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【日本】AIロボットが保育環境に入る時代へ:幼児教育場面におけるインタラクティブAIロボットに対する幼児のリテラシーと認知の特徴(前編)

田爪 宏二(京都教育大学 教育学部 准教授)
森田 健宏(関西外国語大学 英語キャリア学部 教授)

2020年10月 9日掲載

要旨:

我々の生活の中に普及しつつあるコミュニケーション型のAI機器やICT機器,特に人間に近い動作をするロボット型のメディアと子どもの関わりは,幼児期におけるメディアに対するリテラシー(認知的スキル)とともに,社会情動的スキル(非認知的スキル)の育ちにも影響がある可能性がある。
本稿では,前編でヒト型AIロボット「ロボホン」を幼稚園の環境の中に設置し,自由活動の中で幼児がロボホンと交流する場面の観察(研究1),後編でロボホンとコミュニケーションを行った後に幼児にロボホンに対する認識について質問する(研究2)という2つの研究を紹介する。その上で,それらの場面においてみられる,AIロボットに対する幼児のリテラシーと認知の特徴について考察する。

キーワード:
ヒト型AIロボット,ロボホン,幼児教育,メディアリテラシー,コミュニケーション
はじめに

ロボットとの相互作用に関する研究

人間のロボットに対する認識や,両者の相互作用に関して,乳幼児を対象とした研究が多く行われている。例えば,生物と非生物との弁別,対人認知,感情の知覚等に関する実験室環境における準実験的な基礎研究が数多く行われてきており,認知やその発達的な変化などの知見が見出されている(例えば,Moriguchi, Kanda, Ishiguro, & Itakura, 2010; 田中, 2013など)。今後も実験的に前述のような要因を操作することにより,ロボットと人との関わりについての基礎的知見が蓄積されていくであろう。

このような先端的な研究分野の進展と共に,近年,コミュニケーション型のAI機器やICT機器が生活の中に普及してきている。2020年に世界的規模で拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により,直接的な人と人との関わりの抑制が求められるようになった状況下においても,結果的にこれらの機器の有効性がクローズアップされたとも言える。従来のAI機器やICT機器は,機器の操作スキルや情報の提供,情報処理作業の支援というような,主に認知的側面に関わるものであった。しかしながら,近年普及してきたこれらコミュニケーション型の機器の特徴の1つは,人間の発声による操作という,人間同士のコミュニケーションにより近いものであるということである。

幼児教育とAIロボット

幼児が生活の中でこれらのメディアとの関わることは,幼児期におけるメディアに対するリテラシー(認知的スキル:思考力,数量・図形・文字などへの関心,言葉による伝え合いなど)とともに,社会情動的スキル(非認知的スキル:協同性,社会生活との関わりなど)の育ちにも影響がある可能性がある。特に幼児にとって,人間に近い動作をするヒト型ロボットのメディアは,携帯型の端末や,AIスピーカーなどのAIデバイスに比べて,人間に近い存在であると認識されやすいと思われる。このため,幼児がコミュニケーションを行いやすいメディアとして,ヒト型AIロボットは有効であると考えることができる。

以上のような動向を踏まえ,我々が目指している「人とロボットのインタラクション」に関する研究は,ロボットが近未来において日常生活の中で当たり前に存在するという次段階のフェーズを想定したものであり,とりわけ,教育・保育実践のフィールドでどのように相互に適応していくのか,さらには,ロボットがどのような役割として教育・保育の中で活躍可能であるかを探り求めていこうとするものである。この探求においては,もちろん,前述のようなこれまでの多数の基礎研究の知見が応用的研究を支えてくれるものでもあり,また,新たに,教育学・保育学という視点から,コミュニケーションの発展・成長,あるいは,ロボットの存在意義とその効果を評価するという考え方を加えていく必要があるものと考えている。

