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【中国】 中国におけるECCEの政策的研究

田 輝 (中国中央教育科学研究所) 

2005年11月25日掲載

要旨:

中央教育科学研究所(CNIER)が1987年に教育部の嘱託で実施した中国史上初の大規模な子どもの発達状況調査をよりどころにし、中国政府は子どもの権利条約を批准して、1990年代の中国子ども発展施策を打ち出した。現在ではCNIERの研究員たちは第2期目の2001~2010年の十年計画の実施に取り組んで、中国におけるECCEの今日的課題について研究を続けている。本稿では中国におけるECCEの現状及びCNIERのECCE研究事業、中国ECCE発展の課題やその対策について議論する。
中国の基礎データ

この論文は第2回子ども学会議(2005年9月3日)で発表された資料を基に編集したものです。ECCEとは、Early Childhood Care Education「子どもの早期関心と教育」の略称です。

はじめに

中央教育科学研究所(CNIER)では、1987年に教育部の嘱託で中国史上初の大規模な子どもの発達状況調査を実施した。それをよりどころにして、中国政府は子どもの権利条約を批准して、1990年代の中国子ども発展施策を打ち出した。現在ではCNIERの研究員たちは第2期目の2001~2010年の十年計画の実施に取り組んで、中国におけるECCEの今日的課題について研究を続けている。


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中国の子どもたち


一、中国におけるECCEの現状

中国では、0~6歳の子どもがすでに1.3億人に達し、世界の子どもの1/5を占めている。中国政府はより多くの子どもに早期ケアと早期教育を受けさせるために、ECCEを基礎教育の一部分と促し、その重要性を新たに強調し、発展を促している。

3~6歳児の園児数と入園率
2004年現在、中国全国では在園子ども数は2,089万人で、1980年の1.8倍になって、子どもの入園率も当時の2.5倍となった。 1990年代の中ごろ、中国は幼児教育のピークを迎えた。1995年には全国園児数は2,711万人に達して、これまでの最高記録となっている。

表1 1980~2000年都市部子ども入園状況統計(単位:万人) 

都市部3~5歳児
子ども数
都市部3~5歳児
園児数
都市部3~5歳児
入園率 (%)
1980年 486 174 35.8
1985年 620 333 53.7
1990年 - 447 -
1995年 848 537 63.3
2000年 845 503 59.5


表2 1980~2002年地方都市の子ども入園率統計(単位:万人)

地方都市の
幼稚園数
地方都市の
子ども数
地方都市の
園児数
地方都市の
入園率(%)
1980年 0.86 454 97 21.3
1990年 2.3 1,159 308 26.6
1995年 3.65 1,246 549 44.1
2000年 4.53 1,156 578 50.2
2002年 3.33 1,055 542 51.4


表3 1980~2004年農村の子ども入園状況統計(単位:万人)

農村の幼稚園数 農村の3~5歳児
子ども数
農村の3~5歳児
園児数
村の3~5歳児
入園率(%)
1980年 14.3 7,050 879 12.4
1985年 12.2 5,218 924 17.8
1990年 11.9 4,899 1,217 24.8
1995年 10.7 4,735 1,624 34.2
2000年 9.3 3,918 1,163 29.7
2002年 4.9 3,676 1,055 27.4
2003年 5.1 - 940 -
2004年 5.43 - 996.6 -



二、CNIERのECCE研究事業


CNIERは1978年に再建してから、研究員たちが二代にわたって中国の子ども発達調査とECCEの研究、指導を続けてきた。中国は人口数の約6割は農村にあるため、CNIERの仕事の中心は農村における、特別支援教育と弱い立場にある子どもたち(エイズ患者の子ども、農村の留守番っ子)の教育に注目している。より多くの子どもの教育権利を保障するために、教育立法、教育政策研究に寄与し、国立研究機関としての役割を果たすために研究活動をしている。これまでの主な研究事業を3つ紹介する。

その1:第一回中国子ども発達のIEA調査

1985年から、4年間にわたって、「国情に応じて素質向上を図る子どもの発達調査」という中国史上初の全国子ども発達状況調査を実施した。このプロジェクトはIEA調査といって、中央教育科学研究所が実施団体として、立案、調整、技術指導などの仕事に携わった。CNIER元主任研究員の史慧中先生たちが主なチームメンバーであった。今度のIEA調査は政府の政策制定、特に子ども発達に関する政府の関与度には大きな影響を与えた。そして、(1)幼児教育を全国教育科学研究調整計画に書き入れた(1989年)、(2)現代中国の幼児教育研究の体制を確立(1990年)、(3)「90年代中国児童発達計画要綱」の発表(1991年)、(4)国務院「幼児教育事業の管理管轄と責任配分について」の政令の公布(1993年)、(5)中国政府がUNICEFの子どもの権利条約の批准(1993年)などに導いたのである。

