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【日本・中国】 日中両国における保育者養成の現状と課題

要旨:

本稿では、日中両国における幼児教育の現状を踏まえて、保育者養成の現状と共通の課題について考察を試みた。日本の幼児教育は、第二次世界大戦後、幼・保二元化の道を歩んできたため、保育者養成も、幼稚園教諭と保母(1997年より「保育士」)の二元化で進められてきた。一方、中国の幼児教育は、1950年代より公的福祉事業として、「託児所」(3歳未満の保育機関)と「幼児園」(3歳~6,7歳の教育機関)で展開され、保育者養成は、1990年代より「保育員」養成、1950年代より「幼児園教師」(元の法規上では「教養員」、1989年よりの法規上では現名称)養成で展開されてきた。21世紀の多文化共生社会における幼児教育を担う保育者養成は、日中をはじめとする世界共通の課題である。

Keywords;
中国, 乳幼児保育, 保育者, 劉郷英, 幼児教育, 日本
中文 English
日本の基礎データ
中国の基礎データ

はじめに

日中両国の近代幼児教育の歴史はともに100年あまり経ている。幼児教育の初期は日本においても中国においても官主導によって開始されている。新中国では、社会主義国家として建国後、1950年代に、旧ソ連の教育制度を積極的に導入し、男女の権利の平等・父母の社会的労働への参加と乳幼児の総合的発達を保障する集団保育・教育制度が設けられた。

しかし、中国では1990年代に入り、本格的に、市場経済システムが取り入れられ、1993年、「中国教育改革と発展に関する要綱」の公表によって、社会主義市場経済への転換にふさわしい教育の在り方として、「教育機関は、今後、可能な限り経営方式を多元化し、社会の各方面から資金を調達する」ことを奨励した。また、中国では、1980年代から始められた1人っ子政策と早期退職した女性や農村の余剰人口の育児参加によって、乳児の集団保育ニーズが急速に減少し、0歳児の集団保育は基本的になくなり、1歳半(2歳半からの場合が多い)~3歳未満児の保育は「小々班」として、幼児園に併設されるものが多くなった。

今日、日中両国ともに、市場経済の下で、幼児教育にも競争原理が導入され、その結果、保育の一環として、「興味クラス」(「おけいこごと」クラス)等を実施するものが増加している。

現在、幼児教育は世界的な注目を集めている。本稿では、上記の現状を踏まえて、日中両国における保育者養成の現状と共通の課題を明らかにする。


Ⅰ 日本における保育者(幼・保共通の呼称として)養成の現状

第二次世界大戦後、帝国議会において、幼保一元化に関する議論(1945年頃)はされたが、その後、幼・保一体化案としての認定こども園制度(2006年)が提案されるまで、日本の幼児教育は、幼・保二元化の道を歩んできた。

幼稚園は、1949年、「教育職員免許法」が成立し、教員養成のための法整備とともに、1967年、これまで私学のみで養成されてきた幼稚園教育課程が、国立教員養成8大学にも設置された。2006年の教育基本法改訂で、「学校とは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、特別支援学校及び高等専門学校とする」と幼稚園が学校として位置づけられた。

1990年代以後幼稚園教諭免許は2段階から3段階に移行した。即ち、大学院修了者対象の「専修」普通免許状、大学卒業者対象の「1種」普通免許状、短期大学修了者対象の「2種」普通免許状の3段階である。なお、2006年の法改正により、幼稚園教諭免許状も10年更新制が適用され、永久保持から期間限定に切り替わった。

保育所は、1947年の児童福祉法で、第37条「保育所は、日々保護者の委託を受けて、その乳児又は幼児を保育することを目的とする」と規定され、児童福祉法施行令第13条で、「児童の保育に従事する女子を保母」とその従事者の呼称を定めている。

1948年、「保母養成施設の設置及び運営に関する件」(厚生省児童局長通知)に基づき、厚生大臣の指定を受けた養成機関(養成期間2年)が設けられたが、他方で、保母試験制度も残された。1962年保母養成所の教育課程が全面改訂され、養成機関として、短期大学の保育科等の教育課程を設定して、幼稚園教諭免許状(二種)と保母資格が同時に取得できるようにした。1970年、社会の著しい変動及び保育運動の高揚によって、家庭・児童の抱える問題が多様化し、職員の質と専門性の向上が重要となり、保母養成教育の質の向上が課題となった。そこで、養成カリキュラムの全面改訂にあたって、「乳児保育Ⅰ・Ⅱ」が新設された。

