいると、火星に降り立った人間が火星人に囲まれている状態のようだ、というのです。私たち人間には火星人の言葉は(たとえあったとしても)全くわかりませんし、あのタコのような火星人が人間と同等の感情をもっているのかもわかりません。

このように、程度の差はあれ自閉症スペクトラムの子どもは、他の子どもとの間で、周りとの意思疎通ができない、全く孤独で不安な状態にあるのです。定型発達(健常児)の1歳児は、まだほとんど言葉を理解できないし片言しかしゃべれません。それでも、母親に抱かれるとにっこりと笑うし、他人から声をかけられると、一生懸命顔を見て、自分に何が求められているのか、ある程度理解できます。しかし、自閉症スペクトラムの子どもにはそうした周りの雰囲気の理解さえできないのです。

対人関係における質的な障害

すでに前項で述べましたが、自閉症スペクトラムの子どもは言葉によるコミュニケーションだけでなく、表情や身振りによる他人の意図の理解が困難です。私たちは、他人の意図や気持ちを、言葉だけでなく、表情や姿勢などから読み取ることができます。笑っていれば相手は楽しい気持ちであり、泣いていれば悲しい、ということは、何も教わらなくても理解できます。こうした社会的サインの理解ができないのが、自閉症スペクトラムの子どもたちなのです。その結果、私たちの社会的な能力の中で最も重要な、他人との情緒的な相互関係が持てません。相手が泣いていれば同情し、慰めの言葉をかけ、笑っていれば一緒に喜ぶといった行動が、相手の感情が理解できないために、最初からできません。その結果、集団の中で孤立し、一人きりで浮いた状態になってしまいます。また自分の内面的な感情を、言葉はもちろんのこと表情や動作で表現することも困難です。

自閉症スペクトラムの子どもは、私たちから見ると何を考え、どのような行動をするのか理解が困難な子どもたちです。しかし、同様に自閉症スペクトラムの子どもにとっても、私たちが何を考え、どんな気持ちでいるのかわからないのです。

自閉症スペクトラムの子どもは学校や園でいわゆる「問題児」となることがあります。そして「問題」は、その子どもの中にあると考えてしまいます。しかし、立場を考えてみれば、自閉症スペクトラムの子どもにとっては私たちこそが「問題児」になります。なぜなら、私たちが何を考えて行動しているのか、自閉症スペクトラムの子どもたちにもわからないからです。問題は自閉症スペクトラムの子どもの中にあるのではなく、自閉症スペクトラムの子どもと私たちの間にあるのです。

こだわりと忌避

自閉症スペクトラムの子どもにとって、ある種の感覚的刺激は、とても強烈で耐えがたく感じられます。私たちもお皿をフォークでこすったり、黒板を爪でひっかいたりする音は耐えがたく感じます。自閉症スペクトラムの子どもは、大きな音(自動車、電気掃除機、ドライヤーの音)が苦痛に感じられます。耳を押さえてその音から逃げようとします。

皮膚感覚も特定の刺激に対して過敏になっています。衣服の肌触りが気持ち悪く、着られる服が限られるため、いつも同じ服を着ている自閉症スペクトラムの子どもがいます。場所やテレビなどの特定の光景にも過敏な子どもがいます。口の中の感覚の過敏は、極端な偏食の原因になることがあります。ご飯以外は一切口に入れない、口に入れてもすぐに吐き出してしまう、といった子どもがよくいます。

逆に、自閉症スペクトラムの子どもが好む刺激があります。ぐるぐる回るものや、おもちゃの一部、他人や自分の体の一部などに強い関心を持ち、いつも触っていたくなったりします。

こうしたこだわりや忌避は、自閉症スペクトラムの子どもの努力によって押さえることができるものではありません。前述のお皿をフォークでひっかく音は、慣れようと努力しても変えることのできない生理的な現象です。こだわりや忌避も、自閉症スペクトラムの子どもにとっては生理的な現象なのです。

その他の困難

自閉症スペクトラムの子どもの25%に、てんかん発作があります。自閉症スペクトラムの原因と、このてんかん発作がどのような関係にあるのかまだ分かっていませんが、日常生活上のてんかん発作は、自閉症スペクトラムの子どもの困難をますます大きなものにします。毎日抗てんかん薬を服用しなくてはならない子どもも少なくありません。

 

次回は、高機能自閉症とアスペルガー症候群について説明します。

筆者プロフィール
report_sakakihara_youichi.jpg榊原 洋一 (CRN所長、お茶の水女子大学大学院教授)

医学博士。CRN所長、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。日本子ども学会副理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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