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【米国】アメリカの保育者養成の授業の例(1)~環境構成を多角的視点から学ぶ

筆者は、長らく米国で、幼児教育、人間発達、家族関係など多方面の分野で大学の授業を担当してきた。また博士課程の学生として、これらの授業を数多く受講してきた。こうした経験から、米国の大学ではどのような保育関係の授業が行われているのかについて、日本ではあまり知られていない特徴的なものを紹介したいと思う。

これからの3回シリーズでは、筆者が現在ワシントン州立大学人間発達学部の講座で教えている「Guidance in Early Childhood Programs」(幼児教育プログラムにおける指導法)について、授業内容を紹介する。この科目は、当学部において、 幼児教育資格の取得を希望する学生の必須科目である。しかし、幼児教育を勉強している学生以外でも、受講することが可能である。受講している学生は、現役で保育職に就いている人も多い。筆者は、今学期(2022年春学期)で、担当するのは2回目であり、前担当教員(付属幼稚園の元園長)が作成した授業内容を基に授業を行っている。

この講座の目的は、「子どもの指導と学習の理論、子どもの行動の理解、効果的な指導を行うための家族や子どもとの関係の重要性、幼児プログラムにおける集団および個人指導のための効果的な方略とテクニックについて学ぶ」である。日本の保育士養成課程における「子どもの理解と援助」が内容的には、最も近いのではないかと思う。

この講座の中心課題は、子どもの行動の理解と効果的な指導法についてを学ぶことであるが、特に注目すべき学習課題として、授業の到達目標の一つである「保育室の環境が、子どもの行動にどのような影響を与えるかについて理解する」について紹介したい。この講座では、二つの主要レポート課題があり、その一つが以下に説明されている課題である。

課題の概要

この課題は、「未就学児のための保育室空間をデザインする」と説明されているが、二つのパートに分かれている。パート1は、保育室の設計図を描くことである。設計図は方眼紙を使うように勧めている。というのは、ただ間取りを描くのではなく、クラスの子どもの数に基づいて、必要な保育室の面積を割り出し(州によって規定がある )、それをもとに、環境構成を考えることが課題で重視されている点である。たとえば、ワシントン州では、子ども一人あたり、35 平方フィート(約3.25 ㎡)という面積基準が設定されている。またその場合、子どもの人数に対して、保育士が何人必要なのか、子どもの年齢を考えて割り出すことも、課題に含まれている。

パート2は、自分が創り上げた環境構成を説明するレポートを作成することである。ここでは、まず自分の保育観を述べ、それを基に、どのような保育室の環境を構成したのかについて、詳細に書く。具体的には、各活動内容や生活コーナーの説明と、それぞれのエリアやコーナーがなぜ幼児の学びにふさわしいのかを述べる。またその際、NAYEC(全米幼児教育協会: National Association for the Education of Young Children)の発達にふさわしい保育(Developmentally Appropriate Practice、DAP )を考慮することが求められる。また環境をデザインする際、安全衛生、子どもたちや保育士の動きの同線、騒音レベル、床材(汚れる場所、柔らかい場所など)、照明、家具の配置、教材の種類などを考慮し、家庭的な雰囲気、美的感覚を大切にするようにアドバイスしている。

学生たちには、この課題を作成するに際の、参考にするべきオンライン資料やビデオが複数提示されている(例, Siegel, 2010; Spaces for Children; Meaningful Makeover)。参考にすべき内容は多くあるが、例としては次のようなものがある。