その2:UNICEFの中国ECCEプロジェクト

1988年から、国内外の研究助成を獲得して、CNIERでは中国農村の教育現状調査をしながら、農村における早期教育と早期ケアの指導に取り掛かった。およそ10年間かけて、チームリーダーを3回も変えたが、ECCEの研究指導活動は滞りなく行われた。2001~2005年には、UNICEFと教育部共同委託事業として「中国におけるECCE五ヵ年合作プロジェクト」の指導専門家グループにも参加して、指導活動の実施地域は河北省、貴州省、雲南省、四川省などの計6の貧困省の1,200万人の人口数に及んだ。

その3:農村の留守番っ子のECCE政策研究

21世紀にはいって、中国では農村人口の都市部への出稼ぎが著しくなったため、農村部の留守番っ子の教育が社会的な問題になりつつある。中国におけるECCEに新たな問題をもたらしたのである。CNIERでは教育部基礎教育局の委託を受けて、2004年から、CNIERの教育発展研究部をはじめ、「都市部へ出稼ぎに流動した農民の子女の教育基本状況調査」―農村の留守番っ子教育状況の研究調査チームを結成して、「農民工」の輸出人口の多い安徽省と「農民工」の輸入人口の多い広東省を調査地域に指定して、それぞれ8校でサンプル調査を行った。そして、「輸出省」では「輸入先の地方教育管理と公立学校に頼る」方針と「輸入省」では「公立学校を主にして、私立学校に協力してもらって、共同担当」の問題解決法を基本にして、子どもの教育を受ける権利と教育の平等性を守るため、教育財政、特にこれからの基礎教育のあり方について、関係部門に提言した。

その4:身体障害児のECCE特別支援研究

CNIERの特殊教育研究センターでは長年、特別支援の必要な子どもの教育について研究してきた。2003年からは、中国エミテーファンデーション(愛徳基金会)の助成で江蘇省を実験地域にして、アメリカの専門家と協力して0~4歳の視覚障害児のECCEプログラムの指導に力を入れた。目標としては、江蘇省北部で、30箇所の特別ECCEセンターを設立、専門家により年に100戸以上の家庭訪問指導を行い、社会の関心を集め、障害児の自立支援をし、特殊教育におけるECCEのあり方を模索しながら、中国政府の特別支援教育と特別支援ECCE政策の策定のために理論的研究と実践的経験を積んで、障害児の成長する権利と教育を受ける権利を最大限に保障することを期待している。


三、UNICEF2001~2005年度 中国におけるECCE研究事業


1.実施地域

西部貧困地域では:広西、貴州、四川、寧夏、甘粛、内モンゴルなど(計18県)
東部の都市部では:天津、青島、瀋陽など(計6区)

2.実施目標

・3~6歳児のECCE レベルと入園率の向上
・3歳までの子どもの両親に育児教育をすることによる在宅ECCE指導力の向上
・実施地域での70-80%の3歳以下の子どもの両親向けの科学的な育て方と育児知識の講習
・幼児教育の指導者の資質向上とレベルアップ
・実施地域では50%以上の幼稚園教師と指導者対象のECCEの専門研修

3.実施計画

・国及び地方のECCE政策の制定
・国際、そして学際的な協力によって、家庭及び地域社会を拠点にして、ECCE支援のネットワークを作り、より多くの子どもに個性的なケアと教育を提供する。
・ECCEに関する情報とパンフレットを作成して、保護者と地域社会に配布して基本方針の理解を深める。
・講習会などによって幼児教師の指導力を高め、モデル幼稚園の働きを拡大し、県、郷(町)、村にECCEの教師研修ネットワークを形成する。
・ECCEの必要性と重要さを社会に広く訴えるために、宣伝の手法を改善し、研究指導の策略をかえて、最大限に効果を出すようにする。
・適当な評価システムを作り、実施プロセスにおいて、監督、評価及び効果測定をして、予期する成果を出す。


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町のバザーでECCEに関する情報を展示する試み

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村の保育園でのECCEに関する情報提供や親子学校開催の試み

4.実施から得た経験

経験1:政府の支援力を最大限に発揮する
政府によって第十期の五カ年計画に子どものECCEを書き入れて、そしてやるべき仕事として各郷(町)に仕事計画に組み込んでいる。これまで研究機関、あるいは教育機関だけではやりきれないことを政府行為として貫く。各省、県、町ではECCE関連の政策を打ち出して、教師福祉改善、教育予算の確保をし、教育事業を大いに発展させる。政府の指導でECCE事業を推進し、行政の働きで企画調整をすることで、分野別の協力がスムーズにできる。政府の関与で教育、医療、文化及びその他の社会団体の人的、物的資源を十分に利用できる。
経験2:ECCEの宣伝を強化する
ECCEの重要性と関係情報を保護者の誰にでも分かってもらうため、テレビ、ラジオ、新聞雑誌、ホットラインなど、あらゆる手段を講じて宣伝に力を入れる。中央政府、地方政府によって0~6歳までの子育て指導マニュアルを作成して広く配布する。