本稿の内容について

本稿では,ヒト型AIロボット*注である「ロボホン」(RoBoHoN)を取り上げ,筆者らが幼稚園において実施した2つの研究を紹介する。研究1では,幼稚園の環境の中にロボホンを設置し,自由活動の中で幼児がロボホンと交流する場面における発話データを収集,分析した。研究2では,幼児がロボホンとコミュニケーションを行った後に,ロボホンに対する認識について質問をした。これらの研究を通して,幼児教育の文脈におけるこのような新しいメディアに対する幼児のリテラシーや認知の特徴について考えてみたいと思う。

本稿の前編では研究1について紹介し,後編では研究2について紹介すると共に,2つの研究結果を踏まえて総合的に考察を行う。

ロボホンについて

ロボホン(写真)は,シャープ株式会社が2016年に開発した,市販の小型の携帯型ヒト型ロボットデバイスである。大きさは身長約19.5cm,体重390gである。Android OSベースのスマートフォンシステム,クラウドベースの人工知能(AI)を搭載している。コミュニケーションに関わる主な機能としては,話しかけに応答したり,質問に答えたり,音声による命令で行動することができる。また,会話を通して言葉を覚えるなどの学習機能がある。声にうなずく,身振りをする,会話に合わせて踊る,二足歩行,座る,立つなどの,人間の動きを模した高度な動作もできる(その他の仕様,機能の詳細については,ロボホンのホームページhttps://robohon.comを参照)。

またロボホンは、ScratchやRobrickなどのプログラミング・アプリケーションを使用して,会話や行動をプログラムすることができる。これらのアプリケーションは子どもでも容易に利用できるため,小学校におけるプログラミング学習のカリキュラムにロボホンを導入した実践も行われている(例:新潟県長岡市教育委員会)。

lab_01_132_01.jpg©SHARP CORPORATION
ロボホン

研究1.自由遊びにおける幼児とロボホンとの関わり

目的と方法

研究1では,幼稚園の環境にロボホンを設置し,自由遊び時間にロボホンと幼稚園児,保育者との関わりやコミュニケーションにおける発話データを収集,分析して,その特徴について検討することを目的とした。ロボホンを幼稚園の環境に導入する試行は,2期に分けて行った。

第1期は,幼児だけでなく保育者にもロボホンに馴染んでもらうために,職員室に置いてもらった。保育者には,ロボホンが認識可能な言葉のリストをあらかじめ紙面で渡してあった。保育者は子どもたちの使用可能性を考えながら,様々な機能を試行していた。また,職員室を訪れた幼児は,デスクの上にあるロボホンを見つけたときに,自由に関わることができるようにした。第2期では,保育者がある程度ロボットの特性を理解したことをふまえ,5歳児クラスの自由遊びの時間に1週間,毎日15分ずつロボホンを置いてもらって,担任の保育者も付き添いながら自由に遊ばせた。

結果と考察

第1期の初期の職員室での関わりにおいては,例えば,保育者は幼児に対して「このロボットさんに,○○って,言ってごらん」,「ロボホンって言うの。何かお話してごらん」という発話がみられ,ロボホンとの関わりを促してから,幼児が自由に発話を試みるという様子から始まった。3~4歳児は,ロボホンを本物の人間のように認識し,本気で関わろうとしていると思われる様子が見られた。例えば,ある幼児は,ロボホンのバッテリーが切れかかっていたときに,「ロボホン,充電切れたら死んじゃうの?」という発話がみられた。また,別の幼児は「夜に幼稚園の電気が消えたら,怖くないのかな?」という発話がみられた。しかし,5~6歳児では,ロボホンはロボットであるという認識が明確になっていたように思われる。例えば、ある子どもの問いかけに対してロボホンが返答したとき、「こいつ、言葉がわかるんや!」というつぶやきと共に、どこにその機能があるのかを探るかのように、ロボホンを持ち上げて背面のディスプレイや頭部ボタンを押すなど、「モノには仕掛けがある」という認識を象徴する行動が見られた。

一方で,例えば質問にロボホンが応えたとき,「ありがとう」と言うなど,人間のように関わろうとする様子も見られた。但し,その素振りからは,玩具であることを理解した上での言葉がけのように感じられた。