  • 環境は、私たちの子ども観や保育観を反映するものである。環境をデザインする保育士の価値観や知識、自身や子どもたちとその家族について語ってくれるといえよう。一日の生活の中で、長く過ごす場所である保育室が、子どもたちにとってもどういうものなのか、どのようにアイデンティティーを形成し、関係性を築き、家族とのつながりをどう育む場であるのか、など考えていく必要がある。また保育士のアイデンティティーを創り上げる場所でもある。(Curtis & Carter, 2003)
  • 子どもが不思議に思ったり、好奇心をもったり、知的な働きかけをするような材料を環境の中に準備することが大切である。たとえば保育室の中の空気を、音の振動や物の動きなどを通して、子どもたちが発見するためには、どのようなものを用意したらよいか考えてみたり、光と色の関係、影や反射について探るために、自然の光、モビール、プロジェクターなどを取り入れてみることなどが例として挙げられる。特に、五感を揺さぶるような自然物(例:植物、水、自然光)を取り入れることが大切である。それだけでなく、私たちの地域にある自然物で、園にも環境として取り入れたらよいものについても考えてはどうだろうか。
  • アットホームで居心地のよい環境は、そこにいる人たちとの強いつながりを生み出し、帰属意識と安心感をもたらす。屋内外を問わず、人々が心地よく集い、お互いを知り、さらにつながりを深めることができる環境を創ることが大切である。たとえば、保育室の色や家具、照明、素材などを工夫し、保育室全体に柔らかな印象を与えることが挙げられよう。また、園児や保育士の趣味、家族、文化を象徴するような事象を環境として飾ったり、園児や保育士の家族の写真を置いておくのも方法である。特に園児にとっては、悲しい時に自分の家族の写真を手にすることで慰められるという場合もあるだろう。また自分のロッカーが落ち着く場所である場合もあるかもしれない。ミニテント、布で作られた隠れ家、机の下など、いろいろな場所で園児が一人になれるような空間を作ることが大切である。
  • 室内や室外の環境は、可塑性をもち、様々な目的のために使用できることが重要である。特に、プラスチックでできている市販の遊具よりも、貝殻、石、木片などの自然物を利用した方が、子どもたちの創造性が高まるであろう。しかし教材は、一定の目的のために使われるものと、いろいろな方法で使われるものとバランスよく取り入れることも重要である。子どもたちが一人、ペア、小グループ、クラス全体で活動できるような様々なレベルでの環境を構成することが重要である。
  • 子どもたちの言語発達を高めることを重視した環境を構成することが重要である。雑誌、新聞、表や図、参考資料、説明文など、読み書きの材料を豊富に準備し、子どもたちが多文化、多言語の環境の中で育つことができるように環境を工夫してみよう。文字だけでなく、記号、アートなど様々な媒介で、子どもたちが自分のアイディアやイメージを表現できる機会や教材を用意することが大切である。
  • 提出された課題例

    次に、実際の学生たちがどのような環境をデザインし、それを説明したかについて、優れた課題を提出した二名の学生の例を紹介する。学生Aは、幼児教育を勉強している学生で、実際に家庭保育を行っている。学生Bはスポーツ科学専攻の学生で、副専攻として人間発達学部の授業を受講している。保育の現場経験はないが、最近介護の仕事を始めたばかりである。

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    図1:学生Aの設計した保育室
     
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    図2:学生Bの作成した保育室

    学生が作成した保育室の環境図とその説明
    学生A
    学生B
    保育室の面積754平方フィート(約70平米)1,000 平方フィート(約92平米)
    子どもの数子ども10名子ども18名
    保育士の数保育士1名保育士2名
    子どもの年齢3~5歳児4~5歳児
    保育観 ①保育士、子ども、子どもの家族との間の信頼や帰属感を促進する。
    ②子どもの活動への参加ややり遂げる能力を実感できるようにする。
    ③子どもへ尊敬をもつ。そのためには、それぞれの子どもがやりたいことに十分に取り組める教材の数、子どもが一人になれる空間、柔軟な日課、子どもの探求心を満たす教材、等を準備する。
    ①全ての領域における子どもの発達を大切にし、促進する学級共同体をつくり、育む。
    ②大人と子どもの信頼関係を育む。これは、社会的・情緒的スキルの発達の基盤となるからである。
    ③子どもたち一人ひとりと、前向きで思いやりのある関係を作り、維持する。
    ④子どもたちの家族との相互作用を重視し、つながりを深める機会を頻繁に提供する。
    ⑤子どもたちが様々な長所と改善が必要な部分をもっていることを認識し、大切にする。そのためには子どもたち一人ひとりのニーズ、興味、文脈に応じた様々な経験を提供する。子どもたち一人ひとりが、チャレンジ、サポート、思いやり、刺激などをバランスよく経験できるような様々な教育経験を提供する。
    遊びや生活のコーナー