1998年の児童福祉法の改訂によって、男性保育者(1977年以来、「保母」に準じる)が正式に認められ、呼称も「保育士」と変更された。2001年の児童福祉法の改訂では、「保育士」資格を国家資格として法定化し、2002年の児童福祉法改訂では、母親の育児不安を援助するための「子育て支援」と生活問題を背景とした「児童の保護者に対する保育指導」(第18条4)を行うことが、保育士の業務として規定され、保育士は子どもの保育とともに、その背後にある保護者等に対する生活支援者としての役割が求められることとなった。


Ⅱ 中国における保育者養成の現状

1949年中華人民共和国は社会主義国家として成立し、建国直後の1950年代に女性を家庭から解放し、社会進出を促すために、中国政府は公的福祉事業の一環として、女性の労働・社会参加保障と乳幼児の全面発達を促す集団的保育・教育保障の二重の任務を担う保育制度を設けた。この制度は、主として都市部で展開され、保育機関は子どもの年齢によって、「託児所」(衛生部-日本の厚生労働省に相当-が管轄し、産休明けの0歳~3歳未満の乳幼児を対象)と「幼児園」(制度上の管轄は、教育面を教育部-日本の文部科学省に相当-が、保健衛生面を衛生部が担当するが、主導機関は教育部で、公教育制度の基礎的段階の教育機関として位置づけられ、満3歳~満6、7歳の幼児を対象)に区分された。1980年代以降、一人っ子政策の実施、農村出身のベビーシッターの普及、早期退職や解雇で家庭に入る女性が増えたこと等の理由から、乳児期の機関保育への需要が大きく減少した。また、1990年代から、中国における社会主義市場経済の導入による経済システムの転換や一人っ子のための早期教育ニーズの増大等に伴い、教育機関ではない単独の託児所は、親からの信頼が薄いため、自力で保育年齢を上へ延ばして幼児園に改組させたり、経営難からつぶれて近隣の幼児園に吸収・合併されたりするようになった。幼児園に併設される託児クラスの受け入れ最低年齢は1歳半~2歳半の場合が多い。現在、基本的に「幼児園」が、一体化した保育・教育機関として乳幼児に対する早期の保育・教育を担うようになっている。

中国の保育機関には、「保育員」と「幼児園教師」(1950年代当初の法規上では「教養員」とされたが、1979年の法規上では「教養員(即ち幼児教師)」とされ、1989年以降の法規上では「幼児園教師」)の2種類の保育者が配置されている。「保育員」は教師として認められておらず、1980年代までには、教育訓練を受けずに託児所や幼児園で保育を担当する者が多く、現場では「阿姨」(おばさん)と呼ばれ、教育程度や専門性が高くなかった。現在、通常、高校レベルの中等衛生専門学校で教育訓練されるか、子育てが終わった女性や他の職種を退職した女性が各自治体で行う衛生局の資格研修を受けて担当するようになり、以前に比べて「保育員」の資格化もかなり進んでいる。

「幼児園教師」は、1950年代当初から教員養成制度に基づいて養成されてきている。「文化大革命」(1966年~1976年)の10年間を除いて、1990年代中頃までには、「幼児園教師」は主として高校レベル相当の中等専門教育機関である幼児師範学校で養成されてきた。幼児師範学校の養成カリキュラムは、もともと旧ソ連から導入された「三学六法」(幼児心理学、幼児教育学、幼児衛生学と6教科の教授法)を基本的専門教育科目として編成されていた。1990年代になって、『中華人民共和国教師法』(1993年)、中華人民共和国教育法』(1995年)、『教師資格条例』(1995年)など教育に関する一連の法規の発布に伴い、中国の教育改革は急テンポで進められるようになっている。こうした背景下で、「幼児園教師」の資質向上や学歴向上も緊急に求められ、現在、「幼児園教師」は、①中等専門教育機関である幼児師範学校(現在日本において専門学校はほとんどが高校卒業以上の入学資格となっており、これに相当する教育機関はない)、②高等専門教育機関である幼児高等師範専門学校(短大または専門学校相当)、③4年制の師範大学・師範学院(単科大学)の就学前教育専攻(大学相当)の3種類の養成機関で養成されるようになっている。2005年現在、以上の養成機関の養成形態に対応して、中国全国幼児教師教育学会は中華人民共和国教育部師範司の委託を受けて5種類の新しい幼児園教師養成プログラムを開発した。