第2期の保育室での関わりにおいては,子どもたちは,興味深く銘々にロボホンに声をかけたり,質問をしたり,様々な反応が多く見られた。保育者はトラブルの時以外は関与しない条件で導入したため,子どもたちは試行錯誤を重ねながら,徐々に条件,ルールなどを自ら考えて上手に対応していくようになった。例えば週の前半では,子どもたちはロボホンの反応を見て,「その言葉はわからないんじゃない?」,「疲れてるんじゃない?」,「1人ずつ話しかけないと,わからないと思うよ」などと,ロボホンを擬人的に捉える発話が多く見られた。そして,週の後半になると,子どもたちはロボホンからの返答可能性の高い言葉がわかるようになり,それらを選んで使うようになった。なお,主に女児において,ロボホンへの「かわいい」,「大好き」という声かけが徐々に増えてきたことが確認できた。そのような発話の背後には,ロボホンを複数人で取り囲む中で,自分へ反応してほしい,言い換えれば気を惹きたいという気持ちが窺われた。

後編では、幼児がロボホンとコミュニケーションを行った後に,ロボホンに対する認識について質問をした研究2について紹介、総合的に考察する。

(後編に続く)


文献

  • Moriguchi, Y., Kanda, T., Ishiguro, H., & Itakura, S. (2010). Children perseverate to human's actions not to a robot's actions. Developmental Science, 13(1), 62-68.
  • 森口佑介・神田崇之・石黒浩・嶋田陽子・板倉昭二 (2011). 幼児はヒト以外からのエージェントから言葉を学習することができるか:年少児を対象とした実験的検討 Human Developmental Research, 25, 159-166.
  • 新潟県長岡市教育委員会:市内全小学校にロボットプログラミングの出前授業を実施(シャープ株式会社 ロボホン導入事例紹介ページ)https://robohon.com/assets/co/img/introduction/document28.pdf PDF(最終確認日:2020年8月1日)
  • 田中文英 (2013). 子どもとロボットのインタラクションにおけるエージェンシー 日本ロボット学会誌, 31, 858-859.

付記
本稿で紹介した研究は,科学研究費助成事業 基盤研究(B)- 18H01064(代表者:堀田博史)による研究の一部である。

*注 AIロボットについて:AI技術の発展は著しく,例えばAGI(汎用人工知能)から部分的に関連技術を取り入れているもの等まで,その定義や範囲も様々である。本研究で使用したロボホンは,コミュニケーション等に関わる一部機能についてAIが搭載されたヒト型ロボットに位置づけられる。

筆者プロフィール
Tazume_Hirotsugu.jpg 田爪 宏二(たづめ・ひろつぐ)

京都教育大学 教育学部 准教授(発達心理学)
広島大学大学院教育学研究科修了。博士(心理学)。専門は発達心理学・認知心理学。主な研究テーマは認知的情報処理のメカニズムや,子どもの概念獲得,発達とそれを促す教育的支援に関する研究。さらに近年は,子どもの支援者としての教師・保育者の認知的個性や専門性についても関心を持っている。主な著書は「教職エクササイズ教育心理学」(ミネルヴァ書房,編著),「認知発達とその支援」(ミネルヴァ書房,共編著),「保育の心理学―保育の中で捉えるこころのすがたと育ち」(あいり出版,編著)など。

Morita_Takehiro.jpg 森田 健宏(もりた・たけひろ)

関西外国語大学 英語キャリア学部 教授(初等教育学)
大阪大学大学院人間科学研究科修了。博士(人間科学)。専門は,初等教育学,メディア教育、発達心理学 他。特に,保育環境におけるメディア導入による様々な影響を幅広い手法を用いて検討している。現在は,「幼児へのグローバル教育の導入を目指すためのメディアの活用」や「園務情報システムの導入効果」(いずれもJSPS科研費)などを手がけている。主な著書は,「メディア心理学入門」(学文社)や「赤ちゃんから学ぶ「乳児保育」の実践力」(保育出版社)の分担執筆の他,「よくわかる!教職エクササイズ」シリーズ(ミネルヴァ書房)の全監修および共編著を担当。

※肩書は執筆時のものです

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