    Entry Area(入口)
    保育室への出入り口の場所であり、子どもたちが家族とお別れをする移行の場所としても機能している。このスペースは、外壁が大きなガラスでできた二重扉のため、光がよく差し込む。また、頭上には天井の換気扇と照明がある。床はタイルでできており、掃除がしやすいようになっている。このコーナーには他にも、子どもたちが靴やコートを置くための個別の収納棚(cubbies)、保護者が入退室のサインをするためのタブレット、誰かが入ってきたことを保育士に知らせるための防犯ベル、リソースや保育施設のライセンス情報が記載されたボード、子どもたちの作品を展示するための2つ目のボードが設置されている。

    以下、3つのエリアについて説明する。
    1.Active Area(活動のエリア)
    ここは、保育室のメインプレイルームであり、床は床材であるが、ごっこ遊びとブロックコーナーにはそれぞれ2つの丸いカーペットが敷いてある。大きな窓があるが、2階の部屋であるため、安全上の理由で開くことはできない。子どもたちは窓の前に立って、親御さんやクラスメートに手を振ってお別れすることができる。またこの大きな窓は、工事現場の作業員やゴミ収集車、郵便車、スクールバスなど、地域の交通機関を観察するのにも人気のスポットとなっている。壁、棚、家具はすべて中間色で統一されている。

    Dramatic Play(ごっこ遊びコーナー)
    このコーナーでは、子どもたちが好きな時に遊べるように、たくさんの玩具が用意されている。これらは定期的に入れ替えられ、テーマに基づいてそろえられている。常時置いてある玩具としては、おままごとセットがある。その他の遊具としては、着せ替え用の服、ぬいぐるみ、人形と人形用の服、食べ物と調理器具、おもちゃの電話、レジスター、鏡などがある。

    Block Area(ブロックコーナー)
    このコーナーには、いくつかの種類とサイズのブロックが揃えてある。積み上げて高い建物を作ったり、砦を作って隠れたり、地面に置いて運転コースを作ったりする。このコーナーのの収納棚には、おもちゃの車、動物のフィギュア、人間のフィギュア、恐竜などが置かれている。

    Music and Movement(音楽&身体表現)
    音楽や身体表現は、クラス全体で行うことが多いが、個人で行う場合もある。クラス全体で行う場合、新しいものを紹介することもあるが、個人の場合は子どもが自分で関わることができるように保育室に置いておく。音楽教材の容器には、楽器、リボン、スカーフ、歌や楽器に関する本などが入っている。

    2.Quiet Area(静かなエリア)
    Books(読書)
    読書用の本は様々な学習コーナーに置かれているが、本だけを収納している棚がある。この棚には、色、形、文字、数字、科学、おとぎ話、多様性など、さまざまなトピックスの本が並んでいる。さらに、保育室のあちこちには、教育的なポスターや、さまざまな活動に取り組んでいる子どもたちの写真などのポスターが貼られている。このような視覚的な教材は、子どもが興味を示したときにディスカッションの機会となる。本やポスターは、定期的に新しいものと取り換える。

    Fine Motor Manipulatives Area(微細運動、操作する教材を使うコーナー)
    これらのコーナーには、最もバラエティに富んだ教材が含まれ、パズル、ゲーム、磁石でできたタイル、ブリキのおもちゃの車、リンカーンログ 、等が含まれる。これらの教材は、他の遊びのコーナーで使われることもある。例えば、ポップビーズ は、台所コーナーで食べ物に見立てたりして使うことができる。