① 中学校卒業からスタートする就学前教育専攻三年制中等専門学校養成プログラム
② 中学校卒業からスタートする就学前教育専攻五年一貫制養成プログラム
③ 中学校卒業からスタートする就学前教育専攻「三・二分段制」養成プログラム
④ 高校卒業からスタートする就学前教育専攻三年制高等専門学校養成プログラム
⑤ 高校卒業からスタートする就学前教育専攻四年制大学本科養成プログラム

以上の5種類の養成プログラムにおける養成カリキュラムは構造的にも内容的にも共通の特徴を持っており、専門教育科目として、幼児教育に関するさまざまな専門領域の科目が設置され、とりわけ、これまでにない「特殊児童」に関する教育科目も新しく設置されている。しかし、21世紀における中国の幼児教育・保育事業の発展目標―0歳~6歳の一貫した科学的な早期教育―を実現するために、狭義の幼児教育に関する科目に限らず、乳幼児期の子どもの最善の利益につながる生活保障を基本理念とする保育学に関する科目の導入や、「子どもの権利条約」の精神を貫くために世界で行われつつある幼児教育・保育改革の潮流に歩調を合わせ、すべての子どもの生活に関する権利保障として、「社会福祉」「児童福祉」の科目の導入が望まれると考えられる。


Ⅲ 日中両国における保育者養成の共通課題

20世紀末から進んだ経済のグローバル化で、多くの国々で、多様な文化背景を持つ人々が生活を共にし、教育を受けるようになっている。その中にあって、グローバル化は、新しい社会モデルを必要とする社会的変化の主たる根源として、教育は社会全体に対してまた個人の全生涯にわたって重要な位置を占める。とりわけ、乳幼児期の子どもの「母語」(第一言語)の健全な発達は、その後の学習過程に大きな影響を与えるとされ、乳幼児教育は世界中の注目を集めており、それに携わる保育者の専門性の確立と保育者養成カリキュラムの開発は急務となっている。多文化共生を模索する日中両国における保育者養成の最大の共通課題は、保育者の専門性の向上とそれを支えるカリキュラム開発であると考えられる。


参考文献
1 アンソニー・ギデンズ著・渡辺聡子訳『日本の新たな第三の道』 ダイヤモンド社 2009年
2 一見真理子「全人民の資質を高める基礎『早期の教育』―競争力と公平性の確保」 泉千勢・一見真理子・汐見稔幸編著『世界の幼児教育・保育改革と学力』明石書店 pp.214-241 2008年
3 一見真理子「中国の幼児教育―ここ十年の変化と今後」教育と医学の会編『教育と医学』第51巻2号 慶応義塾大学出版会 2003年
4 高向山「早期多面注力の就学前教育」池田充裕、山田千明編著『アジアの就学前教育』 明石書店 pp.36-55 2006年
5 劉郷英「中国における保育者養成カリキュラムの現状と課題―『幼児園教師養成プログラム』の検討を中心として①―」名古屋経営短期大学子ども学科子育て環境支援研究センター発行『子ども学研究論集』第2号 pp.1-9 2010年
6 劉郷英「中国における乳児保育の現状と課題―『0歳児集団保育』に関する意識調査の検討を中心に―」福山市立女子短期大学研究教育公開センター発行『福山市立女子短期大学研究教育公開センター年報』7号 pp.149-158 2010年
筆者プロフィール
劉 郷英   名古屋経営短期大学子ども学科准教授 日中両国の幼児教育・保育に関する比較研究が多数。
中田照子   名古屋経営短期大学子ども学科教授 社会福祉、児童福祉に関する国際比較研究が多数。
平岩定法   名古屋経営短期大学子ども学科教授 幼児教育・保育方法に関する研究が多数。
丹羽正子   岐阜聖徳学園大学教授 児童福祉に関する研究が多数。
宍戸健夫   愛知県立大学名誉教授 幼児教育史研究、東アジアの幼児教育・保育方法に関する比較研究が多数。
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