経験3:地域社会の必要に応じてECCEのサービスネットワークを形成する
各県では廃校した校舎を利用して、入学予備クラス及び幼稚園を新設して、幼稚園の環境施設を改善する。各県では各町、村まで機能できるECCEネットワークを作って、より多くの子どものECCE入園率を向上させる。

経験4:地域社会を舞台に保護者のECCE情報交換と子育て指導を行う
町の公民館など共同施設や資源を利用して、地域住民に科学的な子育ての仕方などの育児情報の提供、指導を行い、子育ての意欲を引き出す。

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町での保護者ECCE講習会事例

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町のお医者さんによる子育て相談

経験5:ボランティアの活躍を広める

地域社会の協力、調整を求め、専門知識を持つ有志者をボランティアに誘って、ECCEに、必要な指導とサービスを子どもや保護者に提供する。
例:天津市河西区では教師、医者、労働者、芸術家等の4,000人の専門家達からなるボランティア組織があって、大いに活躍した実績がある。

経験6:農村の幼児教師の養成

農村に住んでいる専門知識のある人を幼児教師に招いて(選任、兼任)、一定の指導力をもつ、且つ比較的安定する教師陣を確保する。各県レベルの行政機関では、農村の幼児教育の重要性を新たに認め、義務教育普及の一部分として、正式に予算がおりた。

 
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農村の保育員たちの様子

経験7:県、町、村の三段の教員指導研修システムを作る
県と町にあるECCEセンター幼稚園をベースにして町と農村の幼児教師の講習指導と勉強のネットワークを作り、教師及び保護者に育児及び教育指導の参考資料を配布する。

5.実施成果

具体的な成果
1)国と地方行政のECCE政策策定のために根拠となる有益な研究の提供
2)実施地域内の0~6歳児の教育率の向上
3)新設幼稚園数:1,100ヵ所、現在幼稚園総数:5,890ヵ所
4)3~6歳児の入園率は45%から現在の53.6%に増えた
5)幼児教師の指導力が向上し、合格率が75%以上になった

資料配布と講習活動の成果

・配布資料計380種類、17万部(CNIER実施)
・ECCE講座と補修、計7,700回(各地で実施)
・保護者への定期研修を行うセンター幼稚園は全国で1,092ヶ所となり、センター幼稚園の90%以上を占める。
・農村幼児教師待遇の改善後、月給が平均56元増(180元から236元に)


四、中国ECCE発展の課題


中国におけるECCE普及を考える上で重点地域は農村である。しかし、現在中国の農村では経済、文化、社会、そして教育的発展が遅れているため、農村での幼児教育はまだまだ弱い局面にある。国と地方政府による調整、統括の働きをさらに強める余地があり、関係部門間の協力をさらに親密にする必要がある。農村の事情を考慮し、必要に応じた教師育成と保護者指導が必要である。またモデル幼稚園の教育理念と教育実践を改善してレベルアップしなければならない。さらに、ECCEの教師の指導力とレベルは低く、都市部ではECCEの発展はアンバランス状況が多いことから全体的な調和とレベルアップを図らなければならない。


 
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西部農村の幼稚園


五、対策について

対策については、以下のものが講じられている。
・県と町のECCE教師の負担を軽減して代わりに適任する指導員を育てる。
・ECCEの管理システムを各市、県、町と村に作る。
・「幼稚園教育指導要綱」を実施して、子ども教育の改革を図る。
・ボランティアの活躍を拡大して促進する。
・特別支援教育の強化と保護者の特別指導を拡大する。
・政府の統括調整で各分野の協力合作を一層促す。
・ECCE実施地域を拡大し、最大限に子どもの教育を受ける権利を保障する。

CNIERは、中国の教育改革と発展のために、国立教育科学と教育政策の研究施設として理論的な根拠と客観的な数字及び科学的な対策案を研究して最大限に子どもに教育権利を保障する。

写真提供:中央教育科学研究所、王敏化先生

筆者プロフィール
田 輝(Tian Hui)

中央教育科学研究所(CNIER)副主任研究員兼発展委員会秘書長(企画調整課長)。
黒龍江大学大学院日本語学科終了,修士学位取得。遼寧大学外国語学院講師、助教授を経て、中央教育科学研究所外事弁公室主任、在日本中国大使館教育部二等・一等書記官を歴任。2004年帰国し、現在に至る。
共著に『漢日科技大詞典』(黒龍江科技出版社 1990年)、『大学日本語題解』(大連海事大学出版社)など。
共訳に『幼児心理教育』(中山大学出版社 2003年)、『幼児教育と親』(中山大学出版社 2003年)など。
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