    Art Center(アートコーナー)
    ここには、おなじみの教材や定期的に登場する新しい教材が含まれる。色鉛筆、マーカー、クレヨン、白い紙、色紙、定規、はさみ、スティックのり、コラージュ用の雑誌、ティッシュペーパー、ひも、アイスの棒などがある。このコーナーには常に沢山の材料が用意されているので、子どもたちは希望に応じて創造的なプロジェクトを行うことができる。

    Nap(お昼寝)
    それぞれの子どもたちには、毛布やシーツを入れておくための個別収納スペース(Cubbies)がある。家からぬいぐるみを持ってくるのが好きな子どももいるが、衛生のために昼寝の時間までこの収納スペースの中に入れておくようにしている。昼寝用の簡易ベッド は、収納クローゼットに保管されている。保育士は両方の保育室に簡易ベッドを並べ、子どもたちには、自分でベッドを作り、適切に片付けることを教える。また棚や家具を移動させてベッド間の壁を作る。ベッドは18インチ間隔で配置することが規定で決められている。保育士は、毎日ベッドを掃除し、シーツと毛布は州の基準で要求されているように毎週洗う。

    3. Creative Play Area(創造的な遊びのエリア)
    Additional Playroom(もう1つのプレイルーム)である。台所、バスルームには、ラミネートのフローリングを使用している。壁や家具も中間色でまとめられている。このコーナーと台所には、2つの照明がつけられている。引き戸のカーテンは常に開いており、自然光が入るようになっている。またここでは、リスや鳥、葉っぱや風の動きを見ることができるコーナーともなっている。

    Meal Time(食事の時間)
    コロナ感染防止の新しい指針として、幼児クラスのテーブルの端には椅子が二つだけが置かれ、食事中の子どもたちの間の距離が6フィート離れるように決められている。テーブルは両方のプレイコーナーで使用されており、大人数での活動の際には移動させることができる。食事の準備やテーブルの上は、ライセンス要件に従って、食前と食後に消毒するようにしている。

    Sensory Play (感覚遊び)
    このプレイルームには、子どもたちが遊べる感覚遊びの教材が用意されている。これらの箱に入っている教材の例としては、粘土、プレイ・ドー、キネティックサンド 、水と付属品(例:計量カップ、バケツ、薬のスポイド)等である。水の備品は、毎日空にして掃除するようにしている。

    Science Space(科学のコーナー)
    科学探検の多くは屋外で行われる。しかし、自然の中からいくつかのモノを室内の遊びのコーナーに持ち込んで、さらに探求することもある。松ぼっくり、石、棒、貝殻、虫眼鏡、双眼鏡、科学をテーマにした本などが置かれている。

    Kitchen Prep Area(台所の準備コーナー)
    台所は、保育士が食事の準備をする場所である。台所には大きなカウンターがあり、クラフトの準備や書類の整理などにも利用できる。この大きなカウンターは、ライセンス要件に基づき、食事の前後に消毒している。

    Toileting and Hand Washing(トイレと手洗い)
    トイレには、普通サイズのトイレと、子ども用のポータブルトイレがある。子どもたちは自分の使いやすいトイレを選ぶことができ、大きなトイレを使う時や、洗面台を使う時には踏み台が用意されている。バスルームと台所では、手を拭くのにペーパータオルが使われている。バスルームには、子どものトイレ用品(オムツ、おしりふき、着替えなど)を入れるための収納がある。また、バスルームの外にも収納がある。バスルーム内の収納は、年少の子どもの用品や着替えを優先して入れておくようにしている。保育士は必要に応じて、バスルーム内での手助けをするために子どもの近くにいるようにしている。バスルームの洗面台の上には、正しい手の洗い方が図で表示されている。子どもたちには、石けんで手をこする時に、20まで数えるなど、正しい手の洗い方が指導されている。

    Storage(収納)
    最初の収納庫には、簡易ベッド、子どもの情報(緊急連絡先、事故報告書のコピーなど)が入ったファイルボックス、消火器、懐中電灯、ホイッスル、掃除用具など、この施設にとって最も重要な情報が入っていて、最上段に収納されている。ドアの外側には「消火器がこの中にある」と書かれたサインが貼られてる。

    2つ目の収納庫には、季節ごとの教材や本、ローテーションで使用するおもちゃ、余分な紙製品(ペーパータオル、トイレットペーパーなど)、追加のクラフト材料などが収納されている。これらの材料は頻繁に補充されている。

    Entry/Transition Area(入口と移行コーナー)
    子どもたちや家族が最初に入る場所。保育室の入口には、子どもの数のロッカー、収納のためのキャビネット、保護者のための掲示板、登園記録表 、家族との交流のためのスペースが用意されている。子どものリュックサック、外遊び用の服、予備の服、お弁当袋、作品、毛布などの持ち物を収納するために個人用ロッカーが用意されている。このスペースの目的は、子どもが家から保育室へとスムースに移行できるようにするものであり、子どもたちがクラスメートや先生に挨拶したり、保護者に別れを告げたりできるようにつくられている。

    Arts & Crafts Area(アート&クラフトコーナー)
    このエリアには、子ども5人と大人1人が座れる大きなテーブル、材料を収納できる棚、イーゼル、陳列ボードがある。入口コーナーとこのコーナーのスペースを仕切る壁は、子どもの作品を飾る壁も兼ねている。子どもたちは自分のお気に入りのアート作品を飾って、クラスメートに見てもらうことができる。アートの材料は棚に収納され、種類や用途ごとに整理されている。材料として、無害のクレヨン、マーカー、色鉛筆、画用紙、厚紙の切れ端、紙くず、スティックのり、液体のり、安全はさみ、チョーク、パイプクリーナー、アイスキャンデーの棒、等が含まれるが、これらに限定されるいない。危険性のあるもの(はさみ、のり、小さい「窒息しやすい」ものなど)は、棚の一番上の段に保管されている。安全対策として、危険性のある備品は子どもたちの手の届かないところに保管し、大人の援助や監視のもとでアクセスできるようにしている。

    Eating/Activity Area(食事や活動コーナー)
    このコーナーには3つの大きな丸いテーブルがあり、各テーブルに子ども6人と大人1人が座れるようになっています。クラス全体の活動が行われたり、おやつ、昼食をこのコーナーで食べる。このスペースは、床材でできており、大人が別のテーブルに移動するための間隔が確保されている。食事・活動コーナーは、手洗い場に隣接している。探検エリアのすぐ隣に位置している。ここでは、クラス全体の大規模な活動を共有できるように設計されている。

    Food & Activity Preparation Area(食事準備コーナー)
    保育士が使用する目的で作られたコーナーである。簡易キッチンに似たレイアウトのスペースである。収納用のキャビネット、冷蔵庫、大人サイズの流し台、身の回りのものを収納する小さな押し入れで構成されています。このスペースは大人のみが使用するように設計されているため、このコーナーは、保育室の総面積には含まれない。

    Exploration Area(探索コーナー)
    このコーナーは、子どもたちが自然科学を探求し、感覚を通して物理的な世界を発見することを目的としている。自然や植物の棚、感覚を刺激するテーブル、子どもサイズの流し台、収納用の棚が設置されている。「感覚テーブル」は、子どもたちがさまざまな素材に触れ、他者と交流し、五感のうち四感を探求できるように作られている(味覚は除く)。感覚テーブルは、砂場と水場の両方がある。子どもたちが感覚テーブルにいる時は、保育士が常にそばにいて、安全面などに配慮するように心がける。植物と自然の棚は、植物を育てるために十分な光が当たるように、意図的に2つの窓の前に配置されている。子どもたちは、種を健康な植物に育てるために必要な条件(水、土、光など)を学ぶことで、科学の基本を身につける。また、大人の援助と監視のもとで、自分たちで植物を世話し育てることで、責任感を養うことができる。

    Bathroom(バスルーム)
    男女兼用トイレには、子どもサイズのトイレ2個、子どもサイズの洗面台1台、収納棚がある。2つの子ども用トイレは、子ども15人につき1つのトイレを必要とする規定に準拠している。トイレはプライバシーを確保するため、柵で仕切られている。収納棚は、子どもには手が届かない場所にあり、掃除用具を収納している。床材は水濡れに対応するために、タイル製である。また、浴室の中央には排水口があり、保育室が浸水するのを防いでいる。バスルームは、保育室のどの場所からも見え、アクセスできるように配置されている。バスルームの中には、「行く、流す、洗う、出る」を視覚的に説明するためのサインが掲示されている。排泄の自立を目指す子どもには、言葉によって促したり、身体的な補助を行ったりしている。

    Music & Movement Area(音楽やムーブメントコーナー)
    このコーナーは、ダンス、演技、歌、人形劇、楽器演奏などを通して、子どもたちが創造力や想像力を発揮できるようにつくられている。このコーナーには、劇場/ステージ、衣装、簡単な楽器、豊富な楽曲を揃えたCDプレーヤー、人形、小道具、子ども用椅子、大人用椅子が設置されている。このコーナーはカーペット敷きで、身体運動に適した床面積を確保している。シアター/ステージは約14平方フィートで、地面から1フィート以下の高さの舞台になっており、安全に出入りするためのスロープが設置されている。このスペースは、社会的交流、表現力、記憶力、認知能力の発達、粗大運動と微細運動能力の発達を促すようにつくられている。

    Block Play Area(ブロック遊びコーナー)
    ブロックコーナーは、自由に遊べるようにオープンスペースに設計されている。ブロックがたくさん入った大きな容器が2つと、おもちゃの入った棚がある。ブロックの容器には、木や発泡スチロール、プラスチックなど、さまざまな素材で作られたさまざまな形のブロックが入っている。おもちゃ箱には、車、トラック、ボール、動物のフィギュア、プラスチック人形など、様々な種類のおもちゃが入っている。子どもたちは単独で、あるいはグループで、共同で組み立てたり、交渉したりしながら遊ぶことができる。協力し合い、新しい友情を築き、材料を共有することで、社会的スキルを養うことができる。

    Fine Motor Manipulatives Area(微細運動、操作する教材を使用コーナー)
    このコーナーは、微細運動能力の発達、数字の識別、アルファベットの認識などを促進することを目的としている。このスペースには、パズルやゲーム棚、そして6人の子どもと1人の大人が座れる大きな楕円形のテーブルが用意されている。ゲームには、暗記カード、ボードゲーム、小物操作などがある。カードやパズルは、色、数、形、文字、動物、物、場所など、さまざまな種類がある。このスペースは、子どもたちが座って、自分の能力に挑戦する精神的、肉体的な活動をするために用意されている。このスペースは社会的な交流を目的としているため、パズルや小物を操作することで、つかむ能力や目と手の協和運動を発達させることができる。図形認識、批判的思考、消去法などの能力は、操作的な遊びを通して培われる。

    Literacy/Circle Time Area(読み書きやサークルタイムコーナー)
    このコーナーは、グループでの話し合い、ストーリータイム、話したり聞く活動、保育士と子どもの交流のためのスペースを提供している。このスペースには、大きな円形の絨毯、本棚、イーゼル、ホワイトボードが置いてある。サークルタイムは1日のうち3回行われ、1回あたり15分以内である。午前中に1回、イーゼルに貼られた1日のスケジュールを確認し、午後に1回、グループ活動を行い、子どもたちが帰宅する直前にもう一度行う。

    Dramatic Play Area(ごっこ遊びコーナー)
    このコーナーは、保育室の中で最も大きなスペースの一つである。なぜなら、このスペースは自由遊びとお昼寝の時間の両方に使われるからである。このコーナーには、お昼寝用の簡易ベッドと、おもちゃの食品を入れる収納棚、流し台、シンク、オーブン、コンロ、冷蔵庫などがある。また着替え用の服、赤ちゃん人形やぬいぐるみ、子どもサイズのソファ、子どもサイズの食卓と椅子もある。さらに、おままごと用の道具を置くスペース、作業台、子ども用の椅子もある。このコーナーの目的は、子どもたちが創造力と想像力を発揮して、さまざまな役割を体験することである。子どもたちは、模倣を通して大人の世界を体験し、理解することができる。さらに、他者と協力し、自分の気持ちや感情を表現するために必要なスキルを身につけることができる。


    考察

    保育者養成で環境構成について学ぶ際、何が重要なのか、これらの学生の課題を参考にしながら、気づいたことを述べてみたい。

    まず環境を構成する第一歩として、自分の保育観を書き出してみることが重要であると考える。たとえば、子どもの主体性を重視し、なるべく子ども自らが遊びを展開していけるような保育を理想としている場合、中に含まれる遊具(玩具)や教材なども可塑性があり、柔軟な日課、コーナー間の移動が比較的自由な保育環境を思い浮かべるかもしれない。自然を取り入れた保育を重視したいと考えている場合、保育室の様々なコーナーに、植物、自然物などを取り入れ、さらにそれぞれについて深く学べるような道具(例、虫眼鏡、顕微鏡、物差し、はかり)や図鑑などを常時おいて置くかもしれない。たとえば学生Aの場合、子どもの意思を尊重するためには、それぞれの子どもがやりたいことに十分に取り組める教材を用意することを保育観として書いている。それぞれの遊びのコーナーの説明では(ごっこ遊び、アートコーナー)、十分な教材が用意されていることが伺われ、子どもが一人が自分の要求を満たすことができる保育環境であることが推察された。

    保育環境をデザインする次のステップとして、国や州(都道府県など)の保育室の居室面積基準(乳幼児の年齢による一人あたりの面積)について熟知し、それに基づいて面積を割り出すことが必要になってくる。またそれだけでなく、限られた面積を最大利用する場合、遊びのコーナーを昼食や昼寝の場所として多目的に使用する等、いろいろ工夫しなければならないことをこの課題を通して学んでいると考えられた。

    保育環境について学ぶ際、子どもの安全や衛生面に最大限の配慮を行うことを学習する必要がある。学生Bは、保育現場経験はないものの、ハサミなどの危険性のあるものは、棚の一番上の段に保管することや、砂遊びや水遊びなどは(誤飲がないように)特に注意して大人が監視する等と説明している。学生Aは現在、保育士であることから、特にコロナ感染防止のためのソーシャルディスタンス、テーブルやベッドなどの消毒、子どもの手洗いへの徹底指導、侵入者を知らせる防犯ベル、消火器の位置の表示等、細かく述べていた。また保育室入り口の登園記録用紙は、家族構成がますます複雑化(シングル親、離婚家庭)する中、いくら家族でも事前の取り決めなしに子どもを引き渡すことはできないという徹底した安全管理を反映していると考えられる。

    家庭との連携を密にするための具体的な保育環境の在り方について学ぶことが大切である。そのためには、保育室の入り口の環境は重要な役割を果たしていることがうかがわれた。保護者への効果的な連絡のための掲示板、保護者が安心して子どもを預けることができるよう保育士の資格が表示されていたり、子どもの作品を展示する場所も提供していた。また保育室の環境は、家庭に代わって子どもが生活する場としてリラックスできるように、じゅうたんを敷いていたり、家具や壁を中間色に統一するなどの配慮がうかがわれた。

    遊びのコーナーの種類を把握することが保育環境の学びにおいて重要である。双方の学生ともに、「ごっこ遊び」「ブロック遊び」「アート&クラフトコーナー」「音楽&ムーブメントコーナー」「微細運動、操作遊びコーナー」「感覚、探索、科学コーナー」「読書、読み書きコーナー」が含まれていた。これらのコーナーは、アメリカの幼児教育施設で一般的にみられるコーナーである。特に学生Aは、これらの遊びのコーナーを動的エリアと静的エリアに分け、それぞれの遊びに集中できるような配慮がうかがわれた。またこれらのコーナーでの玩具や教材は、定期的にローテーションしたり、新しいものを付け足すなど、子どもの興味をひき、刺激となるように工夫されていた。

    遊びだけでなく、食事や排泄、手洗いなどの生活面における環境構成について学ぶことも重要である。まず子どもの自立を援助するための方策として、自分でできることはなるべくやらせている。具体的には、子どもそれぞれが、自分のベッドを出し、片付けさせたり、援助なく自分で排泄ができるように「行く、流す、洗う、出る」の視覚サインが掲示されていることである。また学生Bが示しているように、バスルームが子どもにとって、保育室のどの場所からも見え、アクセスできるように配置されていることも、自立への環境づくりである。

    保育環境を構成する際、収納棚の中など、外から見えない場所をどうしようするかについても配慮することが大切である。この二人のレポートからは、それぞれの遊びのコーナーの収納棚には、その遊びの教材などを中心に収納されていることがうかがわれたが、これは、コーナーが棚などで区切られているということが多いというアメリカの保育の特徴を表しているとも思われる。また学生Aのレポートでは、「バスルーム内の収納は、年少の子どもの用品や着替えを優先して入れておくようにしている」と書かれていたが、おもらしなど予想していない出来事が起こった時、即座に対応することが環境構成では重視されていた。

    その他、今回の課題を通して、保育環境の構成は、外に向けて開かれていることが重要であることが、学生Aのレポートより洞察できた。例えば窓の役割として、保護者やクラスメートに手を振ってお別れしたり、工事現場の作業員やゴミ収集車、郵便配達車、スクールバスなど、地域の交通機関を観察する人気のスポットであると述べている。また別のドアからは、リスや鳥、葉っぱや風の動きを観察することができるとも書いている。子どもの視点に立って、それぞれの場所がどのような役割を果たしているのかを考えることが保育の環境構成では大切であり、それをうかがえるレポートであった。

    筆者は、1998年に米国へ移住しており、日本の最近の保育情勢については、詳しいとは言えない。しかし平成元年の「環境を通して行う保育」は、今も日本の保育の原点であると聞いている。「環境を通して行う保育」について、日本の保育者養成における教育を検討する際、今回のレポートが参考になれば幸いである。



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筆者プロフィール
report_porter_noriko_02.jpgポーター 倫子(Noriko Porter)

金沢市出身。1987年より11年間北陸学院短期大学で保育者養成に携わり、国際結婚を経て1998年に渡米。2008年にミズーリ州立大学人間発達家族研究学科博士課程を卒業。現職はワシントン州立大学人間発達学科のインストラクター。2015年より安倍フェロ-として日本における調査研究を実施。テキサス大学医学部の精神医学行動科学学部客員研究員。立命館大学の人間科学研究所客員協力研究員。
保育の分野で幅広く研究を行ってきたが、最近では日米の子育て比較研究が主な専門領域。自閉症児を抱える子どもの親としての体験をもとにして執筆した論文「高機能自閉症児のこだわりを生かす保育実践-プロジェクト・アプローチを手がかりに-」で、2011年日本保育学会倉橋賞・研究奨励賞(論文部門)受賞。

※肩書は執筆時のものです

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